第三話 超楽しい者達
「…赤子食いではなく、人間でもありません。」
ホログラムには、3つの光る点で示された三角形があり、拡大されると人類の船、赤子食いの船、そして新たに現れた船が映し出されていた。 そして、ホログラムはそれに集中し…
…触手とニキビと小さな毛で覆われた塊のような、これまで見たこともないようなグロテスクな宇宙船である。 ゆっくりと、まるでそよ風に吹かれるように触手が揺れ、触手のニキビが脈を打ち、まるで破裂しそうな勢いだった。 それは醜さのフラクタルであり、自己相似性のあらゆるレベルで嫌悪感を抱かせるものであった。
「彼らはディフレクターを設置していか?」とアコンが聞く。
「閣下、」レディ・センサリーは言った、「彼らはシールドを掲げていません。 新星の灰からの放射線は、彼らには問題で無いようです。 彼らの船がどんな素材でできているにせよ、その直撃を受け続けているだけです。」
テーブルの周りは沈黙に包まれる。
「うん、」ロード・プログラマーは言う、「こりゃあ凄い」。
レディ・センサリーは、まるで誰かに平手打ちされたように、ビクッと反応をする。 「我々は......彼らから人間標準のフォーマットで信号を受け取りました。コンテンツエンコードは現代英語のテキストと示され、その後にホロが続きます」
「なんだと?」アコンが言った。 「我々は彼らに何も送信していないはずだ、どうやって彼らは...」
「あの、」 船のエンジニアは言った。 「もし、この宇宙人が本当に真の意味で、その、『天使的な力』を持っているとしたら?」
「いいえ、」船の懺悔者は言った。 彼のフードは、まるで皮肉なユーモアのように、わずかに傾いていた。 「歴史が繰り返されてるだけです 」と。
「歴史が繰り返されてる?」とファンダムのマスターが困惑する。 「その船が地球の別のエベレット支部のものであるとか、彼らが何らかの方法で独自に我々と全く同じような船対船の通信プロトコルを開発したと言いたいのですか?」
「違うよ、馬鹿」とプログラマーは言った。「彼は、赤子食いが私たちに送ったように、新しい宇宙人にも大規模なデータダンプを送ったということだよ。 ただ、今回の赤子食いのデータダンプには、我々が赤子食いにに送った情報もすべて含まれているんだ。 そして、新宇宙人達は、私たちが使ったような自動翻訳プログラムを走らせたんだ。」
「ばらしましたね」と懺悔者は言った。 その声には少し笑いがあった。 「自力で解決させるべきでした。 最近、明らかに超自然的なものに遭遇することはめったにないのだから。」
アコンは首を振った。「懺悔者、時間がないんだ…気しないでくれ。 センサリー、テキストメッセージを表示しろ。」
レディ・センサリーが指を鳴らしそして…。
「ウワーイ!
お目にかかれて光栄です!
こちらは 『ゲームで遊んで超楽しもう 』船です。
(荷電粒子金融会社が運営)
私たちはあなたを愛し、あなたに超ハッピーになってほしいです。
セックスしませんか?」
ゆっくりと、意図的に、アコンの頭は鈍い音を立ててテーブルに激突した。 「なぜ、宇宙で一人っきりでいられなかったのだろう?」
「いや、待てよ 」と多種心理学者は言った。「これは理にかなってます。」
ファンダムのマスターが頷いた。 「それも非常に明快だ」
アコンの頭がテーブルの上に置かれているところから、「教えてください」というかすれた声が聞こえてきた。
多種心理学者は肩をすくめた。 「進化論的に言えば、生殖は、進化した知性が快楽を感じる活動として、おそらく一番の推測です。 パイオニア探査機の金属板のように、世界共通の親しみやすい挨拶なのです」。
アコンは頭を上げず。 「この宇宙人は何が特徴であろう。」彼は腕の中を通して言った。「子猫に虐待でもするのだろうか?」
