9024K列車 宙ぶらりん
あさひサイド
あさひ「・・・。」
七海「・・・お話って何かしら。娘からこんな風に呼び出されるなんて思ってなかったわ。」
お母さんはそう言いながら、今の自分の状況を笑う。
お母さんは私達の前に座っている。構図的には悪いことをした子供を叱る時によく見る場面であろうか。立場が逆転していると言いたいのだろうか・・・。
あさひ「真剣な話。」
七海「分かってるわ。なぁに。前にも言ったけど、あのお金の話は無しよ。返すとかやっちゃいけないんだからね。」
あさひ「返すとかそういう話じゃ無いから。」
七海「じゃあ、何の話かしら。」
口元に指を当てて考えるそぶりをしてから、
七海「もしかして、私おばあちゃんになるって話かしら。」
あさひ「違う。私、まだテル君との子供を身ごもってない。」
輝「・・・あさひ・・・。」
あさひ「あっ・・・。」
いけない。お母さんのペースに呑み込まれるところだった。
あさひ「お金の話よ。お金の話。」
七海「でも、返す話じゃないんでしょ。だったら、話す必要もないんじゃないかしら。」
輝「一応話してくれませんか。そんないきなり150万も貰って出所とかそういうのが気にならないって事もないので。どういうお金かだけでも教えて貰えませんか。」
七海「ああ、そういうこと。貯金よ。」
あさひ「貯金って・・・。お母さん、私のことバカにしてる。家の家計が悪いことくらい私は知ってるんだけど。」
七海「・・・どうしてもそれで納得してくれないの。お母さん嘘は言ってないわ。」
あさひ「貯金って言われても、信じらんないよ。何で有るのかっていうのが全然分かんないし。」
七海「しつこい女も嫌われるわよ。」
あさひ「話逸らさない。」
輝「どっちが子供か分かんないですね・・・。」
テル君がそう言ってからお母さんは少しの間黙った。それから観念したかのように息を吐いた。
七海「このお金はね、私がお父さんをビックリさせる為に貯めてたお金だったの。」
あさひ「えっ・・・。」
輝「お父さんをビックリですか。でも、あさひのお父さんは・・・。」
私の父は私が小さい時になくなっている。父親との思い出なんてものはおろか記憶さえない。
七海「ええ。ビックリさせる前にあの人は逝ってしまったわ・・・。ハァ、金額も目標分貯まって後もうちょっとだったのに・・・とその話はいいわね。結局、ビックリさせる人がいなくなったせいで宙ぶらりんになっちゃったのよ。」
あさひ「だからって・・・お父さんのお金もそうだけど、家計が苦しかったら使っても。」
七海「使いたくなかったのよ、ただそれだけ。だから、貴方たちが使ってくれるとありがたいのよ。」
あさひ「・・・。」
七海「・・・ねぇ、あさひ。親に迷惑はかけていいんだから。お世話になっていいんだから。お願い。貴方たちの希望を聞かせて。」
輝「ありがたく使わせて貰います。」
私よりも先にテル君が言った。
あさひ「テル君ったら・・・。」
輝「いいでしょ。」
あさひ「うん。」




