挑戦 中編
「え!?難しいとされている氷属性だけでなくその上、魔法の途中変化までやってのけたんですか!?」
「うん、そうだね。」
「はわ〜、凄い、凄すぎる!今まで魔法の途中変化なんて、誰もやり遂げていなかったのに、もう既に実行することが出来た人がいたなんて……。」
そう、ラノの言う通り魔法の途中変化は今までやり遂げた人物はいなかった。否、報告されなかったというのが正しいだろう。だって実際、私の師匠はもう既にやってのけていたのだから。
だから、私がこの事実を知った時、こう思った。
『師匠、やばい。』
って。いやだってさ、普通あんなに魔法が使いこなせてたならさ、『上位の魔法使いなんだな。』って思うじゃん。
だから私が大勢の人達の前でさ、魔法を使ったら大変なことになっちゃったんだよね。
あの時ほど、『常識を教えて欲しかったな』なんて思った時はないよ。
「ラノ、魔法の途中変化見た時あるよね?」
「え、いや見た時無いですけど……?」
「いや、あるでしょ。私がラノと初めて会った時に放った魔法。あれだよ?」
「え、ほ、本当……ですか?」
「うん、本当だよ。」
「うわあああああああああああああああああ!なんであの時もっとよく見てなかったんだ!!そして、俺あん時なに先生に迷惑かけてんだよ〜〜〜!!」
うん、やっぱりこうなったか。
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ガサッ、ガサッ、ガサッ。
今現在、私はオウカさんの家があるピセラの森のさらなる奥深くを歩いてる。その先には、白と黒、茶色と……とにかくそこら辺にいるようなネコが歩いてる。
なぜこんなことになっているかというと……、
『さて、試練の内容について話そっか。ネロナも落ち着いたようだからね。』
『ゔ、はい……。』
『ふふっ、ネロナが行う試練は単純明快。とある薬草を持ってくるだけ。』
『とある薬草?』
『そう、名前はパタシアル。見た目はまるで透明な結晶をそのまま花にしたような薬草だよ。つぼみの状態のものを取ってきて欲しい。』
『何に使うんですか?』
『ポーションだよ。パタシアルは目の病気にとても効くんだ。』
『へぇ〜、そうなんですね。あれ、私その"パタシアル"っていう薬草の場所知りませんよ?もしかして……。』
『ああ、それについては大丈夫だよ。さすがにパタシアルの生えている場所は案内人をつけるよ。』
『案内人?オウカさんが場所を教えてくれる訳ではなく?』
『うん、そうだね。ネロナを案内してくれるのは……ああ、きたきた。ほら、この子だよ。』
『ネコ……ですか?』
『そう、名前はツキミ。ネコだからって見くびっちゃ駄目だよ。ツキミは頭がとてもいいんだ。それこそ、人の言葉が理解出来る程にね。』
『へぇ〜、凄いですね。』
『あとそれと、はいこれ。』
『これは……、小瓶のネックレス?』
『そう、まあお守りみたいなものだよ。』
『お守り……ですか。』
『ああ、言い忘れるところだった。パタシアルを取る場合、根っこは残してね。そうするとまた生えてくるから。』
『あ、はい分かりました。』
『パタシアルを持って来る際の手順は問わない。買うのは流石に禁止だけどね。それ以外なら、君の好きな方法で持ってきていい。友達と協力して取ってくるもよし、使い魔に頼んで取って来てもらうもよし。ネロナはどうする?』
『自分で取ってきます!!』
『そっか。それじゃあどうする?今すぐ取りに行ってくるか、体力を回復させるために明日にするか。』
『今すぐ取ってきます!!ツキミ、よろしく。』
『ンナァー。』
『あ、はい薬草を入れる袋。気をつけて行ってきてね。行ってらっしゃい。』
『は、はい!!行ってきます!!』
っという訳なのだ。
今の所、オウカさんが対峙したような魔獣は現れない。けれど、またあいつーー顔が熊で、体が狼のような姿をした魔獣ーーのような凶悪な魔獣が出てきてもおかしくない。
それにこっちには守るべき対象がいる。それは"ツキミ"だ。彼女?彼?どちらかは分からないが、ツキミは案内人ならぬ案内猫だ。頭がいいと言っても、私より弱い存在。
おそらく、オウカさんはそういうことも試練での評価の基準にしているのだろう。だから、わざとツキミを案内人にしたのだろう。
だから……なのか、ほんの少しの音がしただけで肩がビクンとする。
パキッ
なに!?
