海原あると、朽木ココアSS 『海と魔女の絆星』(後編)
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつけば、お腹はいっぱいになり、テーブルの上には空になった皿がいくつか残っているだけだった。焼肉の香ばしい匂いが、私たちの会話の余韻とともに、個室の中にまだ漂っている。
「今日は本当にありがとう相馬さん。すごく楽しかった」
水瀬さんが、心からの笑顔でそう言ってくれた。その言葉が、私の胸にじんわりと温かく広がった。私も、本当に楽しかった。美味しいお肉もそうだけど、それ以上に、同期の水瀬さんとゆっくりと話せた時間が、何よりも嬉しかった。
「こちらこそありがとう水瀬さん。私もすごく楽しかったよ」
でも、楽しい時間は、終わりが来るのがいつも早く感じる。もっと水瀬さんと一緒にいたい。もっと色々な話をしたい。そんな気持ちが私の心の中でふつふつと湧き上がってきた。
「あの……水瀬さん」
別れ際になって、私は勇気を振り絞って言った。
「もしよかったら……今日、私の家に泊まっていかない?」
自分でも、少し強引な誘いだということは分かっていた。でもこの楽しい時間を、すぐに終わらせてしまうのがどうしても嫌だった。
水瀬さんは私の言葉に目を丸くして、少し戸惑った表情を浮かべた。
「え……?泊まり?」
「無理なら大丈夫!その一人で帰るのも、少し寂しいかなって……それに、まだ色々話したいこともあるし……」
私は少しだけ声を小さくしてそう言ってみた。最後のほんの少しのわがままだった。
「じゃあ……泊まろうかな」
「え?本当に!嬉しい!」
「大袈裟だな相馬さんは」
水瀬さんは少し照れたように笑った。その笑顔を見て、私の心は喜びでいっぱいになった。まさか本当に泊まってくれるなんて思ってもいなかったから、驚きと嬉しさで胸がいっぱいだ。
「じゃあ、行こうか!」
私は立ち上がり、水瀬さんを見つめた。水瀬さんも微笑んで頷き、私たち二人は個室を出た。お店の外に出ると、夜の静けさが私たちを包み込んだ。焼肉の匂いはもうほとんどせず、代わりにひんやりとした夜の空気が心地よかった。
私たちは並んでゆっくりと歩き出した。昼間の賑やかさが嘘のような静けさの中、二人の足音だけが小さく響く。仕事のこと、趣味のこと、最近あった面白い出来事など他愛もない話をしながら歩いた。話しているうちに、さっきまでの少しの緊張はすっかり消え、まるで昔からの友達のように自然な会話ができた。
そして家につき、私はふと思い付く。
「そうだ!」
「どうしたの、相馬さん?何か忘れ物でも?」
「ううん、違うの!あのね今日すごく楽しかったから、この楽しい気持ちをみんなにもおすそ分けしたくなっちゃった!」
私は興奮気味にそう言った。普段は一人でひっそりとゲーム配信などをしているけれど、今日はどうしてもこの高揚感を誰かと共有したかった。
「え?みんなって……まさか、配信するの?」
「うん!ちょっとだけ!もちろん水瀬さんの名前は出さないから。でも色々話したいなって!」
「まぁ……じゃあ私は離れて作業してるね?」
そのまま配信枠を取り、とりあえずサムネは……適当に簡単なものを作った。普通じゃあり得ないけど、早く誰かとこの楽しかった気持ちを共有したかった。
「よし、準備OK!」
「サムネこれでいいの?」
「あとで直すからw」
そして私は深呼吸をして、配信を開始した。
「こんココ~!Fmすたーらいぶ3期生、猫さん大好き天才魔女の朽木ココアだよ~!使い魔さんたち今日もココアの魔法にかかってるかな?」
コメント
『かかってる』
『かかってるよ』
『かかっちゃった』
「今日もいい返事!なんか突然ごめんね。今日は色々あってさ、みんなと話したい気分になっちゃったからさ?」
コメント
『全然いいよ』
『むしろ楽しみ』
『ココアちゃん好き』
そして私はパソコンがピンチだったこと、もちろん名前は出さないけど焼肉を食べに行ったことを話した。
「実はね、配信で使ってるパソコンが危篤状態になっちゃって!もうね画面が出なくなっちゃって。終わった~どうしようって。このままじゃ配信もままならないし……どうしようかな~って。でも『友達』が直してくれたんだよ」
コメント
『友達GJ』
『良かったね』
『優しい友達や』
(あ…「友達」って言っちゃった。ちょっとドキドキする……水瀬さん気づいてるかな?)