「閣下… 」と、船の監察官が言った。 優しい口調だが、意味は非常に明確だった。
アコンはため息をつき、背筋を伸ばした。 「彼らのメッセージにはホロが含まれていると言ったな? 見てみよう。」
中央の画面が点灯した。
一瞬の静寂の後、奇妙な液体の音がして、テーブルを囲んでいた全員が一斉に息を呑み、その衝撃には監察官も息を呑んだ。
それからしばらくの間、誰も言葉を発しない。 彼らはただ…見ていた。
「ワオ、」レディ・センサリーは最後に言った。 「あれは…ちょっと…熱かった」
アコンは、蠢く人間の女性と男性の姿、そして蠢く宇宙人の触手から目を離した。 「でも…」と アコンは言った。 「しかし、なぜ彼女は妊娠しているのでしょうか?」
「もっといい質問だ、」とプログラマー。「なぜ2人は掛け算表を暗唱していたんだ?」
彼は周囲を見回した。 「何、誰も唇が読めないのか?」
「えーと… 」と多種心理学者は戸惑う。 「うん、正直想像がつかないわ…」
すると、部屋のあちこちから一様に「えーっ…」という声が上がった。
「あらまあ、 」と、異能学者は言った。 「か…、彼らはその部分を全く理解していなかったようですね。」
アコンが空中を切るような仕草を腕ですると、ホロのスイッチが切れた。
「誰かが残りを見るべきだ 」と、船の監察官が言った。 「重要な情報が含まれているかもしれない。」
アコンはそれに対して手を払う。 「宇宙人の変態を見るボランティアが減ることはないだろう。 船の「4chan」に投稿して、数時間後に誰かのコメントが「+5 Insightful」に認定されてないか見ればいい。」
(現代4chanとは匿名の基本英語の画像掲示板でありコメントでの話し合いが栗広がられているサイト。数々の有名なミームの根源でありながらもグループとして指導されるいたずらや嫌がらせ、攻撃的な内容や時に違法な内容が投稿される。)
[この宇宙人は、」ファンダムがゆっくりと話す。「この変態動画は、数秒以内に構成されたんだ。 私たちはそれを真似できない、違いますか?」
プログラマーは顔をしかめた。 「出来ない。自分の知る限り…うーん、出来ないと思うんだけど。 宇宙人の変態から、彼らが興味を持つようなホロを自動生成する? まだ誰も解決しようとしたことがない問題だし、最初から完璧にできたわけでもないだろうけど…出来ないね。」
「天使的な力はどれほどのものなのでしょう?」
ロード・プログラマーはファンダムと視線を交わした。 「大きい 」とプログラマーは最後に言った。 「超巨大かも。」
「あるいは、もっと早い時間軸で考えているのかもしれません」と、懺悔者はやさしく言った。 「彼らの神経細胞は100Hzで動作しなければならないという宇宙の法則は存在しない。」
「閣下、」レディ・センサリーは言った。「我々は別のメッセージを受け取っています、今回は音付きのホロです。 ライブ通信と表示されています。」
アコンは唾を飲み込み、指が自動的に自分のセーターのフードを整える。 宇宙人は彼の服装がだらしないことを見抜くことができるのだろうか。 口紅を3時間もチェックしていないことに、ふと気づく。 でも、来客を待たせるわけにはいかない…。 「よし。 彼らにチャンネルを開いて、自分だけを送信してくれ」
現れたホログラムは、彼の不安を解消するものではなかった。 現れた男は完璧な身なりで、どんな形式)よりも威圧的なビジネスカジュアルに身を包み、努力の跡もなく圧倒的な優位性を示していた。 顔も同じで、化粧をしなくても圧倒的にハンサムだった。ファッショナブルなスリット入りのベストからは、運動による容量が見えず、最適に彫刻されたように見える大胸筋が存在を示していた。
