第16話 逃げた鎧トカゲ
村から戻ったエイミ達は、土石の山を滑り落ちると叫びながら宿舎を目指す。
「トカゲが穴から出て来た!」
「山を登って、トカゲ村の方に走っていた!」
時間は、夕方。薄暗くなってきたが、声が聞こえたのか事務所・食堂・宿舎色々な所から人が飛び出して来た。
ある者は、ジャックが覗いている鉱山の底を一緒に覗いたり。
エイミが指さす、土石の山に まだいるかもしれないと恐々見つめたり。
ダイとトードに詰め寄り、何処から出て来た?どこに行った?と聞いていた。
ひとしきり騒ぎがおさまると、一団になり食堂に集まる。今度は、見たのは幻だの、マリスの槍に驚いて逃げたの、ここでも大騒ぎになった。
そんな中、マリスは冷静な顔をしていた。信じているようないないような、そんな顔で話を聞いていた。
そんなバカ騒ぎも、時間と共に下火になっていく。一人さり二人さり、あちらこちらで小グループが出来、ヒソヒソと話していた。
翌朝、朝早い朝食を取っていると、トードがやってきた。
「今日、戻るのか?それなら送るぞ。」
エイミとダイは、顔を見合わせていたが 決まったようだ。
「もうここに仕事は無いから、帰る。」
「分かった、ジャックさんはどうする?」
「俺も帰るか。」
それを聞いていたマリスが、近寄ってきた。
「おれも帰る、あいつらも乗せてくれ。」
馬車の席は、前を向いている。御者席にトード、その後ろにエイミとダイが、通路を向いてとりとめのない話をしている。ダイの後ろにジャック、話は聞いていないようで虚ろな顔で座っている。
最後尾の席に、ジャックのパーティーが座っている。席に合わせて前を見ているので、自然にエイミとダイの話を聞いているのだろう。
「それで、ジャックさん。約束ですよね、着いたらお願いします。」(ダイ)
「・・、ん?」(ジャック)
「約束しましたよね。トカゲ退治したら、奴隷解放手伝ってくれるって。」
マリスの耳が、かすかに反応した。
「えっ・・・・言ったけど。」
退治って、逃げただけ・・言わない方がいい雰囲気だな。
「死ぬほど、頑張りましたよね。」
確かに、死ぬ展開はあったけど・・これも言わない方がよさそうだ。
「じゃ、ギルドに報告したら作戦会議ですね。」
嫌にダイが張り切っている。
「宿をまた取るんですよね、それなら私の家を使ってはどうですか?」
「トードさん、フォーレンに家を持っているのですか。凄いですね。」
「いや、小さくて古い家です。それでも街中にあるので、便利ですよ。」
「それじゃ、ギルドの後に買い物をしてお邪魔しましょうよ。ジャックさんも良いですよね。」
時間は、夕方。ギルドには、依頼報告や解体待ちの冒険者が多数いる。ギルドに入っていくと、一斉にジャックとマリスの顔を見る。
ジャックもマリスも行って一週間も経っていない、失敗したのか狩ってしまったのかと興味津々の様子。その中、ジャックとマリス一行の靴音がギルドに響く。
受付奥のお姉さんが、席を立ってカウンターに出て来た。
「依頼報告ですか?」
「はい。」(エイミ)
「では、ギルドマスターの部屋へ。」
カウンター横から出てくると、部屋へ向かって案内をする。
この言葉で、騒然となるギルド。
「静かにしてください。」
カウンターの女の子の声は、誰にも聞こえない。
・・・・・
「それで、トカゲはトカゲ村の方に逃げて行った。で、いいのかな?」
「はい。」(エイミ)
「それだと・・お金が、ね。」
「依頼の報奨金が出ないのですよね。分かっています。」(エイミ)
「それじゃ、これでいいですか。」(エイミ)
「ああ、そうだね・・報告書はこちらで書いておくよ。ご苦労様。」
入って来たより疲れた顔になったギルドマスター。
「浮かない顔ですが、困りごとでもあるのですか?」(エイミ)
「鉱山に行った冒険者も戻ってくるのだろう。」
「ええ、鍾乳洞も調査すると言っていたので、それでも2~3日で終わると終わりますよ。」
「その受け入れがね。」
「討伐依頼が無くなれば、帰るのでは?」
「だといいのだけど。」
「・・?」
何を言っているのかエイミには分かっていない。
話は、終わりと席を立つジャック。一緒に来たマリスとジャックだが、全部エイミが話したので、脇に座っているだけだった。
執務室の外に出ると、マリスのパーティーメンバーとダイ、お姉さんが雑談をしていたようだ。
ギルドホールへ歩きながら、ジャックは意図した様にお姉さんの脇に移動した。
「俺を呼んだは、マスターだろう?」
「・・なんの話ですか?」
「依頼料がね、それはいいのだが。そう誘導したのは。」
「・・・」
ジャックは、勝ったと内心小躍りした。ほんの少し、動揺したのを感じた。
「ジャックさん、ギルドの運営資金は何かご存知ですよね。」
「依頼の手数料と素材の解体料、買取の差額だろう。」
「それだけでは、私達の給金は出ませんよね。」
「後は、寄付を貰っていると聞いたが。」
「そう、大店や貴族から、寄付を貰っています。その中でも鉱山関係からの寄付は、馬鹿にならない金額でして。」
『ん?・・当たり前のことを?』
「マスターもこれで、安心して眠れますね。それは毎日大変でしたから。」
『商会から、毎日突き上げが来ていたのか。もっと人をよこせ、もっと腕のいいのをよこせ。』
「ジャックさんは、鉱山で活躍されたとか。」
「いや、俺はなにもしていない。したのはマリスのパーティーだろう。」
急に話を振られて、俺達の顔を見るマリス達。
「おれたちも、倒した訳ではないからな。」
「マリスさんのパーティーの活躍も聞きましたよ。これで、鉱山が安泰になります。」
「そうだね。」
返事はするが、気の無い返事を返すマリス。様子がおかしい?
「ジャックさん、こちらでもなにやらやるようですが、マスターに迷惑をかけないようにお願いしますね。」
『う・・この人、何処まで知っている?』
ギルドホール前、お姉さんはカウンターへ。俺はエイミ・ダイの後ろに回るとベルトを引っ張り、マリス達を前へ出す。
一歩遅くホールに入ると、マリス達は人ごみに連れ去れていた。関わらないように、そっとギルドを出る。外で待っていたトードと一緒に、買い物をしながら家まで歩いて行った。




