挑戦 前編
「無詠唱!?それも、氷の魔法で!?」
ラノが口をパクパクさせながら、驚いた顔をしている。
まぁそりゃ驚くよね。
この世界では、魔法に属性がある。その属性には多くの種類があり、中には禁断の属性がある程だ。そして属性によっては、扱いにくい属性ががある。その代表格が氷属性の魔法だ。
例外はあるが、身近に感じられる事象ほど魔法の属性は扱いやすい。だが氷属性の魔法の場合、多くの国には雪は降らないし、水が凍ることさえない。だから、氷属性の魔法は扱いにくいのだ。
「さすが先生の師匠ですね!!そんな凄いことを軽々と扱うなんて!」
スゥ〜〜〜
か〜わ〜いい〜〜
いやさ、褒めてるのは私の師匠のことだけどさ、やっぱり弟子の満面の笑顔がとっても可愛いんだよ。あ゛〜〜誰かに自慢したい゛〜〜。
っは、そうだ。師匠に送る手紙を書く時に自慢しよう。あ、でも師匠だしな〜。引かれないかな〜。師匠に失望されたらどうしよう……。
うん、師匠は優しいし、大丈夫だよね。
「生……、先生……、先生!!」
「うわっ、びっくりした。」
「先生、そんなに考え込んでどうしたのですか?」
「あー、いや、ラノには関係ないことだよ。」
言えない、ラノの可愛さに悶えてたなんて……。
「よし、話の途中だったからね。そろそろ続きを話そっか。」
「あ、はい!!分かりました!!」
よしっ!!これで話をずらせた。
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「試練?」
「そう、君の今の実力を知りたいからね。」
「だったら、今私が魔法を打てば分かるんじゃあ……。」
「確かに外側の実力は、分かるようになる。」
「だったら、」
「でも、中の実力は、分からないままになる。」
「私、本来の……?」
そんなの無い……のに。だって、私は魔法をまともに打てないし、どれだけ頑張っても魔力の量だって増えない。私の本当の実力なんて分かりきったことなのに……。
「よしっ、試練の詳しい話は僕の家で話そっか。」
「……はい。」
オウカさんは狩った魔獣を処理していた。刺さった氷の針は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
不思議。何で真っ赤に染まってるんだろう。オウカさんに聞きたいけど、少し……気まずい。
けれどその答えは、すぐに分かった。
刺さった氷の針が消えたかと思えば、オウカさんはテキパキと魔獣を解体していく。よく見ると、血は全くもって出ていなかった。
そう、血は全て氷の針に吸い取られていたのだ。だから、氷の針は真っ赤に染まっていたのだ。
凄い。
その言葉しか出ない。だってあんな魔法、見たときも聞いたことも無い。もしかしたら、上位の魔法使いには普通の魔法なのかもしれない。けれど私にとっては、凄い……魔法。
そう、まともに魔法を扱うことが出来ない私にとって……。今更ながら、私がオウカさんの弟子としてふさわしくないのでは無いのか。自分で頼み込んだのだ……けれど……。
オウカさんが魔獣の解体が終わり、オウカさんの家に私達は戻っていた。
「よし、早速試練の内容をっ」
「待ってください!!」
オウカさんはびっくりした顔をしていた。
「ん、どうしたの?」
しまった。つい……止めてしまった。オウカさんの魔法が脳裏にずっとちらついて、不安で不安で……、押し潰れてしまいそうになる。
「………。」
だから、自分で止めといて黙ってしまう。
「不安……かな。」
ビクッ
言い当てられて、体がはねる。
どう……して。
「大丈夫、試練と言ってもやることはとっても簡単だから、そんなに緊張しなくてもいいよ。」
違う、そうじゃない。緊張してるんじゃない。本当は、こんな出来損ないがオウカさんの優しさに漬け込んで、図々しく弟子になろうとしてることに……後悔……してるんだ。
こんな出来損ないが……いなければ……。
「あ、違った……かな?ごめんね、僕にはネロナがどんな気持ちで試練を受けようとしているのかは分からない。言葉にしてくれないと分からない。だから……、ネロナの本心を聞かせてほしい。それで心がすっきりしてくれたら、僕は……嬉しいから。」
優しい笑顔でオウカさんは言った。
ああ、眩しい。この人は、眩しすぎる。だから、私の顔から自然と
涙が、
「ひっぐ、えっぐ、」
嗚咽が、
「ごめんなざい……、ごめんなざい。」
謝罪が、
「ごんな、出来損ないがオウガざんの……弟子になろうとじで!!」
後悔が、溢れんばかりに出てくる。
その間オウカさんは、私が泣き止むまで私の頭を優しく撫でてくれていた。
「ほら、これ食べなよ。」
オウカさんがそう言って机の上に出してきたのは、台形の形をした黄色の物体に茶色のソース?が掛かったものだった。
これ、なんだろう。甘い匂いがするから、お菓子かな。
恐る恐る、渡されたスプーンですくう。あ、柔らかい。
はむっ
なにこれ……、凄く美味しい。ちょっと苦い茶色のソース?と、優しい甘さの黄色の部分がマッチしてて美味しい。というか、美味しすぎて感動する。
「ふふっ、美味しい?それはね、プリンって言うんだよ。」
「プリン……。」
プリン……、聞いたこと無い。でも、これだけは分かる。美味しすぎて食べるのが止まらないこと!!
