第六話『万国技術博覧祭』
おまたせしました!!第六話です!!
小説処女作品です!
ベタな展開が多いかも知れませんが「たまに出てくるファンタジー小説」的な印象を持ってくれると嬉しいです!!
工房の床に大の字になって、天井の染みを睨んでいたレオは、ふと、アステルから貰った魔法石を握りしめた。
(…そもそも、俺は、この大会に出られるのか?)
今さらながら、彼は根本的な問題に気づいた。自分はこの国の人間ではない。ただの居候の身だ。そんなよそ者が国の威信をかけた博覧会に参加できるものだろうか。
「…師匠」
「あんだ、小僧。まだ行き詰まってんのか」
「いえ、そうじゃなくて…。俺、この大会の出場資格って、あるんでしょうか?」
その問いにグスタフは眉をひそめ、工具を磨く手を止めた。
「…てめえ、まさか応募要項も読んでねえのか。一心不乱に突き進むやつだな。」
グスタフは工房の隅に積んであった古新聞の束から、一枚のチラシを引っ張り出してきた。それはレオが市場で見たものと同じ『万国技術博覧会』の公式パンフレットだった。
レオはその応募資格の欄に書かれた一文を食い入るように読んだ。
『応募資格:聖冠連邦の国民、または、連邦が規定する連邦技術資格を所有する職人、及びその師弟であること』
「…師弟…」
「てめえは、俺の弟子だ。文句あっか」
グスタフはぶっきらぼうに言った。レオの胸にじわりと熱いものが込み上げる。
「いえ! ないです! …でも、これ、正式な弟子として登録するには、身分登録が必要だって…」
「…ちっ、面倒くせえな」
グスタフは盛大に舌打ちをすると、重い腰を上げた。「行くぞ、小僧。ついでに、てめえのその空っぽの頭に、少しは知識を詰め込んでこい。話はそれからだ」
***
手続きは、思ったよりもあっさりと終わった。グスタフが身元保証人となり、彼は正式に「グスタフ時計工房の弟子」としてこの都の住民台帳に登録された。これで彼は大会への出場資格を手に入れた。
「師匠。...わからないけど名前と年齢だけでこんなあっさりでいいんですか?」
「なんだ?もっと細かくめんどくさいほうが好きなのか?」
彼は少しの疑問をいだいたが、わからないことに口を出しても仕方がない。と割り切ることにした。
その足でグスタフは彼を王立大図書館へと連れてきた。
「いいか、小僧。この前は技術書しか見てこなかったらしいが、技術よりもその魔法石をどうこう言うには『魔法』そのものが何なのかを知れ。てめえのやろうとしてることは海図も持たずに嵐の海へ丸木舟で漕ぎ出すようなもんだ」
そう言い残すと、師匠は「わしは歴史書のコーナーに用がある」と、さっさとどこかへ行ってしまった。
一人残されたレオは言われた通り、「魔法学」の書架へと向かった。そこには、彼の知らない世界が静かに眠っていた。
俺は一冊の入門書を手に取り、夢中でページをめくり始めた。
『魔法とは、古代において、万物に宿る生命エネルギーである魔力を利用し、自然の法則をわずかに捻じ曲げる技術の総称である』
本には、こう書かれていた。
魔法はかつては人々の生活に深く根差していたが工業技術の発展と共に、その多くは廃れていった。現代ではその存在すら知らない者も多い。
一般的には魔法を使う際、魔力を正確にコントロールするために杖や魔導書を持つのが基本である。
一般的に現代で用いられているものは防御・支援魔法のみである。
防御・支援魔法。
これは物体の強度を高めたり、作物の成長を促したりと既存の物事を「助ける」ための魔法。消費する魔力も比較的少なく、正しい知識を学べば誰でも習得できる可能性がある。現代で「魔法」と言えば、一般的にこれを指す。
