判明
「先生にも、魔法が上手く打てない時期があったんですね。」
「そりゃそうだよ。誰だって、最初は上手く魔法を扱えるわけではないからね。」
「それは分かるんですが、先生だから他の人より上手く魔法を扱えたのかと……。」
ああ、なるほど。ラノは私を天才だと思っているのか。私も師匠が天才だと思い込んでいたな〜。まぁ、今も昔も師匠は凄い人だけどね。
「そんなことないよ、昔の私はラノよりも魔力が少なかったし、魔法も上手くなかったんだから。」
「え、そうなんですか!?」
「うん。私ラノの魔法を見た時とってもびっくりしたんだから。」
いや〜、あの時は本当にびっくりしたな〜。独学だと言うのにあんなに上手く魔法を扱えるのを見た時は、ラノのことを私の弟子にしたいって思ったからな〜。さて、そろそろ話を続きを話さないとね。
パンパンッ
手を叩いて、私の方に意識を向かわせる。
「ほら、色々脱線しちゃったから話の続きを話すよ。」
「はい!!」
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「大丈夫?」
「え、あ、はい大丈夫、です。」
「ふふっ、良かった。」
なぜ、こんな所に人がいるのか?という疑問は消え失せてしまった。なぜなら、その女性はとても美しく見とれてしまったからだ。
「さて、君のことをおろしたいけど、彼はまだ君のことを諦めていないようだね。」
「え?」
女性の目線の先を辿るとそこには、私を追いかけた魔獣がいた。どう……して?さっきまで崖の上にいたはず。もし崖から私を追いかけて降りたとしても、落下死してもおかしくないほど高いのに……。
逃げなきゃ。
「あ、あのっ!!」
「しっ、大丈夫。僕に任せておいて。」
「で、でも!!……え?」
彼女は微笑んでいた。なんで?こんな危険な状況なのに……。そうして、私が驚いている間に彼女は魔獣に向かって、語りかけていた。
「ごめんね、君の獲物を取っちゃって。でもね、この子は僕の大切な客人なんだ。だから、二度とこの子を狙わないでくれるかな、ね。」
それを聞いた魔獣は途端に恐怖に満ちた顔をして、今まで私を追いかけてきた時とは違い、ものすごいスピードで走り去ってしまった。
「さて、君をおろすね。」
「あ、はい。」
私は彼女におろされ、岩の上に座らされた。そして、私の目線に合うようにしゃがんだ。
「あ、あの私なんで、岩の上に座らされているんですか?」
「ん?君気づいていなかったの?足、怪我しているよ?」
「あ、本当だ。」
逃げるのに夢中で全然気づかなかった。怪我してるって分かった瞬間急に痛みが襲ってきた。い、痛い。どうしよう、これじゃあしばらく歩けない。
「ちょっと失礼。」
彼女がそう言い、何をするのか見ていると、私の怪我をしている足に手をかざしていた。そして、優しい光が見えたかと思えば、気づけば私の足の怪我は治っていた。
「よしっ、一応治ったと思うけど、痛みとかは感じる?」
「い、いえ。」
「ふふっ、良かった。」
あ、足が治った……。これって魔法……だよね。もしかして、この人が?いやいや、おとぎ話の人だし仮に存在していたとしても、600年前だから寿命で亡くなっているはずだし……。それだけじゃ断定出来ないし……。
「ねぇ。」
「は、はい!!」
びっくりしたー。急に話しかけてくるもんだから……。
「君はなんでこんな森の奥にいるの?」
「え、えっと……、人探し……です。」
「なるほどね。もう少し詳しく聞きたいけれど、また魔獣が来たら大変だから、僕の家に行こうか。」
「は、はい。」
彼女に言われるがままついて行く。なんか成り行きでこの人の家に行くことになったけど、大丈夫……なのかな?