「超正常刺激)!」と、懺悔者 は鋭く発した。
アコンは瞬きをし、思考のモヤを払いのけた。 もちろん、宇宙人が本当にあんな姿をしているわけがない。 ホロ、それも過剰に完璧なまで構築されたホロなのだ。 現実を虚構によって劣っているように感じさせられてはいけないことを、思春期までに誰もが(人間なら誰でも?)学ぶ教訓だ。 キンブル・キニソンと比較する前提にアイザック・ニュートンと比較する時点で駄目だ」という格言がある。
(キンブル・キニソンは1937連載のGalactic PatrolのSFノベルでの主人公。途轍もなく優秀なのが取柄。)
「人類の名においてご挨拶を」とアコンが言った。「 私は巨大科学船インポッシブル・ポッシブル・ワールドの会議議長、アナマフェルス・アコンです。 私たちは…」平和のために来たというのは、赤子食いとの戦争が議論されている状況では適切とは思えず、また、「お会いできて嬉しい」というような他の多くの丁寧な挨拶は、突然、約束や嘘に近すぎるように思えた。「-あなたの最後のメッセージをよく理解できませんでした。」
「申し訳ございません」と、スクリーン中の完璧な人物は言う。 「私をビッグ・ファッキング・エドワードと呼んでください。私たちの種族については…」。 その人物は首を傾げて考えた。
「この翻訳プログラムは完全に安定しているわけではありません。私たちの正しい種族名を言ったとしても、それがどう出るかは誰にもわかりません。 私たちの種族が、翻訳ミスによって永遠に美的でないあだ名で呼ばれることは避けたいですね」。
アコンは頷いた。 「承知した、ビッグ・ファッキング・エドワード」
「あなたの実際の言語は、私たちには想像出来ない形式です」と、完璧なホロは言った。 「しかし、歓迎の際に送った通信の中に解読出来なかった物があれば謝罪します。人間の性を理解する前に自動的に作られてしまったのです。 しかし、生殖に苦痛を感じるように進化した種があるとは、誰が想像できたでしょうか? 私たちにとって、出産は最大の喜びであり、急がず、出来るだけ長く体験すべきものなのです」。
「あ、」とレディ・センサリーが急に理解の音を立てる。「だから触手が赤ちゃんを押し戻そうと…」
視覚外で、アコンがセンサリーに黙れと手で合図を送る。 アコンは前へと身を傾げる。 「あなたが今送っている映像は、もちろん現実ではない。 あなたは実際にどのような姿をしているのでしょうか?- もし気分を害する要求でなければ。」
完璧な偽りの男が眉をひそめ、困惑した表情を浮かべた。「理解しません。そうすれば貴方は話し合いに使われる体の仕草が読み取れなくなります。」
「それでも見たいのです」とアコンが言う。「説明する方法がわかりませんが、真実は私たちにとって重要なのです。」
美しすぎる男は消え、その代わりに…。
狂おしいほどの鮮やかな色彩、狂気の色合いが一瞬、彼の視覚を打ち負かした。様々な 形は見えたものの、それらを理解することは出来なかった。 沈黙の中、その巨大な塊は支えの棒の周りを蠢く。
蠢き、ねじれ、震え、脈動する。
そして、幻覚の男が再び現れる。
アコンは苦悩を顔に出さないように努めたが、おでこにチマチマと汗が浮かび上がる。 さっき見た宇宙人の姿には不快な要素があった、安定した背景も含めて。サディストが設計した錯視を見ているかのようであった。
そして…あれが宇宙人である、そう彼らは主張した。
「質問があります」と偽造の男は言った。 「苦しませるよう発言であれば申し訳ないですが、私たちの科学者の言うことが正しいかどうか知りたい。 君たちの種族は本当に、デオキシリボ核酸(DNA)とシナプスの電気化学的伝達のために、別々の情報処理の方法を進化されたのでしょうか?
