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1話 大地の彼方

ここは不思議なエネルギーで作られた壁によって十の世界に分けられた惑星。その中の一つ、紅領界(こうりょうかい)と呼ばれる世界には空気中に業素(ごうそ)と呼ばれる元素が含まれ、この業素と体内の血が反応して得られる体内エネルギー、業血司(ごうけっし)を使い様々な術を扱う生物が存在する。業血司を使って繰り出す術は血転術(ちてんじゅつ)と呼ばれ、この術を扱う人間は業血司使い(ごうけっしつかい)、または血転術師(ちてんじゅつし)と呼ばれている。


紅領界にある桜日(ようか)と呼ばれる国。

その国にある村の畑に、大根を引っこ抜く十歳の少年の姿がある。


「よいしょ・・・。はあはあ・・・」


もう何本抜いたのか、手を膝に突き、息が上がっている。


「はあはあ・・・。よしっ。まだまだ・・・」

秋司(しゅうじ)君、まだやっていたの? いつも手伝ってくれてありがとね。でも、もう暗くなるから帰りなさい。ねっ?」


息を切らしながらも、まだ大根を収穫しようとするその少年、牧本秋司(まきもとしゅうじ)

そんな秋司に声を掛けたのは、その畑の持ち主である五十代の女性だった。

秋司は女性の言葉を聞き入れ、素直に家へ向かって歩き始めた。


「ただいまー、ばあちゃん」

「あら、秋ちゃん。おかえりなさい。今日も手伝いに行ってたの?」

「うん。今日もおばさんが大根と人参をくれたんだ。はいっ」


秋司はこの村、べいこま村に祖母と二人で暮らしている。

べいこま村は村一丸となって農業を営む農村で、秋司はあちこちの畑に足を運んで農業を手伝っている。

秋司は手に持っている大根と人参を祖母に渡し、浴室に向かった。


お風呂から上がり、食卓に足を運ぶと、そこには白い煙を放っているほかほかの白米、サバの塩焼きとグリーンサラダ、大根と豆腐が入った味噌汁が並んでいた。


「ほら、秋ちゃん。食べよう」

「うん。いただきます」


秋司は祖母の向かいに座り、夕食を食べ始める。

よほどお腹を空かせていたのか、勢いよく料理を口に頬張っている。

あっという間に食べ終え、少し休むと、まだ夜の七時程だが敷布団を敷き、眠りについた。


日が昇り、この日も農業を手伝っている秋司。


「おい秋司。どっちが多く取れるか勝負しよーぜ」


そう言って秋司に話しかけてきたのは、べいこま村に住む秋司と同じ年の少年、朱蔵健治(あけくらけんじ)

自信満々に秋司を見つめている。


「ちょっと健治ー。速さも大事だけど丁寧にしっかり収穫してよねー」


そんな健治を注意するのは、べいこま村に住む同じ年の少女、実野川佑香(みのかわゆうか)

