第五話『邂逅する少女と少年』
おまたせしました!!第五話です!!
小説処女作品です!
ベタな展開が多いかも知れませんが「たまに出てくるファンタジー小説」的な印象を持ってくれると嬉しいです!!
大会への出場を決意したレオは師匠であるグスタフに、アステルから貰った『星屑の道標』を宝物のように両手で包み込みながら見せた。
「師匠! 俺、この魔法石を、時計に組み込んでみたいんです!」
その子供のように突飛で、しかし真剣極まりない眼差しにグスタフは深く、これみよがしに深いため息をついた。
「…小僧。てめえは自分が何を言っとるか、ちったあ分かっとるのか。魔法と機械は全くの別物だ。機械の動きを魔法で支援するような作りならまだしも、その魔法石をメインとして作りたいのか?もしそうならそんなことが実現できると本気で思っとるのか」
老職人の声には軽蔑ではなかった。
ただ、あまりにも世間知らずな弟子の行く末を案じるような、純粋な呆れが滲んでいた。
「でもやってみたいんです! この石を見ていたら、なんだか、できるような気がして…!」
レオのあまりにも純粋で、曇りのない瞳。そこには疑いなど微塵もなかった。そして、グスタフの脳裏には三日で父の時計を直してみせた、あの底知れない才能の片鱗が焼き付いている。常識では測れない何かがこの小僧にはあるのかもしれない。
グスタフはしばらく腕を組んで唸っていたが、やがて諦めたようにやれやれと首を振った。
(たとえ時計作成の原石だとしてもできることは限られている。天才だとしても失敗から学べることはあるはずだろう。)
「…ふん。どうせてめえが今作れるもんなんてたかが知れとる。失敗から学ぶのも職人の仕事だ。好きにしろ。ただし、工房の大事な道具を壊したらただじゃおかねえからな。覚えとけ」
「本当ですか!? ありがとうございます、師匠!」
許可を得たレオは早速その日から新たな挑戦に没頭した。だが師匠の言った通り、現実は甘くなかった。
歯車に魔法石を近づければなぜか潤滑油が粘性を失い、回転が鈍る。ゼンマイの隣に置けば、蓄えた動力が霧となって消えていく。星を詠むものと、時間を刻む時計。その流れのベクトルが食い違っているように感じられた。
「なんでだ…! どうして動かないんだ…!」
来る日も来る日も彼は試行錯誤を繰り返した。その過程で時折、彼は常人ではありえないほどの集中力を見せ、流れるような動きを無意識に見せる。だが今、彼に分かるのは目の前の壁があまりにも高く、分厚いということだけだった。
時を同じくして、双聖宮の作戦司令室にも重い沈黙が垂れ込めていた。
セラフィナが表情一つ変えずに一枚の報告書をテーブルの上に置く。
「陛下。例の『アイゼンブルフ大規模地形変動事件』ですが結論から申し上げます。現場からは例の蜘蛛の残骸は一切発見されませんでした。まるで、最初から何もなかったかのように、です」
「…そっか」
アウレリアは静かに呟いた。やはり、あの気を失う直前の奇妙な感覚は、間違いではなかったのだ。
イザベラが報告を引き継ぐ。
「そして、それとは別に憂慮すべき情報が。近々開催される『万国技術博覧祭』を標的に、正体不明の『奇妙な黒い仮面の男』が、首都に潜入したとの確度の高い情報が入りましたの」
「…なんで、それが分かったんだ?」
アウレリアの問いに、イザベラは少し困ったように、しかしどこか面白そうに目を細めた。
「彼、あまりにも『見え透いた痕跡』を残していきましたの。わたくしたちの監視網の最も厳重な三重の結界の内側にまるで三流のスパイが『ここを通りました』と教えているかのように。…おそらくただの腕試しでしょう。わたくしたちを少しからかってみたくなったのかもしれませんわね。『万国技術博覧祭』は久しく開催されておらず、国際的注目度も高いものですもの。」
イザベラの報告に、アウレリアは眉をひそめた。
(…三流のスパイ? 帝国が、この大事な時期に、そんなヘマをするやつをわざわざ送り込んでくるか? ただの捨て駒…? それにしては三重の結界を突破している。じゃあ、これが、とんでもない腕利きのやつが、わざと残したものだとしたら…? いったい何のために? 僕らを試してるのか? それとも、ただの、力に自惚れただけの、どうしようもない馬鹿なのか…?)