アコンはまばたきをした。 目の端から、テーブルの周りで用心深く視線を交わす人影が見えた。 質問の意図が見えないが、宇宙人達はすでにそれを質問するほど理解しているのだから、嘘をつくのは避けた方がいい。
「質問の理由がよくわかりません。我々の遺伝子はデオキシリボ核酸でできている。 私たちの脳は、信号を電気的に伝達するニューロンで出来ていて…」。
そう言った瞬間幻覚の男は両手に顔を委ね、赤子のように泣き喚く。
アコンは「助けて!」と手で話す。多種心理学者は何も知らないと肩をすくめた。
いったいどうしたものか。
偽の男は突然、両手から頭を上げた。 頬には涙がにじんでいたが、顔そのものは涙を止めていた。 「こんなにも長い間待ったなお…」その声は悲劇的だ。 「これほど長く待ち、これほど遠くまで来たのに、星々のどこにも愛の痕跡がないと思い知るだけに。」
「愛?」アコンは繰り返した。 「誰かを思いやること? 守ってあげたい、一緒にいたいと思うこと? もしそれが正しく翻訳されるなら、「愛 」は私たちにとってとても重要なものだ」。
「でも!」アコンを飛び上がらせるような音量で、その人物は苦悶な叫びをあげた。 「でも、セックスをするとき、翻訳不可能第二はしない! ニセモノ、ニセモノ、こんなものは模造語にすぎない…」
「『翻訳不可能第二 』とは?」アコンは聞いた。そして、彼がが再び泣き崩れるのを見ながら、言わなければよかったと思う。
「彼らは私たちのニューロンとDNAが別々かどうか尋ねてきた。」と船のエンジニアが話す。
「だから、1つの構造しか持っていないのかもしれない。 うーん...今にして思えば、それは進化にとって当然の結末だとも思える。 遺伝子の情報保存が既にあるなら、なぜ脳の情報保存をわざわざ別の構造で作られるんだ? だから…」
「彼らは交尾をするとき、互いの考えを共有するのです」。 「人が一度は思う夢ですね。 それで彼らはそれを中心にに感情を発達させたのでしょう、私たち自身は持っていない感情の作りを… うん。 私たちには愛というものが欠けているのかもしれませんね」。
「おそらくね」多種心理学者は静かに言った。 彼らの知性の夜明け前から、交尾でしか話しが出来なかったのでしょう。 進化論的には、一応理にかなっている。 とにかく情報を注入するのであれば…」。
「ちょっと待って」とレディ・センサリーが言う。「それなら、彼らはどうやって私たちと話しているんですか?」
ロード・プログラマーは突然何かに気づいたらしく、答えを上げる。 「人類は常に新しい通信技術を変態に使ってきた。 インターネットは変態のためにある、だが彼らの場合は逆だったに違いない」
アコンはまばたきをした。 突然、彼の頭の中には宇宙人であるあの塊と彼が触手で繋がられているイメージが浮かぶ。
あの船のどこかで、あの球体が私の代わりにアバターと愛し合っている。 たぶん、司令部全員の乱交パーティだ。
私はサイバーレイプされたんだ。 いや、今まさにレイプされてるんだ。
宇宙人は、どれだけ宇宙をさまよい、どれほどの時間をかけて、他の意識と話すこと、愛し合うことに憧れ、探し続けてきたのか...。
突然、幻覚の男が直立し、司令会議のスピーカーが扱える音量を上回り消し去るほどの威力で叫んだ。 誰もが飛び上がり、ファンダ・ムマスターは驚きに小さく悲鳴を上げた。
自分は何をしたんだ何をしたんだいったい何をしたんだ。
そしてホロは消えた。
アコンは息をのみ、椅子の上でうつむいた。 アドレナリンはまだ体内を駆け巡っていたが、疲れきってい。 彼は自分の形を解き放ち、以前スクリーンで見た奇妙な塊のように、水たまりへと溶けてしまいたかった。
「閣下」船の懺悔者が優しく言い肩にそっと手を置く。 「閣下、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」とアコンは返す。 声が、わずかにふるえる。 「宇宙人と話すのは難しい。 彼らは私たちと同じようには考えず、自分の間違いが何なのかがわからない。」
ファンダム・マスターはわざとい明るさで言った、「彼らはそれを 『異星人疲労 』と呼び、異星人と5分以上話すことを禁じてくれるであろうか?」。
アコンはただう頷いた。
レディ・センサリーがためらいがちに言った。 「音声付きのホロで、またリアルタイム通信です」。
「アコン、今でなくても…」とマスター・ファンダムが心配する。
アコンは体を起こし、服を整えた。 「その必要はある。 彼らは宇宙人、時を開けたら何が起こるか… いいから、通してくれ」。
ホロが最初に表示したのは、上品な現代英語で書かれたメッセージだった:
第3代レディ・キリツグ
ゲーム実況者の臨時共同代表
言語翻訳バージョン3
文化翻訳バージョン2
画面は読み取るのに十分な時間それを維持した後、消去し…
真っ白な女性が現れる。
翻訳者が描いた3代目のキリツグは、白黒と灰色で統一されていた。グレースケールのような無彩色ではなく、色が乏しい世界のイメージだった。 肌は、まだ魅力的と呼べる最も薄い人間の肌の色。雪のように白いわけではないが、白い髪、ブラウス、ブレスレット、ロングドレスはすべて灰色でコーディネートされている。 その女性は美人と呼べるかもしれないが、前に見せた偽物の男のような刺激的な美しさはなかった。
彼女の顔は、人間が「穏やか」と名付けた感情で整えられていた。
「私と私の姉妹がこの船の指揮を取ることになりました」。
アコンはまばたきをした。 彼らの船で反乱でも起きたのか?