私はコメントの流れを追いながら、内心少し焦っていた。いきなり距離を詰めすぎているかもしれないし……でも私は止まらなかった。
「そう!本当に感謝しかないんだ!その友達がいなかったら、今頃ココアは途方に暮れてたと思うし。本当に、良い友達を持てて幸せだなぁってしみじみ感じたよね!」
私は、心からの感謝を込めて言った。後ろでカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。水瀬さんは、私の言葉にどんな反応をしているだろうか。少しだけ振り返って見てみると、特に変わった様子はなく真剣な表情で画面に向かっていた。よかった……別に怒ってなさそうかな?
「でね、パソコンも無事に直ったことだし、今日はその友達と、美味しい焼肉を食べに行ってきたんだ!」
再び、楽しい話題へとシフトチェンジする。やっぱり楽しい話をしている方が私も気分が良い。
コメント
『焼肉の話かw』
『どんだけ焼肉好きなんだよw』
『でも、美味しいものの話は聞いてて楽しい!』
「だって、本当に美味しかったんだもん!特にタン塩が絶品だったの!あとね、カルビもとろけるみたいで……あー、思い出すだけでお腹が空いてきたw」
私は、ジェスチャーを交えながら、興奮気味に焼肉の感想を語った。コメント欄も「飯テロだ!」とか「食べてきたのでは?」といった反応で盛り上がっている。
「その友達とも、色々な話ができて本当に楽しい時間だったんだ。最近あった面白いこととか、ちょっと真面目な悩み相談とか……やっぱり、誰かと一緒に美味しいものを囲んで話す時間って、本当に大切だよね!」
私は、今日の温かい時間を思い出しながらそう言った。後ろにいる水瀬さんの存在が、私の言葉に実感を込めてくれる。
コメント
『うんうん、すごくわかる!』
『良い友達と美味しいもの、最高の組み合わせだ!』
『ココアちゃん、今日は本当に楽しそうだね!』
「うん!本当に楽しかったんだ!だから、みんなにもこの楽しい気持ちをちょっとでもおすそ分けしたくて急に配信しちゃったんだ!」
私は、改めてそう言って、画面の向こうの使い魔さんたちに笑顔を向けた。みんなの温かいコメントが、私の心をポカポカとさせてくれる。
こうして、予定外の夜の雑談配信は、温かい雰囲気の中で過ぎていった。楽しい時間はあっという間で、気がつけばもう深夜の0時近くになっていた。そして話題はコラボ解禁の話題になる。
コメント
『ココアちゃんの声癒される!』
『コラボ解禁したね』
『早くコラボしてほしい!』
『いきなり姫かママ行く?』
「いや無理無理!姫先輩とママ先輩とまともに挨拶したことないもんココア。でもまずは同期じゃない?」
コメント
『同期ね』
『誰とコラボする?』
『誰でも楽しそう』
『早く観たい!』
その『早く観たい!』というコメント欄を見て、気持ちが昂った。後ろにいる水瀬さん……配信で一緒に話したら楽しいかな……絶対楽しいよね……
そして私はそのまま無意識に口に出していた
「じゃあコラボしちゃう?ねぇあると、みんながコラボ早く観たいって!」
コメント
『え?あるとちゃん?』
『いるの?』
『友達ってあるとちゃん?』
水瀬さんは私の突然の言葉に、少しだけ体を硬直させたのがわかった。背後から感じる視線が、ほんの少しだけ鋭くなった気がした。
私は、心臓がドキドキと音を立てるのを感じながら、冷や汗が背中を伝うのを感じた。配信画面では、コメント欄がさらに騒がしくなっている。
コメント
『本当にいるの?』
『まさかのw』
『あるとちゃん、出てきてー!』
