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異世界、作ります

作者: 浦井らく

「吉村絵里、二十九歳。階段から落ちそうになった妊婦を助けようと下敷きになって死亡。生前は特に悪行もしておらず、お人よしな性格から困っている人を助けることも多かったと……。なるほど、なかなかに良い人材ですね」


 一体これはなんなんだろう。目の前にはなんだか神々しい中性的な人が私の履歴書みたいなものを見ながら喋っているし、私は就職活動をしていた時のようにその対面に座っている。あ、あの頃を思い出して胃が痛くなってきた。

 昔の胃炎の痛みを思い出しお腹の辺りをさすっていると、履歴書に目を落としていた人が不意にこちらに視線を向ける。


「吉村さん、この度はお呼び立てして申し訳ありません。あなたは先ほど亡くなった。それは理解されていますか?」

「まぁ……、階段から落ちて痛い思いをしたはずなのに、なんの傷もなく痛みもなく、知らない場所に来ているのでそうかなぁとは思ってますけど……」

「うん、大変結構です。突然死される方の中には自分の死を受け入れられず暴れる人も多いですからね。あなたがそういうタイプでなくてよかったです」


 にっこりと笑顔を浮かべたその人は芸能人も真っ青なぐらいの美貌で思わず見惚れてしまう。この人天使様か何かなのかなぁ、やっぱり天使様って美しいんだなぁ。


「ふふ、嬉しい感想をどうもありがとうございます。いかにも私はあなた方が呼ぶ天使というやつです」


 さらりとこちらの思っていることにを対して返答してくるあたり、やっぱり天使様ってすごいんだ、と月並な感想を抱いてしまう。


「あなたは日頃の行いが大変よく、またこの度あなたが助けた妊婦の赤子は将来、日本という国を大きく変える重要な人物に成長する予定だったこともあり、あなたは天国へとお迎えするのに十分に値する人物だと天界で判断しました」


 あの妊婦さんの赤ちゃんってそんな重要な役割を持つ子だったんだ。というかある程度運命的なものって決められてるんだなぁ、とぼんやり思う。同時に、私が死ぬのも運命だったんだなぁと少し落ち込む。

 三十を目の前にしてやりたいことはまだまだ沢山あった。仕事で大きいプロジェクトのリーダーに抜擢されて、部下と一緒にさぁ頑張ろうって張り切ってた時だったし、彼氏とだってそろそろ結婚しようかって話が出てきたところだったので、悔いがいっぱい残っている。けど、あの場で階段から落ちる妊婦さんに手を伸ばさないという選択肢は、きっと何回同じ場面を迎えても存在しないだろうと思う。


「うんうん。そんな素晴らしい善性を持ったあなただからこそ、こうやって声をかけようと思ったんです」 


 さらりとまた私の思考を読んだ天使様がそう言ってパチンと指を鳴らすと、目の前に紙の束が降ってきて慌てて受け取った。


「ちなみになんですけど、吉村さんは異世界転生というものをご存知ですか?」

「えーっと、最近よく小説とかアニメとかでやっているあれですか?」


 彼氏がアニメをよく見るのでなんとなくは知っている。転生したら〜とかってタイトルが最近多いんだなって思ってたし、彼氏も近頃はなろう系のアニメ化ばっかりだなってぼやいてた記憶がある。


「そうそれです。実は天界でもトレンドになってましてね。実際に異世界というものを生み出して、そこに天国行きの人を転生させることが多くなってきているんです」


 そういって天使様は最近の天界事情を説明してくれた。なんでも天国はもうキャパオーバーになりつつあるらしい。天国へと渡った魂は、希望すればいつでも輪廻転生で現代で生まれ変わることができるらしいけれど、昨今の情勢不安などが原因で現代に転生を望む人はごく稀で、天国の敷地も狭くなってきてたみたい。そこで今はやりの異世界転生なら転生してくれる人がいるんじゃないかと、天使様を含めた天界を運営する方々がそれぞれに異世界を生み出し、そこに転生希望者を送り込んでいるみたい。目論見は大成功で、天国にいた魂たちは三分の一程度は異世界へと転生していったらしい。


