始まり
この世界は『文字』でできている。
人だけでなく、獣や道具、さらには土地にまで――あらゆるものに『文字』が宿っている。
『文字』を使えば、なんでもできる。だからこそ120年前、悲劇…いや、喜劇が起きた。
その代償として、すべての『文字』は隠され、誰ひとりその力を使えなくなった。
それが、この世界の“今”。変わってしまった現実――。
「おい。」
あっ。もう着いたか。
「時間だ。次は頑張れよ。」
「もちろんだよ、おっちゃん!!」
隣にいるのは、老け顔で通る音無符吊。いじられキャラだけど、根は誰よりもお人好しだ。
「…おっちゃんいうな!!まだ30もいってねぇよ!!それに詠次も、同い年だろ。老け顔バカにすんな!」
うぅ…流石、万年彼女なしのツッコミは鋭い。
「はあ…聞いてんのか。ともかく、引っ越しの荷物運ぶぞ。」
「はい!!おっちゃんリーダー!!」
そう言って意気込んだものの、荷物の山に手を伸ばした瞬間――足元がズルッ。
豪快な音を響かせて、俺は段ボールごと床に沈んだ。
「またかよ…」
やっぱり、おっちゃんは力持ちだな。エーテル制御器を片手でだって?
あんな40kg近いゴツい機械、普通は2人がかりでしょ。それをひょいと持ち上げるなんて…やっぱりおっちゃんは力持ちだ。
「おっちゃん…上の荷物、頼んだ…」
「おう。もう隅で寝とけ。飲み物でも買ってきてくれ。」
その瞬間――意識が、すぅっと落ちていった。