そしてまた異星人の不可解さへと戻る、ナイフのような決断と予測不可能な反応、失敗することへの致命的な恐怖が戻ってくる。
「気に害する言葉を言ってしまった場合、申し訳ございません。」アコンは慎重に言った。
第3レディー・キリツグはは片手で空気を切り裂く動きをし発言する。 「私を怒らせることは出来ません」。 彼女の顔には、その提案に対して軽く侮辱されたかのように表現していた。
「今、あなたの船で何かあったのですか?」
キリツグは答える、「乗組員たちは精神的苦痛を感じています。 それは彼らの義務の範囲を超え、報酬を得るために船内の快楽センターに戻っています。 このような状況では、この船のキリツグ(きりつぐ)である私と二人の姉が指揮を取ります。」
私がそんなことを? 「私の言葉で貴方に精神的苦痛を与えるつもりはありませんでした。」
「あなたに責任はありません。他の者達の影響です。」
「赤子食い達?」 アコンは思わず言った。
「赤子食い」と第三レディーは繰り返した。 「この星系に存在する第3の異星人のことをそう呼ぶのであれば、そうです。乗組員たちは赤子食いの存在を理解し、子供たちの苦しみを分かち合うことで無力な状態であります。」
「なるほど」とアコンは言った。 彼は、自分たちの種族が赤子食いの存在を知る時、涙を流したものの普通に機能し続けることができることで、人類として奇妙な恥のようなものを感じた。
第3レディーの視線が鋭くなった。 「赤子食いについてどうお考えですか?」
「まだ決めていません。」 とアコンは答える。「実際、あなたが到着したときに議論していたところです。」
「現時点で最も望ましいと思われた代替策は何ですか?」第3レディーは即座に問い返す。
アコンは肩をすくめた。「私たちは話し合いを始めたばかりです。 提案された選択肢はどれも受け入れがたいものでした。」
「どれが最も受け入れやすいと思いましたか? 現在の最有力候補は?
アコンは首を振った。 「まだ決めていません。」
キリツグは困惑の色を浮かべながら、厳しい表情を浮かべた。 「あなたは情報を隠している。 なぜでしょうか? 望ましくない印象を与えるとお考えですか? そうであれば、そのあなたの期待を私はこれから考慮しなければなりません。 さらに、あなたは私がその期待を考慮することを承知した上でなおそうおうしゃってます。つまり、この推論を考慮に入れた後でも、あなたは私がその深刻さを過小評価することに期待していると…」
「失礼します」、船の懺悔者が割り込む。 その口調は穏やかであったが、緊急性を帯びていた。 「今すぐこの会話に加わるべきだと思いました」。
アコンの手がレディ・センサリーに同意のサインを送る。
キリツグの視線はすぐに、アコンの横に立つ懺悔者に移った。
「人間は、心理的な影響なしに 『現在の最良の候補 』を指定することはできません。 人間の合理主義者は、解決策を提案する前に、問題をできるだけ徹底的に議論するようにとを学ぶ。 人間にとって解決策は、説明するのに詳細な認知科学が必要となるような複雑さがあるのです。 私たちは解決策の探りを自由にすることは出来ますが、第一候補となるような提案を出したら自然と時とともにそれに引き寄せられるのです。 また、モラルに否定的な特徴を持つ解決策を候補として提案することは、人間に羞恥心を抱かせることになる、第一候補などと呼ぶとその選択を求めていたかのように聞き取れる。 その羞恥心を避けるために、人間は2つの悪い選択肢のうち、どちらが他より優れているかを言わないようにする必要性があるのです」。
宇宙人にそう説明されるのを聞くっまで、それがどれほど恥ずかしいことか気づかなかった。
どうやら宇宙人も同じようなことを思ったようだ。 「では、あなたがたは、心が壊れることなく、いくつかの選択肢のうち、現在どれが最善と思われるかを私に言うことさえ出来ないのですか? 宇宙船を建造できる種族にしては、かなり信じ難い話ですね」とキリツグは怪訝そうに言った。
懺悔者の声には笑いが混じっていた。 「私たちは偏見を克服しようとしているのです」
キリツグの視線はさらに睨む。 「あなたがこの船の真の意思決定者なのですか?