「ただ、最近はその異世界すら転生人数がキャパオーバーになりつつあるんです。異世界転生によくあるチートスキルというものですが、それがある人が何百人も同じ世界に転生するとチートじゃなくなるじゃないですか?なので、できるだけ時期をずらして一つの世界に転生させていますが、それでも限度はあるんです。そこで、吉村さんに折り入って頼みがあります」


 天使様は美しいお顔に綺麗な笑みを浮かべて私に告げる。


「あなたには、異世界を作り管理する役割を担っていただきたいのです」

 




 天使様から異世界作って、と言われた私はいくつかの問答の末、お役目を引き受けることになった。曰く、善性があっても企画能力、運営能力が足りずに任せた世界が頓挫する人が多かったところに、ほどほど企画立案、運営がうまそうな私が転がり込んで来たのだそうだ。なんだそれ。


 とはいえ、楽しそうだとも思った。だって自分の采配でどんな世界にするかは決めていいらしい。ある程度の制約さえクリア出来ればそれでいいらしく、上から、今回の場合は天使様からだが、色々注文つけられたり企画を突っぱねられたり突然方針が変更されたりということはないらしい。

 本当に、そこが一番重要だった。上司の気まぐれや取引先の思いつきで、九割がた出来上がっていた企画が白紙に戻されることを経験してきた身だ。最初の企画書提出の段階で守るべきことを守っていれば、あとは自由にやっていいっていう方針なのは、私にとって最高の条件だ。もちろん企画通りに進んでいるかの定期的な監査は入り、もし出来てない場合は修正が必要になるそうだけど、それは企画運営では当たり前なので問題ない。死ぬ前に任されたプロジェクトを達成できなかった分、ここでしっかりやってみたい。


 天使様から渡された資料には守るべき条件がいくつか示してあった。


 一つ、異世界を作成するにあたり、現地人をただのモブとして扱うことがないよう、転生者との差を大きく出しすぎないこと。転生の際にチートをつけるけど、それでも転生者一強にならないようバランスを考えるってことね。


 二つ、あまり過酷すぎる世界にしないこと。最初からポスト・アポカリプス状態とかディストピア状態の世界なんてあまり転生したくないもんね。すぐに転生者が死んでしまいそうな環境もダメということで、よくある魔物が強すぎるとかも控えた方がいいらしい。


 三つ、異世界作成後は基本的に現地人が自主的に世界を回すので、あまり運営側が神として口出ししなくても済むように初期設定をちゃんと練ること。確かに神がいちいち神託下して回すような世界だと面白くないよね。


 というわけで出された以上三つの条件を守った上で世界を構築したらいいらしい。ちなみに企画提出期限は七日間、キリスト教の旧約聖書に倣い他の天使様もこの期間で作成しているらしい。極道納期じゃん。

 とはいえ、七日間という限られた時間でどこまでやれるか楽しみでもある。さてやるぞ、と気合を入れて自分専用のデスクに向かった。





 まずはどんな世界観にするかから決めようと思う。

 資料を見る限り現存している異世界は全部で三十二。うち二十が中世ヨーロッパがモデルとなっているいわゆるナーロッパ系で、七が現代系、三が近未来系で、二がポスト・アポカリプス系。あるんだポスト・アポカリプス系……。けどそこから徐々に復興している設定みたいだから過酷すぎる環境ってわけじゃないみたい。


あとは三十二の世界のほとんどが魔法要素を取り入れているっぽい。魔法のない世界は六つ。現代系の二つが魔法ではなく超能力を取り入れていて、近未来系はどこも科学が発展した世界なので魔法なし。ポスト・アポカリプス系も一つは科学の発展から滅亡って設定なので魔法なしみたい。


 うーん、悩むとこだけど魔法は取り入れたいかも。だって異世界転生で期待することって魔法があることだよねって彼氏も力説してたし。あとは世界観も需要ありそうだからナーロッパ系かなあ。自分の好みってなると現代系なんだけど、顧客、いわゆる転生者の需要を考えるとありふれたものになっちゃうんだよねえ。現にキャパオーバーになってる異世界はどこもナーロッパ系だし。


