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第4話 もはや家族会議

「では。義両親の挨拶を始めたいと思います」



にこ、とそれはいい笑顔で笑った奏の隣に座る俺、そしてその向かいに座る俺と奏の両親。

このメンツだともはや家族会議である。



「えーっと、本日私たちは結婚しました。ってことは知ってると思うんだけど」

「え? そうなのか?」

「証人は誰でもいいとはいえ、流石に両親の方がいいかなと思って。って、婚姻届見てないの?」



呆れたような顔をした奏に何も言えずに黙り込む。

正直奏との結婚のことで頭がいっぱいだったというのは、恥ずかしいので本人には内緒にしたい。


そうして微妙な沈黙が出来上がった中、その沈黙を破ったのは俺の母親————奈津なつだった。



「…………瑞稀」

「な、なんだよ」

「母さんは正直、貴方の結婚には賛成してるの。相手が奏ちゃんなら尚更」

「そ、それはどうも」



瑞稀どもりすぎ、と隣から声が聞こえる。

数年ぶりに話す母の顔は、あまり記憶と変わってないように思えたけれど、やっぱり緊張するものは緊張してしまうのだ。


俺がそう答えると、「自分の母親なのに」と言う至極真っ当な返事が返ってきて、俺はやっぱりなにも言い返せずに黙り込んだ。



「…………けどね、問題は貴方よ、瑞稀」

「え?」



はあ、と小さくため息をついた奈津の声に身構える。

なにも話さない奏の親も、俺の父親も、そしてもちろん俺たちも、俺の母親に視線が集まった。



「結婚に必要不可欠で、それがどうしても欲しくて堪らなくて、けど思うように手に入らなくて、そして手に入ったらとても嬉しいものって、なんだと思う?」

「えっと」



突然の問いかけに、俺は必死で頭を回転させる。

どこか察したような向かい側の3人は、静かに一つ頷いたけれど、俺には皆目見当もつかない。

そうして悩む俺を見かねてか、奈津がもう一度口を開いた。



「ヒントをあげるわ。私が貴方の父親(この人)との結婚を決心した決め手よ」



ここまで言えばわかるでしょう、と俺の目をまっすぐ見て母は言う。

先ほど言われた三つの条件、そして与えられたヒントを頭の中でもう一度整理して考えると、俺の頭の中はクリアになり............不意に一つの答えが頭に浮かんだ。



「それは——………愛?」

「違うわお金よ」

「父さんが不憫すぎる」



返ってきた言葉に思わずそう返す。

けれど隣の父は満足そうな顔をしていて、そして奏の両親も深く頷いている。それでいいのかお前ら。



「ということで、瑞稀。貴方の年収は?」

「もしかして公開処刑されに来たのかな俺」

「さあ、早く」

「大体………万ぐらいだけど」



俺が顔を少しだけ背けながら言うと、ふむと母は考え込む。

行きの奏の上目遣いとは違う意味でバクバクする心臓をなんとか鎮めていると、奈津はまあ、と頷いた。



「なかなかいいんじゃないかしら。商社勤めだし。そちらのお家はどうでしょう?」

「申し分ないですね。むしろ、多い方じゃないでしょうか」



こくり、とお互いの両親が頷きあう。

それを見た俺は思わず一人ごちた。



「過去に何があったんだよ」

「何もないと思うよ? ただお金が好きなだけ」

「守銭奴がすぎる」



俺が恐れ慄くと、奏は今更でしょうと言う。

確かに思い返すと母はケチではないとは言え堅実にお金を使う人だった記憶がある。


そう言うと、口を開きかけた奏よりも先に声が聞こえた。



「まあ、お金は第一だとして。第二はやっぱりお互いを愛してることだと思うのよ。…………ってことで」



今まで黙っていた奏の親が喋ったことに驚く。

けれどやはり第一はお金なのかと目を遠くしていると、その人は奏に似たような顔でとても美しい笑みを浮かべた。



「貴方たちが本当に愛し合っているか確認しようと思うの!」



やっぱりこの人は奏の親だなとさらに遠いところを見た俺は、悪くないと思うのだ。





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