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私…帰ってきたんだ…。

 「見えてきたぞ。スエト村だ。」

 やっと着いた……けど……。

 あの日のことは…もう村中に知れ渡ってるはず…。

 その元凶の私が戻った時…みんなどんな顔をして私のことを……。

 早くツグに会いたい。

 あの日…確かに……確かにツグだけは……私のこと…見てくれてた。

 そんなツグならきっと…わかってくれるはず。

 怖がらないで…私のことを見てくれるはず。

 私の心を温めてくれるはず…。


 「さあ、降りろ。私はここまでだ。ここからは歩いて行け。」

 「ここまで、ありがとうございました。」

 「ありがとうございました…。」

 「気にするな。…おい、娘。」

 娘?

 …ああ…私のこと…。

 「はい。」

 「天分はもう諦めておけ。また同じことが起こるかもしれん。」

 ビクッ…

 「……………はい。」

 心臓がバクバクする。

 手汗が…酷く滲む。

 悪寒が…。

 小刻みに身体を震わせ、そのまま座り込んでしまった。

 あの瞬間が、私にとっての恐怖の象徴。

 最大のトラウマ。

 改めてそれを自覚する。

 「レン……家に帰ろう。」

 ……ありがとう。

 抱きかかえてくれたお父さんにそう伝えようとしたけど…声は出てくれなかった。


 まだ頭が痛い…。

 早く忘れてしまいたい……。

 なのに……。

 忘れようとすればするほど…大きくなっていく。

 心に刻みつけられていく……。

 ………………助…けて………。

 「…レン…大丈夫だ、お父さんがいる。」

 「………うん。」

 「お父さんはちゃんとそばにいる。」

 「………うん。」

 「だから安心して、今日はもう休もう。」

 「…ん…………。」

 ベッドの上、私は静かに眠りに落ちた。


 

 …………。

 ……私を見て……。

 ……私のそばにいて……。

 …私を離さないで…。

 お願い…。

 「行かないで……………。」

 ……………夢………よかった…。

 …何これ…水?

 あ、涙…。

 泣いてたんだ…私…。

 

 「レン、起きてるか?」

 「…うん。おはよう、お父さん。」

 「おはよう。…レン……お父さん、少し森の方へ行ってくる。お父さんたちが村から離れてる間に、ジュティの親父さんが魔物を見たらしいんだ。一応近くを通り過ぎていっただけらしいけど、確認はしておきたいから。」

 「わかった。気をつけて…。」

 「ああ。ご飯は机に用意してあるから。それじゃあ、いってきます。」

 「いってらっしゃい……。」

 ………1人…。

 寂しくはあるけど……落ち着いてる…。

 家にいるからかな…。

 ………お父さん……。

 そばにいるって言ったのに…。

 ……まあこの村で一番魔物を知ってるのがお父さんだから、みんながお父さんに頼るのはわかるけど…。

 それでもやっぱり…。

 ……お腹すいた。

 

 …朝ごはん……食べ終わっちゃった…。

 …静かだったな…。

 …片付けよ。


 …片付け…終わっちゃった…。

 ……掃除でもしよ。


 …終わった……いやまだ。

 もうちょっと綺麗に…。

 

 薪は…ある。

 他に何か………食材……畑……畑…。

 …ここ数日何もしてあげてない。

 …枯れてるかもしれない。

 …外出て確認しないと……。

 …外……外…。

 だ…大丈夫だよ。

 この家は村から少しだけ離れてるから。

 きっと誰もいないって。

 だから大丈夫…大丈夫。

 ……………。


 …ガコッ…キィィ……。

 そっと覗くだけ…そっと覗くだけ…。

 そう言い聞かせ辺りを警戒しながらさっと動く。

 …着いた…って…あれ?

 窓からじゃ状況がわからなかったからわざわざ頑張って来たのに…。

 「生きてる…。」

 これじゃあ来た意味が…ってそうじゃなくて。

 私はてっきり、水が必要な野菜とかはもうダメだと思ってたのに…。

 綺麗に実ってる。

 こんなの誰かが水をあげてなきゃ…。

 その時、こちらに向かってくる少女の姿が見えた。

 「あっ……ツグ…。」

 気づくと同時に私は隠れてしまった。

 多分ツグは私に気づいてない。

 「なんで私隠れて…。」

 それにしてもツグは一体何しに…。

 手に持ってるのは…バケツ?

 ……そうか…ツグが水を…。

 ………でもバケツ持って歩いてきたってことはわざわざ別の場所から水を…。

 私の家のを使えばいいのに…。

 

 撒き終わったのかな。

 …あれは何してるんだろ…私の家の方をじっと見つめて…。

 …あ、私か。

 ツグは私が家にいると思ってるから…。

 そうか……。

 ツグ、私に会いにきてくれたんだ。

 そうだよ、きっと私に会いにきたんだ。

 私も隠れてないで早く。

 早く……私も…。

 ……本当に?

 本当にツグは私に会いにきたの?

 …あれ……なんで私こんなこと考えてるの?

 私だってツグに会いたいんだから、ツグだって私に会いたいはず…。

 だからこうしてわざわざここまで…。

 …違う……ツグは畑に水を撒きにきた…。

 でも私の家の方も見てた。

 私に会うため……。

 だったらなんでツグは私の家を見たまま動こうとしないの?

 迷ってるだけ?

 迷う必要ある?

 いや私だって脚が動いてない。

 こんなにも会いたいのに。

 ……あ、まって!

 ツグ!

 なんで帰ろうとしてるの!

 私の家に来て!

 そしたら!

 そしたら私…も…。

 ……行かないで………行かないで…。

 行かないでよ…ツグ…。

 「…………ツグ!」

 「えッ!?レンちゃッ!あッえっと………えっと……レ…レンちゃん……か、帰ってきてたんだ。おかえり。」

 「…え…?私が帰ってること…知らなかったの?」

 「う…うん!そう!知らなかった…。…ごめんレンちゃん。」

 「ううん、いいよ。…ただいま、ツグ。」

 「おかえり、レンちゃん。」

 よかったぁ…。

 ツグ、知らなかっただけだったんだ…。

 それなのに私は1人でいろいろと…。

 ……本当に…よかったぁ…。

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