17話 蛇と虎と鷹と羽
層雲の森。
そこで秋司と健治、佑香、浮符鄔の四人が二つ目の薬草を探そうとしている。
少し歩き、二つ目の薬草、潜根葉を見つけ出した四人。
見た目は普通の草だが、今四人の前にある草が潜根葉だ。
潜根葉は根に睡眠作用があり、睡眠薬の素材として使われる。
しかし、潜根葉の根は深く根を張っている上、上手く根を引っこ抜けることはほとんどない。
「ほっほ。それゆえ、簡単には手に入らんぞ。では佑香、採ってみよ」
(いくら佑香とはいえど、簡単には採れんじゃろ。操術でも、並の実力じゃあ無理じゃ。佑香でも苦戦するじゃろうな)
なぜか少し嬉しそうな表情で佑香と潜根葉を見つめる浮符鄔。
しかし・・・。
佑香はまず血転術土転土固で潜根葉が生えている土を固めた。
次に操術の基本図式である三つ葉、扇形、三日月形を描き、発動図式に丸を描いた(発動図式は自由)
佑香はさっき固めた土を操術で一気に宙へ引き上げた。
最後に土固を解き、見事綺麗に根元まで潜根葉を抜き取った。
「・・・。ごほんっ。流石佑香じゃな」
「さっき愉快に簡単ではないぞとか言ってたじゃねーかジジイー。なーに掌返してんだっ」
「う、うるさいわー。お主はぜーったい採れないじゃろー」
なぜかいつも通り言い争いを始める浮符鄔と健治。
そんな言い合いはすぐにおさまり、四人は最後の薬草、層雲花を探し始める。
層雲花は層雲の森に生える珍しい薬草。
層雲花にはリラックスできる幻覚を見せる効果があり、中毒性がないため、人気な薬草。
さらに、血転術で幻覚を解除する訓練にも使用できるため、かなり重宝するが、珍しいためなかなか手に入らない。
秋司と健治、佑香は手分けをして探し始める。
浮符鄔さんいわく、その薬草の葉は薄い水色で周りに煙が漂っているらしい。
けど、全然見つからないな・・・。
凄い珍しいって言ってたけど。
でも、見たらすぐ分かるって・・・。
うん・・・。
あの動物は蛇。
でも、大きいな。
秋司の視線の先には体長三メートルぐらいのこげ茶色と濃い緑色をした蛇の姿があった。
こ、こわーー。
口も大きいし。
ここは、にげよう・・・。
秋司はゆっくりと蛇が向かっている方向とは逆方向に歩き始めた。
よし、バレていない。
早めに気がついてよかったー。
秋司はホッとした表情で後ろを振り向くと。
あれ・・・。
あの蛇がいない・・・。
あーそっか、もう移動したんだ。
あの蛇、足が速いんだなぁ。
秋司は興味深く蛇について考え事をしていると。
うん?
なんか近くから音がする・・・。
音がする左側を見ると蛇の顔が秋司の顔の近くにあった。
「・・・。うわーーーーー」
秋司は驚きながら走り出す。
蛇は逃げる秋司を追いかける。
うぅ・・・。
どうしよう、僕より遥かに速い。
ダメだ、このままだと飲み込まれちゃう。
血転術水転水放。
秋司は蛇に水放を放った。
蛇は口から炎を放射して水放を消した。
え・・・、えぇーー。
水が炎で消えたーー。
逆じゃないのーー?
ていうか、森で火はまずいんじゃ・・・。
ほらっー、森が燃えちゃってる。
こうなったら、火が広がらないように消さないと。
秋司は水放を数回放ち、火が広がらないように鎮火しようとする。
・・・。
だからなんで炎で水が消えるのーー。
おかしいよ、この炎。
あれ?
ところで蛇の姿が見えないけど。
火を消すことで精一杯だった秋司は、蛇の姿を見失っていた。
あれ?
なんで火が消えているの?
