私のせい?
少女が目を覚まし、起き上がり歩き出す。
「おはよう、レン。」
奥の部屋から、声が聞こえてきた。
「…おはよ……お父さん。」
そう返すと、私は食事の置いてある机に向かって進み、椅子に座った。
「「大地の恵みに感謝を」」
手を組んで食前の祈りを捧げて、朝食をとる。
食べ終わると、私はお皿を洗う。
お父さんは、狩りの準備をしに行った。
狩人だから。
村の男たち数人と森に行って、お肉や葉っぱ、果物なんかをとってきてる。
私や他の子どもたちがついていくこともあるけど、そのときは森の浅いところで狩りや採取をする。
森の奥の方には魔物がいて危ないから。
魔物とは、動物が瘴気を喰らって変質したものらしい。
お父さんがそう教えてくれた。
「レン、準備はできてるか?」
「え?」
準備?
なんの?
というかお父さん、狩りに行く服じゃ、ない?
あれ?
「今日は神官の人が来て、天分を見てもらう日だぞ?」
し、しまった。
そうだ。
今日だった。
すっかり忘れて…なんかあるはずない。
昨日、あんなにも楽しみにしていたのに。
朝食の時だってお父さん「今日は楽しみか?昨日はちゃんと寝れたか?」って言ってたのに。
なんで忘れてたんだろ…ま、いっか。
「レーン…おーい……大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫、すぐ準備してくる。」
私は着替えるため、自分の部屋へ向かった。
わくわくがとまらない。
なんたって今日は天分を見てもらう日なんだから。
天分っていうのは天から分け与えられた力で、個人の生まれ持った才能。
自分の将来にすごく役立つ。
お父さんはこれを道標だとも言ってた。
ただそれが全てってわけでもなければ、後から天分が開花する人もいるそう。
ちなみに天分は、12歳になるとみてもらえるようになる。
ただ12歳では開花せずそれ以降に開花した人は、その年に12歳になった子どもと一緒にか、教会に行くかすれば見てもらえる。」
「レンはどっちだろうなぁ。先か後か。どんな天分になるかも楽しみだな。」
いつのまにかお父さんが後ろにいた。
「うん!楽しみ!」
……会話がつながってる。
また声に出してたのかな……。
ちょっと恥ずかしい。
そんなことを考えながら家を出て、私とお父さんは村に一つしかない小さな教会へと向かった。
教会にはもう子どもたちが集まっていて、神官の人も到着していた。
そんな中で、私に向かって満面の笑みで手を振っている子が一人。
「行っておいで、レン。」
「うん!行ってくる!」
私はその子の隣に座った。
「そんな大きく手を振らなくても、私ならすぐにツグを見つけられるんだから。」
ツグ。
それは私の大切な友達。
「えー、ほんとぉ?」
「私のこと信じてないの?」
「うん、信じてないよ。」
「え?」
…………えっ??????
「ごめんごめん。冗談だよ冗談。だからそんな悲しそうな顔しないで。」
「そ、そうだよね。」
そうだよ。
当たり前だよ。
だって私たちは。
「私たちは親友で姉妹、だもんね。」
「う、うん。」
て…照れる…。
「レンちゃん、嬉しそう。顔が凄く笑ってるよ。」
「うん、すごくうれしい。」
顔が熱い。
頬が上がってる。
「そろそろ私の番だ。行ってくるね、レンちゃん。」
「うん、行ってらっしゃい。」
ツグはたったと神官の方へ走っていく。
そんなツグを眺めていると、後ろから声をかけられた。
「お前らってホント仲いいよな。」
周りの子どものうちの一人。
名前は……ジュティ。
「あげないよ。」
「いらないいらない。でもそんなに仲いいと…あー…それじゃあな。」
彼は去っていった。
そんな彼に、私は小さく「大丈夫」と言っておく。
それは自分に対して言った言葉でもある。
ツグが帰ってきた……けどちょっと…暗い?
「大丈夫?」
「……レンちゃん。私ね、魔法の天分があったみたい。」
「す、すごい!」
魔法。
それは不思議な力。
無から火や水なんかを生み出し、物を触らずに動かしたりもできるらしい。
どれだけ研究しても、詳しいことがわからず、憶測や推測ばかり。
そんな力をツグが持ってたなんて。
嬉しい。
けど同時に、悲しい。
魔法を使える子達は、研究や制御のため、魔法専門の学校に行かないといけないから。
「離れ離れになるんだね。」
「うん。」
きっと大丈夫と、そう思っていたのに。
こんなにも早く、別れがくるなんて…。
いや…そんなことない!
…絶対……大丈夫!
「大丈夫だよ!二度と会えなくなるわけじゃないんだから。それに、」
それにもし、私にも魔法の天分があれば一緒に行けるんだから。
「そろそろ私の番だから行ってくるね。すぐに戻ってくるから。ツグ…待ってて。」
「うん、ありがとう。」
いよいよだ。
ツグと離れたくない。
だから私は神様に祈る。
願いを叶えて、と。
どうか私にも…私にも…。
私の番が来た。
その間ずっと祈っていた。
祈り続けていた。
今も祈っている。
神官の人が私に手をかざした。
「…………。」
神官の息遣いが聞こえてくる。
ーーーなかなか終わらない。
時間がかかっているのかな。
私は少しだけ目を開けた。
神官が青ざめていた。
手も小刻みに震えている。
怯えた目で……私…を見ている?
今までと違う、明らかな異常事態。
……私が声を出そうとしたその時。
「……あ…ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ………」
神官が絶叫しその場に倒れた。
何がおきたのかが分からない。
ただ、怯えた目が『私』を見ていたわけじゃなかったことが、なんとなくわかった。
そして神官は気を失った。
「貴様なにをしたッ答えろッ!」
周りにいた兵士が、私を囲みそう言ってきた。
えっ?
私の……せい?
違う!
私は何もしてない!
でも私、何もしてないよ?
そう、私じゃない。
でも神官は、私の天分を見た後に倒れた。
違う。
怯えた目で私を見ていた。
私が知らない間に、私が……何か……した?
そんなこと知らない。
……わからない。
…わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
頭がグァワングァワンする。
どうしたらいい?
どうすればいい?
頭が痛い。
すごく痛い。
誰か……。
大丈夫だからと私を落ち着かせて。
動機が激しい。
私を安心させて。
周囲を見渡した。
みんな怯えた目で私を見ている。
なんで!
お父さんが兵士の人に抑えられてる。
なんでッ!
……ツグ……ツグ……ツグッ!
目が合った。
彼女も怯えた目で私を見ていた。
でも、周りとは少し違う目で。
………なん…で……。
そして、私の意識は遠のいていった。
ーーーーーーー「よ、よし。そいつを拘束して荷台に入れておけ。神官様は馬車に。急いで王都に戻るぞ。伝令も出しておけ。緊急事態発生、直ちに戻る、医者と、聖職者、魔法学者、の用意。あとは分かっている範囲での事情の説明だ。この村には後日、別の神官を向かわせる。残りの子どもはその時に見てもらうように。お前たち、準備でき次第出発だ。」
「私も、連れて行ってください。」
「お前……飛び出してきたやつか。」
「私はその子の父親です。だからどうか……どうか。」
「お前、こうなった原因は分からないのか?」
「は、はい……申し訳ございません。」
「………まあいい、ついてこい。」
「ありがとうございます。」
「隊長、準備、完了しました。」
「よしっ。出発だ。」