第1話 貧乏なら、それを売りにすればいいの~~
私は、メアリー・ゼータ、伯爵家の次女である。
だいたい貴族は5歳から、教育が始まるが、8歳になった今も、始まる気配がない。
どうやら、うちは、貧乏らしい。
この家門は、商会から成り上がった。
王都でカジノを経営しているが、台所事情は火の車らしい。
使用人達は姿を消していく。
「はにゃ、アンどうしたの?よそ行きの服なの~~」
「メアリー様、お世話になりました。暇を出されました」
「グスン、グスン、アン、今まで有難うなの~~~」
お食事も、貧しくなっていく。
「フガー、皿に、ホロホロ鳥と書かれた紙が置いてあるだけなの~~~」
「メアリー、我が儘言わずに、作法の練習だけをしなさい!」
「自分たちは、食べているの~~~」
「仕事をしているからだ!」
今までは、使用人達に勉強を教えてもらったり。遊んでもらっていたが、いなくなったので、日中暇で暇で仕方がない。
熊のヌイグルミのミディちゃんと遊ぶ。
もう、この子しかいないのだ。
ある日、お父様、お母様、お姉様とその婚約者に宣言された。
「「「「メアリー!孤児院に追放します!」」」」
「我が儘娘だから、そこで性格を矯正しなさい!」
「分かったの~~」
どうやら、令嬢教育の予算が付かない。
今まで、私は育児放棄という代物だったらしい。
幼女は我が儘でナンボだろうと思いつつ追放された。
鞄に下着数着に、熊のヌイグルミのミディちゃんを抱え。貧民街の孤児院が引き受けてくれた。
明らかに曰くありげな貴族の娘、どこも、親、いるでしょう?と断られ、貧民街の孤児院が引き取ってくれた。
親は、寄付金を渋ったらしい。
☆☆☆数ヶ月後、どんぐりよい子孤児院、
「メアリーのバーカ!バーカ!変な話し方!!」
「馬鹿と言う方がバーカ!大馬鹿、壮大な馬鹿、激烈な馬鹿、馬鹿の三乗なの~~」
「さんじょうって、何だよ!」
「ホ~ラ、意味が意味わからないの~~、馬鹿なの~何か言って見るの~~~」
「フガー!」
と、トドメに、両手を挙げて、威嚇したら
「ウワ~~ン、ウワ~~ン、メアリーが、また、何か難しいことを言っている」
」
と泣きやがった。
これで、トムを撃破した。今日は善い日だ。
「良い子のみなさ~ん。あら、トム泣いているわ。ケンカしたのね」
「グスン、グスン」
うわ。シスター様に抱きつきやがった。ズルイ!
「フフフフ、ケンカするほど仲が良いのね。良い子はケンカしても仲直りよ」
シスター様は、イザベラ様と言って、元貴族令嬢らしい。
細い顔に、釣り目に、エメラルドグリーンの瞳、紫がかった黒髪、一見、キツい印象だけど、『良い子のみなさ~~ん』とかのたまう。
とても、優しいのだ。
令嬢特有の甘さが抜けきれていない。
だが、そこが良い。
「メアリー、年下の子に勉強を教えてあげてね」
「はいなの~~、良い子の皆は勉強するの~~」
「「「「は~い」」」
「九九のお歌を歌うの~~~」
「「「「22が四~・・・・・」」」
勉強が終わった。シスター様に報告だ。褒められて、頭ナデナデされに行くぞ。
と思ったが、おや、執務室のドアから、声が聞こえる。
「そ、そんな寄付を打ち切るなんて・・・」
「フン、孤児なんて、勉強をさせずに、働かせればいいじゃないか?」
「グスン・・・あら、メアリーちゃん」
「お勉強終わったの~、シスター様、どうしたの~~?」
「何でもないわ。あのね。午後は、おやつを食べた後、畑仕事をするわ。手伝ってくれるわね」
「勿論なの~~」
この孤児院では、お昼に、おやつがでる。フライパンで作れるパンケーキを皆でつくるのだ。
しかし、日に日に貧しくなる。
「イモかよ」
「男子、文句言わない」
教師も来なくなった。シスター様が、代わりに勉強を教えてくれる。
シスター様は、夜は帳簿つけとかしているのに、体もたないよ。
ある日、孤児院に商人が来た。
「母の形見のドレスと、宝石です。どうか。お願いします」
「ふ~む。と言ってもね。物が良すぎる。売るにしても、家門の後ろ盾がないと、どこも足下を見られますよ。私程度の商人では、これが、精一杯です」
「これで、いいですわ。グスン」
