21話 佑香VS志岳
木漏れ地区外の砂原。
そこで秋司と健治、佑香は志岳と対峙していた。
「どのガキだ? まっ、全員ぶちのめせばいいか」
志岳は三人を順に見つめる。
この人、強い。
まだ戦っていないけど、なんとなくそう感じる。
それに、業血司があまり残っていない。
早く決着をつけないと。
「血転術水転、水放」
「血転術炎転、炎球」
秋司は志岳の左斜め前から水放を、健治は右斜め前から炎球を同時に放った。
しかし、志岳は結界術で壁を張り、その攻撃を防ぐ。
「血転術岩転、岩挟み」
志岳は岩転の基本図式を描き、発動図式に台形二つを描く。
すると、健治の右下と左下の地面から細い円柱の形をした岩が浮き出て、健治の両脇腹に当たり、健治を挟む。
「ぐ・・・」
「健治君っ。はっ」
秋司は健治の方を見るも、秋司も健治と同じように、岩に挟まれる。
この人、二回発動していたのか。
気がつかなかった。
「血転術土転、土柔」
健治は土転の基本図式を描き、発動図式に四角を二回描く。
すると、秋司を挟んでいた岩の地面が柔らかくなり、挟む力が弱まる。
秋司はその隙に脱出する。
「血転術風転、風昇」
秋司は風転の基本図式を描き、発動図式に三角を二回描く。
すると、志岳の下から上に向かって風が吹き、志岳は空中に飛ばされる。
志岳は空中で一回バク宙を行い、地面に着地する。
その隙に健治は自身を挟んでいる岩の地面も柔らかくし、脱出していた。
「ふっ。まだ血転学校にも通えんであろう歳のガキにしてはなかなかだな。だが、ここまでだ」
志岳は雷転の基本図式を描き、発動図式にひし形、五角形、ひし形を順に描く。
まずい、もう業血司がない・・・。
秋司と健治の目の前に一筋の稲妻が走る。
「血転術雷転、電響」
志岳が右手を二回上から下へ下げると、秋司と健治の全身に電気が流れる。
「ぐわぁぁぁ」
く・・・。
ど、どうする・・・。
体力はまだ残っているけど、もう業血司が。
ん・・・、結界・・・?
業血司が残っておらず、この術から脱出することは絶望的だった秋司と健治。
しかし、突然二人と電気のごく僅かな隙間に結界が張られ、電響から逃れた二人。
あれは、ささひこ?
佑香ちゃんの召喚術か。
秋司が佑香の方を見ると、佑香の上空にカササビのささひこが浮いていた。
「秋司と健治は少し休んで」
「うん・・・、分かった」
佑香ちゃんの言う通り、少し休もう。
業血司がほとんど残っていないんじゃあ何もできない。
せいぜい体術で一撃を食らわせられるかだ。
それなら、少し休んで、業血司を回復させよう。
秋司と健治は後方へ下がり、じっと止まって業血司の自然回復を待つ。
佑香は前に出て志岳と視線を交わす。
私がやらないと。
佑香は木転木叩を発動し、三本の太い枝で志岳を叩こうとする。
しかし、志岳は枝を避け続け、一回も命中しない。
枝が地面に叩きつけられる度に砂が舞い上がる。
(この小娘、大した威力と精度だな。避けるのも簡単じゃない)
志岳は興味深そうに佑香を見る。
「血転術雷転、雷拳」
志岳は佑香の木叩をかわしながら雷拳を発動し、右拳に雷を纏う。
そのまま佑香に接近する。
このままじゃ、まずい・・・。
佑香は木叩を止め、雷転雷拳を発動し、右拳に雷を纏う。
志岳と佑香は右ストレートを放ち、お互いの右拳が衝突する。
う・・・。
少しの間衝突した雷拳だったが、志岳の方が威力が高く、佑香は後方へ少し吹き飛ぶ。
地面に両足をつけたまま、少し後方へ下がった佑香に、志岳は左拳の雷拳で追い討ちをかける。
しかし、佑香の前にささひこが結界を張り、その雷拳は命中することなく防がれる。
今。
佑香は水転の基本図式を描き、発動図式に四角二回と五角形二回を順に描く。