 とりあえず企画書の世界観設定に魔法のあるナーロッパ系と書き込む。魔物の類とかもきっとあったほうがいい。なんかアニメ見てると大体いるし。とはいえ魔王とか魔族を倒すってのはちょっとなぁ、人種差別感あって気がひける。なのでその辺りはなしにしよう。


 それからどの程度中世ヨーロッパに設定を寄せるかだけど、現代を生きた人が糞尿が窓の外から降ってくるような世界観に耐えられるとは思わない。衛生観は出来るだけ現代に寄せよう。流石に水洗トイレとかが中世ヨーロッパにあるのはおかしいけど、ポットン式で肥溜めから肥料を作る感じにすればいけるんじゃなかろうか。風呂は各家庭にはないけど公衆浴場がある設定にしよう。まぁ、衛生状況に関してのおおまかな設定としてはこれぐらいかな、現代知識でチートしたいタイプの人も多分いるからあまり作り込みすぎるのもよくないだろうし。


 あとはスキル制、職業制を採用するかどうかだけど、正直職業制は採用したくない。こっちがあなたはこの職業がいいですよー、ってしちゃうと、やりたい仕事もできなくなっちゃうもんね。やるならスキル制だけど、スキルも出来れば自分がやったことがスキルとして生えてくる感じがいい。個人の努力次第でスキルがいくつでも増えるほうが好きだ。だって怠惰な人に有能なスキルが生えてるとムカつくし。


 企画書にその辺をまとめて、一応突っ込まれた時のためにきっちりと理由も記載しておく。想定問答も考えといたほうがいいかな。仕事で鍛えたプレゼン力が火を吹く機会はあるんだろうか。ないといいなぁと思いながらその日の業務は終了した。

 




 二日目、今日は現地人の種族を決めようと思う。ナーロッパ系の世界を作っている人たちはどんな感じの種族を取り入れているんだろう、と資料をパラパラと捲る。


「いや、多いっ!」

 

 思わず叫んじゃった。

 多いところは割と細かく種族分類してて六十八種ほど、少ないところでも十種程度はいる。えぇ、異世界ってそんなに色んな種類が要るの……?

 

 資料読む限り普通の人間、エルフ、ドワーフ、妖精、獣人は必須項目かって感じどこも取り入れている。あと多いのは巨人、小人、精霊、魚人、人魚。魚人と人魚って同じじゃないの? あぁ、上が魚か下が魚かみたいな分け方なのか……。そのほかにもオーク、ゴブリン、ヴァンパイア、ラミア、アラクネなど魔族として纏めがちな種族をきっちり区分けしてたり、天使様を種族として存在させてたりと結構自由に種族分けしてるっぽい。えぇ、どうしよう結構大変だな。

 

とりあえず必須種族五種は入れるか。あとは準必須種族五種も入れておこう。最低限これだけいればナーロッパ系異世界っぽくなるよね。ヴァンパイアとかラミアとかもかっこいいんだけど、吸血等でどうしても悪いイメージが強くて現地人から討伐対象にされたりしそうなんだよね。入れるか悩む。


 一応他の世界ではそれらの種族の扱いってどうなんだろうって確認したら、基本は魔族として人と対立させてるところが多いみたい。共存してる世界も少なくないんだけど、どこも一度は対立して、そこから手を取り合うって展開になってしまうみたいだ。となると余計な争いは避けたいし入れるのやめておくべきかな。うーんけど入れたい、だってかっこいいし、美形のヴァンパイアって女子の憧れみたいなとこあるよね。一応要相談って書いてヴァンパイア、ラミア、アラクネ、リザードマン、サキュバス等を括弧書きしておく。


 とはいえ、これらの種族を入れなくても正直このままだと魚人、人魚、獣人なんかは差別対象になりそうで怖いんだよなぁ。差別は過去あったけど今は無くなったって設定にしておく? もしかしたら却下されるかもしれないけど一旦書いとくか。天使様に企画書出した時に相談しよ。主だった人種欄にメモ書き程度に記載して、今日の業務は終了しよう。





