9014K列車 向いてない経営者
あさひサイド
守山駅に行くと既に亜美ちゃんは待っていた。
亜美「こちらですよ。」
亜美ちゃんの周りにいる人からは「誰、あのお嬢様。」みたいな顔をしているのが印象的だ。まぁ、実際にお嬢様なんだけど・・・。
あさひ「ゴメン。待った。」
亜美「そんなことはありませんよ。こちらも今来たところですから。」
あさひ「・・・でも、瑞西さんに迷惑かけちゃったかなぁ・・・。」
亜美「それを貴方が心配する必要はありませんよ。瑞西が私に変わって子供の面倒を見てくれるのは後で私からお礼しておく話ですから。」
とても私には縁の無い話だと思う。さっきから出ている瑞西というのは亜美ちゃんが個人的に雇っているメイドさんらしい。私にはまだ子供はいないが、そういう環境に少々憧れはある。でも、亜美ちゃんはそれをヨシとはしていないようで子育てはあくまで自分が主体でしているらしい。本当出来たお嬢様だ。
亜美「さて、では行きましょうか。ここではゆっくりお話も出来ないですし。」
あさひ「そ・・・そうだねぇ。亜美ちゃんある意味有名人だもんね。」
亜美「もうそれには慣れちゃいましたけどね。慣れって恐ろしいもの・・・。」
私達はホームに向かう。ちょうど普通列車が入ってきたところ。これに乗って2つ隣の草津駅に向かう。草津駅の近くにはショッピングモールがあって、そこには沢山のレストランなどが入っている。その内の1つに私達は入った。
亜美「それで話とは何かしら。」
席に着くなり、言った。
あさひ「まず、注文しない。」
亜美「ああ、失礼。急ぐ話でも無かったわね。」
お互いタブレット端末でカフェラテとお菓子を注文する。数分も経たないうちにそれは運ばれてくる。お菓子にフォークをいれたところで本題に入った。
亜美「確か、プレゼントと言ってましたね、旦那に渡す。」
あさひ「うん。家の旦那ってほら、アレでしょ。亜美ちゃんだったら何か参考にならないかなぁと思って。」
亜美「成る程・・・。正直あまり参考になると思わないけれども・・・。光ちゃんと輝君じゃ全然違うから。」
あさひ「そうなの。鉄道ファンって一緒じゃ・・・。」
私の言葉を聞いていると亜美ちゃんは呆れたようにため息をつく。
亜美「あのね、他人の趣味って言うのは結構違うものよ。あるバンドマンのファンだとしてもライブに行ったりするのが趣味な人もいれば、そのバンドマンが出す曲が好きで聞いてるだけで、ライブには行かないとかも有るでしょう。鉄道趣味も楽しみ方は千差万別。ただそれだけよ。」
あさひ「奥が深いような・・・。」
お菓子を一口。
亜美「そうね。あの人はもう日本中の鉄道は乗り尽くしたでしょうから、少し考えないと行けないかしら。今回ヨーロッパに行ったのだって、日本を回り終えたって事でもあるでしょう。」
と聞く。それに私は首を振った。
あさひ「私、前に海外行きたいって言ったでしょ。海外行くって言う我が儘は聞くから、僕の我が儘に付き合って欲しいって言われただけ。」
亜美「・・・貴方、いかにも怒りそうだと思ったのだけど・・・。よく我慢出来たわね。」
また呆れ気味に言われてしまう。これは私がテル君や亜美ちゃん達に比べて鉄道に詳しくないし、何時間も同じ空間にとどまっていると言うことを理解出来ないからでもあろう。
あさひ「どっかの誰かさんのせいで訓練されちゃったからねぇ・・・。今は何時間でも暇を潰す方法があるから。ある意味旦那に感謝してるわ。ハハハ。」
亜美「笑い方が苦いわ・・・。」
あさひ「そんなことないよ。・・・でどうなの。光ちゃんの誕生日には何上げたの。ああ、貰ったでもいいけど。」
亜美「・・・。」
あさひ「・・・。」
亜美「・・・どうしても言わなければ、ダメ。」
あさひ「別に言えないものなら良いけど。」
いや、言えないものって何だよ。
亜美「別に言えないわけではないわ。ちょっと恥ずかしいだけ。・・・耳貸して貰えるかしら。」
あさひ「えっ。うん。」
それから亜美ちゃんは小さい声でボソッと呟いた。
