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第20話 泥棒猫、


(あれ、これもしかして.............俺が邪魔なやつ?)



そう考えて一気に真っ青になった俺に、「瑞稀?」と奏が首を傾げる。

それに何も反応できずにいると、柊が何も知らずに口を開いた。



「ひ、…………あ、天都先輩は、優しくて、沢山の人に慕われていて…………」



蒸気する頬。潤む瞳。その瞳が見つめる先には熱がこもっている。

ああ、これやばいやつだ、と。


頭の中で警鐘がなるけれど、そんな想いとは裏腹に奏から視線を外すことができない。

けれど彼女の先にはずっと柊がいて、それに黒いもやもやとした何かが胸に纏わり付いた。



(…………なんだ、これ)



悲しくて、痛くて、苦しい。

ぐるぐるとして気持ち悪いそれは、どんどん強まっていうように思える。


そんな俺に気づいたのだろうか、柊への対応に追われている米原と藤原とは別に、同期の二人がこちらを心配そうに見つめていた。



「だから…………だからっ、」



ああ、こんな感情は嫌だ。

だってこれは————かつて彼女を追い詰めた奴らと、同じものだ。


それでも、無意識に言葉が頭の中に浮かぶ。



(奏は、)



「だから…………先輩と離婚してください!!」



その瞬間、なんか色々と吹っ飛んだ気がした。





◇◇◇◇◇





ガンッ! と。



その柊の言葉を止めたのは、米原だった。

勢いよく拳を振り下ろした彼女は、厳しい顔をして柊に一喝する。



「いい加減にしなさい、柊!」

「い、痛い…………」

「新婚の二人に何言ってんの!」

「だ、だって、」

「だってじゃない!!」



本当にごめんなさい! とやや無理やり頭を下げさせた柊と共に頭を下げる米原に「大丈夫です」と言葉を返す。

さっきまでの黒い何かが消えたことに安堵しながら、俺は先程とは違う心配が胸を締めた。



「あの、米原さん。大丈夫なんですか?」

「? 何がですか?」

「ぱ、パワハラだあ…………米原先輩がパワハラしたぁ…………」

「と、言っていますが…………」



ぐすぐすと半泣きで泣いている柊を自業自得だと言うには、あまりにも人ごとだと思えない。

だってもしかしたら、さっきの柊は自分がなるかも知れなかった。


そう思うと、なんだか一気に可哀想になってきた。

天都瑞稀という男は、同族嫌悪するどころか、同族は結構守るタイプであった。



「あの…………米原さん、俺は大丈夫なので、」

「ああ、パワハラとかそういうのは大丈夫ですよ。そもそもプライベートの場に入ってきたのはコイツなんで」

「うっ」

「柊? 自分が何やったかわかってるよね?」

「…………すみませんでした」

「や、本当にいいよ」



渋々、と言うように、苦笑する俺に対して顔を顰めながら謝る柊は、先ほどから困惑したような奏を見る。

でも僕は本気ですからね、と米原に睨まれながらも涙目で言った柊に、奏は小さく首を傾げた。



「…………何が?」

「あはははは!! 柊くん、君の一世一代の告白、伝わってねえじゃん!」

「かわいそー!!」



そしてここで容赦なく笑い飛ばすのが俺の同期である。

我が同期ながらあまりにも空気が読めなさすぎていっそあっぱれと長年付き合ってきた俺はそう思うのだが、どうやら柊は違うらしい。


うりうりとつつかれる頬を狼狽えたようにされるがままにして、俺をキッと睨んだ。



「この、この…………ど、泥棒猫さん!!」



そう言うやいなや、脱兎の如く居酒屋から飛び出した柊に、綾瀬と蒼井の米原のでかい笑い声が響き、藤原が「これが…………昼ドラ…………」と無表情に呟いている。

『泥棒猫さん』という何とも言えない言葉を反芻しながら、「ああ、確かにこいつ悪いやつじゃないんだろうな」と米原の最初の説明を思い出しながら、俺はそう思った。


隣にいる奏にすらくすくすと笑われている柊が少し可哀想になったけれど、俺の奥さんに毎日会っているのだから、まあこれぐらいは妥当である。






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