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転生したら天一坊だった件 ~死刑確定の悪役詐欺師ですが、現代知識で財政改革したら吉宗パパに溺愛されて次期将軍になりそうです~  作者: 鴨ロース


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第八話 江戸上屋敷の最も長い日

数多ある作品の中からお選び頂きありがとうございます。

肥後細川家、江戸上屋敷。

 その奥座敷で、俺――加納屋吉兵衛は、藩の勘定方と帳簿の突き合わせを行っていた。

 突然、屋敷全体が揺れるような喧騒が走った。


「一大事! 一大事にございます!」


 早馬の使者が、土気色の顔で飛び込んできた。

 筆頭家老が縁側へ出る。「何事か、騒々しい!」

「と、登城中の殿(宗孝公)が……刃傷沙汰に巻き込まれました! 板倉勝該のご乱心により、斬りつけられたと!」


 屋敷内が凍りついた。

「殿は!? 殿のご容態は!?」

「……急所をやられました。おそらく、お助けできないかと……」


 その瞬間、家老たちはパニックに陥った。

「馬鹿な……人違いだと? そんな理不尽があるか!」

「世継ぎはおらぬぞ! 殿がこのまま亡くなれば、細川家は改易だ!」

「もはやこれまで。屋敷に火を放ち、全員で切腹しよう!」


 武士という生き物は、思考停止するとすぐに腹を切りたがる。

 俺はバシッ! と音を立てて帳面を閉じ、立ち上がった。


「お控えなされ! まだ終わっておりませぬ!」


 一介の商人の大喝に、家老たちが呆気にとられる。俺は畳み掛けた。

「切腹など、全ての手を打った後でよくなされ。……使者殿! 殿の御遺体……いや、『負傷された殿』は、今どちらに?」

「は、はい。仙台藩主・伊達宗村公のご配慮で、駕籠に乗せられこちらへ向かっております」

「伊達公がなんと?」

「『宗孝殿は生きておられる。急ぎ屋敷へ戻り、手当てせよ』と……」


 俺はニヤリと笑った。流石は伊達男。考えることは同じか。


 俺は即座に指示を飛ばした。

「聞いた通りだ! 殿は生きておられる! ただちに受け入れ準備だ!」

「し、しかし、死んでいるのでは……」

「医学的な死と、政治的な死は違います! 幕府に届け出るまでは生きておられるのです!」


 俺は現代の救命救急さながらのトリアージと、法務処理を同時に指揮した。


「祐筆! 大至急、末期養子の願書を作成しろ!」

「は、はい! 養子となる方は!?」

「弟君・重賢様だ! 名前を空欄にするな、今すぐ書け!」

「御典医! ありったけの包帯と止血薬を用意して玄関に待機! 『懸命な治療を行っている』という既成事実を作るのです!」


 俺の怒涛の指示に、混乱していた家臣たちが正気を取り戻し、走り出す。

 数分後。

 厳重に幕を張られた駕籠が、上屋敷に到着した。

 付き添ってきた伊達家の家臣が、沈痛な面持ちで家老に耳打ちする。


「……伊達宗村公よりご助言である。『宗孝殿は息がある。ただちに弟君への家督譲渡の願書を出し、養子縁組を済ませよ』とのこと」


 細川家の家老たちは驚愕し、そして顔を見合わせた。

 伊達公の策と、あの商人の策が、完全に一致している。


「……吉兵衛」

「準備は万端にございます」


 俺は懐から、すでに墨も乾いたばかりの『末期養子の願書』を取り出した。

 あとは、物言わぬ殿の手を取り、拇印を押すだけだ。

 家老は震える手でその書状を受け取り、俺を見た。


「お主……何者だ。伊達公と同じ目線で、この局面を見通していたというのか」

「ただの、あきんどにございます」


 俺は深く頭を下げた。

 駕籠から運び出された宗孝公は、すでに冷たくなっていた。

 だが、書類の上では、彼はあと数時間生き続けなければならない。

 弟・重賢公が到着し、判を押すその瞬間まで。


 その夜。

 幕府目付への工作も完了し、細川家は首の皮一枚で改易を免れた。

 「肥後の鳳凰」と呼ばれることになる名君・細川重賢の誕生。

 その影には、伊達宗村という大大名と、吉兵衛という一人の手代の「共謀」があったのだ。


 騒動が落ち着いた明け方。

 重賢公は、俺を奥座敷に呼び出した。


「吉兵衛とやら。……兄の死を利用したな?」

「左様でございます。お家を守るための、最善の策でした」

「フッ……そちの冷徹さ、嫌いではない。兄も、家が潰れるよりは喜んでいるだろう」


 重賢公は、じっと俺の目を見て言った。

「礼を言う。……だが、そちの器、一介の商人で終わるまい?」

「……さあ、どうでしょう」


 俺は不敵に微笑むと、江戸の空を見上げた。

 この一件で、俺の名は「細川家を救った知恵者」として、大名たちの間でも密かに語られることになるだろう。

 

 俺は熊本に戻り、加納屋の主人に別れを告げ、450両という大金を手に、再び旅に出る時が来た。

 

貴重なお時間を頂きありがとうございました。


[日間]歴史 7位、読書の方々、お一人お一人が読んで頂いた結果が、このような望外な結果となりました。

本当にありがとうございます。


次回より、伊予編となります。

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