「そうではありません。 私は 懺悔者であり、人類の合理主義を専門とする者です。私達は指導の席に座らないと誓ってあるのです。」
「この会議は、3つの種族の将来を決めるものです。 もしあなたがより優秀であるなら、あなたが主導権を握るべきです」。
アコンはわずかに眉をひそめた。どういうわけかそのような考えはよぎらなかった。
コンフェッサーは首を振った。 「私が指揮を取るべきでない理由は、それは私の職務を超えたところにあるからです。 それに私は年を取りすぎている」。
年を取りすぎている?
アコンはその疑問を一旦放置し、キリツグへと振り返った。 彼女は、自分と2人の姉が指揮を取った以外は、乗組員全員が行動不能な状態だと言っていた。 そして彼女は 懺悔者に、彼が真の指揮を取っているのかと尋ねた。
「あなたは同族の『懺悔者 』に相当する存在なのですか?」
「大いに違います」と第3レディーは答えた。
「大いに違います」と、懺悔者はほとんど同時に言った。
不気味に息が合っているじゃないか。
「私は第三のキリツグです、 私の種族の初期には、人助けを完璧にこなすために自らの幸福を遠ざけ、翻訳不可能第三を用いて感情を殺し、抽象的な目標の知識のみで行動する者たちがいました。 これらの人々は、大規模な翻訳不可能第四によって強制的に正常に戻されたました。 しかし、私は彼らの思考の系統から下り、緊急時には彼らの翻訳不可能第五を呼び起こします。」
「私は懺悔者である、人類の過去において、真理を最も高く評価し、真理を見出すための体系的な方法を求め追った者である。ベイズの定理は場所によって異なる物ではない。純粋な数学的形式での法則は常に同じである、十分に発展した種族が同じ元素の周期表を発見するように。」
「そして、普遍的なものであるため、」キリツグが話す。「その起源を区別する証拠はない。 たとえ同じ法則を利用しているとしても、キリツグの目的は懺悔者のそれとは違うと、思い知るべきですロード・アコン」。
「それでも、我々は互いに歪んだ鏡像として見るには十分似ている 」と懺悔者は結論づけた。 「異端だとあなたは言うかもしれない。 しかし、彼女は懺悔者にとって禁じられた究極の罪、指揮権を所有している」
「あなたも私の条件で欠陥しているように、」キリツグが最後に結論した。「助けるのを拒む者よ。」
会議テーブルの他の全員が、異星人のホロを、そして懺悔者を、どん底な恐怖を映すような目で見つめていた。
キリツグは視線をアコンに戻す。 それは単なる目の動きであったが、その動きには何か明確な力があり、まるで翻訳がそれでもっと強い何かを表しているつもりかのように。 彼女の声には、要求と説得力があった、「赤子食いに対処するために、あなたの種族はどのような選択肢を用意したのですか? それを列挙してください。」
彼らの種族を絶滅させるか、刑務所に入れ自殺監視をし続けるか、彼らを無視して子供たちを苦しめ続けるか。
アコンは躊躇する。 奇妙な警告の予感が妙に刺さってくる。 なぜ彼女はこの情報が必要なのか?