彼女の思考は二つの可能性の間で激しく揺れ動いていた。敵があまりにも愚かなのか。それともあまりにも狡猾で、自分の理解を超えているのか。そのどちらもが国家にとって大きな脅威であることに変わりはなかった。
やがて、彼女は一つの結論に達し、顔を上げた。その青い瞳にはもう迷いの色はなかった。
「…いいさ。祭りはやろう。そして、そいつは泳がせておけ。彼が本当にただの道化なのか、それとも道化の仮面を被った猛獣なのか…その正体を僕が必ず暴いてやる」
その声には若さゆえの迷いを振り払った、国を背負う君主としての確かな意志が宿っていた。
「…だめだ。やっぱりうまくいかない」
数日後、レオは工房の床に大の字になって天井の染みを睨んでいた。魔法石と時計の融合は完全に手詰まりだった。知識も、経験も、何もかもが足りない。
そんな彼を見かねて、グスタフが工房の隅で工具を磨きながら、呆れたように言った。
「当たり前だ、馬鹿者。一つのことしか見えてねえから行き詰まるんだ。てめえに足りねえのは技術じゃねえ。『発想の転換』だ。ルクスヴァルト地区にある、王立大図書館にでも行って、全く違う分野の本でも読んで頭を冷やしてこい。例えば古い詩集とかな。職人の仕事ってのはな、意外とそういうどうでもいいもんからヒントを得るもんだ」
一方、アウレリアもまた、大きな壁にぶつかっていた。黒い仮面の男の件で彼女の心は重く沈んでいたのだ。父の古い日記をめくると父が若い頃、外交で大きな壁にぶつかった際の記述が目に留まった。
『答えはいつも、歴史の中にある。私は身分を隠して王立大図書館へ向かい、初代様が記した外交記録を読み返した。そこには、私が進むべき道の、確かな光が記されていた』
(…お父様も、こうして悩んでいたんだ)
父の言葉に導かれるように、アウレリアはお忍びで、答えの眠る場所へと向かった。
【王立大図書館】
ルクスヴァルト・ネーベルプファート地区にそびえる王立大図書館は知識の神殿そのものだった。長大ホールに高い天井まで続く、壁一面の本棚。ステンドグラスから差し込む光が空気中を舞う無数の埃を照らし出し、まるで温かな森のようにきらめいている。レオはその荘厳な雰囲気に完全に圧倒された。
師匠に言われた通り詩集の棚をぼんやりと眺めてみる。だが正直、何が面白いのかさっぱり分からなかった。結局、彼は足が向くままに自分の興味がある「技術書」のコーナーへと引き寄せられていた。
(師匠が言っていたように発想の転換も足りないかもしれないが、そもそもの知識としての技術が足りないような気がするな...)
