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できる!最強軍師  作者: 満波ケン
第二章 王都と秘密
15/15

15.人、それを「おねショタ」という!

一晩寝て起きたら、正直どうでもよくなっていた。


王の孫やからなんやっていうねーん!


……いや、ほんと。昨日の僕、どうかしてたと思う。

「えっ、王家の血?一体僕って!」と、脳内で勝手にBGMを『運命』に切り替えて、夜着のまま一人で人生会議を始めたんだから。


ま。人間のメンタルって、だいたい睡眠でなんとかなる。知らんけど。


――あなたはだあれ。

とか、昨日の僕はどうかしていた。うわー恥ずかち!!

赤面赤面。ゴロゴロゴロ。


寝返りを打って、寝台で天蓋を見上げながら、僕は気持ちを切り替えた。


(父上、お祖母さま、陛下……)


父は今年で二十八歳。

祖母リュシアナは四十六歳。

そして、ルメディオ三世陛下は四十歳。


むむむ。


……うん。はい。

この数字、並べるとヤバいやつやね?

いや、ほら。今世は時代が中世っぽいし?

でも、これ、普通に闇深い計算にしかならないよね?


(お祖母さま。陛下が何歳のときに手を出したんですか?)


いや、違うな。

権力的には、手を出されたのか?


とにかく、お祖母さまがリアルで「おねショタ」やっちゃった、というのはわかった。


年齢問題は、深掘りしたら確実にアカンやつやねこれ。

前世のネットでも言ってた。見ちゃいけない闇は、見ないのが一番、って。


いずれにせよこれは、王妃殿下が嫁いでこられる前の出来事だ。

そりゃ、王室も隠すよね。陛下とお祖母さまが愛し合っていたかどうかは置いておくとして。

僕が、王妃殿下から冷たい視線を投げられるのも当然でしょ。


まず事実として。

父にも僕にも王位継承権は無い。そんな話は聞いたことがない。

つまり、父は「王の子」として公式には認知されていない。

もちろん、僕も王家の血筋と認知されていない。

と、ここまではオーケー。


で、これって誰が、どこまで知ってるのかな。

やりすぎると藪をつついて蛇を出しかねないけど、保身のためにも、もう少し誰かに話を聞いて事情を把握しておいたほうがいいのかも。


じゃあ、候補を並べてみよう。


陛下。

――そりゃご存知だろう。むしろ当事者だ。

でも、そうそう会えないし。聞けない。聞いてはいけない人だ。

もし、陛下がうっかり事実として認め(にんち)でもしてみなさいな。

王宮が揺れるぞ……。


昨日のも、一国の王としてはうかつだよね。伯爵夫人は既知なのかわからんけど、子爵夫人やマリアンヌは確実に知らんかったわけで。何か察しちゃったかなあ。でも、王というのは、周りのことなど考えず動いちゃう……そういうものでもあろう。


次。王妃殿下。

――知ってる。確実にご存知でしょ。

むしろ僕を見たときの視線が、それを物語ってた。

でも、聞けない。これも聞いてはならない。


「王妃殿下、僕って陛下の――」って口を開いた翌日には、葬送の鐘が鳴りそう。

『伯爵家嫡男、急病により死去』

セルヴィオちゃんは、おしまい。


じゃあ、子どもたちは?


エレシア様。

……多分、知ってる。どこまで知っているかはわからない。

でも、これまでの僕への意味ありげな応対を考えると、おおまかには理解しているだろうと推測できる。


レグナート様。

ちょっとよくわからない。

知らないのか、知ってて黙ってるのか、判断が難しい。


第一王女、カティア殿下。

――この人は、知ってる側だと思う。

どこまで、という点は保証ができないが、初対面の挨拶の時点で、あまりに反応が強すぎた。

年齢という点でも、エレシア様よりも本件への理解が深そうに感じる。

この方が第一候補かも。


あー。それにしてもショックなのは、ここまでの推測がすべて正しい場合、エレシア様が僕にとって「年下の叔母」ってことだよ。

一目惚れだったんだけどなぁ。

さすがに結婚できないよね。

いやそれとも、中世だと、前世と同様に叔母甥婚って成立するのか?

うーむ、わからん。


で、ここからが本題。

陛下、もしくは王妃殿下が、どういう思惑で僕をエレシア様やレグナート様に近づけたのか。

遊び相手って言ってたけど、それだけで済む気がしない。

王宮の言葉って、だいたい表と裏がある。


(厄介なことに巻き込まれないか?)


