第28話 怒涛のイベントシーズン
「どうしよう…………」
「また悩んでるよこいつ」
「今更どのツラでって感じだけどね」
あれから二週間ほど経つもなかなか予定が決まらない俺は、おおきなため息をつきながら机に突っ伏す。
そんな俺を隣の綾瀬が無視して「昼食べに行かねえ?」と誘ってきて、俺は恨めしくそいつを睨みながら体をゆっくりと起こした。
「行くけど。でももっと優しくして」
「メンヘラ彼女か」
「せめてアドバイスくらいしてくれよ」
「ええ..........俺だからしばらく彼女いないって...........」
じゃないとここから動かない、と俺がふんぞり返ると、そいつは一瞬考える顔をする。
するとそのままその場を後にしようとする綾瀬に、俺は慌てて引き留めた。
「お前さすがにそれは薄情すぎるだろ!」
「まあまあ落ちつきたまえ。こんな時の蒼井様だろう」
「どんなときよ」
向かい側の机に行った綾瀬は、もう一人の同期を連れて戻ってくる。
昼休憩に行っているらしく空席になっているもう片方の椅子に座ると、どこか疲れたような顔をしていた蒼井は頬杖をついてこちらを見た。
「こちとら朝からセクハラ親父から電話が来て、別のところからはクレームもつけられて疲れてるのよ。まー天都くんの拗らせ話は面白いから付き合ってあげるけど」
「お疲れというか面白がるなというかありがとうございますというか」
「ありがとうございます蒼井様でいーのよそういうときは。それで、プロポーズのタイミングだっけ?」
「そうです」
俺が神妙に頷くと、綾瀬が面白そうな顔をする。
明らかな昼ドラ展開を期待しているその顔に呆れながら、俺は蒼井の話に耳を傾けた。
「んー、なんとなくだけど、この時期とかは避けた方がいいんじゃない?」
「なんで?」
早ければ早いほうがいいのでは、と首を傾げる。
すると親友同様恋愛上級者である蒼井は、「まあそれはそうなんだけど。天都君は特に」としれっと俺のことを刺した。
「この時期はやっぱりどこでも人が多いし。それに、年末年始で色々と忙しいと思うから。仕事も終わりどきでいっぱいだし、年賀状の準備とかもあるし」
「あー、それは確かに..........」
俺もまだ年賀状の準備何もやってねえ..........と目を遠くする。
この時期の社会人は地獄だからな、と同じく独り身の綾瀬と励ましあっていると、彼氏と同棲中で余裕の蒼井はそんな俺たちを鼻で笑った。
それに二人でブーイングした後、俺は眉を寄せながら考え込む。
「えーと、その意見も加味すると…………」
『わざわざ私を呼んだんだから間違えないだろうな』という蒼井様の圧の元、俺は慎重に一つずつ確認しながら指を立てていく。
「とりあえず、今週にはクリスマスがあるだろ? んで、来週には大晦日、で続けて元旦と…………」
だんだん雲行きが怪しくなっていく話に、俺は更に眉を寄せる。
ある程度なんとなくこれからの予定を数え折った後、俺は口元をひきつらせた。
「え…………もしかして俺、しばらくプロポーズできない?」
「自業自得だな」
「自業自得ね」
「俺が悪いのは認めるけど、さすがにちょっと励ましてくれてもよくない?」
同期があまりにも冷たい。
それを嘆いてしくしくと目元を袖で拭うと、追い打ちの様に罵詈雑言が飛んできた。ひどい。
ある程度そうしてじゃれあった後、俺は小さく息をついた。
「とりあえず日にちを決めないと。準備もあるし」
「ああそっか。指輪とかあるもんな」
「いや、プロポーズに必要な指輪は用意してあるんだけど。最初のプロポーズの時に」
「? それなら何かあるの?」
二人揃って首を傾げる同期に、俺は重々しく頷く。
すると更にクエスチョンマークが増えた二人は、なかなか言わない俺に痺れを切らしたように「何?」と次を急かした。
「俺の心の準備」
「「なんだただのヘタレだったか」」
新章の始まりです。
今日から朝の七時と夜の十時の一日二回投稿です。




