出会い
「せんせー!!」
流れ星のような白いメッシュが入った、黒い髪の男の子が、こちらに駆け寄って来る。
「ん?どうしたんだ、ラノ。」
「先生、先生の魔法ってどれも僕が見た事無い魔法ですよね?」
「ああ、それがどうしたんだい?」
「先生が使っている魔法ってやっぱりご自分で考えて、作られたんですか?」
ラノが目をキラキラさせて私を見てくる。そういえば、ラノには師匠のことを話したことがなかったな。
「ふふっ、どうしてそう思ったんだい?」
「だって、先生以外の魔法使いが使っているところを見た時も、聞いた時もないですから。」
「まぁ、確かにそうだね。でも残念、ほとんどは教えられたものだ。すまないな、ラノの期待に応えられなくて。」
「とんでもない!!先生は凄いですよ!!ほとんど、ということは、なかには先生オリジナルの魔法がある、ということですよね!?」
さすがはラノだな、鋭い。
「ああ、たしかにある。師匠には劣るがな。」
「ほへ〜、どんな魔法なんですか?」
「それは秘密だ。」
「それは残念です……。」
やっぱりラノのしょんぼりしているところは犬っぽいな。可愛い。
「そういえば先生、先生がさっき言っていた師匠ってどんな人なんですか?」
「やっぱり気になるか?」
「はい、だってあんなに凄い魔法を先生に教えた人ですよね?それに、先生は凄い人なのにその師匠である人を聞いたことが無いなんて少し不思議ですし。」
そりゃ、聞いたことないだろう。なんせ伝説上の人になってるんだから……。
「それじゃあ、今日は私の師匠について語ろうか。私と師匠との出会いも含めてな。」
「い、いいんですか!?だって午後は魔法の座学の予定では……?」
「ああ、それに私と師匠の話の中には、私が教えている魔法の基礎についてや、魔法のさらなる可能性の話もある。もしかしたら、ラノが自分の魔法を思い付くきっかけになるかもしれないからな。」
パァっとラノは、顔を明るくさせ満面の笑みで
「はい!!」
と、こたえた。可愛いな〜、私も師匠の気持ちが分かる時が来るなんてな〜。よしっ、
「始めよう、とある魔女の話を……!!」
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「ファイヤーボール!!」
ポムッ
「はぁ、全然威力が上がらない。あの魔導書の通りにしているのになんでかな〜?」
「それは、お前の魔法が下手くそだからじゃね〜の。」
その声を発したのは、憎たらしい笑い顔をした茶色の髪の男の子だった。後ろには取り巻きがその男の子と一緒に笑っていた。
「あんたには関係ないでしょ。」
「っは、燃やすことすら出来ないファイヤーボール"もどき"を出してる奴が何言ってるんだよ。それともお前にとってはそれがファイヤーボールなのか?『あっははははは!!』」
「魔法すら使えない奴には言われたくないわ。ライ」
こいつの名前は聞いていた通りライ、このサロクバ村の村長の息子。この村の男の子達のリーダーをしている。その理由は、村長の息子であることもそうだが、剣の腕前が子供達の中で一番だからだ。
そして、やたら私に絡んでくる。理由?そんなもん知らん!!毎度毎度、私に絡んでそして言葉で言い負かされて終わる。今だって図星なのか、顔を真っ赤にしている。だけどこの日は、ライは私の地雷を見事に踏み抜いた。
「お前なんかすぐに倒せるんだぞ!!父さんに頼んでお前の住んでいる孤児院なんて、潰してやることだってできるんだぞ!!それっ」
ゴンッ
言葉よりも身体がいつの間にか動き、私はライを殴っていた。
「ねぇ、もう一度言ってみなよ。私の……、いや私達の大切な家を、居場所を潰すって?そうしたら私はあんたを、一生を賭けても呪い殺す。」
それを聞いたライの取り巻き達は青ざめた顔をしながら、去っていった。だけどライは、涙目になりながら私を睨んだ。
