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15話 それぞれの先へ

秋司たちが血転術を学び始めてから半年が経過した。

秋司と健治、佑香の三人は、午前中は農業の手伝い、午後は浮符鄔の元を訪れ、修行を行う生活が続いていた。

少し寒かった日々から桜が舞い、そして雨が続く日々が訪れ、やがて暑い日々を過ごしていた三人。

現在はまだ暑さが残るものの、少し落ち着きつつあり、葉の色が変化し始めていた。

日を追うごとに、べいこま村とかごめ村、けんだま村の友好は深まり、二回目のべいこま村襲撃事件以来、平穏な日々が戻ってきていた。

いいや、戻ったというより、以前よりさらに平和になったといえるだろう。

そして、この日も浮符鄔の元で血転術の修行を行なっている秋司と健治、佑香。


よし、基本図式に五角形とひし形、発動図式に五角形二つ。

行くぞー。


「血転術雷転、雷拳」


秋司は右拳に雷を纏い、浮符鄔が藁を使って作った血転術を放つ用の打ち藁に向かって右拳を放った。


うぅ・・・。

びくともしないなぁ。


その打ち藁には浮符鄔が結界を張っており、頑丈な設計になっている。


「血転術木転、木叩」


秋司の横で、健治も打ち藁に向かって血転術を放つが。


「くっそー。傷一つつかねー」


健治も打ち藁に全くダメージを与えられない。


秋司と健治は半年で血転術の属性術基本八種を出すことができるようになった。

それだけでなく、基本八種の最も初歩的な術も発動できるようになっている。

それぞれ得意な属性に関しては、他にも術を使えるようにもなっている。

さらに・・・。


基本図式に五角形、六角形、扇形を描いて、最後に丸っと。

よしっ。


「生成術、発動」


秋司は木材に業血司を送り込み、何かを生成している。

十分ほど経つと、木刀を作り出すことに成功した。


よしっ、次はこの木刀で藁を打つぞー。


秋司は作り出した木刀で打ち藁を打つが・・・。


「あ・・・。折れちゃった・・・」


秋司の作り出した木刀が簡単に折れた。


「時間もかかるし、強度も弱々じゃのう」

「う・・・。ま、まだまだー」


その様子を見ていた浮符鄔が横から口を挟む。

秋司は、再び木刀を作ろうと生成術を発動した。

そんな秋司の横では、健治が変身術を行おうとしていた。


「三つ葉、ひし形、ハート型。そしてー丸っと。よっしゃー、行くぜー」


健治は変身術を発動し、べいごま熊のごまきちに変身しようとするが。


「・・・。それはごまきちか?」

「え・・・? できてねーのか・・・。あーー。なんでだーー」


浮符鄔の言葉を聞き、鏡を見る健治。

すると、鏡には熊になりつつも、耳や左手など、所々は健治のままであり、茶色の毛をしているごまきちに対して、健治の変身は黒色の毛をした熊だった。

しかも、姿だけを変身する変身術を使ったにも関わらず、すぐに変身が解けてしまう。


「くっそーー。もう一回だー」


健治は再び変身術を発動しようとする。


秋司と健治は、属性術の他にもいくつかの血転術を発動できるようになっていた。

秋司は生成術と幻術、健治は変身術と変化術。

しかし、これらはまだまだ練度が低く、実戦では到底使えるものではなかった。

秋司と健治が気合いと根性で血転術を鍛えていると、二人の近くから衝撃音が鳴り響いてくる。

その音を聞いて二人の動きが止まる。

そんな二人の視界には、二人が傷一つ付けられなかった打ち藁を次々と体術で破壊していく佑香の姿があった。


・・・。

佑香ちゃん・・・。

き、今日も凄いな。


(佑香・・・。いつかこの山も壊しちまうんじゃねーか・・・?)


