皇ジャンヌSS 『煌めきの岐路』(前編)
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の4期生『皇ジャンヌ』として活躍している霧島栄美のデビューまでのショートストーリーです。
声優として成功していたのになぜ彼女はVtuberになるのか?
物語では語られていない彼女の想いとは?
そしてこちらも語られていない栄美だけが知る4期生の秘密とは?
ぜひ、聖騎士軍の皆さま!そしてジャンヌちゃん推し!4期生箱推し!の人はお楽しみくださいませ
まだ夏の熱気がじんわりと肌に残る9月の夜。仕事終わり、少し汗ばんだ肌に夜風が心地いい。街の喧騒から少し離れた、落ち着いた雰囲気のしゃぶしゃぶ屋さんへ向かう。暖簾をくぐると、木の温もりが感じられる空間が広がり個室へと案内された。
扉を開けると、すでにみんなが席について、談笑している。湯気を立てる鍋が中央に置かれ、照明がそれを優しく照らしている。最近忙しくて、久しぶりに顔を合わせるメンバーの笑顔はいつもよりどこか輝いて見える。
「ごめん遅くなっちゃって」
「ううん大丈夫だよ」
「アタシもさっき来たばっかりだから」
「栄美ちゃんは何飲みます?」
「じゃあレモンサワーにしようかな」
そして注文した飲み物が運ばれてきて、今日の祝賀会が始まる。
「改めて私たち4期生、全員バラエティーの公式枠決定おめでとう!乾杯!」
ひときわ明るい奏ちゃんの声が響き、私たちはグラスを持ち上げた。カチン、とグラスが触れ合う音。その音は、ささやかだけれど、私たち4期生全員の間に流れる喜びと絆を象徴しているように感じた。
(ああ、こうして皆で集まるのは本当に久しぶりだなぁ……そして、私たち全員で掴んだチャンスなんだよね)
目の前で笑い合う、奏ちゃん、明日香ちゃん、凛花さんの顔を見つめる。それぞれの活動で忙しい日々を送る中、こうして時間を合わせて集まれたことが何よりも嬉しい。そして、私たち4人全員でまた新しいスタートラインに立てたことが何よりも誇らしい。
窓の外はもうすっかり暗い。時折、遠くから車の走る音が聞こえてくるけれど、この個室の中は、私たちだけの特別な空間だ。温かい鍋の湯気が、私たちの言葉や笑顔を優しく包み込んでいる。
「本当に信じられないよね!まさか4人全員でバラエティーの公式枠をもらえるなんて!」
奏ちゃんが興奮した様子で言うと、明日香ちゃんと凛花さんも大きく頷いた。
「うんうん!聞いた時、鳥肌が立ったもん!」
「新しいことですからね、より一層頑張らねばです!」
新しいこと……その言葉を聞きながら、ふと、自分がデビューした頃のことを思い出した。あの時の不安と期待が入り混じったざわめきのような感情が、昨日のことのように蘇ってくる。
(本当に……私は新しい世界で頑張れているんだな……)
◇◇◇
春の柔らかな雨が窓ガラスを静かに叩いている。東京の街は、この雨音で一層静けさを増したように感じる。私はリビングのソファに深く腰掛け、ヘッドホンから流れる少しアップテンポな音楽に、ぼんやりと意識を委ねていた。
昔から歌うことが好きだった。幼い頃は、擦り切れるほどラジオにかじりつき、お気に入りのアーティストの曲を何度も何度も繰り返し歌ったものだ。声優という道を選んだのも、声を通して何かを表現することへの強い憧れと共に、いつか自分の歌を誰かに届けたいという、心の奥底にそっとしまっていた願いがあったからに他ならない。
