表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
できる!最強軍師  作者: 満波ケン
第一章 幼年期の終わり
9/15

09.人間、苦手なことってあるよね。

やれ早熟だ。

やれ天才だ。


そんな言葉を聞き慣れてしまった頃、人間はだいたいロクでもない勘違いをする。


たとえば──

「もしかして、自分って何でもできるのでは?」

とか。


いや、分かってる。

分かってはいるんだ。前世三十代の理性が「それは危険信号だぞ」と警告を出している。

でもね、九歳児の心って、そういう警告をスルーする性能が高い。


結果。ドラムローーーール!ジャン!


ワイくん、剣と槍が壊滅的に向いていないことを自覚しました!


はい、拍手。


いや笑い事じゃないんだけど、ちょっと笑ってほしい。

なぜなら、かなり真面目に取り組んで、この結論に至ったからだ。


いやぁ。今世はわりと頭の出来が良かったので、剣もイケると思ったんだけどなぁ。


伯爵領の平騎士、つまり、うちの家臣騎士から武芸の手ほどきを受けている。

剣の構え。足運び。重心。

理屈は、分かる。

どう動けばいいかも、理解できる。


できるんだけど。

ほんとだよ?

頭の中では超絶華麗な武技を披露しているのよ?


だけど残念。

体が、ついてこないんだなー、これが。


一歩遅れる。

踏み込みが浅い。

振りが軽い。

そもそも、腕が細い。


何より木剣が、思ったよりも重い。

振り切ったはずなのに、刃先が遅れてついてくる感覚がある。


騎士が言う。


「伯子さま、もう少し腰を落として──」


言われた通りにやる。

結果、バランスを崩す。


「……無理をなさらず。今は体づくりが大切ですぞ」


うん、知ってる。

でもこれ、体格の問題だけじゃないんだよな。


練習すればするほど、はっきりしてくる。

これは──才能の壁だ。


努力で埋まる差と、そうじゃない差がある。

前世でも散々見てきた。

スポーツでも、仕事でも、そして戦争でも。


前世ではそんなにスポーツは苦手じゃなかったんだけどなぁ。

まあ、言い訳ですわ。


何にせよ、今世はなまじ頭が回るせいで、自分の限界が見える。

油断してたわ。ほんと。


「……これ、練習しても才能ないやつや」


ぽつりと呟いたら、騎士が目を丸くした。


「なんの。伯子さまは、まだ九つではありませんか。剣も槍も、これからですぞ」


うーん、あんがと。

でも、違うんだよなぁ。


伸びしろがないわけじゃない。

でも、一流にはなれない。

たぶん、二流、下手すりゃ三流止まり。


それでいい。

それで、いいんだ。


「じゃあ……自衛できるくらいに鍛えてくれ」


そう言うと、騎士は少し困った顔で笑った。


「……控えめなお考えですな」


控えめじゃない。

現実的なだけだ。


将来、軍に関わることがあるなら──

前線で剣を振るうより、後ろで全体を見るほうが、よほど向いている。


皆の足を引っ張らない。

それで十分。


そう割り切ったら、少し楽になった。



その日の午後、オットマー大叔父さんとお茶の時間になった。


丸い腹。

にこにこした顔。

手には甘い菓子。


平和の象徴みたいな人だ。


この世界は、結婚も出産もはやいからね。

この人はこんな見た目でも、まだ四十歳になったばかりだ。


「セルヴィオ、今日は訓練だったそうだね」


「うん。剣とか」


「ほうほう」


僕は菓子を頬張りながら言った。


「僕、剣の才能ないっすわー」


軽く言ったつもりだったんだけど。


大叔父さんは、わっはっは、と腹を揺らして笑った。


「それは困ったな!だが聞けよセルヴィオ。実は大叔父さんはな、剣を振ることすらできんのだぞ!」」

みんなには内緒だゾ、なんて言いながらウインクをバチコーンと決めてくる。


……。


ねえ大叔父さん。

それでよく男爵やってるね。


思わず口に出そうになったけど、飲み込んだ。

代わりに聞いた。


「……それで、困らないの?」


「うん?」


「剣、できなくて」


大叔父さんは、菓子をもぐもぐしながら首を傾げた。


「困ったことはないよ?剣ができる人は、剣を振ればいい。私は人の話を聞くのが得意だから、そっちで頑張ってるよ」


……あ。


なるほど。


この人、戦えない。

でも、領内の統治は優秀だと聞いている。

人望も厚い。

使用人も農民も、みんなこの人を悪く言わない。


争いが起きる前に話を聞き、揉めそうなところに先に顔を出す。

そういう人だと、あとで乳母から聞いた。


強さの種類は、一つじゃない。


頭では分かっていたことが、腹に落ちた。


「セルヴィオは、頭がいいだろう?」


「……まあ」


「それは、とても強いことだよ。剣と同じくらい強いよ」


大叔父さんは、にこにこしたまま言った。


「剣は振れなくても、間違った道を選ばない人は、たくさんの人を守れる」


……なんだこの人。

ゆるキャラみたいな顔して、急に核心突いてくるじゃん。


このセルヴィオの目を持ってしても、オットマーという男を読めなかった……。

なんてね。

いや、読まなくていいのかもしれない。こういう人は。



ちなみに馬については、そこそこだった。


剣ほどひどくはない。

ちゃんと乗れる。

ちゃんと進める。


しっかし、この世界の馬も可愛いね。

前世では、賭けては負けるばっかりで、ついぞ実際のお馬さんに触れることはなかったけど、今世は触り放題だ。


ほーれ、ここがええのんか?

ここがええのんか?

首筋や顎あたりを撫でまわしてあげる。


実際の馬もいいものですね。


うーん。目がくりくりしている。

素直で、賢い。


「……お前は、いいやつだな」


馬に話しかけていたら、騎士に変な目で見られた。


まあいいや。


夜、ひとりで考えた。


僕は剣の天才じゃない。

槍で英雄にもなれない。


でも。


考えること。

学ぶこと。

支えること。


それなら、できる。


全部できなくていい。

できないことが分かるのは、むしろ前進だ。


人間、苦手なことってあるよね。


僕はまた一つ、自分の役割をはっきりさせた。


……それにしても。


剣が振れない軍師って、前線に立たなくていい分、安全じゃない?


いや、違うな。

一番安全なのは、無能なふりをして甘い菓子を配ってる大叔父さんかもしれない。


……あのポジション、意外と最強では?


そんなことを考えながら、僕は眠りに就くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