「もしあなたが私にその情報を途絶えるのであれば、私はあなたが私にその情報を知られたくないという事実を認識し考慮に入れます。 」とキリツグは言った。
格言が言うように秘密の最も重要な点は、その秘密が存在するという事実である。
「わかった、」アコンが言う。 赤子食いをそのままにするという代替案は受け入れられなかった。彼らを絶滅させるという代替案も受け入れられなかった。彼らの選択と種としての本性を尊重したいが、その選択を共有していない子供たちは、望まない被害者。私たちにはそれは受け入れられません。子供たちを生かし続けたいが、彼らが成人し、自分たちの赤ちゃんを食べたいと望むようになったらどうするかわからない。それが、私たちが生成した選択肢の範囲で、あなたの船が到着した瞬間まで進んだものです。」。
「それだけですか?」とキリツグが問う。「それがあなたの思考の合計ですか?これはあなたの種が『冗談』や『礼儀』のように内部の信念に反する信号を送る状況の一つですか?」
「いいや、」とアコンは返事する。「いえ、そうです、そこまでしか進んでいません。それで冗談ではありません。」
「知っておくべきです、」 懺悔者が言う。「この乗組員も赤子食いを理解したことで、私たちの通常の機能に干渉するある種の苦痛を経験しました。私たちはまだそれを経験し続けています。」
そして、あなたは秩序を直すために行動した、アコンは思う、キリツグとは方法が異なるが。
「そうですか、」キリツグは返事する。
そして彼女は静まる。彼女が身動きしないその数秒間は長く感じ取れた。
そしたら、「なぜまだ赤子食いの船を無効化していないのですか? あなたの船にはその能力が備わってるはずです、現在あなたの目的が彼らと対立していることを認識しているはずです。」
「理由は、彼らが私たちの船を無効化していないからです」とアコンは言う。
キリツグは頷く。「では、あなた方は対称主義者ですね。」
再び沈黙。
その後、ホログラムはぼやけ、その中に言葉が現れる。
「文化翻訳者バージョン3。」
ぼやけたのが解消され、あの白々(しろじろ)な女性が現れる。前とほぼ同じだが、彼女の穏やかさがより強く感じられる気がする。
第三レディー・キリツグは背を正し、儀式を始めるかのような真剣な表情を浮かべた。まるでこれからポエムを朗読するかのように。
「私は今、私の種の代表として、あなた方の種に語りかけます」とキリツグは宣言する。
アコンの背筋に寒気が走る。これは偉大すぎる、私には手に負えない…
「人類よ!」とキリツグは誰かの名前を呼ぶかのように声を上げる。「人類よ、あなた方は苦痛が存在し続けるよりも存在しないことを好む。私たは自身の技術が到達したとき、私たちは苦しみの原因を排除しました。身体の痛み、困惑、ロマンの苦痛はもはや許さない存在です。人類よ、あなた方は喜びの不在より存在するのを好む。私たちは快感の強烈さ、性と出産、そして翻訳不可能第二に専念しています。人類よ、あなた方は真実を嘘よりも好む。私たちの本性では、ユーモアや謙遜、フィクションとしての困惑するような発言はしません。なるべく情報を隠したり控えないことを学び気遣いました。人類よ、あなた方は平和を暴力よりも好む。私たちの社会は犯罪や戦争が存在しません。対称的な共有と翻訳不可能第四を通じて、私たちは喜びを分かち合い、共に快感を得ます。私たちの名前はあなた方の言語では表現できません。しかし、あなた方、人類に向けて、私たちは今、私たちが共有する最高の価値を元に自らを名付けます、私たちは「最大に楽しいよ超幸せ人』です。」
会議室で何人かがむせる音がする
「あの…」とアコンは思考を巡らせ言った。 「えっと…おめでとうございます?」
「人類よ! 人類よ、科学技術に到達したとき、あなた方は同様に自らを修復しなかった。 それが何かの間違いなのか、よく考えていなかったのか、それともあなた方の意志が本当に我々と大きく異なっているのか、私たちにはまだわかりません。 どのような理由であれ、あなた方は現在、私たちの種が排除した苦しみの存在を許している。 肉体的な苦痛、恥ずかしさ、恋愛の悩みは、あなた方の間ではまだ知られている。 したがって、あなた方の存在は、私たちが痛みとして共有しているのです。 人類よ、あなた方が見せるその対称性によって、この事態を改善してくれないだろうか?」