私の名前は霧島栄美。26歳。職業は声優。15歳で声優の世界に足を踏み入れた。声優としての私のキャリアは、決して順風満帆ではなかったけれど、一歩ずつ確かに前に進んできた実感はある。18歳の時、幸運にも掴んだアニメ『錬金少女ミルカにお任せ!』のカトリーヌ役。あの意地悪な性格の、でも、どこまでもエネルギッシュな少女の声は、多くの人々の記憶に少しでも残っているだろうか。
イベント会場でも私の声が響き渡るたびに、笑顔と歓声が渦のように巻き起こり、その熱気が私に確かな手応えを与えてくれた。あの時の喜びは今でも鮮明に思い出せる。
けれど、あれから10年という月日が流れた。声優業界の景色もあの頃とは大きく変わってしまった。いつの間にか「声」だけではなく「顔」を出すことが当たり前になり、ライブイベントではダンスをしたり歌を歌ったりと、まるでアイドルのような活動が求められるようになった。私自身、ダンスも歌も嫌いではない。むしろ、人前で何かを表現することには、言葉にできない喜びを感じている。
それでも、心のどこかで拭えない焦燥感を覚えているのは、やはり年齢的な問題があるからだろうか。『今から、本格的にダンスレッスンを始めるなんて、少し遅すぎるかもしれない』『若い世代の、あの溢れるばかりのエネルギーには、もう到底敵わないのではないか』コンサートの楽しそうな映像を見るたびに、そんな不安が胸の奥を静かに締め付ける。
「このまま声優として、時代の変化の波にちゃんとついていけるのかな……」
私はヘッドホンをそっと外し、小さくため息をついた。カトリーヌという、過去の輝かしい足跡がある一方で、新しい挑戦への躊躇い、そして常に変化し続ける業界への、誰にも言えない焦り。それらの感情がまるで重い鉛のように、私の心を常に揺さぶっている。
そんな中、私は以前から表現の新しい形として、Vtuberの配信を参考に見ていた。特に温かいリスナーコミュニティを持つ『Fmすたーらいぶ』のライバーたちの配信は、私にとって、どこか懐かしいラジオのような、心地よい空間だった。
個性豊かなアバターを通して、自分の魅力を最大限に発揮し、リスナーと心を通わせる姿は、声優としての活動に行き詰まりを感じ始めていた私にとって希望の光のように見えた。実はそんな私も『すたリス』の一人だった。
そして、今年の夏に開催された『すたフェス』のオンライン配信を見た時、私の心は激しく揺さぶられた。アバターという、いわば仮の姿ではあるけど、自分の歌声を届け、画面の向こうの視聴者とまるで手を握り合っているかのような、強い感情的な一体感を生み出しているライバーたち。
顔が見えなくても、声とその奥にある想いだけで、これほどまでに人の心を深く動かすことができるのか。という言葉にできないほどの感動が私の全身を駆け巡った。
「私も、あの温かい光の中で歌いたい……自分の声で、自分の想いを、もっと自由に誰にも遠慮することなく表現したい……」
声優として、与えられたキャラクターを通して歌うことは、確かにある種の安心感を与えてくれた。キャラクターの背景や感情に寄り添いながら歌うことは、私にとって表現することの喜びの一つだった。
けれど、アバターという、もう一つの「私」を得ることで、画面の向こうの視聴者とより直接的な、剥き出しの感情的な繋がりを築き、私自身の内側から湧き上がってくる歌を、もっと自由に、もっとありのままの形で届けられるのではないか。そんな、まだ小さくけれど確かに熱を帯びた可能性が、私の心の中で、静かにしかし確実に膨らみ始めていた。
けれど、すぐに躊躇が押し寄せてきた。
今更、新しいことを始めるなんて、本当に私にできるのだろうか……?