『時計製作 / ダニエル・ジョージ』
『実用腕時計修理 / ナドルナ・ナ・カール』
『少年と男と彼の時計 / マットネス・フラツネク』
どの本にも筆者の価値観などが色濃く残っており、繊細で卓越した技術を好む人もいれば大胆に油臭くなっても知識を得て、理解していく技術を好む人もいた。だがそんな彼らに共通していた点があった。
「『設計図はただの表に過ぎない。大事なのはどう読み取って、どう活かすかだ。』かぁ」
レオはこの言葉を聞き、深く職人としての考えや価値観が変わったように感じた。
レオは先程の詩集の棚へと向かっていた。今なら師匠の言っていたこともわかるかもと感じたからだ。
その向かう途中、レオが抱えていた数冊の本がバランスを崩し、静寂に満ちた図書館に音を立てて散らばってしまった。
「あーあぁ...」
「傷とかがついてないといいけど」
心配になりつつも今度は落ちないように慎重に積み重ねていく彼に
一人の少女が話しかけた。
「大丈夫ですか?」
彼女の声は鈴が鳴るように澄んでいて、レオは思わず顔を上げた。そこにいたのは黒いフードを被ったが青いきれいな前髪に今まで見たどんな女の子よりも気品と、そして不思議な力強さを持つ瞳の少女だった。
「え? ああ、いえ、師匠に勧められて…。でも昔の職人の考え方って、今の技術とは全然違っててなんだか面白いなって、今、ちょっと思ってたところです」
「ええ、分かるわ」
少女は悪戯っぽく微笑んだ。その笑顔は彼女の年齢よりもずっと多くのこと知っているような、不思議な深みがあった。
「私も、昔の王様の考え方を知りたくて、ここに来たの。昔の人の言葉には、今の私たちが忘れてしまった、大切な『何か』が隠されている気がしない?」
レオは彼女の言葉に、ハッとした。
「大切な…何か…」
「例えばこの本にある古代の儀礼用の杯。今の技術ならもっと簡単にもっと正確に作れるはず。でもこの杯には今の杯にはない何というか…『魂』のようなものが宿っている気がする。一つ一つの槌の跡に、職人さんの祈りや願いが込められているような…」
「…分かります! 俺、時計職人の見習いなんですけど、古い時計を分解しているとたまにそういうの、感じるんです! なんでこんな非効率な作り方をしたんだろうって思うんですけど、でもそこには作った人の『こうあってほしい』っていう強い意志みたいなのがあって…!」
レオは夢中になって話していた。故郷では誰にも理解されなかったこの感覚。それを目の前の少女は当たり前のように理解してくれている。
少女もまた、驚いていた。自分が抱えていた漠然とした思いをこの名も知らぬ少年がいとも簡単に言い当ててくれたような気がしたのだ。
「あなたの言う通りだわ。技術やルールだけではきっと人の心を動かすものは作れない。国もきっと同じ。そこには今の私たちが忘れてしまったもっと根源的な…大切な『何か』が必要だったのかもしれない」
彼女は、何か答えを見つけたかのように、晴れやかな顔で言った。
「ありがとう。あなたと話せて少しだけ霧が晴れたような気がしましたわ」
「い、いえ! 俺の方こそ! あの…」
レオが思わず名前を聞きそうになった、その時。
遠くから教会の鐘が鳴り響いた。
「あら、もうこんな時間。私はもう行きますわ。答えはいつも、歴史の中にあるって昔の本に書いてありましたわ。それではお元気で。」
少女は少し名残惜しそうに微笑むと軽い足取りで去っていった。レオはその後ろ姿をただ呆然と見送ることしかできなかった。
工房に戻ったレオの頭は不思議な高揚感に包まれていた。あの少女が言っていた、「今の技術とは、全く違う考え方」。そして、「大切な『何か』」。その言葉が、彼の凝り固まった思考を、ゆっくりと、しかし確実に溶かしていく。
彼は机の上に四つのものを並べた。
技術書コーナーにあった本で、一致していた価値観。
『設計図はただの表に過ぎない。大事なのはどう読み取って、どう活かすかだ。』
連邦の、優美な時計の設計図。
ジャンク屋で手に入れた、帝国の合理的な時計の残骸。
そしてアステルがくれた、星の魔法が宿る青い石。
バラバラだった三つのピースが彼の頭の中で一つの形へと収束していく。
「…そうだ。組み合わせるんじゃない。それぞれの『良いところ』を一つの物として生まれ変わらせるんだ…!」
連邦の優美なデザインを外装に帝国の合理的な構造を内部機構の骨子に、そして、動力源でも、装飾でもない時計全体の「調停者」として中心に魔法石を据える。
魔法と機械を無理やり繋ぐのではなく互いの「良さ」を引き出し合う、新しい「詩」を、この時計で詠うのだ。
夜が更けるのも忘れ、レオは工具を振るう。その目にはもはや迷いはない。
「これなら、いける…!」という確信を胸に彼は大会に向けての最後の追い込みに入る。
その姿はもはやただの少年ではない。誰も見たことのない新たな歴史をその手で刻み始めようとしている一人の発明家のようだった。
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次回作がどの様になるかはわかりませんが自分なりのペースで頑張りたいと思います!!