古来より、魔物がいた時代では魔物の攻撃を防げる「防御」もできたか、魔物は滅んでしまったため現代では使われることはない。
防御・支援魔法の詳細については4章・魔法についての基本的な手順(p.47~)を参照
魔法を学ぶ際、『魔法学』を魔法学園で履修する必要がある。
魔法学とは魔法学園で学べる魔法専攻の学問。一応魔法学園ではない王立アカデミー学園などの優秀な学校でも学ぶことができるが、軽く触れる程度でしかない。魔法学は基本的に世間一般からかなりマイナーな学問とされており、そもそも魔力を多く生まれ持った人や努力で魔法を使えるようになりたい人しかいない。
「すごい...魔法について詳しく知らなかったけどこんな物があったなんて...そういえばアステルさんは魔女けど世の中的にはマイナーな学問を履修してたんだ。」
レオは純粋な驚きと共に読み進めていく。
魔法を込められたものとして代表的なものに『魔法石』が挙げられる。魔法石は主に魔法に長けているものが鉱石などに魔力を押し留めることで得られる代物。その効力は様々あるが魔力を込めることで得られるものとして「失敗」や効力を発揮する際に人間に害を与えるものも多い。だからよほどのことじゃない限り、”他人から魔法石を譲り受けるようなことは厳禁"である。
「...」
「あの人...何も知らない俺に魔法石を譲ってきたってこと?結局何も起こらかったし、アステルさんが安全ってわかってたならいいけどあのときは何も言ってくれなかったし...口調もアレだし変な人かも...」
「・・・アステルさんは自分の何を見抜いてこれを渡してきたんだろ」
俺はそのまま「魔法」について調べまくった。魔法の起源は不明で現代でもわからないこと。魔法学において魔法が対人兵器として研究もされたがが「魔力の反発」という現象によって失敗に終わった。など
「魔法については昨日の自分より理解できた!これならきっと魔法石を扱える...?」
俺はそんな期待を抱きながら、歴史書コーナーへと歩いていった。
***
博覧会当日の朝。工房に差し込む光はいつもより少しだけ祝福の色を帯びているように見えた。
作業台の上でレオはついにその小さな作品を完成させた。
「……できた」
それはもはや単なる時計ではなかった。
外装は連邦のルクスヴァルトの伝統工芸を模倣した流麗で優美な銀細工。しかし、文字盤を覆うガラスの内側では帝国の合理的な工業技術の粋に似せた物を集めた複雑で合理的な歯車たちが、剥き出しのまま静かにそして力強く時を刻んでいる。そして、その全ての中心で、まるで心臓のようにアステルから貰った魔法石が穏やかな青い光を脈打たせていた。
魔法と機械。連邦と帝国。相反するはずのこの小さな世界の中で、奇跡的な調和を保って存在していた。
「……小僧、できたのか」
背後から、いつもの不機嫌そうな、しかしどこか期待を滲ませた声がした。グスタフ師匠だ。
彼は完成した時計を無言で手に取ると片眼鏡の奥の鋭い目で食い入るようにその細部を検分し始めた。
レオは緊張で生唾を飲み込む。師匠の口からどんな酷評が飛び出すのかと。
長い、長い沈黙の後。
グスタフは深く息を吐き出した。
「……馬鹿者が。とんでもねえもんを作りやがったな…」
それはレオが今まで聞いた中で最高の賛辞だった。
師匠は悪態をつきながらもその目尻が、ほんの少しだけ誇らしげに和らいでいるのをレオは見逃さなかった。
「行くぞ、レオ。てめえのその『おとぎ話』が、本物の連中にどこまで通用するか、この目でとくと見届けてやる」
レオは期待とそれよりも遥かに大きな不安を胸に師匠と共に会場である首都アウレリアニスの中央大広場へと、その一歩を踏み出した。
会場の喧騒はレオの想像を遥かに超えていた。
