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9013K列車 どうしよう・・・

あさひサイド

 それから数日後。ここは滋賀県守山にある私の実家。と言ってもマンションの一室なのだが・・・。

あさひ「は、ああぁあぁ・・・。」

輝「大きい欠伸だこと。」

あさひ「ッ。」

まずいもの見られた。

あさひ「ナッ、何。」

輝「欠伸してる顔も可愛いなと思って。」

あさひ「ん。」

輝「悪かったって。そんな顔しなくても・・・。

あさひ「まぁ、見ちゃったものは仕方ないよねぇ・・・。」

うん、仕方ない。色々見られちゃったからなぁ・・・。まっ、それもテル君なら良いかと許せてしまうのだけれども。

あさひ「はい。今日のお弁当。」

輝「うん。ありがとう。じゃあ、行ってきます。」

あさひ「行ってらっしゃい。」

 玄関を出る旦那を見送る。扉が閉まって、その背中が見えなくなると、また睡魔が襲ってきた。ヨーロッパから帰ってきてからもう数日は経っているというのに未だに時差ぼけが抜けきらない。

あさひ「ホント、テル君の体力お化けッぷりには驚かされるなぁ・・・。」

その割に旦那は全然疲れているそぶりを見せない。時差ぼけも既に治っているようで旅行にでる前の生活習慣に戻っている。私もああいう所は見習わないとな。

???「相変わらず元気だねぇ・・・。あさちゃんも真太君も。」

後ろから声がする。振り向くとお母さんがいた。ちょっと他人には見せられない凄い寝癖に顔。こうしてみると滲み出るおばさん感が半端ではない。

あさひ「お母さん・・・。寝癖凄いって。もうちょっとちゃんとしてよ。」

七海「・・・こういう私は見せたくないって。大丈夫だよ。こういうのはどんなに気を付けてたってちゃんと見られるものなんだから。」

あさひ「それ余計安心出来ないよ・・・。」

七海「貴方だってもう全部見られたでしょ。」

あさひ「ナッ、何の話。」

七海「そういう話。」

そう言って笑っていたが・・・。色々とまずいよ。そういうことまで全部知られてるって・・・。でも・・・。

あさひ「ねぇ、お母さん。」

七海「ん。」

あさひ「お父さんがいた時ってこんな感じだったの。朝になったらお弁当渡して、帰ってきたらお迎えして・・・。」

七海「さぁ、どうだったかしら。もう随分昔の話だからね・・・。忘れちゃったわ。」

昔はその言葉を真に受けただろうな・・・。でも、今なら分かる。お母さんはちゃんと全部覚えているんだろう。私にそう言うのは「失われてしまった幸せを思い出すと辛くなるから」・・・。いや、それは私の憶測だ。

七海「それはそうと、どうだったの。ヨーロッパは。」

あさひ「またその話。」

もう何度目だろうか。毎日聞かれている気がするが・・・。

七海「いいじゃない。まだ電車乗ってる話しか聞いてないわよ。」

あさひ「ほとんど電車しか乗ってなかったんだけど・・・。」

七海「ヨーロッパの電車なんていつでも乗れるようなものじゃないでしょ。ほら、TGVだっけ。フランスにも新幹線が有るじゃない。」

あさひ「うっ・・・。」

その言い方は旦那にとってはタブーらしい。TGVに乗った時、延々と蘊蓄を語られたっけ。「TGVをフランス版新幹線っていうから日本人がおかしな勘違いをする」とか「欧州の高速鉄道は高速で走ることが出来る車両なのであって、それを基軸にしたサービスブランド。日本の新幹線は新幹線に関連する全部の設備を含めて新幹線って言う一つのブランドなんだ。」とも言ってたっけ。何がどう違うのかは漠然としか分からなかったけど・・・。

七海「あれ、つまんなかった。」

と聞いてきたが、

あさひ「そんなことないよ。どっかの誰かさんのせいでああ言うのでも楽しめる体になっちゃったから。」

七海「あら、卑猥。」

あさひ「何考えてるの、お母さん。」

七海「フフフ。1ヶ月遅れとは言え良いプレゼント貰ったわね。ヨーロッパなんてなかなか行けないわよ。」

あさひ「だよねぇ・・・。でも、電車乗ってるばっかだったからまだ周り足りない気分。ピサにもベネチアにもベルリンにもマドリードにも行ってないし。テル君も1ヶ月じゃ圧倒的に時間が足りないって言ってたし。」

七海「来年も行く気。」

それに私は首を横に振った。

あさひ「テル君、シベリア鉄道に乗っていくのはヨーロッパ旅行のルーティーンって言ってたし、その行き方を考えたら来年もなんて行かないよ。もし行けるとしたら老後じゃないって。」

七海「老後かぁ・・・。」

そう言ってから、お母さんは私の肩に手をぽんと置いて、

七海「行ける時に行っといた方が良い。人生の先輩からアドバイスしとくわ。」

あさひ「あっ、うん。」

七海「何か悩み事でも有るの。」

私の表情を敏感に感じ取ったらしい。私のことを一番よく見てきたからか。

あさひ「だってこれで来年のテル君の誕生日プレゼントどうするかって事よ。テル君は私の誕プレって感じで考えてなかったみたいだけど、時期が時期だし、私はそう言う解釈してるし。そう考えたら、テル君が喜びそうなものって何があるか分かんなくて。」

七海「あぁあ・・・。流石にあさひちゃんでも分かんないものはお母さんには分かんないかな・・・。」

あさひ「そ・・・そうだよねぇ・・・。」

七海「・・・真太君、鉄道ファンなんだし同族に聞いてみたら、答えが出てくるかもしれないわよ。」

それに私ははっとした。そうか。テル君と同類に相談すれば。私にはそう言う友達もいるし、

あさひ「私、もしかしたら今日出掛けるかも。」

七海「はーい。気を付けて行ってきなさいよ。」

 善は急げ。私は友達に連絡を取った。

???「はい、永島です。どうされましたか、あさひさん。」

あさひ「ごめんね、亜美ちゃん。朝早くから。」

亜美「別に。朝早いのは私達の性みたいなものでしょう。」

と言って笑って見せた。そのあと話はとんとん拍子で進み、

亜美「じゃあ、10時に守山駅で会いましょう。」

となった。

七海サイド

あさひ「お母さん、ちょっと出掛けてくるからね。」

そう言って娘が玄関に向かっていく。

七海「気を付けて行ってきなさいよ。」

ガチャッとドアが開いて、音を立ててしまった。

七海「ふぅ・・・。」

まだ着替えてないんだったなぁ。髪も全然整えてないし・・・。ああ、面倒くさい。随分前から外に出る時以外は起きたままの格好で過ごすことが多くなった。だらしない母親であることには変わりないが、それでもしっかりと育ってくれた娘のことは自慢だ。

 電話の横に置いてある写真立てを手に取った。

七海「・・・。」

???「じゃあ、行ってくるよ。」

七海「気を付けてね。ほら、あさひも。」

だっこしているあさひの手を握ってバイバイと振る。

???「あさひの為にも帰ってこないとな。」

それが・・・それが・・・。

七海「・・・ごめんなさい。でも、貴方なら許してくれるわよね。」

確認するように写真に語りかける。娘のヨーロッパ旅行。その資金の為にこの人が貯めていた貯金を初めて取り崩したのだ。元々娘の為に貯めていたと嬉しそうに語っていたお金だ。私が娘の為に使ったんだし、目的はちゃんと達成しているであろう。

七海「・・・娘は貴方と同じような人を選んだわ。血は争えないのかしら。」

笑った。そして、泣いた・・・。


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