(・・・。今日も佑香にはキノコをあげようかのう・・・)


秋司と健治、そして浮符鄔は冷や汗をかき、全身を硬直させながらそんなことを思った。


(もう分かっておったことじゃが、佑香は血転術の才に溢れておるのう。半年で全ての系統を扱えるなんて、そんな奴一握りもいいところじゃ。そもそも、全系統を扱えない者も多いというのに・・・ )


浮符鄔は冷や汗をかきながら、佑香に視線を送る。

佑香は血転術十種類の系統を全て発動できるようになっていた。

今は身体術を使い、業血司を用いた体術の鍛錬を行なっている。


夕日が山の木々を照らし、秋の訪れを示すかのように赤く染まる頃。


「ところでお主ら、一つ質問があるのじゃが」

「ん? なんだよじいさん。改って」


浮符鄔の真剣な表情を見て、健治も真剣な眼差しを向ける。


「お主らは一応業血司使いになったわけじゃが、覚悟はあるのか? この先、業血司使いとして歩む覚悟が」

「覚悟・・・」

「おう、あるぜ」


浮符鄔は厳しい顔付きで質問した。

その質問を受けて、秋司はまっすぐな視線のまま小声を漏らし、健治は勢いよく答えた。

佑香は軽く下を向きながら、無言だった。


「ふむ・・・。ところでお主ら、いつまでここに来るんじゃ?」


浮符鄔は帰り支度をしている三人に問いかける。


「いつまでって・・・。そりゃあ、血転術をマスターするまでだぜ」

「・・・。それはいつじゃ?」


健治の答えを聞いて、目を細めながら問いかける浮符鄔。


「それは・・・。なんだよっ、じいさん。俺たちが来るの、そんなに嫌なのかー?」

「んー。嫌ではないがのう。じゃが、わしも歳じゃし、静かにゆっくり過ごしたいなーと。この先ずっとはめんどくさいなーとな」

「なんだよそれっ。思いっきり嫌がってるじゃないかー」


健治の声量は段々と大きくなっていく。


「僕は、十二歳になって血転学校に通い始めるまで修行をつけてほしいんですが・・・。ダメですか?」

「ほほーう。ということは、あと一年と半年ほどじゃな。しかし、血転学校か。どこか志望校はあるのか?」

「僕は灯詠学園に行きたいんです」


秋司は力強い表情で浮符鄔の質問に答えた。


「ふむ。なるほど、灯詠か。いいじゃろう。それまでは修行をつけてやる」

「本当ですか? ありがとうございます」


浮符鄔の言葉を聞いて、一気に表情が明るくなる秋司。


「ん? 灯詠学園ってなんだ?」

「灯詠学園はね、血転術を学べる学校なんだって」


秋司と浮符鄔の会話を聞いていた健治は、秋司に問いを投げかけた。

秋司は灯詠学園について自分の知っていることを健治に話した。


「遠い場所にあるのかー。もっと近くに学校はないのか? じいさん」

「もちろんあるぞ」

「よし、じゃあ俺はそこに行くぜ」

「健治。一括りに学校と言ってもじゃなー、学校によって色々と違うんじゃぞ。当然、合う合わないはあるがのう。血転術についてしっかりと学びたいのなら、しっかりと学べる学校に行く必要があるぞ」

「そうなのか・・・。でも、俺はこの村から離れたくねーんだよなー・・・」


勢いよく声を発していた健治だったが、最後の言葉は小声になった。


「ふむ・・・。佑香はどうじゃ?」

「わ、私は・・・」


浮符鄔の質問に言葉を詰まらせる佑香。

答えは出なかった。


「まあええ。しばらくは修行をつけてやるから安心せえ。ほれ、暗くなる前に帰るんじゃ」


浮符鄔の言葉を聞いて、三人は山を下り始める。


覚悟か・・・。

それって、辛いことが起きるかもしれないってことだよね。

あの日佑香ちゃんが僕を庇って傷をおった時みたいに・・・。

あとは・・・、死ぬかもしれないってことだよね・・・。

その覚悟、僕にあるのかな?


秋司はゆっくりと山を下った。


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