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第四話『愉快な星詠みの魔女』

おまたせしました!!第四話です!!

小説処女作品です!

ベタな展開が多いかも知れませんが「たまに出てくるファンタジー小説」的な印象を持ってくれると嬉しいです!!

...またまた投稿期間が空いてしまいました。申し訳ない....

時計工房での生活が始まって、三日が経った朝。


屋根裏部屋の小さな窓から差し込む朝の光が作業台の上の小さな夢にまで見た産物を照らし出していた。レオは息を詰めていたことにも気づかないほど集中し、父の形見である懐中時計と向き合っている。

その手の中でまるで自らの手のように動くピンセットの先が最後の、そして最も小さな歯車をあるべき場所へとそっと導いた。


その音は胸に染みる、懐かしい鼓動だった。

レオは震える指で慎重にゼンマイを巻き上げる。そして、そっと時計に耳を寄せた。


聞こえてきたのは、数十年ぶりに蘇った、暖かく、力強い命の鼓動だった。

「……動いた」


思わず声が漏れた。それはただの機械音ではない。父の温もりと自分の夢が、そしてこの都に来てからの三日間の全てが今、確かに繋がった音だった。止まっていたはずの自分の時間まで再び動き出したような感覚。喜びと安堵で視界がじわりと滲んだ。

「――親方!」


レオは、喜びを抑えきれず、階下へと続く梯子を慌てて駆け下りた。工房では、グスタフが肘掛け椅子に深く腰掛け、難しい顔で新聞を広げているところだった。


「親方! できました! 時計が…!」

「…るせえな、朝っぱらから。こちとら世界の心配をしてるってのによ」

「世界の...心配...?」


グスタフは忌々しげに顔を上げると、新聞の一面をレオに見せた。そこには


『連邦、帝国、その他大国に謎の兵器出現! 世界は全面戦争の危機か』


という、扇情的な見出しが黒々と躍っていた。


「昨日の昼過ぎ、ここ(アウレリアニス)でも妙な轟音が響いただろうが。あれと同じような騒ぎが帝国でも、他の国でも起きていたらしい。どこのどいつが全ての国に喧嘩を売るなんて酔狂な真似をしやがる…。どこかの大国の薄汚い自作自演か…?」


レオにとっては、自分の時計が世界の全てだった。この老いた師匠は、埃っぽい工房にいながらにして、世界の歯車の動きを、その歪みまでをも見据えている。その深淵を前にレオは自分の世界の狭さを思い知らされた。


「…っと、それより親方! 見てください、これを!」

レオが興奮気味に懐中時計を差し出すと、グスタフは「ああ?」と怪訝な顔でそれを受け取った。

その時計が確かに時を刻んでいることに気づいた瞬間、彼の動きが止まった。

「…馬鹿な。動いている…だと?」


彼はひったくるように時計を手に取り、片眼鏡でその内部を食い入るように見つめた。そこには信じがたい、しかし紛れもない「仕事」の跡があった。足りない部品は工房の隅に転がっていたガラクタを削り出して自作し、歪んだ歯車は叩いて、削って、完璧な円形に修正されている。

その一つ一つの作業は荒削りながらも、恐ろしいほどの才能と、何より深い愛情が込められていると、グスタフには痛いほど分かった。

常の一流職人でも数週間はかかるであろう作業。それを、この小僧は、たったの三日で…?


「…親方!」

「…親方ってんじゃねえ。小っ恥ずかしい。これからは、師匠と呼べ」

「は、はい! 師匠! どうですか!?」

グスタフは長い沈黙の後、大きく鼻を鳴らした。


「…まぐれだ。こんなガラクタどうせすぐにまた止まる。だが…まあ約束は約束だ。今日からてめえを俺の正式な弟子にしてやる」

その声には隠しきれない驚愕とそして、弟子の才能を目の当たりにした師匠だけが感じられる、微かな喜びの色が滲んでいた。


「本当ですか!? ありがとうございます、師匠!」

「勘違いするな。てめえはまだ半人前以下だ。技術も、知識も、常識も、何もかもが足りてねえ。…そうだ、小僧! ぼさっとしてないでお使いだ!」

グスタフは、ぶっきらぼうに数枚の銀貨をレオに押し付けた。


「お前の持ってるそのガラクタ(工具)じゃ、これ以上精密な仕事はできねえ。最低でも『第二世代』規格の道具を揃えろ。だが今のてめえにゃ、どれが良い道具かなんて分かりゃしねえだろう。だから、シュテルネンヒト中央市場の『シュミット工具店』に行け。あそこの親父なら筋金入りの頑固者だから変なもんは掴ませねえ」