王宮というゲームに配られた、僕という札。

札は、切られるものだ。

切られる前に、僕は自分の価値と危険度を把握しないといけない。


(まずは情報収集だ)


その結論に至ったところで、廊下からの気配がした。

都市邸の朝は、静かなのに忙しい。

使用人の足音が、絨毯に吸われて消えていく。


起床の声が掛かる前に、僕はもう一度、深呼吸した。


(次の登城日……普段通りに振る舞って、隙を見て、エレシア様に相談しよう)


まずは、それからだ。



次の登城日のこと。


僕が、あの日――偶然にも陛下と出会った件が、伯爵夫人を経由して王妃殿下に報告がされたのか。

それとも、「なかったこと」として処理されたのか。


正直、わからない。


でも一つだけ確かなのは、王妃殿下も伯爵夫人も、普段通りだったということだ。


だから、僕も普段通りに振る舞う。


――それが、いちばん安全だ。


エレシア様と他愛のない会話を交わし。

マリアンヌの話し相手になり。

レグナート様には、お持ちになった、この世界の創世神話を読み聞かせして差し上げる。


「続きは、次にいたしましょう」


キリのいいところでそう言うと、レグナート様は少し残念そうにしながらも、きちんと頷く。

まだ六歳だというのに、しかも、わがままを通しやすい王太子という立場にありながら、本当に素直だ。


王妃殿下の視線を感じることは、あった。

でも、それは前回と同じだ。

刺すようで、突き放すようで、でも観察している瞳。


(……大丈夫。普段通りできている)


そう自分に言い聞かせながら、皆の意識が少し緩んだ瞬間を待つ。


そして――その時は来た。


エレシア様が、マリアンヌと並んで窓辺に立った、その一瞬。


僕は一歩だけ距離を詰め、声を落とした。


「エレシア様。お願いがございます」

「まぁ?」

すぐに、美しい瞳がこちらを向く。


「どこかで……カティア殿下と、お話する機会を設けていただけませんか?」

言ってから気づく。これ、かなり不躾だ。


エレシア様はぱちくりと目を瞬かせてから、可愛らしく口を尖らせた。


「セルヴィオ様は、わたくしより……お姉様とお話がしたいのですか?わたくし、妬いてしまいますわ」

「い、いえっ。決してそういうわけでは……!」


違うんです、違いますともエレシア様。

僕めはエレシア様一筋でございます!とは、さすがに言えない。


誓ってやましいことではなく、と前置きして、正直に言った。

「自分が、一体何者なのかを……知りたいのです」


その言葉に、エレシア様は一瞬だけ黙り込んだ。

少しだけ逡巡して。

それから、静かに頷く。


「……わかりました。お姉様が、会ってくださるかどうか。確認してみます。わたくしより……確かに、お姉様のほうがお詳しいでしょうし」


すべてを理解して返答してくれた。



「お姉様のお部屋は、ご存知ですわよね?」


さらに次の登城日。


エレシア様の囁きに、僕は頷きを返した。

先日、カティア殿下と「ご挨拶」した際、その場所は把握できていたからだ。


「今日、お姉様はお部屋にいらっしゃいます」

エレシア様の吐息がくすぐったい。

「書庫で自由時間になりましたら……乳母の目を、上手くかいくぐってくださいまし」


カティア殿下の了解が得られたのだろう。

僕は思わず、エレシア様の両手を握りしめる。


「ありがとうございます。この御礼は、必ず」


そう言うと、エレシア様は頬を赤らめ、視線を逸らした。


「御礼だなんて……」


……んっっ!ぎゃわいい。


少し離れたところで、マリアンヌがこちらを見ていた。

視線が、冷たい。



レグナート様は、机の上に肘をついて、僕がさっきまで読んでいた本の挿絵を眺めていた。


子ども向けの英雄譚で、このレーヴェン王国建国にまつわる物語だ。


僕は椅子から立ち上がり、できるだけ自然な声で――

「お手洗いに行ってまいります」

そう告げて、部屋を出た。

乳母からも、いつものこと、として特に咎められるようなことはなかった。


ここからは、一種の賭けだ。


カティア殿下のお部屋に、誰にも見られないよう入り、出て、書庫に戻らなければならない。


もし誰かに見つかってしまったら?

