第5話 「ブラックバード」マリス
まだ日の出ていない冒険者ギルドの掲示板には、数多くの冒険者が集まっていた。誰でも割のいい依頼を受けたい。その為、日の出前に張り出される依頼書を待っていた。
そんな喧騒から少し離れた場所に、大きな依頼書が張ってある。鉱山の討伐依頼、その前に机に初老の職員が受付を行っていた。受け付けられた冒険者は、ギルドが準備した鉱山行きの乗合馬車で出発するのだが・・
「昨日もやられたらしいぜ。」
「2組だそうだ。」
ギルドに討伐パーティーが襲われ死亡や大ケガが伝えられると、日に日に応募が減っていった。それに比例するように、報奨金が跳ね上がっていく。討伐出来れば、一生楽して暮らせる・・それと、命の天秤でせめぎあうパーティーだが、今日は居ない。手持無沙汰な職員は、隣の掲示板を見るが誰も目を合わせようとしない。
そこにジャックが現れた。話しを聞こうと昨日カウンターに行ったのだが、担当は朝早いのでもう帰ったと言われて、出直して来たのだ。
中堅クラスでしばらく前からいる冒険者なら顔なじみ、片手を上げたり軽く目で挨拶する。ジャックと目が合い、「やあ」と目が言ってる連中はそれで終わりだが、近隣のギルドから来ている冒険者だけではない。自警団や騎士団・傭兵を辞めて来た荒くれと、いつもの厄介な連中がいた。
ジャックの外見は、中肉中背で若くはないそしてムキムキの筋肉が付いているとはとても見えない。執事を辞めて冒険者をやっている、初めて見るとそんな印象を受ける。
受付に向かってジャックが歩いていくと、「俺に挨拶無しかよ。」と、顔に書いてある奴もいた。当然、こいつらとは、もめる種になる。
「よう、この町は初めてか?俺が案内してやろうか?」
「いや、幾度か来ている。案内は不要だ。」
「なんだって、オレにケチをつけるのか?」
「いや、悪かった。案内はいらないと言いたかっただけだ。」
「それが、先輩に対する態度か?」
いや、お前の方が若いだろうと、言えばもっともめるのは十分経験してきた。
「すみません、今日は受付に来ただけですので、案内は後日お願いします。」
「あー?お前、勘違いしていないか?オレがお前を案内する?」
あんた、そう言ったじゃないか?・・と言ない。目を合わせない様にしよう。
「今度はダンマリかよ。」
次第にいきり立ってくる。面倒なので、無視して受付で話を聞こうと・・。
「おい!ちょっとマテ。」
この様子を、受付の職員もカウンターのお姉さんも冒険者達も見ているのだが・・ハラハラしているのは、ごく一部。また始まったと、これからの展開を見ている。もっともジャックを知っている連中は、やり過ぎるなよと逆に心配している。
掲示板の集団から一組のパーティーが出て来た。
ジャックは向きを変え、案内に向かって歩きだそうとしていた。いきり立った男の手が肩に伸びる。
パーティーから声がかかる。
「君達、ここに大勢いるのだ、めいわ」
声は、ここで途切れる。
ジャックの肩に手が触れる前、その手は空中を揺らめいた、不自然な動きで・・男は、ジャックをすり抜けて床に突っ伏している。ジャックは、中腰になり左足で男の左腕を、右足で背中と右腕を、左手で髪を掴み顔を床に押しつけていた。自分の腰に右手を置いているが、何も持ってはいない。
『バッ』
組伏せられた男が床に倒れる音、パーティーの先頭に立っていた男から残りの声が出る。
「くになる・・・」
ホンの数瞬だろう、押さえつけていたジャックが離れると、男は起き上がりざま、バツの悪そうな顔をパーティーの男に見せる。そのまま、振り向きもしないでギルドから出て行った。
ジャックは、何事もなかった。そう感じさせるような動きで受付に歩き。自分のギルドカードを受付テーブルに置く。
ジャックの顔とギルドカードを見た職員は、
「あぁ。やはり君だったか。前回、私は後ろの部屋にいてね、君とは逢っていないのだよ。ようこそフォーレンへ。」
手を差し出し握手を求める、一瞬の後、手を握り挨拶を返すジャック。
「少々お手伝いが出来そうなので、お邪魔しました。」
職員は、ギルドカウンターの後方、デスクのお姉さんに片手を上げる。
ジャックは、前回会っていた、正確には見ていた。
素材の精算待ちをしていると、買取カウンターで怒鳴り声が聞こえる。