広場には巨大な天幕がいくつも張られその下には連邦中から集まった最高の技術が所狭しと並べられている。
「すごい…」
レオの口から感嘆のため息が漏れた。
ルクスヴァルトのブースでは魔法の光を織り込んだ虹色に輝くタペストリーが風に揺れている。シュテルネンヒトのブースではまだ荒削りだが力強い鼓動を響かせる蒸気機関の試作品が黒い煙を上げていた。王立アカデミー研究所が作り出した自律して動く魔法がかけられた金属人形。天文学者が展示する星々の動きを完璧に再現した巨大な天球儀。
その一つ一つがレオが今まで見たこともない最先端の技術と思想の結晶だった。
彼は自分の「無知」と世界の「広さ」を改めて痛感しその奔流に圧倒される。自分の作ったあの小さな時計がこの怪物たちの中で果たしてどれほどの価値を持つというのだろう。
だが不思議と恐怖はなかった。むしろこの凄い作品たちと自分の時計が肩を並べているという事実に武者震いするほどの興奮を覚えていた。
「おい、小僧。気圧されてんじゃねえぞ。てめえはてめえの仕事をした。あとはふんぞり返って難癖つける連中の評価を待ってりゃいいんだ」
師匠の不器用な励ましにレオは力強く頷いた。
昼過ぎ、会場の熱気が最高潮に達した頃、広場の入り口がにわかに騒がしくなった。民衆がまるでモーゼの奇跡のように左右に分かれ、一つの道を作り出す。その道の先から現れたのは白銀の鎧に身を包んだ近衛騎士団『アストライア』とその中央を歩む一人の少女だった。
アウレリア・フォン・ルクスヴァルト=シュテルネンリヒト。
その小さな体には引きずるほど長い、壮麗なマント。頭上には彼女の治める二つの国を象徴する「双聖冠」が輝いている。側近であるセラフィナとリディアを伴い、民衆の歓声に威厳のある笑みで応えるその姿はまさしく完璧な君主だった。
「女王陛下、万歳!」
「アウレリア様!」
民衆が熱狂的な歓声を上げる。アウレリアはその一つ一つに君主としての威厳と少女らしい優しさが同居した、完璧な笑みで応えながらゆっくりと会場を視察していく。
しかし、その穏やかな表情の下で彼女の意識は会場の隅々にまで鋭く張り巡らされていた。
(…公務としてここに僕が訪れないといけないとはいえ、泳がせておくのは少しまずかったか...イザベラの報告では、すでに『ヤツ』はこの会場のどこかに紛れ込んでいるはず。いったい何を企んでいる…?)
レオは遠巻きに立ち尽くし、ただ呆然と見つめるしかなかった。
(…あの人が、女王様…)
まるで、物語の中から抜け出してきたかのような、現実離れした美しさと威厳。自分があのような雲の上の存在と同じ世界に生きていることが、信じられなかった。
彼女は定められたルートに従い、各出展ブースを公式に視察していく。その一挙手一投足に、人々は熱狂し、そしてひれ伏した。
ルクスヴァルトのブースにある魔法の光を織り込んだ虹色に輝くタペストリーには
「見事なタペストリーだ。魔法を使い、頑丈さ、美しさ、ともに両立を兼ねている作品です。」
シュテルネンヒトのブースにあるまだ荒削りだが力強い鼓動を響かせる蒸気機関にて
「交通、輸送、工業、その他すべてに貢献できる発明品だ。」
そして運命の瞬間が訪れる。
アウレリアが、レオの小さなブースの前で、ふと足を止めたのだ。
「…これは?」
その時計は他のどの作品とも違っていた。洗練されすぎていない、どこか荒削りな部分。しかし、その奥に作り手の狂気的なまでの情熱と全く新しい「思想」が宿っていることを、アウレリアは一目で見抜いた。
「…こんな魔法石見たことない、そしてそれと機械…? こんな発想、初めて見ましたわ」
侍従が、作者であるレオを彼女の前に連れてくる。
(…この少年。どこかで…?)