三日目。魔物について考えようと思ったけど、資料を見ると種族以上に分類が多くて、一体一体精査していくととてもじゃないけど時間が足りなくなってしまう。なので魔物を取り入れている世界の中で平均的な数、そしてオーソドックスな魔物を使っているところのものをそのまま引用させてもらった。それでも百種以上はいるので魔物に拘ると大変そうだ。


 というわけで今日はその次にやろうと思ってた世界地図作りだ。地図といってもどこにどの国とかではなく、そもそもの土地の配置からやらなきゃいけない。私たちが住んでる地球をそのままベースにしてもいいらしいけど、そうなると管理が大変らしい。あまりにも広大で国が多すぎるので、生前もよくあった戦争、紛争、貧富の格差など様々な問題が世界各地で同時多発的に起こってしまうので、出来るだけそういう問題起こしたくないなら地球の二分の一規模ぐらいにしておいたほうがいいと、天使様にはアドバイスいただいた。


 というわけで二分の一規模の地球を作る。平面で地図書いてもいいし粘土で工作してもいいよと言われたので、粘土で模型を作ることにした。球体に丸めた世界に、とりあえずユーラシア大陸みたいな大きな大陸を置く。基本的にはこの大陸がぐるりと世界を覆っている形にしたい。わかりやすくいえばユーラシア大陸と北アメリカ大陸の間にあった大西洋をなくした感じ。アフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸はなしだ。元々地球の二分の一規模のためその大きな大陸だけで北半球と南半球にかかる形だ。


 島国はいるだろうか。日本人だから日本のような独特の文化圏の島があるといいなと思うけど、と悩みながら太平洋の真ん中あたりに日本よりちょっと大きめの島を一つ置いてみた。あとはちらほらと大陸に隣接する島も作った。島国が一つじゃ味気ないかなと思ったけど、大陸と隣接してるし国として作っても、後に大陸の人間に植民地として乗っ取られちゃうかも、と頭を悩ませる。


 悩んだ末、いくつかの島は撤去して、その分一つの島をアイルランドぐらいのサイズにしていくことにした。島の規模が大きいと安易に乗っ取りできなくなるかな、という考えだ。それでもかつてヨーロッパの国々が、アメリカという広大な土地を切り取り植民地化した前例があるから不安は拭えないけど。


 球体に配置し終えた大陸や島をじっくり確認しながら、とりあえずこれでいいかと一つ息をつく。世界作るって考えることが多くて大変だな、と思いつつ今日の業務を終了した。 





 四日目。今日は宗教について考える。考えるも何も現地人から見て神と言えるのは私ぐらいしかいないし、半強制的に一神教じゃない? と思ってたんだけど、どうやらそうではないらしい。


 三十二の世界のうち、半数ほどは多神教を取り入れていた。自分の部下となる神様を作り出して、権能をいくつかに分けて割り振るみたい。部下といっても自律型AIみたいな感じで、ある程度こうしてああしてって指示をあらかじめ出しておけば、自分である程度の管理、運営をしてくれるらしい。すごく便利。ただ成長していくから、そのうち自分の考えを持つようになって指示からかけ離れた行動をとるようになることもあるので、定期的なメンテナンスで思考ルーチンにズレがないかの修正は必要になるようだ。


 そういうメンテをする手間がいるけど、一神教だと現地人、転生者の全ての嘆願が自分に来るので一つ一つの精査に時間がかかったり、同時多発的に予想外の出来事が起こっても、一つ一つ対処していくしかなくてどれかが手遅れになる、というのを防ぐことができるらしい。逆にその辺の処理に自信があれば、一神教でやっていったほうが自分が作りたい世界の完成度が高まるっぽい。私は正直そういった処理には自信がない。だってこれまでただのOLだったんだし、世界の運営なんて一人で出来るわけなくない?