「お前に出来るわけないだろう!!魔力もほとんど無いくせに!!魔法も上手くないくせに!!」
たしかにそうだ。私は、小さいファイヤーボールを7、8回打てるぐらいしか魔力はないし、そのファイヤーボールだって物を燃やすことすら出来ない。
でもそれでも、ライが言ったことはどうしても許せなかった。だから私が普段言わないような、ありえないことを口走った。
「だったら出来るようにすればいい、災厄の魔女に弟子入りする。そうすれば、あんたを簡単に潰せるから。」
「は?」
ライは鳩に豆鉄砲くらったような顔をした。そりゃそうだろう。だって、"災厄の魔女"はおとぎ話の中の人なのだから。
災厄の魔女は、600年前とある悪い国を滅ぼしたとされる魔女だ。そうおとぎ話にはのっていた。そして、その魔女が今どこに住んでいるとされているかも。
災厄の魔女が住んでいるとされているのは、このサロクバ村の近くにある、ピセラの森だ。よく幼い子供達に、親が森の奥に行かないように、『災厄の魔女がいるから』と言って、注意しているのを見た時がある。いるはずがないのにね。
「いる訳ないだろ、怒りすぎて気でも狂ったのか?」
「ふんっ、いいもん。私に舐めた口きいたことを後悔しても知らないよ。」
「こっちこそ、お前なんかピセラの森の奥で、いもしない魔女を探して野垂れ死んでも知らないぜ。」
私はそのままライには目もくれずに、ピセラの森に向かった。
ピセラの森は奥に行けば行くほど、危険な魔獣がいると孤児院の先生から聞いたことがある。だから、子供だけで森に行ってはならないし、大人の狩人は森の奥に行かない。
私はその通りにすれば良かったと今、後悔していた。
最初は順調だった。大人達が通っているけもの道を通って行った。それからどんどん道が無くなっていって、最後には道無き道を通っていた。冒険みたいで楽しいなって楽観的に進んで行ったのも悪かった。
ある程度森の奥に行って、知らず知らずのうちに帰り道が分からなくなってきた頃だった。茂みからガサガサって音が鳴った。なんだろう?そう思った瞬間、そいつが表れた。
見たことも聞いたこともないような、魔獣が……。体は狼のような体の形をしていて、顔は熊のような顔をしていた。そして私を見た途端、気味の悪い笑顔を浮かべて私を追いかけてきた。その瞬間、私はそこから生きるために走り出した。
はぁ、はぁ、はぁ
息遣いが荒くなっていく。だけれども私は、足を止めない。私の本能が、理性が、"逃げろ""早く走れ"と訴えているから。
「あっ」
私の顔が瞬時に絶望に染まったのが、鏡を見なくても分かった。私が走った先は、崖になっていた。
どうする?どうする!!私の脳が生きるために様々な案を出す。でも、そのどれもが私の今の実力では行動しても死ぬ未来しか見えなくて、考えている間にもあの魔獣が追いかけて来ている。否、恐怖に堕ちる私の姿を楽しんでいる。
そして私が崖の先っぽらへんまで走っていると、ふと崖の向こうに同じような崖があった。あそこに向かって跳べば、あの魔獣は追いかけられなくなるかもしれない。でも、失敗すれば落下死する。それでも私はそのわずかな希望にすがりたかった。
私は勢いをもって、その崖を跳んだ。届け!届け!!
スカッ
あっ、私死んだ……。落ちてゆく感覚が恐ろしく私の肌を伝っていく。だから、反射的に私は目をつむった。ああ、痛いんだろうな、くるしいんだろうな、死にたくなかったな……。
あれ?衝撃がこない……?
そこで私は、恐る恐る目を開けてみた。そこには……
「大丈夫?」
優しい金色の髪に、優しい赤と黒の目をした女性が、私をお姫様抱っこしていた。
それが私と災厄の魔女との出会いだった。
初めまして(=・ω・)ノ
もちを求めて三百里です。
我の作品を読んで頂きありがとうございます。
我の気分次第で投稿期間や話の文量が変わるので、そこはお察しください。
我の作品をお楽しみ頂けたらとても嬉しいです。