周りを見渡して見るとその正体はすぐにわかった。私が踏んだ木の枝が折れただけだった。
ほっ、良かった。自分でも分かっている。気を張りすぎてることに。だけれど、この試練は私にとって大切なものだから。私の人生の行き先を変えると言っても過言では無い。だからこそ、失敗出来ない。
ツキミについていくと、その先には大人の人がギリギリ通れるぐらいの大きさの洞窟があった。そして、その洞窟の前には私よりちょっとだけ小さい緑色の人の形をしたものがいた。
"ゴブリン"だ。
ゴブリンは本能に従う狼と同じような知能を持っている。少し違うとすれば、多少人間と同じように道具を作るということ。しかし、怠け者としての本質が強いのかよく人間を襲い、そこから物資を得ている。
そのため、人間と似たようなことをするのに魔獣という分類がされている。
ちなみに、対峙している生き物によって魔獣か魔物かが分けられるらしい。なぜ"らしい"と付けたかというと、魔獣か魔物かの見分け方が確立されていないから。
だから新種の害のなす生き物が見つかった場合、魔獣か魔物かで偉い人が議論をかわすらしい。
まぁそんなことは置いといて、あのゴブリンをどうやって洞窟の前からどかすのかが問題だ。ツキミは、あの洞窟の中に入りたそうにしているが、ゴブリンがいるからか、困ったような目で私を見てくる。
どうする?選択肢としては、4つある。
1つは戦闘、
2つ目は交渉、
3つ目は村の人達を頼る、
そして最後は諦める。
まず、1番無いのが"諦める"という選択肢。だってせっかくここまで来たのにその意味が無くなってしまう。
次に"村の人達を頼る"選択肢。これの場合は、オウカさんに向かって『1人で挑む』と言ったのに嘘をオウカさんの前でついたことになってしまう。
そして"交渉"という選択肢。ゴブリンはさっき説明した通り、人から物資を奪っている。つまりゴブリンに物資を渡す代わりに、洞窟の前から退いてくれないかを交渉するのだ。
しかし、ゴブリンはそもそも人間の言葉を理解出来るかどうかなんて実際にやってみなければ分からない。もし理解出来なかった場合、最悪ゴブリンに襲われてしまうだろう。
最後に"戦闘"という選択肢。これが1番洞窟の中に向かうことが出来るだろう。けれど私にとっては1番……心配な選択肢でもある。だって、私は魔法を上手く扱えない。かといって私に剣術が備わっている訳でもない。
どうしよう……。
「ニャア〜。」
「あ、ツキミ。わかってる、急がないと……だよね。」
そうだよ、早くしないと試練が失敗しちゃう。
ツキミが私の目を優しい金色の目で見てくる。それはまるで、オウカさんの髪の色みたいで……。
『確かに外側の実力は、分かるようになる。』
『でも、中の実力は、分からないままになる。』
私……本来の……。
気づけば私の体は、頭で考えるよりも早く動いていた。多分、私は信じたかったんだと思う。私自身の可能性を……。
まず、洞窟の前にいる二匹のゴブリンを他の場所に行かせる為に、自分がいる所とは違う方向に出来るだけ大きい石を投げる。
「グギャ?ギャララ。」
「ギョギャ、ギャギャァ〜。」
ガシッ
「グギャ、グギャロー!!」
「ビャャャャャャャャャ!!」
ゴブリンは他のゴブリンを引っ張って、私が石を投げた方向へ向かって行った。
なんか悲鳴みたいのを上げてたけど……うん、先に進もう!!
そうして、洞窟の中を進んで行くとゴブリンが1匹だけいた。
どうしよう、さっきみたいな手は使えない。魔法だってファイヤーボールは使えるけど、燃やすことは出来ない。オウカさんみたいに凄い魔法でも使えたら別だけど……。
ん?オウカさんみたいな?
これなら……!!
「ねぇ、ゴブリン?聞こえるかな〜?あんたってブッサイクだよね〜。」
ゴブリンの顔が真っ赤に染まる。
「グギャロロロロロロロロロ!!」
そう叫んだあと、ゴブリンは私に向かって突進してくる。そうしたところに私はゴブリンの突進を避ける。その結果、ゴブリンはその先の壁に激突することとなり、頭をクルクル回す。
その隙に全魔力を手に集める。そしてイメージをする。オウカさんみたいに出来るだけ派手で綺麗になるように、大きい大きい炎を、燃えなくたっていい。そして、詠唱をする。
「ファイヤーボール!!」
その瞬間、私自身も見とれるような綺麗な炎がゴブリンに放たれた。
そして同時に思った。これが"私の"可能性なのだと。
さて今回はファンタジー定番のゴブリンが出ましたね。作中のゴブリンは何かを喋っていたのですが、実はこんなことを言ってました。
「ん?おい、何か音がしたぞ。」
「そうだね、頑張ってね〜。」
「おい!お前も行くんだよ!!」
「いややややややややややや!!」
まぁ、うん、頑張れ!!`,、('∀`) '`,、
ああ、あと案内猫のツキミなんですが、モデルが我が家のネコなんですよ。性格は作中のツキミとは違いツンッツンのツンデレですが。まぁ、そこがかわいいんですがね。
雄か雌かは今後のお話で分かるのでそれまで楽しみにしててください。
それでは次回までばいなら〜(,,・`∀・)ノ