「さぁ、着いたよ。」
しばらく歩いた先にあったのは、見た事ないようなつくりをした家だった。
「わぁ〜、凄い。」
「そうかな?普通だと思うけど。さぁ、上がって。」
ガラガラ
ドアが彼女によって開かれる。へぇ、引き戸なんて初めて見た。
「お、お邪魔しまーす。」
家の中を見ると木造でできた床がとても綺麗で、ピカピカしている。村で新しい家が建てられた時、中を見た時があったけど、これ程綺麗では無かった。周りをキョロキョロしながら、上がろうとすると……、
「ああ、ちょっと待って。」
「え?」
「靴を脱いで上がって。」
「靴を……脱ぐ?」
「うん、僕の故郷の文化でね。」
「えっ、でも……。」
こんな綺麗な床を私が裸足で歩いたら、汚れちゃいそう……。
「うーん、じゃあこれを履いて上がるっていうのはどう?」
そう言って彼女が出したのは、かかとら辺がでている、不思議な形の靴だった。
「これは?」
「スリッパと言ってね。床を裸足で汚したくない人とかが、よく使っているんだ。」
「へぇ〜、まぁこれなら……。」
そう言って私は、家に上がり、彼女のあとをついて行った。
彼女について行った先には、不思議な空間があった。床は木製ではなく藁みたいので、できている。そして、椅子がなく、代わりにちょっとふかふかした布みたいのが敷かれてあった。机も、見た事ないぐらいツヤツヤで丸っこい。
この人、何者なんだろう?こんな凄い家に住んでいるのに見た事も、聞いた事も無いなんて……。
「よしっ、僕はお茶を用意してくるから、この部屋でゆっくりくつろいでいるといいよ。」
「お、お茶!?」
「な、何か問題があるかな?」
「いいえ、そういうわけではないのですが……。」
なんでこんな平民にお茶を出そうとしてるの!?物凄く高い物なのに!?というか、お茶を出せる程のお金があるっていうことは……、もしかして貴族様ってい・う・こ・と?やばいかもしれない……。
私、死んだかもしれない。
「あ、あのー。失礼ながらお聞きするんですが……、もしかして貴方様は貴族様ですか?」
彼女は一瞬、キョトンとしたかと思えば急に笑い出した。
「ふふっ、一応聞いておくけど、なんでそう思ったの?」
「だ、だって、お茶を飲むのは貴族様や王族の方々だけですから。それにお茶自体も物凄く高くて、平民で買う人がいないから……です。」
「あ〜、なるほど。なら安心して大丈夫だよ。僕は貴族でも王族でもないし、このお茶はピセラの森で採った葉っぱで作ったお茶だから、お金もかかってないよ。」
「そう……なんですか。」
「うん、それじゃあお茶いれてくるね。」
そう言って彼女は、奥に見えるキッチンらしき場所へ向かって行った。
ふぅ、ぽすっ。 気が抜けて私はふかふかの布の上に座り込む。ここ、涼しいな。風がよく通って心が落ち着く。心が落ち着くと頭の中もスッキリしていく。私、"災厄の魔女"を探しに来たはず……だよね。というか、ライにブチ切れてた時の私、バカじゃない!?災厄の魔女なんているわけないのに……。
はぁ。
「どうしたの?」
「うわ!!」
「あ、はいこれお茶。」
「あ、ありがとうございます。」
び、びっくりした〜。いつの間に……。というか、これがお茶?匂いは……、いい匂い。ズズッ。
「あ、美味しい。」
「ありがとう。さて、本題に入る前に自己紹介しようか。僕達、未だお互いの名前を知らないからね。」
確かに、私この人に名前名乗ってなかったな〜。
「さて、僕の名前から。僕の名前はオウカ。よろしく。」
「オウカさん、ですか。不思議な響きの名前ですね。」
「故郷がそういう響きの所で……。」
「なるほど。それじゃあ、次は私ですね。私はネロナです。よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。じゃあ、さっそくで悪いんだけど本題に入ろう。君が探している人物について。」
やばい、言えない。あの時は必死で『人探し』って言ったけど、実は単なるおとぎ話の人なんて……。よしっ、オウカさんには悪いけど、本当にいる体で話そう。
「えっと、私が探している人物は"災厄の魔女"と呼ばれている人です。」
「"災厄の魔女"ね、それって二つ名だよね?本名は?」
「分かりません。」
「そう、それじゃあその人の特徴とか、やった行動とか分かることはないの?」
「それなら……。」
と言っても、おとぎ話だから曖昧なんだけどね。
「600年前、とある国がありました。その国は多くの悪しきことをし、世界の人々を苦しめていました。ある日のこと、その国に一人の魔法使いが訪れました。そして、その魔法使いは国の悪行によって人々が苦しんでいることを知ったのです。それに怒り、悲しんだ魔法使いは、国の悪行の根源である王族をまるで砂のように変え、そして国でさえも砂のようにしたのです。最後には台風を巻き起こし、国があったことさえ分からないようにしたのです。そうして世界には平和が訪れました。そして、人々はその魔法使いに尊敬と畏怖の意味を込めて、"災厄の魔女"と呼んだのです。」
「へぇ〜、まるでおとぎ話みたいだね。」
すいません、おとぎ話なんです。
「にしても、そんな大昔の人を探してるんだね。」
「まぁ、実際生きているかも分からないんですけどね。」
「ふーん。」
そう言うと、オウカさんは考えこんでしまった。考えこんでいるところ悪いけど、本当に申し訳ない。本当はいないんです。
「ねぇ。」
「あ、はい 。」
「その滅ぼされた国の名前って分かる?」
「?、分かりますけど……、ピライデという名前だったと聞いています。」
「あ〜、思い出した。多分それ、僕じゃないかな。」
「え、えーーーーーー!!」
今回も読んで頂きありがとうございます。(´°‐°`)
さて、主人公の名前が判明したわけですが、実は一話目で名前が出なかったのは、『出さなかったら面白そうだな』という、我の遊び心です。まぁ、何となくでやっているので、無理して面白がらなくてもよろしいです。
それでは、いつかは分からない次回までアデュー。