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大きなからだの山男

作者: 夢幻

まだまだ、その場所に人間がいなかった頃、山をまたいで歩き回り、雲の上を歩く山男が雲を搾って川や山々に水を与え、動物達に雲の影で雨宿りをする場所を作っていた所、ある日がまんの据えかねた小さな山達が山達が、山男に怒り、風の風太郎が現れる、のんびりとしたお話です。

それは、まだ全てがただ広い頃のお話です。



その場所は、後に水の守り神がいると言われ、青い空と深い緑の山々があるところです。


いつ頃からか、そこには大きな山男がいて、いつも山をまたぎ、悠々と歩いているか、雲に手をかけ少し下ろして飛び乗り、そのまま日の光や月の明かりを浴びで寝ているか、ひょい、ひょい、ひょ〜いと漂っている雲を渡りついで登っては、上へ上へと行ってしまうのです。



下から小さな山、大きな山、木々や動物たちは上を見上げます。

山男は、どんどん小さくなってしまいます。

大空高く舞う鳥たちに聞きましても、大きな山男は見えなくなってしまうと言います。

それに、山男が平坦そうな雲の上を歩いているとき、あの大きな山男の体が、雲に見え隠れし見えなくなってしまう事があります




彼らは、そんな見え隠れする山男を見るたびに、水平に広く見える青い空に、高く高くよどむことのない澄んだ空に、雲に乗って近く迄いけれるのを羨ましく思っていました。




「空をわたるは、大きな男

   空をわたるは、山男


 雲をかけるは、大きな男

   空をかけるは、山男」




小さな山、大きな山、木々や動物たちは、いつからか体の大きな男を山男と呼んでいて、気持ち良さそうな山男を見ては、こんなような事を口にしていました。




その山男は雲の上に横になりながら、ペラーンと地上の濃い雲の黒い影を取っておりました。

なぜ? そんなことするのかと言うと、山男の乗った雲は地上の影が濃く、ゆっくりとしか雲が動かないので、日の光を遮って悪いなぁと思うのです。その山男が、雲に腰掛けていると大きな足も小さく見え、空中をプラプラと泳ぎ、気持ち良さそうです。



また山男は、そのまま雲の上で寝てしまうことも多くありました。ほどよい風に吹かれ穏やかな暖かさの中、山男の足が空高く揺られていると、のんびりした山々の空気は、よりのんびりと感じられました。



山男の毎日はそんなようなもので、ただそれを見ると、動物たちは山男のように雲の上で寝てみたいなぁと、山達は山男が起きたときにする“のび”というのものを雲の上でしてみたいなぁと思うのでした。



山男は気は優しいのですが、気さくに喋る方ではないので、最初のうちは山男が大きすぎて、動物たちは怖がって遠目で、山男を見ているだけでしたが、渇いた大地や草木たちに川の水をかけてあげたり、雨が不足して池や川などが干上がっているときは、雲をちぎって片手ぎゅっと握るのです。



すると池や川は、みるみる冷たくきれいな水が満ちていきます。また山々にもぎゅっと雲を搾って、きれいな水をかけていきます。



水のついた手をふると、渇いた大地や草木達に冷たくきれいな水が雨のように飛び、彼らは気持ち良さにひと息つきます。

また、手の中で小さくなった雲は更に千切り、池た川から遠い山々や谷、木々の上に置きますと、雲は次第に水になって下に落ち、姿が消えていきました。



山男は、小さな花や木々も日が当たらず、場所が悪いと移し変えたり、怪我をして餌を取りに行けない狐や山の動物たちのために、木を少しゆすって木の実や魚をとってやったりしていました。

またある時は、急に雨が降ってきて雨宿りする場所までが遠く動物たちがウロウロしているときは、大地からはがした雲の影を木々にかけて雨宿りの場所を作ってくれるのでした。


そうして雨が止み、光が差す頃には、雲の影は消えていました。




そんな様子のもさもさした山男の顔をよく見てみると、クリクリした黒い目は、なんともなんとも心ひかれ、みんな少しずつ山男にあいさつをしたり、寄っていくようになりました。