秋司が一回瞬きをすると、広がりかけていた火が消えていた。
そして、周りを見渡すと、秋司の近くに分かれて薬草を探していたはずの健治と佑香の姿があった。
「おう、秋司・・・。あれ、あのでかい虎はどこだ?」
「虎? 蛇なら見たけど・・・」
「え? 私は大きな鷹に襲われかけたんだけど・・・」
健治、秋司、佑香は順にこの短時間に経験したことを話した。
「・・・。お主ら、なぜ一緒におるんじゃ?」
三人の少し後方空中から右手に層雲花を持った浮符鄔が降りてきた。
「あれ、僕たち、なんで一緒にいるんだろう? 分かれて薬草を探していたはずなのに」
浮符鄔の言葉を聞いて、疑問を抱く秋司。
三人はそれぞれに起こった出来事を浮符鄔に話した。
「ほっほ、それは恐らく幻覚じゃのう」
「幻覚・・・ですか?」
幻覚?
でも、確かにそれなら納得がいくことが多い。
炎で水が消えたのも、火が森に広がっていないのも。
「お主らはそれぞれ蛇、虎、鷹に襲われそうになったそうじゃが、真の正体はソウウンズクという生物じゃ。兎に角幻術が得意な生物でのう。三人とも見事に引っかかったのう。ところで佑香。右手に持っておる羽はなんじゃ?」
「これは・・・、なんでしょう?」
佑香は気づかぬ間に、右手で白茶色の羽を握っていた。
「それは、ソウウンズクの羽じゃのう」
「ソウウンズクって、幻術をかけてきた生物ですか?」
「そうじゃ。まあ、貰ったのなら持っておれ」
(別に貰ったわけじゃないと思うけど)
佑香は右手に持っている羽をじっと見つめた。
「ところで、浮符鄔さん。手に持っているのは層雲花ですか?」
「ふむ、そうじゃ」
「凄い。僕は全然見つけられませんでした」
「ほっほ。実はこの層雲花は、日が最も高くなる昼時の三十分間のみ姿を現すのじゃ。それに加え数は限りなく少ない。まあ、三つの薬草は揃ったし、そろそろ木漏れ町に向かおうかのう」
四人は層雲の森から出て、近くの町に向かった。
その町の駅から列車に乗り、再び歩く、列車に乗るを繰り返し、数時間後にようやく木漏れ町の出入口に到着した。
「すっげー。ここが木漏れ町か?」
「すごーい。広いねー」
長時間歩き、少し疲れ気味だった健治と秋司だったが、木漏れ町の出入口付近に立つと、一気に元気が戻った。
「なんか騒がしいし、賑やかだな」
「うん・・・。でもなんか慌ただしいね」
木漏れ町には出入口が東西に一つずつ、計二つ存在する。
秋司たちは東の出入口に立っているのだが、出入り口付近の様子を見て、なんだか騒がしいと感じた健治と秋司。
健治は賑やかと捉えたが、秋司は慌ただしく、何かあったのかと考えた。
「・・・。ほれ、受付するぞ」
「受付? なんだそれ」
そんな様子の二人を見て、二人の背中に軽く触れながら声を発した浮符鄔。
健治は、受付という言葉に疑問を持った。
木漏れ町の出入口では、身分証の提示が必要で木漏れ町の町民は町民カードを提示することで出入りすることができる。
一方、他所から訪れる訪問者は、出入口にある受付カウンターで許可証を取る必要がある。
四人は許可証を取り、木漏れ町に足を踏み入れた。
建物がたくさん並んでいるなぁ。
田んぼとかはあんまり見当たらないし。
人も多いなー。
僕たちの村とは全然違うんだ。
でも、やっぱりなんか慌ただしい感じがする。
秋司は木漏れ町内を回りながら、町の雰囲気を観察している。
木漏れ町は、そんなに建物も人口も多い町ではないが、普段建物が少なく、人口も百人ちょっとのべいこま村で暮らしている秋司からすると衝撃的な光景だった。
しかし、人が行き交い、いくつかの激しい足音が重なって聞こえてくる状況から、違和感を少し感じてもいた。
「すげー。建物がたくさんあるんだな。ところでじいさん。今どこに向かってんだ?」
「この町の長の家じゃ」
秋司と同じように、目を大きく開き、辺りを見渡しながら歩く健治。
四人は少し歩くと、一際大きい建物の前に到着した。




