第3話 毒カエルの襲撃
朝、馬車に乗り込もうと人が集まりだした。
「なあ、お前達(姉弟)、昨日ろくに寝てねえだろう?午前中、俺と変われ、俺が見張りをしてやる。」
「変われと言われても・・?」
「寝る場所ならあるだろう。」
ジャックが指さしたのは、乗客の足元。
「無理無理、あんな狭いとこに寝たら足の置く場所が無くなりますよ。」
「へえ、本当にそうか?」
馬車の脇に捨ててあるボロ毛布を指さした。
「もしかして。」
「そうだよ、その、もしかして。ゴロゴロ転がらない様にしてもらえるのだよ、感謝しながら寝るといい。」
ジャックは、御者の横に姉弟は、乗客の足置き場となっていた。
馬車が動き出す前、御者からひと言。
「えー。今日朝早くに、お一人様がこの町に用事が出来たと降りられました。一人分空きがありますが、そういう事情ですので、このまま走らせていただきます。」
途中で降りても、料金はもらっているから構わないという所か。
ジャックが場所を変わったのには理由がある。
姉弟は、町の周りで冒険者をしていたと言うのだから、フォーレンの話は知らないだろう。だとすれば、何度も往復している御者ならと・・
最初は、無難な世間話から、次第にフォーレンに話を持っていく。適度に、物知りだね。と、ほめると次第に舌が軽くなってきた。
フォーレンは、何処にでもある、普通の宿場町だった。それが変わったのは、一組の冒険者が鉄鉱石を見つけた事から始まる。
冒険者は、町の有力者に情報を買うように勧めたが、信憑性もなく信用してもらえなかった。仕方なく、商業ギルドに売る事にした。相場最下限で買うのが商業ギルド、それでもいいやと見つけた場所に案内。結構な金貨を手にしたと言う。
商業ギルドは、鉱山の存在を確認すると領主の所を訪ねる。少々買い叩かれても、十分利益が出ると睨んでいた。ところが、領主の返事は即答を避け、「明日の夕方返事をする、再度来て欲しい。」だった。
ギルド長達が再度訪問すると、そこに居たのは領主だけではなかった。
「君達も『ブラッド商会』の彼を知っているだろう。私が懇意にしている会頭だよ。今回の話をしたらね、彼が乗り気になって、ぜひ任せて欲しいと言ってきた。私としても断腸の思いなのだが、彼の熱意に負けてね。彼に任せる事にしたのだよ。それでは、私は邪魔にならない様に失礼する事にしよう。」
結果は、商人同士・・買い叩かれ、商業ギルドは大した利益が出なかったと言う。今もブラッド商会が、鉄鉱石を掘っているのだが、儲けの結構な部分を領主に取られていると噂になっているそうだ。
「その領主、上前をはねているのか結構悪じゃないのか。」
「いやいや、フォーレンで領主を悪く言う人はいない。今は、街中きれいだけど、それをやったのは領主の政策だと、みんな言っている。」
「町がきれい?」
前に来た時には、それほどきれいとも思えなった。
「実は、領主から毎月全部の教会に相当の寄付をくれるのだ。その寄付で、スラム住人に朝と夕方、毎日炊き出しがでるんだ。その炊き出しを貰うには、町に貢献する事になっている。」
「それで掃除。」
「掃除だけでない、水路の泥上げ、ゴミの収集と、町の雑用を率先してやってくれるのだ。」
「それはすごいね。」
「だろう、今ではフォーレンは国一番きれいな町だと言われているくらいさ。」
「なるほどね。」
「だから、町の住民は領主様と言って悪く言う人はいないのさ。」
「これは、行くのが楽しみになってきた。」
10時頃、午前の休憩で街道の端に止まった馬車。
寝ていた姉弟冒険者が起きてくる。十分に寝てはいないようだが、顔がはれているので少しは寝たのだろう。
「よう、気分はどうだ?」
「朝よりいいかな?」
「では、これから働いてもらうか。」
「?・・・働く?」
「護衛だろう?」
「また襲われると?」
「昨日、俺が寝ていた時、帰って来ただろう。」
「ええ、壁に背をつけて寝ているから、よく疲れないなぁと思いましたよ。」