そうして、山男と動物達のゆったりとのんびりした毎日が、ずっと続いていました。




この大きな男が、みんなから山男と呼ばれるようになったのは、それは毎朝、歌と言うのか、かけ声というのか、声を出して、ここらの山を歩くからです。



そんな、ある日のことです。



大きな山男は、かけ声とともに山をまたいで行きます。



「小さな山は、

  足の下

 大きな山は、

  ひとまたぎ


 大きなお山は

  木々たちで、

     足の踏み場に気をつけて

 小さなお山は

  ハゲでチビ、

     小さなお山は足の下


 小さなお山は、

  ドーン、ドン

 大きなお山は、

   ひとまたぎ」


と歌って、山男がいつものように歩いていると、小さな山でハゲでチビの土だらけの山たちが、大きな声で山男を通せんぼしました。



 

「どうしてくれる山男

    どうしてくれる山男

   どうしてくれる山男

      どうしてくれる山男」



山男は、突然のことでびっくりして、目を白黒させます。山男には、急に言われた理由がわからないのです。

小さな山達は、一呼吸してからこう言います。



「山男、大きな山には気をつけて、小さな山の私たちを踏んでいく」

土だらけの小さな山たちは、大きな山男に大きな声で向かいます。山男は、腰をかがめてこう言います。



「大きな山は、木がはえていて足の踏み場がない。踏んでしまうと木が倒れてしまう。小さな山のお前たちは、木が一本もはえていない。気をつけなくてもいい。しかも土だらけだから、足を置くのにちょうどいい」と山男は言いました



「お前が、僕たちを踏んでいくから、いつまでたってもハゲでチビなんだ。お前が毎朝、僕たちを踏んでいくから、土が硬くなって芽が出ないんだ」



山男は、ハッとして困ってしまいました。

朝早く、このちょっと冷たく澄んだ青々とした山の木を、一呼吸ごとたくさん、たくさん吸い込むのが好きなのです。



山男は、キュウキュウしてきました。

山男は、だんだん難しい顔になってきました。

山男は、だんだん汗が出てきました。

山男が、小さくなっていくのが感じられました。

土だらけの山達は、大きな声でそろえます。

ふんばって、ふんばって、大きな声で揃えます。



「山男が毎朝、歩くので、

  いつまでたっても

    チビのまま

  いつまでたっても

    ハゲのまま


 どうしてくれる山男

    どうしてくれる山男

  どうしてくれる?山男

     どうしてくれる山男」



山男は、汗をかきながら小さく小さく体を折って、こう言います。


「もう少し、もう少し待ってくれ。何か考えてみるよ。俺は体がこんなに大きく、のびのびと歩けると言ったら、こういう所で、他では、こうは歩けない。もう少し、もう少し待ってくれ。何か考えてみるから」



その日は雲一つない朝で、雲を捕まえて乗ることができず、寝ていた雲のところまで、山男は大きな大きな体に、大きな手足です

小さな山に気をつけて気にかけて、それでも小さな山たちを踏んでしまいます。

いつもの倍の倍の時間をかけて、寝ていた雲の所まで帰っていきました。



それから五日経ちますが、山男が歩く姿を見かけません。

山男が雲の上で寝そべったり座ったりとし、幾つも幾つもため息をつくばかりです。



「もう少し体が小さかったらなぁ」と、はぁーと一つ息を吐いて野山を眺め、もう一つ息をついては空を見上げ、もう一つ息をついては、何人もいる風っ子を目にしては、もう少しゆっくり走ってくれとお願いをすると、風っ子たちは「はーい」と言います。風っ子たちの走る速さが、風の速さです。



山男は、それがすむと、またはぁーとまた息をついては野山を眺め、息をつく間は長い間、短い間もあり、幾つめかの息をつくころには、黒くなった雲の影をソーっとソーっとめくり、それがすむと眼下を見下ろし、一つ二つ息をついて、三つ四つと息を吐いて、五つ六つと青息吐息 となり、七つ八つ、九つ十と幾つついても青息吐息ばかりなのです。



草木や花が少し具合の悪そうにしてるのや、場所の悪さが目につくと雲を渡って、その場所まで行き、また、雲がなければ流れに逆らって雲を漕ぎ、ようようと辿りつくと雲とその影に杭を打ち、雲の流れを止めて山男は、草木や花を移し替えていました。



私たちにとって広い平地でも、山男には狭い平地です。



小さな木や花が咲いていると避けて歩き、あの場所は大きな山さえまたげば、何もなく安心して歩ける場所であり、山男は山の気で体をいっぱいにすると、自分の大きな体が軽く風景の一部になったようで、体の大きさが気にならなくなるのです。