 というわけで多神教にすることにした。私は一応創世神という形で全ての神のトップになるようにした。名前? 名前いるの? じゃあ下の名前もじって創世神エリーゼで。あとはそうだな、太陽神ソーラと月の女神セレニアが普段の信仰の対象としよう。太陽神の権能は成長、繁栄。月の女神の権能は治癒と秩序。流石に二柱だけじゃ厳しいかな? じゃあ後は愛と美の女神のヴィーネには恋愛と美麗の権能を、闘神アレクには頑強と勝利の権能を、造神ファイスには生産と成功の権能を、それぞれ与えることにする。


 名前は全部地球で逸話が残ってる神からもじった。一応農家や商家、医療関係者、女性、冒険者や軍事関係者、職人などがそれぞれ信仰できるように区分けしたつもり。それぞれに信仰対象になる人たちのことを見てもらい、日常的な嘆願と違うことをお願いされたり、日常生活でおかしな動きがあれば報告してもらうようにした。これで全部確認しなくて済むでしょ。とりあえず今日の業務は終了です。





 五日目。今日は種族の分布に取り組む。出来上がった世界地図と予定している種族一覧表を見ながら、どのあたりにどの種族が住んでいることにするかを決める。それと同時に大まかな地形と気候も決めるつもりだ。


 普通の人間は割とどこでもいる感じにするので少数種族から考えよう。まずはエルフだけど、やっぱりエルフと言えば森のイメージが強い。どんと置いた大陸を二分するかのように広大な森林をそこに配置する。エルフはその森で基本暮らしていることにしよう。勿論広くはないが森林地帯はあちこちに作る予定ではあるので、そこにも少数ずつ配置してもいいかも。その小さな森林地帯には一緒に獣人やヴァンパイアも置いていこうかな。この森の気候は基本的に温暖で、一年を通して寒暖差が少ない気候がいいかな。後は森に住んでそうなアラクネと、一部ラミア、一部リザードマンもこの辺がいいかな。


 ドワーフは鍛治に取り組んでいるイメージがある。エルフのいる森の少し端の方に大きな活火山を作り、そこの麓にドワーフを配置した。活火山近辺なので地熱は高く鍛治なんかもしやすいかな。あんまり森の中心に置くと噴火した時に他種族への影響がデカそうなので火山は端の方にしてる。


 巨人なんかは森林だと生活しづらそうなので、森で二分された大陸の西側上めに大きな平野を設け、そこに巨人を配置した。ここは少し寒冷な地域を想定している。巨人が住む平野のさらに北には雪山地帯を作った。ここは獣人の一部とヴァンパイアの一部を置こう。なんか寒さに強そうだし。


 後は大陸の東側下の方には砂漠を置く。ここには一部ラミアと一部リザードマンを配置する。森林と砂漠で分けたのは、なんか蜥蜴も蛇もどっちにも居そうだったから。ここは熱帯地域で寒暖差が激しい設定だ。


 魚人と人魚だが、これはもう海一択だ。ただ大陸よりの海というより島に住んでる感じにしたいので、大陸側の大きな島は魚人と人魚だけを置くことにした。後は他の島にもちらほらと。海のど真ん中にある島にも配置する。海は全部繋がっているから人魚や魚人は人間並に広く分布しそうだよね。


 そしてそれらの少数種族のもとに妖精や精霊をパラパラと置いていく。今配置した少数種族は自然と共存する感じになるだろうから、自然があるところに妖精や精霊は置いたほうがいいだろう。

 逆に人間と共存させたいのは小人とサキュバスだ。小人はやっぱり小人の靴屋という童話のイメージがあるので、人間の生活圏にいて欲しい。サキュバスはその性質から人間が近くにいないと生活しずらいだろう。


 最後に人間を少数民族の生活圏とちょっと被せつつ全体的に配置していく、勿論小人やサキュバスも一緒にだ。

 

全体のバランスも良さげだし、今日はこれで業務を終わろうかな。





六日目。納期は明日なので今日で企画書はあらかた完成させたい。明日は天使様に企画書確認してもらって微調整を行いたいので。


 今日はこの世界の言語と通貨について考えようと思う。言語といっても私が一から文字を考えたりというわけじゃない。地球という星には国と共にいくつもの言語があったように、この世界にもいくつも言語を作るかどうか、というとこ。参考までに他の三十二の世界では九の世界で複数の言語を取り入れていた。とはいえ、地球のように各国で別々の言語が使われているかと言われたらそうではなく、人間の統一言語と魔族の統一言語の二言語にしていたり、種族によって言語が分けられていたりと地球よりは複雑ではないらしい。