シスター様の涙を目撃した。
あれは、大事なものなのだろう。
私は呼びかけた。
「良い子の皆~~、奮起するの~~~」
「「「「おう!」」」
「「「はい!」」」
男子は朝、市場に行って、賃仕事をする。
女子は、内職で作った造花を売りに行く。
「買って欲し~~の!」
「ほう、お嬢ちゃん。孤児か。一本もらおう」
これは、お情けで買ってもらっているようなものだ。よし。更に憐憫を誘おう。
「有難うなの~~、お父様・・・キャ、ごめんなさいなの~~~、もし、お父様がいたら、と思って、グスン」
「何、よし、10本もらおう!」
「毎度なの~~~」
一端、売り上げを集めて、材料費だけを抜いた。微々たる額だ。
夕方、市場にまた行き。
皆で、お歌を歌う。
「「「「ドラゴンが西を向きゃ。尾は東~~~」」」
チャリンと銅貨を投げてくれる。
総額、銀貨2枚にも届かない。孤児50人が一日働いても、一人当たり。串焼き一本がやっと買える額だ。
薄暮に、孤児院に帰ったら、シスター様が、両手を腰に当てて、ドアの前で、オーガ立ちをしていた。
「皆さん。どこに行っていたのかしら!」
怒っている。
「あの、シスター様、これを・・」
一番年下のミアちゃんが、手渡すと決めたのだ。
「これは、グスン、グスン、心配をかけたみたいね。ごめんなさい。私って、ダメなシスターだわ。気持ちだけ頂くわ。これは、皆で分けるのよ。次からは、夜遅くまで、外に出てはダメよ。グスン、グスン」
「「「「シスター様!」」」
自分を責めるなんて・・・・・
しかし、このままでは、孤児院は閉鎖、シスター様のお母様の形見を取り返すなんて、夢のまた夢だ。
何か、良い方法はないか?と
夜、ミディちゃんを抱っこしながら、三段ベットの上でウトウトしていたら、不思議な夢を見た。
ドワーフ帝国のような世界で、私は黒髪、黒い瞳のアカデミーの学生だった。
☆☆☆夢
「先生、人権の広がりって、何とかの宣言とか箇条書きにされているじゃないですか?
しかし、ソフトの面が分かりません。どうして、その意識が広まったのですか?特に社会権が分かりません。労働組合ですか?」
「良い所に気がついたね。そうだね。
富裕層は、貧困層が、革命を起こしたら、と言う恐怖もあったが、当時に、好奇心もあったのだ。
真の金持ちは、貧乏人を好奇な目で見る。
貧民街ツアーが流行ったり。写集雑誌に、一部屋で10人以上で暮らす貧民などが掲載されて、大きな反響があったりもした。
決して、貧困が、本人の努力が足りないだけでは、片付けられない構造的な問題もあると気がついたのだよ。
他にも理由があるが、富裕層からの働きかけも大きかったのだ」
「そう言えば、試しに、理想的な工場を作ったり。貧困層を同情的に描いた文学作品なんてありますね」
・・・・・・・
チュン♩チュン♩
「貧困ツアー?・・・やってみるか?」
今日は、私は皆と造花売りにいかずに、裏組織に向かった。
ここら辺は、フランク商会のシマだ。
「おい、おい、ここはガキの来る所じゃないぞ。帰った。帰った!」
「知らないの~~、良い儲け話があるの~~」
「何だと!あっ、親分!」
「おう、儲け話だったら、話だけは聞いてやる。話は無料だよな」
「有難うなの~~」
50代くらいで、中肉中背だが、ホホに傷がある男が出てきた。
フランク商会のフランクのようだ。
ここで、私は、貧困ツアーのことを話した。
「そういやー、商人の格好のくせに、背筋はビシッと伸ばして、手は綺麗な奴がたまにくるな」
「そうなの。安全を保証するの。貧困家庭体験ツアーを売るの~~」
「でもよ。裏組織の名では誰も信用しないぞ」
「女神教会の名でやるの。『友愛促進事業団』の名前を貸してあげるの~~、一割は欲し~~の!」
「ハハハハハハ、貸してやるか。よい度胸だ。やってみるか。ダメでも損はねえ」
友愛促進事業団、造花を売りに行ったり。歌って、おひねりをもらうときの正式な法人名だ。微々たるお金しかないので、年長者が仕切っている。
今は、私だ。
階級の垣根を越えて、相互理解を深め、広く友愛の心情を広めるのが目的だから、間違った使い方はしていない。
最後までお読み頂き有難うございました。