「は、はい!」

師匠の不器用な優しさに胸を熱くしながら、レオは工房を飛び出した。彼はまだ知らない。これが、弟子の才能をどう伸ばすべきか本気で悩み始めた、不器用な師匠の「まずは、世間と、本物を見てこい」という、最初の授業であることを。



シュテルネンヒト中央市場は活気と混沌の坩堝だった。貴族が足を運ぶような洗練された高級店ではなく、職人や商人、そして得体の知れない旅人たちが、互いの肩をぶつけ合いながら、大声で言葉を交わす。そこにはレオが故郷では決して感じることのできなかった、剥き出しの『生きていること』が満ち溢れていた。


レオは目的の『シュミット工具店』を探して巨大な迷路のような市場を歩いているうちに、ある一角で足を止めた。そこは主要な通りから一本外れた、少し薄暗い路地だった。様々な工房から出たであろう、古びた機械の部品や、壊れた道具が店の軒先から溢れ出し、山のように積まれている。ジャンクパーツ屋が軒を連ねる通りだ。


(時間はあるし…見るだけなら、いいよな)


彼はとある店の、油と埃にまみれた木箱を宝探しでもするかのように漁り始めた。周囲の客たちは最新の魔法部品や綺麗な装飾品が並ぶ華やかな店に目を輝かせている。だがレオの目にはこのガラクタの山こそが、どんな宝石よりも魅力的な宝の山に見えていた。

「…すごい。こんな小さな歯車で、これだけのトルクを生み出すなんて…」

「このゼンマイの焼き入れ…なんて丁寧な仕事なんだろう…」


彼が手に取っているのは、周りから見ればただの捨てられるべき古い部品。だが教育も受けず、帝国製の粗悪な時計しか知らなかった彼にとって連邦の、たとえ数十年前の時代遅れの部品でさえ驚きと発見に満ちた最高の教科書だった。


その時、彼は一つの黒い塊に目を奪われた。無骨で、装飾のかけらもないデザイン。それは、彼が故郷で嫌というほど見てきた、帝国製の古い軍用時計のケースだった。

(帝国の…? なんでこんなところに…)


彼は、恐る恐るそれを手に取った。連邦製の優美な時計とは、設計思想が全く違う。美しさを捨てただひたすらに過酷な環境下での耐久性と、狂いのない正確さだけを追求した機能美の塊。

「…こんな無骨な作りなのに、なんて合理的なんだ…」


憎しみを持つべき国である帝国の技術に彼は純粋な職人としての感銘を覚えていた。そして同時に自分がいかに狭い世界で生きてきたのかを、また改めて思い知らされていた。

「へえ...あんた、珍しい子だねえ」


店の主人が歯の抜けた顔で、面白そうに声をかけてきた。

「今どきそんな古い帝国のガラクタに目を輝かせる子なんて初めて見たよ」

「え…? でも...これ、すごい技術ですよ。無駄がなくて…」

「ははは! そいつは俺の爺さんの代にもう時代遅れになった代物さ。まあ、気に入ったなら持って行きな。代金はいらねえよ。そいつが埃をかぶってるよりあんたみたいな子に見られた方が、ガラクタも喜ぶだろうさ」


レオは店主の言葉の意味がよく分からなかったが丁重に礼を言って、その帝国製の残骸を革袋に大切に仕舞った。



目的の『シュミット工具店』で無事に師匠に言われたドライバーセットを手に入れたレオは店の壁に貼られた一枚の大きなポスターに気づいた。

『第七回・建国記念・万国技術博覧祭&大闘技会、開催!』

剣を交える騎士の勇ましい絵と共に、職人たちがハンマーを振るい、己の技術を誇らしげに掲げる絵が、彼の心を強く、強く惹きつけた。



「やあ、少年。そんなに熱心に見て、お母さんにでもおねだりするのかい?」

突然、背後からまるで鈴を転がすように陽気な声がした。

振り返ると、そこに立っていたのはあまりにも奇妙な二人組だった。


一人は、猫の耳がついた深い藍色の裏地は赤色の魔女帽子を被っていた。燃えるような赤いショートヘアの一部が鮮やかな白に染まっている。

その隣にはまるで岩を削り出したかのような、緑色の髪をした厳つく無表情な軍服姿の大男が大きなため息をついている。


「…あ、え? 俺ですか? 俺はもうそんな歳じゃないですけど…」

「はっはっは、そうかい! 失礼失礼!」

「…アステル様。その見境なく人に話しかける癖、いい加減におやめください。我々はただ、あなたが所望された『ルクスヴァルト産ハチミツがけクレープ』を買いに来ただけのはずですが」