図書館で出会った、あの時計に聡明で純粋な目をした少年。だがまさか、図書館で出会った少年がこの大会に出ているわけがない、そんな偶然があるはずもない。彼女はすぐにその思考を打ち消した。
レオは目の前に現れた本物の女王様に頭が真っ白になり心臓が喉から飛び出しそうだった。ただ深々と頭を下げることしかできない。
傍らに控えていた侍従が魔導探知器を使い、魔法石の検査をした。そこでは微かな脈動を拾ったが、即座に安全確認の合図が返された
アウレリアは侍従から白い手袋を受け取るとその手でそっと持ち上げた。そしてその独創的な構造と中心で静かにしかし力強く輝く青い魔法石に気づく。
彼女は目の前で縮こまっている少年の顔をじっと見つめた。
レオもまた顔を上げ、目の前の女王の顔を見てあの図書館で出会った、聡明で不思議な少女の面影を確かに感じていた。
(まさか…。いや、そんなはずは…)
だが平民の自分が女王陛下と会ったことなどあるはずがない。気のせいだ、と彼は自分に言い聞かせた。
「…面白いものを、見せてもらいました」
アウレリアはそれだけを告げるとレオに時計を返し次のブースへと歩を進めていった。レオはその場に立ち尽くしたまま女王が触れた時計の不思議な熱を感じていた。
やがて全ての審査が終わり結果発表の時が来た。
審査員たちが各出展品を評価していく。他の作品が「既存技術の完成度の高さ」や「魔法理論の応用性」を評価される中、レオの時計はその「奇抜すぎる発想」故に、審査員たちの間で賛否両論を巻き起こしていた。
「これは、もはや時計ではない。ただの魔法具だ」
「いや、これこそが、時計の新たなる可能性を示す、革命だ」と。
結果発表。
最優秀賞は王立アカデミー学園の主席が作った基礎を発展させた大量生産が可能な極めて精巧な製紙機械の試作品が受賞した。会場が大きな拍手に包まれる。
レオはやはり自分はダメだったかと静かに肩を落とした。自分の挑戦はまだこの都では早すぎたのかもしれない。
表彰式の最後、司会者が閉会の辞を述べようとしたその時だった。
「――待ちなさい」
凛とした、しかし誰もが聞き逃すことのない声が広場に響き渡った。アウレリアだった。
彼女は玉座からすっと立ち上がると、民衆に向かって、宣言した。
「これより、予定にはありませんでしたが、私、個人の名において、『女王陛下特別賞』を創設します」
会場が、どよめきに包まれる。
審査委員の一人が眉をひそめ、小声で意見を交換するのが見えた。政治と名誉のせめぎ合いが一瞬だけ露わになったのだ。
だがアウレリアの声は揺るがない。
「――最優秀賞の製紙機械は我が国の技術の『現在』を示す、素晴らしい作品でした。ですが私、個人として最も心を動かされこの国の『未来』を感じさせられた作品が一つだけありました」
彼女が選んだのは壇上の誰の予想も裏切り、レオの小さな懐中時計だった。
「この時計はまだ未完成かもしれません。理論は荒削りかもしれない。だがここには我が国の伝統工芸と帝国の機械技術を真に融合させようという未来の姿が示されている。私はその挑戦と気高き志を讃えたい」
アウレリアは静かに続けた。「民の不安を放置すれば、我が国の明日は閉ざされる。恐れではなく希望を育てること――それが私の務めです」
彼女の言葉は計算された効果を持っていた。その言葉は広場にじんわりと広がり、侍従がそっとメモを取り、記録員が筆を走らせた。会場は拍手に包まれたが、審査委員の老学者は小さく唇を噛んだ。威厳と政治が交差する瞬間——彼の顔には影が落ちた。それを彼女は冷静に眺めていた。
レオは何が起きたのか分からないまま、壇上で女王の真っ直ぐな視線を受け止めていた。
その時、次の大闘技会の準備が始まっていたコロッセオ。
その最も高い観客席の最も深い闇の中。
一つの黒い笑顔の仮面が闘技場を見下ろし、仮面の影が不気味に浮かび上がっていた。
「連邦の見定めと私の見定め、どちらのほうが優れているでしょうか...君たちの評価を楽しみにしていますよ。」
感想やダメ出し、誤字脱字修正、なんでも大歓迎です!!
次回作がどの様になるかはわかりませんが自分なりのペースで頑張りたいと思います!!