レアな素材を持ち込んだのに、買取が不当に安い、通常の倍は価値があると。
応対する女の子は、負けずに説明しているようだが、どう見ても押し切られている。その時、デスクから立ち上がると奥に消えた。数分後、出て来た彼女は、対応していた女の子を、つまんだかの様に後ろに下げ、等々と説明を始めた。
曰く、レアな素材ではなく、単に色違いである事。
曰く、この獣は、毛皮が主要素材なのだが、いたぶられた様に毛皮が破損している為、小物にしか使えない事。
曰く、臓器も素材になるのだが、蹴ったか叩いたか、かなりの臓器が破裂しているので廃棄した事。
そのため、買取は通常の4割、もっともかなり考慮しての価格にしてある。もっと素材に優しく丁寧に扱ってくれない場合は、もう買取は出来ない。
目を見開いていた男は、黙って銀貨を掴むと出て行った。
ジャックは、このお姉さんは逆らったらダメな人だと思った。
お姉さんは、カードを受け取ると。
「ジャック様ですね、マスターからお伺いしてしています。時間がよろしければ案内いたします。」
鉱山の討伐やら死亡や怪我人とか多忙になり、ギルドに寝泊まりしているらしい。それを聞いていたパーティーの男が、割って入って来た。
「俺は、『ブラックバード』のリーダー、マリスだ。俺もマスターに呼ばれている。」
「そうですね、お話しは聞いています。同じ要件ですので、ご一緒にご案内いたします。」
ジャックは、説明を受けに来たのでかまわないと告げると、ギルドの奥へと案内してくれた。
「マリスさん、ギルド内での点数稼ぎはお控えくださいね。」
一瞬理解できなかったマリスだが・・顔色がサッと変わった。すぐ顔色は戻り目をそらした。
ジャックとブラックバードのメンバーが、マスターの執務室へと入っていく。
「やあ、ジャック。元気だったようだな。それに、ブラックバードの皆さんも一緒か。ここでは狭いな、会議室に行こうか。」
会議室、皆が座るとマスターから説明が始まった。
最初、各自、自己紹介の後。ジャックに「ブラックバード」の説明がされた。
マリスは、少し遠い町の自警団の副団長をしていたが、その後、傭兵団に入り実力をつけ、フォーレンにやってきた。その実力は、依頼3件を満足する内容で達成してマスターも認めていた。
「このジャックは、誰もが認める斥候が出来る男だ。今回、討伐に参加してもらえるなら大きな力になる、ぜひ、マリス君と一緒に頑張って欲しい。」
怪訝そうにジャックを見るマリス。さっきの動きから、そうとは理解したようだが、あの程度ならオレでも出来る。そう顔にかいてあった、どうもさっきの件が、引っ掛かっているようだ。
「マスターちょっと待ってくれ。トカゲの一匹や二匹、おれ達だけで十分だ。こんな奴の手伝などいらない。おれがサッサっと片付けてやれるぜ。」
マリスは、腰の剣に手を当てると、マスターにすごんだ。
『おやおや、結構な自信だな。』
目をマスターに向けると、困った顔で思案している。
「穏便にパーティーを組んでくれないか。ケガ人が出ているんだ、昨日は死人まで出している。昨日までの行方不明は、相当な数になっているし、もう募集も限界なんだよ。」
マスターが頼むが、マリスの考えは変わらなかった。
「分かりました。では、俺もパーティーを組んでオオトカゲを倒しましょう。」
結局、マリスのパーティーと俺のパーティー、2組が討伐に参加することになった。
「仕方がない、ケガの無いように頼むよ。どうか、仲良くやってくれ。」
最後にトカゲの説明と鉱山の施設の説明。
落盤の後に現れたのは、「鎧トカゲ」と呼ばれる体長2mくらいの魔獣。
厄介なのは、気配を消して襲ってくる事。
肉食のトカゲは、不意に現れて鉱夫に噛みつく。
恐怖にかられた鉱夫達は、その日から坑道に入るのを拒否している。
奴隷を入れて鉄鉱石を掘り出しているが、満足な量は出ていない。
それに、襲われる奴隷も結構な数で早急に討伐して欲しい。
「討伐依頼をだして、幾つもパーティーを入れたのだが、知っての通りの状況になっている。」
鉱山に移動後は、鉱夫用の宿舎で寝泊まりしてもらう、食事は鉱山で鉱夫達と一緒になる、風呂は・・など、ひととおりの説明の後、ブラックバードは出発した。
ジャックは、準備の為、明日行く事にした。