山男は、またほうっとため息をつき、そして空を見るばかりなです。



それから、どのくらい経った頃でしょう。

あのハゲでチビの山たちの上に、緑色の鬼が空中であぐらをかいていました。



この緑色の鬼は、鬼の風太郎と呼ばれていて一陣の風と共に、駆け足でやってきました。

大きなお山も小さなお山も、普段来る風とは逆に来る風に驚いたのはもちろん、話には聞いていた風の神様に驚いたのです。



たまに、小さい山、大きな山の上に風の子たちが留まって、自分達に話をすることがあり、東西、南北と別れている風の使いの神様を束ねているのが、風の神様『鬼の風太郎』と。

でも『鬼の風太郎』と呼ぶのは、その上の神様たちで、風使いの神様たちは『風太郎様』と呼び、風っ子たちは『風太郎様』、時には『風の鬼様』と、裏で呼んでいると言っていたの思い出しました。




『鬼の風太郎』はあたりを見回し、大きな山た小さな山たちに言いました。



「ここは、いい所だな。風っ子たちや風使いからよく聞く。大気が柔らかく澄んでいて気持ち良いと。そして、山男の話を聞いてこうして駆けてきた。風っ子たちがいうには、山男が心をふるわせて、小さく小さくしょげていると。お前たちの気持ちはわかる。山でありながらいつまでたっても草木が生えず、背が伸びず、低いままと言うのは悲しい。



お前たち小さな山に、気持ちが足りなかったと言うのは確かではあるが、山男が山を緑を動物を大事に思っているのは、よく知っておろう。


あいつはやさしい、やさしすぎる。

また、気が小さい。

山男は、動ける。

お前たちは、動けない。その気になったら、お前たち小さな山を無視して歩くことも出来るのに、そうしない。あいつの気持ちを、わかってやって欲しい。それに、まぁ今踏まれている事は後になって、感謝する時がある」



「・・・・・」

小さな山たちは無言でした。

鬼の風太郎は、、山男よりも半分の半分のもう半分よりも全然小さいのですが、神様とはわかっていても、鬼特有のカッとした大きく目が見開かれた恐ろしいお顔で、そのお顔で牙を向かれて言われると怖いのです。

ですから、フルフルと怖がりながらも鬼の風太郎様の言うとおり、自分達の言った言葉を無視して歩くこともできる山男に、「もう20日も姿を見ていないなぁ」「やはりしょげているのだろうだなぁ」と、「きつく言い過ぎたかな」「悪い事したかな」と思いもすれど、でもやはり譲れることではないと思いますが、鬼の風太郎様の最後に言った意味がわかりませんし、ムッとした小さな山たちは考えます。

きっと風の神様は、何か案があってきたのではと思ったのですが、風の神様が怖くて切り出せないでいました。




「・・・・・・」





「それでだが、お前たちの気持ちが聞きたい。何か言う事はないか」



「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」



一つ一つの小さな山たちは、それぞれに言おうとしたのですが、怒ったような目に牙を見ると、小さな山たちは動けないことが、いっそう恐ろしさが増し声が出ないでいました。



「なぜ、黙ってる。何かないのか」

鬼の風太郎の声が、幾分荒くなりました。

小さな山たちは、小さく震えました。



大きな山たちも、小さい山たちの気持ちがわかるので、“あぁ、あんなに小さいのに大変だ。自分たちが変わりに言わなければ”と思ったのですが、鬼の風太郎のお顔が怖くて言い出せないでいました。

大きな山といっても、まだ若い新しい山なのです。


その時、何か意識が凝縮したような、風のような風じゃないようなものが、その場に現れ、鬼の風太郎に、こう声を響かせました。



「そう食ってかかるな。その顔で牙を見せられ声を荒らげられては、ものも言えん」そう声が、微かに二重三重に響いてみんなに聞こえます。


鬼の風太郎は、自分の前に現れた、見た目に何もないものに尋ねました。

「・・・そんなに、怖いか」



「怖い、怖い」、また声は何重にも響いています。



小さな山たち、大きな山たち、木々も小さく小さく小さくなづきました。


鬼の風太郎は、頭をひとつふたつかいて言おうとした時、見た目なにも無い者に言われました。



「ただでさえ見た目が怖そうなのに、せっかちではいかん」



「わかってはいるんだが」と鬼の風太郎は、ふうっと息をつき、

「では、改めて聞こう。小さな山・・・ いや、そういえば山びこよ。なぜ、現れた?」



山達は、ザワっ!!!としました。

鬼の風太郎が山びこと呼んでものは、姿形が見えるといったモノではなく、なんとなくそこにいるような、あるようなといったものであり、透明な外殻の形があるように思われると、いった感じなのです。声が、微かに響いている理由も、わかりました。



