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転生したら天一坊だった件 ~死刑確定の悪役詐欺師ですが、現代知識で財政改革したら吉宗パパに溺愛されて次期将軍になりそうです~  作者: 鴨ロース


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第九話 嵐のち、山賊。ときどき天才軍師

数多ある作品の中からお選び頂きありがとうございます。

 人生、計画通りにはいかない。

 肥後で大金を稼ぎ、意気揚々と船出した俺を待っていたのは、瀬戸内海の荒れ狂う嵐だった。

 船は木の葉のように揉まれ、俺は海へと投げ出された。


 目が覚めると、そこは伊予の山中だった。

 全身ずぶ濡れ、懐の450両と吉宗公の短刀だけは死守したが、ここはどこだ。

 答えはすぐに分かった。殺気だ。


「おい、上等の着物を着たのが落ちてるぞ」

「身包み剥いで、谷底へ放り込め」

 獣のような男たちが、俺を取り囲んでいた。山賊だ。

 リーダー格らしき大男と、鋭い目つきの男。赤川大膳と藤井左京だ。

 多勢に無勢。だが、俺は震えるどころか、笑いが込み上げてきた。

 (人材の宝庫じゃないか)

 俺は泥だらけの身を起こし、懐から小判の包みを取り出した……のではなく、堂々と彼らを指差した。


「貴様ら、こんな山奥で一生を終える気か?」

「あ?」

「俺はこれから天下を盗りに行く男だ。俺に賭けろ。成功すれば、大名にしてやる」


 場の空気が凍りついた後、爆笑が起きた。

 だが、大膳と左京だけは笑わなかった。俺の目に宿る「本気」を感じ取ったのだ。

 俺は彼らに、吉宗公の短刀を見せ、壮大な計画の全貌を語った。

 山賊家業に飽き飽きしていた彼らの魂に、火がついた。


「面白い! 俺たちゃ今日から兄弟だ!」

「三国志の『桃園の誓い』だな! 生まれた日は違えど、死ぬ日は同じと誓おうぞ!」


 大膳が杯を交わそうとするが、俺は全力で手を振った。

「却下だ」

「な、なぜだ兄貴!?」

「『同日に死ぬ』なんて縁起でもない。それは捕まって獄門になるときじゃないか! 俺たちは生きるんだ。別々の日に死ぬまで、最高に贅沢に生き抜くために手を組むんだ」


 俺のドライな突っ込みに、二人は顔を見合わせ、やがて腹を抱えて笑った。

 こうして、最強の「筋肉」と「暴力」が仲間になった。

 だが、まだ足りない。

 大坂、そして江戸へ乗り込むには、教養がいる。公家のような優雅さと、幕閣を論破する知性が。


「兄貴、それなら心当たりがあるぜ」

 左京が言った。

「この山の奥に、『知らぬことなき先生』と呼ばれる変わり者が住んでいる。元は高貴な身分らしいが、世を拗らせて隠遁しているとか」


 ――ビンゴだ。

 俺の脳内データベースが弾き出した名は、山内伊賀之亮。

 本来の歴史における天一坊事件の首謀者であり、大岡越前すら論破する知の巨人。

 俺は即座に山奥の庵へと向かった。


◇◇◇


 その庵は、ボロ屋だったが、中は書物の山だった。

 万巻の書に囲まれ、一人の男が昼間から酒を飲んでいた。

 鋭い眼光。ボロを纏っていても隠しきれない気品と、世の中すべてを馬鹿にしたような腐臭。

 俺は直感した。こいつは、同類だ。


「帰れ。俗物の相手はせぬ」

 伊賀之亮は、俺の顔も見ずに言い放った。

「山賊風情が、公儀の真似事か? ……ふん、その懐の短刀、偽物ではないが、お主のものでもあるまい」


 一瞬で見抜かれた。

 大膳たちが色めき立つが、俺は制止し、土間に正座して頭を下げた。

「左様。俺は偽物です」

「ほう?」

「ですが先生。本物が必ずしも世界を変えるとは限りません。偽物が本物を凌駕し、天下を動かすこともある。……あなたのように」


 伊賀之亮の手が止まった。

 彼は優れた才能を持ちながら、家柄や派閥争いに敗れ、世捨て人となった天才だ。

 俺は現代の知識ではなく、自分の魂の言葉で語りかけた。


「俺には金がある。人もいる。度胸もある。……だが、『品格』と『策』がない」

「それを私に求めると?」

「はい。あなたの頭脳を、この山奥で腐らせるのは世界の損失だ。俺という『器』を使って、この腐った幕府を嘲笑ってやりませんか」


 俺は彼に手を差し伸べた。

「俺と一緒に、世の中ひっくり返しましょう。……共犯者として」


 沈黙が続いた。


 やがて、伊賀之亮はクツクツと笑い出し、その笑いは高笑いへと変わった。


「愉快……愉快じゃ! まさか山賊の小僧から、これほど面白い勧誘を受けるとは!」

 彼は立ち上がり、俺の前に座った。その目は、少年のように輝いていた。


「よかろう。わしが持てる全ての『礼儀作法』と『帝王学』、お主に叩き込んでやる。……その代わり、わしを退屈させるなよ?」

「望むところです、軍師殿」

 ガッチリと握手が交わされた。

 ここに、稀代の詐欺師・天一坊と、稀代の知略家・山内伊賀之亮のコンビが結成された。

 

 翌日から、地獄の特訓が始まった。

 歩き方、箸の上げ下げ、公家言葉、和歌の嗜み。

 伊賀之亮の指導はスパルタだったが、俺はスポンジのように吸収した。

 現代のビジネスマナー研修など児戯に等しい。これは「命を賭けた演技指導」なのだから。

貴重なお時間を頂きありがとうございました。

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