長年続けてきた声優の仕事を、中途半端な気持ちで捨てるような真似はできない……
そんな不安が、頭の中で何度も何度も渦巻いた。勇気を出して『Fmすたーらいぶ』のオーディション情報ページを開いてはみるものの、応募資格を何度も確認しては、そっとページを閉じる。そんなことを数日間繰り返していた。
週末の午後、私は駅近くのカフェで元声優仲間の美咲と待ち合わせた。窓から差し込む柔らかな陽射しが、店内の穏やかな雰囲気を一層引き立てている。美咲は、少し遅れてやってきたけれどいつも通り笑顔だった。美咲は3年前に事務所を退所し、今は自分の夢であった舞台女優として活躍している。
「ごめんね、ちょっと道が混んじゃって」
「ううん。大丈夫」
私たちはそれぞれコーヒーを注文し、近況報告など他愛のない話でしばらく時間を過ごした。美咲は最近、舞台の仕事が立て込んでいるらしく、その充実した様子をキラキラとした瞳で語ってくれた。そして頃合いを見て、私は意を決して切り出した。
「美咲……実は、ちょっと相談があるんだ」
「どうしたの、栄美?そんな改まって」
私は、ここ数日悩んでいることを正直に打ち明けた。『Fmすたーらいぶ』というVtuber事務所のオーディションを見つけたこと、そこに強く惹かれる気持ちがあること、けれど、長年続けてきた声優の仕事を捨てることへの、拭いきれない迷いがあること……実はVtuberの配信を以前から見ていて『Fmすたーらいぶ』の温かい雰囲気に惹かれていること、そして何より、自分の歌をもっと自由に届けたいという、心の奥底にある願いを美咲に伝えた。
美咲は、私の言葉を一つ一つ聞いてくれた。そして、少し間を置いてコーヒーカップを両手で包み込みながら、ゆっくりと話し始めた。
「栄美。私もさ、今は舞台で頑張ってるけど、やっぱり新しい場所に飛び込むってすごく勇気がいることだよね。声優の世界で10年も続けてきたんだもん。それを手放すって並大抵の決意じゃできないと思う」
「そうだよね……」
「……でもね栄美。考えてもみて。栄美の声は、本当に色々な人に感動と笑顔を届けてきたじゃない?カトリーヌは今でもたくさんの人の心に残ってる。それは紛れもない事実だよ。でも、栄美自身はどうなの?本当に今のままで心の底から満足してる?」
美咲の言葉は、私の胸に深く突き刺さった。確かにカトリーヌ役は私の誇りだ。けれど、いつからだろうか……誰かの期待に応えることが、いつの間にか自分の表現の中心になってしまっていたのかもしれない。そして美咲は、さらに言葉を重ねた。
「私が事務所を辞めて舞台に挑戦するって言った時、栄美はなんて言ってくれたか覚えてる?『いいと思う。私は美咲の歌が好きだから、もっと自由に歌える場所に行ってほしい』って言ってくれたよね。今の私の気持ちも、あの時の栄美の気持ちと同じだよ。栄美の歌声は、もっともっとたくさんの人に届くべきだよ」
美咲は私の手をそっと握りしめ力強く言った。
「でも中途半端な覚悟じゃ、きっとうまくいかないよ。新しいことを始めるって想像以上にエネルギーがいるし、何よりこれまで積み上げてきたものを、一部でも残したまま新しいことに挑戦するって、どっちつかずになっちゃう気がするんだ。もし、本当にVtuberの世界に、心の底から惹かれていて、本気で挑戦したいと思うなら、それくらいの覚悟が必要なんじゃないかな。それに……栄美は『すたリス』って言ってたよね?自分が良いと思った場所なら、きっと素晴らしい仲間たちもいるはずだよ。人生は一度きりだよ、栄美。後悔しないように自分の心の声に正直になって頑張って」
「そうだよね…」
と、私は小さく呟いた。彼女の言葉は、私の心の奥底にずっと蓋をしていた感情に温かい光を当ててくれた。
私はもっと自由に歌いたい。もっと自分の心のままに表現したい。そして『すたフェス』のあの温かい光の中で歌いたい。後悔だけはしたくない。新しい世界に飛び込むなら、全身全霊で、後悔のないように挑戦したい。そう決意した。
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