佑香の声もあり、勝負せずに済んだ秋司は黙々と野菜を収穫している。


しばらく野菜を収穫し、やがて休憩に入った三人は地面に腰を下ろし、水を飲みながら休んでいる。

休み終えた三人は立ち上がり、再び畑に足を入れようとした時。


「オラオラー。村長はどこだー」


七人ほどの大柄な男が肩で風を切って村の中を歩いている。


「あの人たち、また来てるね」


その様子を見ていた佑香は、不安気に小声を漏らした。


「うん。かごめ村の人たちだよね・・・」


同じく不安気に小声を漏らした秋司。


かごめ村はべいこま村付近に位置する村で、同じくべいこま村付近に位置するけんだま村と対立している村。

そのためか、べいこま村を味方につけようと、かごめ村の人間はよくこの村にやって来るのだ。


秋司は野菜を収穫しながらも、かごめ村の男と村長の様子が気になり、時々視線がそっちを向く。

やがて話し終えたのか、かごめ村の男たちはべいこま村を去っていった。


村長、断ったのかな・・・。


その様子を見ていた秋司はほっとしながらも、不安が残っていた。


今日も農業を手伝い続けた秋司は、日が暮れ始めると同時に家へ帰った。


「ただいま・・・。あーっ、緋祐(ひゆう)さん」

「おう、おかえり、秋君」


秋司が戸を開けると、そこには七十代ほどの男性、緋祐が秋司の家に立ち寄っていた。


緋祐は秋司が幼い頃から、度々会いに来てくれる老人で、秋司にとっては祖父のような存在。


「秋ちゃん。今日はお鍋にしましょう。緋祐さんがお肉を持ってきてくれたのよ」

「鍋っ。やったー。お風呂入ってくるね」


秋司は急ぎ足で浴室に向かった。

すぐにお風呂を上がり、食卓へ向かった秋司。

するとすでに鍋が出来上がっていた。

秋司は緋祐の隣に座り、三人で夕食を取った。


「あー。緋祐さん、お肉ばかり食べているでしょー? 野菜も食べないとダメだよ」


お肉ばかり小皿にのせている緋祐を見て、野菜を緋祐の小皿に運ぶ秋司。


「秋くん。もう十分だよ・・・」


次々に、自分の小皿に運ばれる野菜を見て、たじろぎながら声をかける緋祐。

そんな緋祐の様子を見て、秋司は優しく微笑み、手を止めた。

しばらく賑やかな時間が続き、秋司が眠りにつくと、緋祐はその場を後にした。



1ヶ月後。

この日も同じ年の二人と農業を手伝っている秋司。


「はあはあはあ・・・」


よし、今日も沢山収穫できたぞ。


額についた汗を左前腕部で拭いながら、爽やかな表情で夕日を見上げる秋司。

秋司は二人と途中まで一緒に帰宅していると、突然村の南部で衝撃音が鳴り響いた。


「っは・・・。な、何・・・?」


突然鳴り響いた衝撃音に、秋司は驚きを隠せない。


「お、おいあれ・・・」


健治が指差す方を見ると。


「え・・・。火事?」


倉庫一棟に火がついていた。


「大変。どうしよう・・・。と、とりあえず大人にこのことを伝えないと」


佑香は辺りを見渡して、大人を探しに走り始めた。

秋司も佑香の声を聞き、大人を探そうとしたが、再び衝撃音が鳴り響き、もう一棟の倉庫にも火がつく光景が目に入る。


「こうしちゃいられねー」


その様子を見ていた健治は、火がついている倉庫に向かって走り始めた。


「ちょっと待って、健治君。そっちは危ないよ」

「何言ってんだよ秋司。このままじゃ火が広がっちまうだろ」

「で、でも・・・」

「ビビってんならお前はここにいろ」


秋司は健治を止めようと試みたが、健治は止まることなく火がつく倉庫がある南部へ向かっていった。

秋司は震える足に力を入れ、健治を追ってゆっくりと走り出した。

南部に向かっている間も、次々と衝撃音が鳴り響く。


「おい、おじさん。大丈夫か」


少しすると、健治の叫び声が耳に入ってきた。

健治に追いつくと、そこには瓦礫の下敷きになっている住民の姿があった。


「き、君たち・・・。に、逃げろ・・・」


瓦礫の下敷きになっている男性は、途切れ途切れに声を発した。


「何言ってんだ。今助けてやる」


健治は瓦礫を持ち上げようとするが、瓦礫はびくりとも動かない。

秋司も手伝おうと、瓦礫に触れたその時。


「あらあら、これは可愛らしい子供だこと」


聞いたことがない声が聞こえてきた。


だ、誰・・・?

村の人じゃない。

それに・・・、なんでこの人は、今のこの状況でこんなに余裕なんだろ・・・。


秋司はその男の表情を見て、心が恐怖に覆い尽くされた。


「なんでお前はそんなヘラヘラしてんだよ」

「えぇー・・・。だってこれー、僕がやったんだよー」

「はっ・・・?」


健治がその男に尋ねると、男はニヤつきながら答えた。


な、何言ってんの、この人は・・・。


秋司は身体が固まり、身動きが取れないほど怯えていた。


「あはっ。信じてないなー君たち。じゃあ、見せてあげるよー」


男は楽しそうに笑いながら右手の人差し指で何かを描いた。

すると、男の右手に炎でできた球体が現れた。

男はその炎でできた球体を一軒の家に放ち、その球体が家に命中すると、家は燃え尽き破壊された。


「な、なに・・・」


何が起こったの・・・?