「それよりなぜ、姿をなした。めずらしい」



「このレンゲを、お前さんに会わせたかったのでな、こうしてきた。このレンゲの言うこと聞いてやってくれんか」と山びこの声は響きます。



山びこが“いる”と思われる所をよく見ると、その空中に小さな小さな可憐な花が友もなく、一輪でいるのです

山びこは鬼の風太郎に、小さな小さなレンゲを渡し、山々の大気に広く広く無辺していきました。


山たちは、山びこを感じなくなりました。

山びこは存在しながらも、それだけでは何もならない。自分達(山)たちがあって、初めて生きるものであって。

でもあれは、普段は何も感じない。

あれは、何であろうと山たちは、木々たちは、動物たちはあらためて思ったのです。



「あれは、風がその場にとどまった一形態であり、無在の証明のようなものだ」

鬼の風太郎は、そこにいる者達の気持ちを感じ言いました。

山達はわかったような、わからないように思いました。



「小さな小さな娘さん。なんのようできたのかな」鬼の風太郎は、聞きます。



小さな小さなレンゲは、草のほのかに香る息をつき、りんとした響きをもつ声で、ゆうるりとゆうるりと喋り始めました。



「風使いの神様、風太郎様

初めてお目にかかります。私はあちらの山のその奥の野に咲くレンゲです。実はお願いに参りました」



そうして、山びこが広く広く広がって気配が薄くなっていったように、レンゲの声が鬼の風太郎の声が霞むように小さく聞こえ、その場所から私達は遠ざかっていってるようなのです。




もっと、もっとこの場にいたいですが、どうしても、どうしても離れていってしまうのです。

そうして、小さい山、大きい山の上空、鬼の風太郎と小さな小さな花のレンゲに注意をはらっている動物たちの姿が見えますが、それら全体がだんだんと遠ざかって、遠くの景色を見るようになっていきます。



今迄、本のお話しの中に入っていたようです

本の最終ページに近い、見開きの絵が開いています。


次のページを開くと、こう書いてあります。



鬼の風太郎が現れてから、いく日目かの事です。

山男のかけ声が、歌が響き渡ります。




「小さなお山は

  ドーン、ドン

 大きなお山は

  ひとまたぎ」


大きな山男は、かけ声とともに山をまたいで行きます。


「小さなお山は

  足の下

 大きなお山は、

  ひとまたぎ


大きなお山は

 木々たちで、

   足の踏み場に気をつけて

小さなお山は

 感謝して

   小さなお山は足の下


小さなお山は

 ドーン、ドン

大きなお山

 ひとまたぎ」




この歌は、一日おきに響きます。

ある日、山男のもとに楚々とした可愛らしい娘さんがやってきました。

その娘さんは、来る日も来る日も山男と一緒にいます。

山男が山を散歩する時も、肩にちょこんと乗っています。

山男も、大切に大切に思っているようです。

毎日がのんびりとゆっくりと確かに過ぎてゆきます。

あれから季節がいくつか過ぎました

山男の背も、以前ほど高くないようです。

小さな山たちも草木が生え、少しづつ盛り上がってきたようです。



大きな山たちも、以前より緑が濃くなって大きくなったように思います。

夏の初めの頃には、血気盛んな夏木立を見せるほどになり、山男の背はいつの間にか可愛らしい娘さんの頭三つほど離れた高さになっていました。

山男が大きな山、小さな山たちのことを歌っていた山の谷間や山の道を歩いています。

小さな山を踏むことも、大きな山をまたぐこともなくなっていました。



それでもあの歌は、山に響いていました。

ただ娘さんもは、山男の肩にのっていません。

一緒に、側を歩いています。



小さな山はたくさんの雨が降ったあとでも、土砂崩れが起こることがありませんでした

大きな山が土砂崩れ、崖崩れがあっても、小さな山は崖崩れも土砂崩れもありません。



動物達は、土砂で道が塞がれて困る事はありませんでした。小さな山の木々達も、固い土にしっかり根をおろし、雨で土が緩み、木が倒れると言う事はありませんでした。

大きな山にあったとしても。



山と一緒に娘さんが大きくなったのか、山男が小さくなったのかはわかりませんが、それでも小さな世界と大きな世界が一緒になったように思えます。



空と緑の遊歩場が、山男の望む形になったのでしょう。



そうして、一つの声がこだまします。

小さき者の、初めての声のように聞こえます。



終わり



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