「その時、男が立っていただろう?」
「今日降りた人よ。」
「そいつが言っていたのさ『あんた、悪いことは言わない。フォーレンに近づかない方がいい。』。そう言って、外に出て行った。」
「ああ、それで腰に手を。」
その人、殺気が無かったから命拾いしたのかなと思う姉。
「俺の事はいい。午後の休憩頃(3時)だとフォーレンに近すぎる。それに、どこで休憩するか分からない。」
「いつものお昼をとる広場?」
「そうだと思う、御者を呼んでくれないか。」
重い馬車は遅い、お昼時間に広間にたどり着けないので、街道に止め道脇の草むらで食べる事になった。広場で襲われるかもしれないと聞いた乗客達から文句は、出なかった。
広場に近づくと・・また魔素の乱れがある。今回の魔素たまりは、かなり小さい。小さな魔素が10個、広場を囲んでいる。それより奥、林の中から魔法使いだろう少々大きな魔素が感じられる。
弟を後ろに呼ぶ、しかし、姉弟共、魔素たまりを感じていないと言う。
それでも、ジャックを信じている様で。
馬車は、誰もいない広場に止まることなく街道を進む。
すこし通り過ぎると、魔法使いが慌ただしく広場に近づく。それに合わせて、小さな魔素が広場の周りの草むらから出て来た。
10匹の『マダラポイズンフロッグ』。
「俺への嫌がらせか?」
眉間にしわを寄せ、少々苛立っているジャック。
「そんなに危険?私が行って斬ってきましょうか?」
「いやまて・・・弓はあるか?」
「弟が得意で持っています。」
「追いつかれる前に殺そう、準備してくれ。」
弟は、乗客に足を上げてもらい椅子の下から弓矢を取り出し、ジャックの脇に来る。変わって姉は、御者の隣へ座る。
「そのカエルの体液は、猛毒になっている。一滴付いただけで、その部分を切り落とすから覚悟してくれ。」
サッと青くなる弟。
「まだ距離がある、落ちついて狙え。近づいたのは俺がやる。」
体長1m程、ピョンピョンと飛び跳ね、意外なほど高速で追ってくる。最初慌てて弓を射るが、動きが速くて射る事は出来ない。慌てた弟は、さらに外す事になる。
「落ちついて。」
近づくカエルにナイフを投げるジャック。急所を直撃したようで狂ったように身を動かし、路上に腹を見せる。その様子を見た弟は、次第に落ち着きを取り戻す。
弟の矢が当たりだすと、残りのカエルを連続で射貫いてしまう。
「ほう、上手い物だ。」
ジャックに褒められまんざらでもない様子。
「最後の一匹だが、頼みがある。道端に追い詰め、見えない様に草むらで仕留める事はできるか?」
「任せてください。」
馬車に見えない様に並走していた魔法使いも消えていた。
もう大丈夫だろう・・しかし、二度も襲撃されては、落ちついて休憩もできないと、そのままフォーレンまで来てしまった。フォーレンの門前、入場審査待ちの間、姉弟に路上に放置してきたカエルの焼却を頼みに行ってもらう。
知らずに触れば、死んでしまう危険な物。さっさと焼却するしかない。
採取を知っている兵士に取り次いでもらうと、門内が慌ただしくなってきた。兵士が3名、魔法使いが2名、馬に乗ると門から飛び出して行った。
マダラポイズンフロッグ・・・頭部からお尻に、赤黄青と毒々しいまだら模様が特徴。体表面のジュンサイのようなぬめりのある体液が猛毒となる。
毒は、神経毒で一滴でも触れると体内に侵入。神経に触れると組織を破壊してしまう。恐ろしいのは、毒は体内の成分を使い増殖する事。触れたら、すぐに神経系の解毒剤を飲み、壊疽部分を除去するか、聖女クラスの神官に回復してもらうしかない。
討伐(Eクラス)成獣で体長1m程。人里離れた沼地に生息。人影を見かけると物陰に隠れるほど臆病。魔法を持っていないので、倒すのは簡単だが体液を浴びてはいけない。移動は、見かけより速いので注意が必要です。
採取(Aクラス)神経毒を持っている。危険度は、上記参照。なお、濡れていないと、体内に入れないので危険度は低下するが、水などで濡れると毒性は復活する。