トイレに行くと言ってごまかせるかは……正直、運ゲーだ。


幸い、回廊の入口付近にいる警護の者はこちらに背中を向けており、なんとかなりそうだった。


廊下の絨毯の毛足の長さを活かして、カティア殿下の部屋の前へ素早く移動する。

そして、身体で扉を押し開き、滑り込むようにして中に入った。

それほど大きい音は立てなかった――はずだが、心臓がバクバクする。


中では、カティア殿下がいたずらっぽい微笑みを浮かべて待っていた。


「まあ、座りなさいな」


一礼をして、殿下が指し示す座椅子に腰掛ける。

すると殿下が手ずから緑茶を淹れてくれた。


「華夏の飲み物で、お茶というのよ。知ってるかしら?」


白磁の杯に、黄とも緑ともつかない色が注がれる。

前世で嗅ぎ慣れた匂いが、ふわっと漂ってきた。

以前から王妃殿下らが飲んでいるので存在を知っていたが、これだけ至近距離で香りを嗅ぐのは、今世では初めてで、思わず感動してしまう。


「毒ではないわよ」


先に杯を傾けるカティア殿下。

僕もそれに倣って、杯を口にする。

苦みと爽やかさが渾然一体となった、懐かしい味が広がった。


「で。何が聞きたいわけ」


杯を片手に、殿下が言う。美人なだけにサマになるなぁ。超かっけぇ。


「全部……と言いたいところですけれど。お手洗いに行くと抜け出してきましたので、そこまで時間はありません」


正直に言った。ここで、踏み込む。


「陛下もしくは王妃殿下は、どうして僕を王宮に呼んだのでしょうか。それが知りたいのです」


さすがに聡いカティア殿下。その発言の意図を、しっかり理解してくれたようだった。


「あなたを呼んだのはお母様よ。理由については、お母様からはっきりと聞いたわけではないけれど、あなたが王家に仇成す者か、それとも忠誠を尽くすのか……確認しているのではないのかしら」


うーん、なるほど。

正直なところ、王宮に呼ばれなければ、僕が王家の血を引いているのでは、という噂すら知らなかったわけで。まあ、王妃殿下としては、僕がどこまで知っているかは分かんないか。

でも、ちょっと根拠は弱そうだな、とも思う。


「……私には兄がいたのよ」


殿下が、急に爆弾を投下してくる。


「少し調べればわかることだけれど、私が生まれる二年前に、当時一歳だった兄は死んでしまった。流行り病でね」


殿下が一拍置く。


「でもね、お母様はそう思わなかったみたい。誰かが毒殺したのでは?誰かが呪い殺したのでは?……と思っていたそうよ」


呪殺……というのは穏やかじゃない。

そういうファンタジーな要素はないと思っていたけど、もしかしてあるの?


「呪いなんて迷信よ」


バッサリと斬るように、カティア殿下は言った。


「でも、毒殺かもしれない、という噂は絶えなかったそうよ」


そりゃそうだよな。


「その毒殺を仕掛けたのが……」


殿下は杯を置き、僕の目を見て少し言い淀んだ。

――僕のほうが先に言ってしまった。


「僕の祖母リュシアナ。そういう疑いが掛けられた、と」


殿下はそれを否定せず、頷いた。


「でも、あなたのお祖母さまは王宮から離れた場所にいたし、嫌疑は掛からなかったわ。お母様が思い込んでいただけ」


だから呪殺、なんてとんでもない話が出てくるのか。


「……あの人は、昔から人の心を引き寄せる方だったから」


カティア殿下は、ほんの一瞬だけ遠い目をした。すぐに何かを振り払うように、首を振った。


(あの人……?)

どの人?


「お母様もレグナートが生まれるまで、精神的に、相当追い詰められていたみたい」


そりゃ、思い込みとはいえ、王家の血を引いている僕を眼の前にすると冷たい視線になるよね。

そう考えると、よく僕とレグナート様を近づけるよな。


「それは、乳母が近くにいるからでしょ」


殿下の解説によると、乳母の一人は前・王国騎士団長の娘で、武力に秀でた人材らしい。

もしも僕が悪意を持って何か仕掛けたところで、制圧は容易ということか。

確かに、彼女、足音をほとんどさせない。よほどの訓練を積んでいるのだろう。


「では最後にもうひとつだけ。父や僕が『そう』というのは、誰がどこまでご存知なのでしょうか」


カティア殿下は僕の目を真っ直ぐ見ながら告げる。


「お父様やお母様はもちろん、私も。そして上位の貴族たち。お父様やお母様の側近は──その噂が『事実である』と知っているわ」


そして言葉を継いで、


「エレシアも、全容……とまでは言わないけど、知っている。レグナートは、噂くらいは聞いたことがあるかもしれないけど、それが事実かどうか、把握はしていないと思うわ」


そして、少しだけ眉を上げた。


「もしあの子が、自分で調べてしまったなら別だけど」


僕の喉が鳴る。

もうタイムリミットだ。


「ありがとうございます」


僕は深々と礼をすると、殿下の部屋を辞した。

そして運よく誰にも知られることなく、書庫へ戻ることに成功したのだった。

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