「血転術水転、水濡重衣」
佑香は胸の前に両手を構え、両手でボールを持っているような体勢をとる。
両手の間からハンドボールくらいの水でできた球体が出現し、それを志岳に向かって放つ。
雷拳を結界で防がれ、少し体勢を崩していた志岳にその球体が命中する。
志岳は水浸しになる。
「これは・・・。ふっ。まさかこんな小娘がこの術を扱えるとはな」
(それも、術の発動がスムーズだ)
志岳は、発動図式に四つの図形を描く必要がある水濡重衣をスムーズに発動させた佑香に驚きを隠せない。
接近戦は向こうに分がある。
それなら、近づかないように。
「氷転、氷乱」
佑香の周囲に四つの氷の塊が浮かび上がる。
佑香が右手を前に出すと、四つの氷の塊が志岳に向かって飛んでいく。
「ちっ。今の状態では、全ては避けられないか」
志岳は二つの氷を避けるも、残った二発の氷は避けきれず、両腕でガードする。
(はあ、重いな。あの術を食らったのがまずかったか)
志岳の動きはさっきまでとは異なり、かなり鈍くなっている。
佑香が発動した水濡重衣は、命中すると水浸しになり、濡れている間は身体が重くなる血転術。
水を蒸発させるか除去しない限り、その状態は続く。
志岳は業血司を使って水を蒸発させようと、熱を発しているがまだ蒸発しきっていない。
攻撃が当たる。
これなら、勝てるっ。
佑香は木転木叩を発動し、太い三本の枝が右手から伸び、枝は志岳を叩こうと鞭のように動く。
(これを食らうわけにはいかないな)
志岳は岩転の基本図式を描き、発動図式に四角、台形、四角を順に描く。
「血転術岩転、岩壁洞」
志岳が血転図式を描き終えると、志岳を覆うように岩で作られた空洞のドームが出来上がる。
岩で作られた大きいかまくらのように。
佑香が放った木叩は全て岩壁洞に防がれる。
この攻防で砂が舞い、佑香の視界が悪くなる。
志岳は岩壁洞を解くと同時に、岩転の基本図式を描き、発動図式に四角を四回描く。
「血転術岩転、尖礫連飛」
無数の二十センチほどの岩片が志岳の周りに浮かび上がる。
志岳が合図をすると同時に、その岩片が一斉に佑香へ向かって飛んでいく。
はっ・・・。
視界が晴れ、はっきりとした時にはすでに無数の岩片が飛んできていた。
避けられない。
結界術も今からじゃ、間に合わない。
佑香は目を閉じたまま両腕を顔の位置まで上げて、防御の体勢をとる。
・・・。
あれ、攻撃が当たらない。
佑香がゆっくりと目を開けると、ささひこが佑香の前方に結界を張り、志岳の攻撃を防いでいた。
しかし、完全には防ぐことができず、やがて結界は破壊され、五発の岩片が佑香に命中する。
「ぐはっ」
佑香は左膝を地面につけ、息が上がる。
う・・・。
ささひこ本来の力なら、今の攻撃でも結界が破られることはなかったはず・・・。
私の召喚術の実力が低いから・・・。
「佑香ちゃんー」
「佑香ーー」
後方で業血司を回復させるために休んでいた秋司と健治が佑香の前に立つ。
「佑香ちゃん、ありがとう。おかげで回復できたよ」
「次は佑香が休め。あとは俺たちがあいつをぶっ飛ばすからよっ」
秋司、健治・・・。
嘘だ。
ほとんど回復できていないでしょ。
自然回復で十分回復できるほどの時間を稼げなかった・・・。
「う・・・」
「佑香ちゃーん。今は無理に動かない方がいいーよー。お腹の傷が痛いでしょー」
佑香は二人と共に戦うために、立ち上がろうとするが、さっきの岩片を左脇腹に食らい、傷ができ血が垂れている。
その様子を見ていたささひこは佑香の背中に左手を軽く置き、声をかけた。
「いくぞ、秋司。すぐにへばんなよ」
「うん。あいつをぶっ飛ばそう」
健治と秋司は少し上がっていた息を整え、志岳に視線を向ける。