あさひ「わお。お盛ん。でも、それって別に誕生日じゃなくてもいいような・・・。」
亜美「確かにね・・・。別に考えてなかったわけではないのよ。でも・・・近づいてくるとどうしてもそういうことを考えてしまうのよ。光ちゃんとの子供はまだまだ足りないくらいだし。・・・こういうお嬢様には幻滅かしら。」
あさひ「寧ろ、普段の振る舞いがお嬢様っぽく見えないからあんまり驚かないかも。」
亜美「あら、それは心外。対外的にはお嬢様らしい振る舞いをしていたつもりですけど。」
あさひ「お嬢様が他人を煽ったりしないって。」
亜美「と・・・私の話はこういうものですよ。あまり参考にはならなかったでしょう。」
あさひ「逆はどうなの。そっちは聞いてないし。」
亜美「似たようなものよ。」
あさひ「あぁ・・・。」
亜美「あまり参考にならないでしょう。」
と続ける。
あさひ「ああ。となるとますます分かんないなぁ・・・。テル君にはどんなのが良いんだろう。」
亜美「・・・貴方さえいれば他には何にもいらない。そう言うんじゃないかしら。」
あさひ「それは嬉しいけど、やっぱり何かお返ししたいよ。曲がりなりにも海外には連れて行ってくれたわけだし。」
亜美「・・・手の届く範囲とかそう言うものは、今は抜きに話を聞いてもらえる。」
と切り出してきた。
あさひ「えっ、うん。」
亜美「クルーズトレインなんてどうかしら。」
あさひ「クルーズトレイン・・・。周遊列車って事。」
亜美「ええ。おおむねその解釈で間違いないわ。京都駅で「TWILIGHTEXPRESS瑞風」の広告を見たことはないかしら。」
そう言われると途端に自信が無くなってくる。京都駅に行くことも久しくないからなぁ・・・。高校の時に大阪に方に通ってはいたが、そう言うところまで目を向けてはいなかったし。それを察したのか、
亜美「見ていないのなら、良いわ。JR西日本はそういう豪華列車を走らせているの。一人辺り何十万とかかってしまうものだし、乗る為には抽選に当たらないとならないのだけどね。」
あさひ「そこから狭き門かぁ・・・。そのクルーズトレインだっけ。何処で運転しているとか有るの。」
亜美「JR東日本で「TRAINSUITE四季島」。JR西日本はさっき言った「TWILIGHTEXPRESS瑞風」。JR九州で「ななつ星in KYUSHU」この3つね。他に九州で特急「36プラス3」というのも運行されているわ。」
あさひ「鉄オタ的に一番喜びそうなプランって。」
亜美「それはもちろん、「TRAINSUITE四季島」の北海道に渡る3泊4日のプランでしょうね。一番安いプランで・・・確か120万くらいするわ。」
あさひ「ひゃっ・・・120。」
その金額に思わず目が飛び出そうになる。
亜美「だから、ゆっくりお金を貯めてって事を考えても良いかも。そう簡単にあたるものでは無いし。」
あさひ「それはそうかもしれないけど。でも、120万って・・・。出せない金額とは言わないけど、その為には私もまた働いた方が良いわね・・・。」
亜美「何なら私の所で働いてみる。メイドとして雇ってあげるわ。お給料は滋賀県の最低賃金等考慮してのものになるけれども。」
あさひ「ああ、でもそれって・・・。」
亜美「仮に働いたとしてもいつ辞めても問題ないわ、貴方ならね。もちろん、いつ復帰してもこちらとしては大歓迎よ。」
あさひ「それでお給料も払ってくれるんでしょ。魅力的ね・・・。ちょっと考えといてもらえる。」
亜美「いつでも待ってるわ。ああ、そうそう。無理にとは言わないから。」
あさひ「・・・つくづく経営者に向いてないわね。亜美ちゃんって。」
亜美「その話は良いの。私もよく分かってるから。・・・ところであさひさん。」
あさひ「何。」
亜美「貴方、旦那さんのことテル君って呼んでいたかしら。前は違ったと思ったのだけど。」
あさひ「ああ・・・。私だけの特別が欲しいって。」
亜美「・・・欲張りね。好きな女の子からの渾名なんて特別以外の何物でもないと思うのだけど・・・。」
それには少し同意・・・。