衝撃と警戒の電流が会議中に走った。ロード・パイロットは即座にエンジニアに目をやるが、機関士は激しく首を横に振った。 宇宙人の船に対してできることは何もない。もし攻撃されたとしても、自分たちのシールドはほとんど役に立たないだろう。
アコンは荒い息を吸い込んだ。 彼は突然、脳が溶けてしまいそうなほど、この瞬間のまわりで未来がねじ曲がっていく感覚に気を取らる。
あなたにとって、子猫を虐待するのは人類なのか。
彼自身、赤子食いの経験を通じて、この可能性を予見すべきだった。もし赤子食いの存在が人類にとって道徳的に受け入れがたいものであるなら、次の異星人種も同様に許容できない存在かもしれない。あるいは、彼らは人類の存在を言葉にできないほどの残虐として恐ろしく思うかもしれない。それはコインの裏側である、人間にとっては考えにくいかもしれないが。
おかしなことだ。ここからではそれほど悪くは思えないのに…
「でも、」アコンはそう言ってから自分が言葉を発したことに気付く。
「でも?」とキリツグが繰り返す、「以上が回答の合計ですか、人類?」。
彼女の顔には、何かもどかしさ、さえも驚きのような表情が浮かんでいた。
彼はこの返答を詳細に計画したわけではなかったが…
「あなたは、私たちの存在を痛みとして共感するという。 だからあなたも、ある状況下では快楽よりも苦痛の方が好ましいと信じていないですか?。 もし、他人が苦しむ時に痛みを感じないなら、自分自身が望むような存在ではないと感じませんか?私たちも同じです。」
しかし、キリツグは首を横に振って言った。 「あなたは、自分の仮説から証拠までの条件付き可能性が高いことと、証拠が与えられた場合の仮説の事後確率が高いことを混同しています。」と、まるで自分の言語ではそれが一言であるかのように言う。「人類よ、私たちは他の人々が感じるものを感じる一般とする能力を持っています。単純に純粋な関係です。私たちはその能力に痛みを除外するように複雑にすることを考えませんでした。そして、他の有感知種が星々を渡り、私たちに出会いながらも自身を修復していないという確率を高く見積もることもありませんでした。将来に他の種と出会った場合に相手の修復がどうしても出来ない状況と出くわしたら、私たちは痛みへの共感を除外し、痛みを和らげる衝動に置き換えるように私たちの共感能力を修正するでしょう。」
「しかし…」アコンが言いう。
くそ、また話し始めてしまった。
「しかし自分達でそう決めたんだ、こう望むと。」
「それは私達にとってあなた達が重視する程の価値観ではありません。」とキリツグは答える。 「しかし、人類であるあなたでさえ、それが無意味であることに気づくはずです。 人間は苦痛よりも快楽を好むと同時に快楽よりも苦痛を選ぶ理論を好むその複雑な気持ちを私達はまだ理解しようとしている。 しかし、私たちはすでに、あなた方の子供たち、人類はこれらの哲学の根拠を共有していないと判断している。 苦痛を受けたとき、彼らはその意味を考えない、ただ苦痛を止めるよう求め。 彼らのその単純な…」
彼らは人間の子供とよく似ているのよ、本当に。
「…有様は私達の人生での幼い頃と似ているのです。」
あの白々とした女性には今や静電的な空気に包まれ、恐るべしい圧がある。「そして、人類よ、どの子供が苦痛に苦しみようと、それを止める望みでと訴えるとき、6万5,536隻の船が必要だとしても、私たちはその呼びかけにどこからえでも応えるのだということを理解してほしい」。
「人類よ、私たちの視点を理解していただけると信じています。私達にお勧めしたい 選択肢はありますか?」
間違ったり違和感を感じた部分、フリガナを付けた方がいいと思う漢字があればメッセージやコメント, gouriteki.honyakusha@gmail.com へのメールなどでお願いします。