 とは言え、言語で意思の疎通ができないことが争いの火種になる可能性は高い。ここは言語は種族、地域問わず統一で一言語にしようと思う。ただ、完全な統一というのはおかしい気がするので、日本のように方言を取り入れようと思う。イメージとしては大陸北部は東北訛り、南部は薩摩訛りという感じだ。完全にわからないわけではないが、それでも半分も理解できるか微妙そう、ぐらいの塩梅の方言だ。そうやって方言があることで、地域によっての文化の違いが出しやすいかもしれない。全部が全部似たような暮らししてたらつまんないしね。


 後は通貨だが、これも世界で統一することにする。使うのは紙幣ではなく貨幣だ。大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、銅貨、青銅貨の六つに分け、青銅貨一枚が十円、銅貨で百円、銀貨が一千円、大銀貨が一万円、金貨が十万円、大金貨が百万円の価値で運用していきたい。紙幣の方が持ち運びやすいし使い勝手もいいけど、金貨とか銀貨とかの方がナーロッパっぽさが出るよね。まぁ今後紙幣になるかどうかは転生者が活版印刷を普及させるかどうかで決まるってことで。


 とりあえず一通り考えておきたい設定は完了したかな。これまで書いた分も見直して、企画書の必須項目が全て埋まっていることを確認する。よし、明日は頑張るぞ、と気合を入れつつ今日の業務は終了する






 七日目。今日は天使様に企画書をチェックしてもらう日だ。私の部屋を訪れた天使様に用意していた企画書を手渡すと、一つ一つじっくり目を通され、紙を捲る音だけが部屋に響く。その間私はまるで地獄の沙汰を待つような気持ちで固唾を飲みながら天使様のお言葉を待った。


 どれぐらいの時間が過ぎただろうか。何度もページを行ったり来たりしていた手を止め、企画書から顔を上げた天使様は穏やかな笑みを浮かべる。


「よくできていますね。過不足なく要点がしっかり纏められた良い企画書です。これなら手直しもそう必要にはなりません」


 天使様のそのお言葉を聞いて私はいつの間にか詰まってた息を大きく吐き出した。


「ありがとうございます」


「ところで、この要相談と書かれた部分ですが……」 


 そう、私が聞きたかったのはそこだ。魔族と括られるような種族を取り入れて、世界が分断されてしまうんじゃないかという不安。そこをどうにか出来ないかと考えていた。


「正直にいうと、これらの種族を取り入れようが省こうが、差別や弾圧は起こるでしょう。地球でもほんの些細な違いで起こっていましたからね。人が人である限り、完全に無くす、ということは出来ません」


「そう、ですよね……」


「なのでこう付け加えましょう。かつてはそれぞれの思い込みもあり敵対していたが、今は少しづつ歩み寄っている最中であると」


 さらさら、と天使様が種族の欄にペンを走らせる。


「あなたは世界の管理者になりますので細かく手出しすることは出来ません。それでも大きな筋書きを立てることは出来るし、その方針を転生者に共有しておけば後は彼らがやってくれます。きっとあなたの世界はいい世界になりますよ」


 にっこりと笑った天使様が企画書の一ページ目に採用と印鑑を押す。天使様のそのお言葉と、押された印鑑にじわじわと嬉しさが込み上げる。勢いよく頭を下げ、ありがとうございます! と叫べば、天使様の温かな声がかかった。


「頭上げてください。それでは早速明日にはこの条件で世界を一つ作ってお持ちします。世界の取り扱い方に関しての説明書は今お渡ししておきますのでご一読ください。今後ともよろしくお願いしますね、創世神エリーゼ」


 不意に呼びかけられたその名前に頭が真っ白になる。それ今後日常使いされるやつなの!? すごく適当に決めてしまった名前に失敗したと頭を抱える私を、天使様は面白そうに笑みを浮かべて見守るだけだった。

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