秋司は目の前で起こった出来事に理解が追いつかない。


「て、テメェー。何しやがるんだー」


男の行動を見て激怒した健治は、男に向かって突っ走り、右手で男の顔面を殴ろうとしたが。


「なんだ・・・。うわあああ」

「け、健治君ー」


男が何かを描いた瞬間、健治の腹部に突風が当たり、健治は吹き飛び倉庫の壁に背中から衝突した。


「子供が大人に歯向かうんじゃないよー」


男はニヤつきながら吹き飛んだ健治を見つめた。


「健治君っ」

「うぅ・・・」


秋司が駆け寄り、右手で健治の左肩を軽く揺らしながら声をかけるが、返事がない。


「あれぇー。まだ意識がありそうじゃん。じゃあ、もう一回、今度は空高く吹き飛ばしてあげるよ」


男は倒れ込んだ健治を見てさらにニヤつき、左手の人差し指を舐めながら近づく。


「さあ、お仕置きの続きだよー」


どうしよう・・・。

健治君・・・。

ぼ、僕がなんとかしないと。

あれ・・・。

身体に力が入らない。


秋司は恐怖のあまり身体が震え、力が入らない。

しかし、男は徐々に近づいてくる。


た、立たないと。

僕がやらないと、健治君が・・・。

立つんだ。

友達がピンチなんだ。

立てーーー。


秋司は全身を震わせながらもゆっくりと立ち上がり、健治と男の間に両手を広げながら入り、立ち塞がった。


「あれぇー。君も反抗しちゃうのー? まったく、この村は教育がなっていないなぁー。まあいいや。僕が教育してあげるっ」


男は右手の人差し指で何かを描くと、右手の掌の上に、小さな竜巻が巻き起こる。


「二人まとめて吹き飛んじゃえー」


男は秋司と健治に向かって、小さな竜巻を放つ。


くっ・・・。

せめて、健治君だけでも・・・。


秋司は目を思いっきり瞑りながら、足に力を入れ、その場に強くとどまろうとする。

男が放った竜巻は真っ直ぐ秋司に向かい、命中する寸前まで近づいたが。


「んー・・・。なんだ? あれは・・・、結界術か?」


竜巻が秋司に当たる直前で半透明の壁が間に入り、秋司に竜巻は命中しなかった。


「だ、誰・・・」

「間に合ったな。にしても、お前、すげーな・・・って、意識失ってるか」


そう言いながら一人の男、昏織燎誐(くらしきりょうが)は、意識を失いその場に倒れそうになる秋司を支え、その場にゆっくりと下ろす。


この人・・・。誰だろう・・・。


秋司は薄れゆく意識の中で、燎誐を見つめた。


「お前は誰だぁー? この村に血転術師はいないって聞いてたんだけどー」

「誰でもいいだろっ。とりあえず、お前はぶっ飛ばす」

「うーん・・・。なんで最近のガキは大人に歯向かうのかなぁ? 君も、まだ子供だよねー?」

「・・・。あんたもまだ子供でしょ?」

「な、なんだとー。俺は大人だぁー。クソガキィー。舐めやがってー」

「えっ・・・?」


(お・・・、大人だったのー・・・)


男は燎誐の言葉を聞き、怒りをあらわにする。


「わ、若いっすね・・・」

「クソガキがー。許さねーー」

「ま、大人だろうが子供だろうが、お前みたいな野郎はぶっ飛ばす」

「吐かせ、ガキが」


男は右手の人差し指で何かを描き、攻撃の準備に入るが。


「ぐわあああ」


燎誐の放った突風が男を吹き飛ばした。


「こ、このガキ・・・。全く見えなかった・・・。いつの間に描いたんだ・・・?」

「じゃあな、クソ野郎」

「な、なに・・・。ぐ、ぐあああああ」


燎誐はちょっとした雷を放ち、男にとどめを刺す。

男は意識を失い、その場に倒れ込んだ。


す、すごい・・・。

でも、よかった・・・。

健治君は、無事で・・・。


燎誐と男の戦闘を見ていた秋司はぼやけていた視界が段々と消えていくのを感じた。


「さてと・・・。おーい。火は消したかー?」

「・・・。とっくに消したけど」


燎誐の声に反応した一人の女性は、倉庫についた火を鎮火していた。


「おーい。そっちはー、終わったー?」

「おうっ。しっかり決めてやったぜ」


続いて、燎誐の問いに反応した一人の男性は、男の仲間を撃退していた。


「よしっ。じゃっ、終わりだな」


燎誐は意識を失っている秋司と健治を抱えて、その場を後にした。


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