大男――ギデオン・フォルクが、頭痛をこらえるように呟いた。

「まあまあ、いいじゃないか、ギデオン君。それよりこの子の目だよ」

アステルと呼ばれた女は急に悪戯っぽい笑みを浮かべると、その青いグラデーションの瞳で、じっとレオの目を見つめた。


「なっ...なんですか?いきなり...」

「…君の目、面白いねぇ。まるで、世界の歯車を全部見通しているみたいだ。なんちゃってね」

レオは自分の心の奥底まで、その魂の形までをも見透かされたような感覚に陥り、背筋が冷たくなった。

この人、絶対にただ陽気な変な人じゃない。


アステルはレオがじっと見つめているポスターに気づいた。

「おや、君もこれに興味があるのかい? 技工士だろう? こういうお祭り、血が騒ぐんじゃないのかい?」

「…え? なんで、俺が技工士だって…!?」

レオは心底驚いて聞き返した。身なりは汚く、ただの田舎者に見えるはずだ。


アステルはにやりと笑って、レオの右手を指差した。

「君の指先だよ。爪の間には古い機械油の匂いがわずかに染み付いている。人差し指と親指の腹には小さな工具を握りしめてできたであろう、硬いタコがある。そして、爪の表面には金属を削った時にできたであろう、細かい傷がいくつも刻まれている。――油を普段から触っていて、なおかつ指先がそんな風になる仕事なんて時計職人か、それに類する精密技工士くらいのもんさ」


レオは自分の手を見て、初めて気づいた。彼にとっては当たり前の痕跡。それをこの人は一目で見抜いたのだ。

「…すごい」

「はっはっは! これくらい、星の運行を読むより簡単だってね!」

レオはこの不思議な魔女に少しだけ警戒心を解き、そして純粋な好奇心を抱き始めていた。


「あの…ずっと気になってたんですけどその猫みたいな帽子、なんでつけてるんですか? さっきから、ひょこひょこ動いてますけど…猫なんですか? それとも気分がいいとか?触ってみてもいいですか?」

レオの純粋な質問にアステルは目を丸くし、そして腹を抱えて笑い出した。フォルクはもう何度目か分からない、天を仰ぐほどの深いため息をついている。


「ぶっ、はははは! 君、最高だねぇ! 確かに君と話せて気分がいいのは確かだ! だが残念! 私は猫ではないよ! これは、最新のファッションさ!あと触ってしまったら私はしおれてしまうよ!」

「しおれる...?聞いておいてなんですけど…この都じゃ、あんまり馴染んでないですね。その帽子」


「なっ…!!」

アステルの陽気な笑顔が石のように固まった。そして、次の瞬間には世界の終わりのような青ざめた顔で、がっくりと膝から崩れ落ちた。


「そ…そんな、はっきりと…うぅ、ギデオン君、私、もう田舎に帰る…」

「ええ、そうしてください。…少年。あまりこの人をからかわんでくれ。面倒なことになる」

フォルクに真顔で睨まれ、レオは慌ててその場を去った。


だが去り際にアステルが何かを思い出したように顔を上げ彼の手にあるものを握らせた。

「あ、そうだ! 君、面白いからサービスしてやろう! これは『星屑の道標』って言ってね、魔力を込めるとほんの少しだけ未来の星の配置…つまり『運命の流れ』がぼんやり見えるんだ。まあ気休めのお守りさ。じゃあね、時計少年!」


嵐のように現れ、そして嵐のように去っていく二人。

(結局なんだったんだろう...あの二人...)

レオは呆然と手の中に残されたキラキラと輝く小さな青い石を見つめた。ひんやりとしていてまるで夜空の欠片を握っているかのようだ。


彼はその石と、革袋の中に入れた父の時計、そして帝国の時計の残骸を、交互に見た。

(…試してみたい)


胸の奥から、熱い何かが込み上げてくる。

師匠の工房で学んだ連邦の技術。

ジャンク屋で見つけた帝国の異なる思想の技術。

そしてこの…星の魔法。

「――これと、時計を…組み合わせてみたいな」


彼の口から、無意識に言葉が漏れた。

それはただの職人の発想ではない。

工房に駆け込むなり、レオは叫んでいた。

「師匠! 俺、あの大会に出てみたいです! そしてこの魔法石を時計に組み込んでみたいんです!」


その言葉を聞いたグスタフはただ呆れたようにしかし、その目の奥に確かな期待の光を宿してこう呟いた。

「…とんでもねえ小僧を、拾っちまったもんだ」



レオの新たな歯車が、確かに、そして大きく回り始めた瞬間だった。

感想やダメ出し、誤字脱字修正、なんでも大歓迎です!!

次回作がどの様になるかはわかりませんが自分なりのペースで頑張りたいと思います!!

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