あ、無くなっちゃった。
「良かった。笑顔になって。」
「え?」
どうゆうこと?
「ネロナ、ずっと緊張してたり、しょんぼりしてたりして本当の意味で笑って無かったから、心配でね。」
そういえば……、そうかもしれない。オウカさんに助けられた時、命の恩人だからかしこまっちゃったり、オウカさんの魔法を見た時、凄すぎて自信が無くなっちゃったりしてオウカさんの目の前で心から笑ってないかも。
それに……、オウカさんの前で泣いちゃってまたオウカさんに気を使わせちゃった。
「えっと、そのごめんなさい。」
「謝らなくていいよ。ネロナはなにも悪くないんだから。」
「……はい。」
「それで、なんで僕の弟子になろうとしてることに後悔してるの?」
「えっと……。」
「大丈夫、ゆっくりでいいから。」
言いにくい。けど、言わなくちゃ。ゆっくり、落ち着いて、深呼吸。
スーっハーっスーっハー、
よし、
「自分が……魔法をまともに扱えない、出来損ない……だから……です。」
「出来損ない……。」
「はい、私はファイヤーボールも燃やすことすら……出来ませんし、魔力量も……あんまり多くありません。それに……オウカさんの魔法を見て、私なんかが弟子としてふさわしくないのでは無いのかと思って……。」
「そっ……か。」
失望……したよね。私がこんなにも出来損ないって知って……。
「そんなことないよ。」
「え、」
「最初から魔法が上手い人なんて誰もいないよ。僕だって、小さい頃は魔法を上手く扱えなくて、大切な人を傷つけてしまった。焦っちゃってね。」
え、オウカさんが魔法を扱えなかった……!?
「それに、師弟の概念がある理由って"魔法が扱えないから教えてもらう"ってことでしょ?」
確かに……そうだ。そうでないと師弟の意味が無い。
「それに、まだな〜んにもやってないのに勝手に決めつけて、ネロナの可能性を狭める必要はないんだよ。」
オウカさんが言うなら……私にも可能性があるのかな?オウカさんみたいな……凄い魔法使いに。
「決意がついたようだね。その様子なら聞いても大丈夫だね。それじゃあ、聞くよ。ネロナ、この先はとても辛いかもしれない、酷い現実を突き付けられるかもしれない、それでも君は、ネロナは僕の弟子になる為の試練に挑むかい?」
もう答えは決まっている。だって、私はオウカさんの可能性を
「はい、挑みます。」
信じたいから。
さて今回はネロナちゃんのネガティブ回でしたね。
予定ではこんなにネガティブにする訳では無かったのですが、つい筆が乗ってしまって。
ああ、それと1回自分で読んでみたのですが、賢者さんが変態とかしていました。おかしいな〜、単なる親バカならぬ師匠バカになっている筈なんですがね〜。
ちなみにこんなにも師匠バカになっている理由は賢者さんの師匠が原因です。
え、ネタバレするな?いえいえ、補足みたいなものです。ここまで読んで下さっている皆様も分かりますように、オウカ優しいですよね〜。そんな人から師匠バカがなんで誕生するわけないですよね〜。(誕生しちゃったんですけど)
まぁこんなもんで次回までグッバ〜イ。ヽ(^o^)丿