水瀬さんはゆっくりと顔を上げて、少しだけこちらを振り返った。その表情は、驚きとほんの少しの呆れが混じっているようにも見えた。
「あのさ。呼ばないでよココア」
「いや、みんなが観たがってたからw」
「こんばんは。あるとです」
「あ!ごめんあると。立ち絵持ってなかったちょうだいw」
「え?呼ぶならしっかりしてくれないかなw」
「ごめ~ん!」
コメント
『あるとちゃんこんばんは』
『突発コラボいいね』
『ドジだな』
『ポンコツだよな』
『ポンコツココア』
『ポンココw』
『それいいな』
「えぇ!?ポンコツココア……ポンココ!?」
「ポンココだね。いやぁビックリしたんだよあると。いきなりさ『あると助けて~』ってココアから泣きながら連絡来てさ?初めてじゃないかな、ココアから連絡来たの。いざ来てみたらパソコンもあれ刺すところ間違えてたようなもんだし。あるとの時間返してほしいよw」
「泣いてないし!刺すところはあってたから。変に干渉してたじゃん!それにちゃんと焼き肉奢ったじゃん!あると、めっちゃ楽しんでたし!」
「あると帰ろうとしてたよ?でもココアがどうしても、あるととご飯食べたいって言うから、仕方なくだよ?」
「でもめっちゃ可愛い顔で、美味しそうってメニュー見てたよw」
「見てないだろ!あると普通だし!」
コメント
『喧嘩するなw』
『子供か?』
『でも可愛いなw』
「というか今ここにいるのだって、ココアが『1人で帰るの寂しい!』って言うから。本当にあるとのこと好きすぎだよw」
「い~や!あるとだって焼き肉終わったあと、めっちゃ笑顔で楽しかったって可愛く言ってたし!あれはココアに恋してるねw」
「自意識過剰なんだけどこの人w」
「あるとが先に言ったんじゃん!」
「あるとのは本当だからwココアはあるとのこと好きすぎてるw」
「ココアのも本当だし!」
コメント
『クソガキ感満載w』
『クソガキコンビ誕生』
『あるココ好きだなぁ』
『あるココ最高!』
『あるココてぇてぇ』
コメント欄が加速している。今日初めて色々話した、初めて配信にも一緒に出た……だけどこんなに楽しくて、こんなに自然に言葉が出てくるなんて、自分でもびっくりだ。水瀬さんとこうして軽口を叩き合っていると、まるで本当に昔からの友達みたいだ。
そして配信が終わる。まだ配信の余韻と熱が冷めていない。本当に楽しかった。でも、少しだけ罪悪感が出てくる。無理に配信に出てもらっちゃったし謝らないと。
「水瀬さん。ごめんねありがとう」
「……衣音」
「え?」
「私の名前。ほら……私と相馬さん……愛梨ちゃんは友達なんでしょ?いつまでも名字は堅苦しいし。そもそも同い年だし」
「うん!そうだね、衣音ちゃん!」
私は言われた通りに、もう一度名前を呼んでみた。なんだか、さっきまで他人行儀だった関係がこの一言でぐっと近づいたような気がした。衣音ちゃんの名前を呼ぶのは少し照れくさいけれど、でもどこか嬉しい気持ちも湧き上がってきた。
「無理に付き合わせちゃって、ごめんね?私さ思い付いたらすぐ行動しちゃってさ」
「本当だよ。強引だし。まぁ楽しかったけどさ」
衣音ちゃんは頬を少し赤らめていた。良かった同じように楽しかったんだ。SNSをチェックすると、トレンドに『あるココ』や『クソガキコンビ』、『ポンココ』などが並んでいた。それを見て衣音ちゃんと笑い合う。
「すごっ!トレンド独占してる!」
「クソガキコンビは嫌だけどね」
「さてさて。もうこんな時間だ……ねぇ衣音ちゃん。一緒にお風呂入ろう!」
「え?嫌だよw」
「じゃあ一緒に寝ようよ!友達でしょ?」
「友達でも嫌だよw」
