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第14話 少年と少女II・ちなみに割ってない


「————奏なんて、大嫌いだ!」



そう思わず言ってしまった後、少年はハッとして口を抑える。

けれど言ってしまった言葉は取り消しようがなくて、無くす方法なんてなくて、ただ少年は俯いた。


なんで、こうなってしまったんだろう。どうして、こんなことを言ってしまったんだろう。

自分はただ、彼女に笑っていて欲しいだけなのに。


————そして、目の前から声が聞こえる。



「…………私も、大嫌いよ」







◇◇◇◇◇






「…………づき。瑞稀!」

「きょ、うや?」



浮上していく意識と共に、親友の姿が見えていく。

ボヤけていた視界がだんだんクリアになっていくと、そこには心配そうな顔をした恭弥がいた。



「気持ちよさそうに寝てたから、最初は放っておいたんだけど…………大分うなされてたから起こしたんだ。余計なお世話だったか?」

「…………いや、ありがとう」



そうして段々意識も追いついてくると、俺は途中で自分が寝てしまっていたことにやっと気づく。

そしてまだ様子を伺っている恭弥に「大丈夫だ」と笑ってから、小さくため息を吐いた。



「…………なんで、今更」



自分に対する戒めなのだろうか、と考える。

例え彼女が結婚してくれているとしても、自分は今なお嫌われているのかもしれないと。

もしそうでないとしても、実際過去に奏に嫌われていたのだと、調子に乗ってはいけないと、そう言われているのだろうか。


…………答えが出ない問題は、嫌いだ。


『正解』はないくせに、そのくせ『間違っている』という感覚だけがただただ残る。


それよりも、解くのが難しい数学や国語の方が、よっぽどマシ。

いつだって俺は何か行動を起こす時は迷って、そして『間違って』しまうから。



(結局、あのあとどうなったんだっけ)



自分は、あの後何を言って、また今みたいに喋れるようになったのだろう。

一瞬、脳裏に泣いている少女が浮かぶ。


その瞬間ズキリと浮かんだ胸に蓋をして、俺は親友に声をかけた。



「恭弥。今何時?」

「2時半ー」

「お前そろそろ帰れよな」

「この時間に帰れとかお前流石に悪魔だろ」



そこまで自分が寝ていなかったことに驚きつつも、俺の上に乗っかりダル絡みをしてくる恭弥の相手をする。

そして「瑞稀が酔ったところ見たーい」と言った恭弥から酒を渡されて拒否し、そのままそのコップを机の上に置いた。



「ってお前これ、ウォッカじゃねえか!」

「やー、一回飲ませてみたくて」

「お前が飲めよ!」



アホか! と言うと、恭弥は「そんな褒めなくても…………」と頰をかく。

その頬を横に引っ張りながら、ふと俺は小さく首を傾げた。



「てかそうだよな、俺らのクラスって一回も同窓会開いてないよな。奏と12年間会ってないのもそれが関係してるし」

「いや奏はお前が会いに行けばよかっただろ。…………同窓会はまあ、その」



どこかいいにくそうに目を逸らす恭弥の頬をさらに引っ張る。

それに「いひゃい!」と悲鳴をあげた親友は、伸ばされた頬をさすりながら口を開いた。



「うちのクラスってさ、カップルが多かったじゃん?」

「まあ、言われてみれば確かに」



だけどそれが何の関係がある、とさらに首を傾げると、それに比例するように恭弥の目が泳ぐ。

その顔ごとこちらに向かせると、そいつは再び悲鳴をあげた。



「わーった話すって!…………それで、そのカップルが大半別れたと言うか何と言うか」

「それが?」

「あの、それが原因です…………気まずい、みたいな?」

「…………は?」



ごにょごにょと言いながら指をこねる恭弥に、思わず間抜けな声が漏れる。

馬鹿なのか? と思わず言った俺の声に、そいつは眉間の皺を揉みながら俺の方を指さした。



「いや、でも3割…………5割…………6割ぐらいはお前らのせいだからな」

「はあ?」



心外である。

俺が眉を上げると、そいつはうっと言葉に詰まる。

お前らは悪くないんだけどお前らのせいなんだよ、と言った恭弥の言葉に、俺はますます意味がわからなくなった。



「そもそも、お前らが教室であんなに堂々といちゃいちゃするから、そりゃ彼氏彼女がいないやつは欲しくなるはずで…………」

「してないが。全くもってしてないが」



俺が真顔でそう言うと、恭弥はどこか呆れたような顔をするが関係ない。

高校時代《あの時》も、というかぶっちゃけ今も、俺たちの間には恋愛の『れ』の字もない。…………あ、やばい自分で言っててダメージくらってきた。


胸を押さえて苦しむ俺をなんのその、恭弥は水戸黄門の御印籠のようにスマホを突き出す。

そこには動画らしきものがあり、俺は小さく首を傾げた。



『あれ? 今日瑞稀ネクタイしてないの?』

『あー、今日時間がなくて結べてないんだよ。まあこのままでいいだろ』

『絶対めんどくさがってるでしょ…………。いいよ、私が結ぶ』

『お、さんきゅー』



動画が全て再生される。

そうして真っ暗な画面には、不可解そうな顔をしている俺が映った。



「…………これが?」

「うん、最初にピンとこない時点でわかってた。わかってたよ俺は」

「いや何を、」



どこか諦めたようにそう言う恭弥に言葉を続けようとすると、不意にドタバタという音に部屋の扉が開く。

そこには仁王立ちした日和と、その後ろには奏がいて、俺たちは揃って首を傾げた。



「日和? どうしたんだ?」

「お前、まだ顔赤いじゃん。酔ってるだろまだ…………」

「わらしはよってない!」

「「呂律が回ってねぇ!」」



思わず恭弥と二人でツッコミを入れると、日和はなぜかさらに胸を張る。

ふんっと鼻息を荒くしたそいつは、近所迷惑もいいところな大きな声で宣言した。



「みづきはかなれときちんとはらしあうべきだとおもいます!!」

「かなれは『奏』ではらしあうは『話し合う』でいいんだよな??」



な? と思わず確認が取りたくなるほど呂律が回っていない日和に絶句する。

そもそもストッパーはどうしたと奏を探した瞬間、顔を赤くしている奏がいた。



「ヒック。みづき? どうしらの?」

「…………」



それに対して無言で机の上を見ると、先ほど腐れ縁の親友が俺に飲ませようとしていたものがなくなっている。

一般的に見てとてもアルコール度数が強いそれは、まあパッと見は水と変わらなかった。



「…………きょうやあああぁぁぁぁ!!!」

「ごめんごめんごめん!!」



まさかの第二ラウンド突入に、くらりと眩暈がした。








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