9012K列車 ヒースロー
あさひサイド
日本との時差は9時間。イギリス、ロンドンヒースロー空港。見たことのない塗装の飛行機がひっきりなしに通り過ぎていく。滑走路ではエンジンを唸らせ、「Lufthansa」と書かれた大型の飛行機が飛び立っていく。その中で見慣れたトリトンブルーの飛行機。
輝「もう日本に帰っちゃうんだよなぁ・・・。」
隣で名残惜しそうに呟く男性。彼は輝真太君。私の旦那さんになった人だ。今回は新婚旅行として、1ヶ月使ってヨーロッパを回ったのだ。
あさひ「名残惜しい。」
輝「そりゃね・・・。まさか、本当にロンドンまで来ることが出来るとは思ってなかったけどね。」
そういうのは主にロンドンまでの移動手段のせいだろう。普通の人間であれば羽田からロンドンまでの直行便で飛ぼうと考えるであろう。しかし、私の旦那は移動手段に飛行機が入っていない。島根からフェリーに乗って韓国経由でロシアウラジオストクに入り、そこから7日間かけてシベリア鉄道。後は鉄道の国際線を乗継いでフランスからイギリス入りしたのだ。もちろん、それ以外の日はヨーロッパ各地の鉄道路線に乗っていた。ここまでくるのに1ヶ月近くかかっている。
あさひ「でも、満足したでしょ。」
そう笑いかけたが、
輝「いや、全然満足出来ては無い。」
とあっさり否定した。
輝「だってフィンランドには行ってないし、スペインでタルゴを見る暇は無かったし・・・ああ。でもタルゴの客車には乗ったか・・・、イタリアで車両航走を見ることもなかったし・・・。やってないことの方が多いよ。」
あさひ「旅行への欲望が尽きないわね・・・。」
輝「いやぁ、それほどでも。」
あさひ「褒めては無いからね。」
輝「厳しい・・・。」
あさひ「じゃあ、また来る。ヨーロッパ。」
輝「ああ。今度こそ大量の時間を使って全土なめ回すように回ってやりたい。」
あさひ「そんなこと言ってたら、老後しかないわよ。来れるの。」
輝「それはそれで楽しいじゃないか。あさひだってその時も付き合ってくれるんでしょ。」
あさひ「多分ね。」
と言った後、
あさひ「その時は私の我が儘を聞いた上で付き合うからね。今回は全然観光らしいこと出来てないんだから。でないと一緒になんて来てあげませんよーだ。」
輝「あっ・・・。」
あさひ「私はテル君と違って、ノーマルなんです。」
テル君の観光は特殊の一言だ。電車に乗っているだけで観光になるって言うのは付き合って長い今現在でも到底理解することは出来ない。まぁ、そう言うものだと思うしかないと思うのだけど・・・。
輝「分かってる、分かってる。ゴメンね。今回は僕の我が儘に付き合って貰って。」
あさひ「どういたしまして。これもどっかの誰かさんのせいね。」
そう言うとお互い見つめ合って笑った。
英語でアナウンスが流れる。
輝「そろそろ行こうか。」
あさひ「そうね。羽田に着いたら京都まで新幹線だっけ。」
輝「品川からリニアね。」
あさひ「本当、JR東海様々ですよ。」
こういう所はごまをすっておこうかな。
しばらくたったら、トリトンブルーの翼から臨むようになる。
ANA NH212便 ロンドンヒースロー空港→東京羽田空港 B777-9X