「えぇ~」
今日は私たちにとって特別な日。初めて色々話して、初めて一緒に配信に出て、初めて名前で呼び合った。そしてこれからもっとお互いのことを知っていく……そんな特別な日になった。
◇◇◇
「愛梨ちゃん?」
優しい声が聞こえて、意識がゆっくりと浮上していく。まぶたが重くてなかなか開かない。
「ふぇ……?」
ぼんやりとした視界の中に、見慣れた姿が見えた。衣音ちゃんだ。
「愛梨ちゃん、大丈夫?」
「衣音ちゃん……?」
「控え室で寝てるとかどんだけ呑気なのw」
衣音ちゃんの言葉で、記憶が少しずつ蘇ってきた。そうだ、焼き肉屋さんのサイトから色々思い出して……いつの間にか寝ちゃってた。
「ご飯行くのやめる?」
「え!行く行く!その前にさ私、化粧大丈夫!?」
「大丈夫だけど、よだれ垂らしてたよw」
「嘘!?」
「嘘だよw」
「もー、からかわないでよ、衣音ちゃん!」
私は慌てて顔を触った。よだれなんて絶対垂らしてないはずなのに!でも、その楽しそうな笑顔を見ていると、なんだか私もつられて笑ってしまう。
「まったくもう……早くご飯行こうよ!お腹空いちゃった!」
「うん。どこ行くか決めたの?」
「そうだ!これ見て!この焼き肉屋さん懐かしくない?」
「懐かしい!最初に愛梨ちゃんとご飯食べたお店だよね?」
衣音ちゃんも覚えてくれている。あの日から始まった私たちの友情は、今でも私たちの心を繋いでいる。これからも私たちはきっと、色々なことを一緒に経験してもっともっと深い絆で結ばれていくんだ。
「そうだ!ねぇ衣音ちゃん。今日泊まっていかない?久しぶりにご飯も食べるし、話したいこと色々あるし!」
「う~ん……そのお店、愛梨ちゃんの家の近くなんだよね……帰るの面倒だし、泊まろうかな。どうせ焼き肉屋さんにいる時間だけじゃ語り足りないでしょ?愛梨ちゃんは」
「本当に?じゃあ……」
私はふと思い出す。あの時のやり取りを。どうせ断られるけど、これがいつもの『あるココ』だから。
「衣音ちゃん。一緒にお風呂入ろうよ!」
「嫌だよ!なんで愛梨ちゃんはすぐに私とお風呂に入ろうとするの?」
「いいじゃん。じゃあ一緒に寝ようよ!友達でしょ?」
「友達でも嫌だよw」
「えぇ~!」
いつもの私たち。こんな風に軽口を叩き合いながら、目的のあの懐かしい焼き肉屋さんへ向かう。あの時、勇気を出して衣音ちゃんに連絡して本当に良かった。初めて二人で配信した時のあの少し照れくさくて、でもすごくワクワクした気持ちは、今でも鮮明に思い出せる。あの時から始まった私たちの特別な繋がりは、これからもずっと色褪せることなく続いていくんだろうな。
そしてここだけの話だけど、Fmすたーらいぶのカップリングで人気の『あるココ』は本当に私たちの日常そのものなんだ。もちろん、全部が全部そのままってわけじゃないけど、あの何気ないやり取りとか、ちょっとしたことで意地を張っちゃうところとか。ケンカしたり、意見がぶつかったりすることもたまにはあるけど、結局最後は「まあ、いっか」って笑い合える。そんな私たちの飾らない日常。
だから誇りに思っているし、人気だって他のカップリングには絶対負けたくない!そして衣音ちゃんは同期で、ライバルで……そしてかけがえのない親友。だからこそ衣音ちゃんにも負けられないよね!
「ん?なに愛梨ちゃん?」
「……なんでもない!」
私はそう言って、隣を歩く衣音ちゃんより、ほんの少しだけ先に前を歩いた。
完
『面白い!』
『続きが気になるな』
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