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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
一章-異世界への転送
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3話:キツネたん

後ろで束ねられた長い黒髪を揺らしながら、優香が悟たちと一緒に北へ北へと進んでいく。


そして、待ち合わせの場所の大きな木を挟んで向かい側五百メートル程の位置にいるのは、悟たちとは反対方向である南側を探索しているワタルと暴龍天凱ペアだ。倒れた木をいくつも越えて、着々と南に進んでいく。


親友故に、遊ぶ時はワタルの家の時が常だが、夏休みなどの長期休暇に入ると、ワタルたちは登山や海に行ったりする。


登山に少しだけ慣れているワタルたちは、ペースをゆるめることもせずに、今もまたひとつの倒木を越えた。


親友なので、とても息があっている、というのも、歩くのが速いひとつの理由だろう。


その少し後ろの木に、先程のキツネが隠れて追っている。

ワタルたちは、その事には気がついていない様子だ。

キツネの方も、いつワタルたちに近づこうかとタイミングを伺っている。


ワタルたちは今、まわりを見ても特に変化がないことや、もしここが異世界ならば、魔法くらいはあってもいいのではないか、など、初めはこの世界に関わる雑談をしていたが、だんだん話が逸れていき、最終的に最近二期が来たアニメの話で盛り上がった。


危機感などない。ここは2人の、完全で健全なオタクな空間。オタ空間である。


ようやくワタルたちに近づこうと決心したキツネたんも、突然形成された入り難い空気に、たじろいでしまっている。


ワタルたちが独自の空間を作って、しばらく歩くこと三十分。

流石に疲れてきたワタルたちは、一息つくことにした。



「結構探索したけど、未だに何も見つかってないっていうね。そろそろ何か見つかってくれてもいいと思うんだけどなぁ」



ワタルが悪態を衝くと、暴龍天凱もそれに便乗した。

確かに長時間の徒歩での探索は疲れるので、それに見合った報酬が欲しいところ。

ワタルたちは、もう少し進むか否かを議論している。

探索しても発見がないなら、これ以上の継続は単に労力を擦り減らすだけであると思ったからだ。


その隙をチャンスとみたキツネたん。この先いつ休むか分からない、かなりの速さで進むワタルたちをまた追いかけるのは勘弁なので、ついにその姿を二人の前に現した。


キツネたんが前に躍りでる。

ワタルたちの前方七メートルの位置に突然現れたキツネたんは、ワタルたちを驚かせるのに十分だった。



「えっ!?ワタルくん、後ろ!後ろぉ!」

「ん?──っあ、さっきのキツネたん!?」



何故ワタルたちは、このキツネはさっきのキツネたんであるとわかったのか?

その原因は、キツネたんの毛並みである。

陽の光を反射する黄金色の毛並みで、誰もが一度見たら忘れることは無いだろうと確信が持てる程に綺麗だった。


ワタルたちを驚かせたキツネたんは、どこか楽しそうだ。尻尾をパタパタさせる。



「いや待てよ、この綺麗さ……キツネだけどキツネじゃない可能性も!」

「なるほど、何かの化身とか!?ヤバい、もしそうだったらヤバい!ファンタジーすぎる!やっぱりここは異世界だね!」



だが、楽しそうな表情は長くは続かず、ワタルたちが驚いている理由は異世界の動物に想像を膨らませて、キツネたんのことを何かの化身だと勝手に推測して興奮しているという予想外の反応をしているとわかり、尻尾も垂れ下がってしまった。


そのうち、こんなことをしている場合ではないと己に言い聞かせたキツネたんは、くるりと方向転換をすると、南へ少し歩いたところで振り返る。


どうやら、ワタルたちを自分についてくるよう促そうとしているようだ。


しかし、ここでも予想外。キツネたんが進み始めて直ぐに、ワタルと暴龍天凱は目線だけで「どうする?」「ついて行こう」「OK」と一瞬で会話をして、ついて行くことにしたのだ。


その間、わずか0.23秒。さすが親友。心が通いあっているだけのことはある。意思疎通の仕方は、もはや熟年夫婦の如く。


なので、振り返ったキツネたんは驚いた。「何故自分が何も合図してないのについてくるんだ」と。「いつ私に近づくことができたのか」と。


キツネたんは確信した。


この二人は、只者ではないと。


正確には、この後に出会う、とある魔法使いさんによって只者ではなくされてしまうのだが、それはまた後の話である。




キツネたんがワタルたちに隠された技能の高さを感知して、更に十五分程歩いた。


すると、不意にキツネたんが止まる。周囲には何も無い。ただ木が生えていて、少しの木が倒れているだけである。



「え、何も無いよ?」

「キツネたん、ここどこ?何かあるの?」



暴龍天凱が思わず疑問の声を漏らし、ワタルがキツネたんに問う。

暴龍天凱が、動物に話しかけているワタルにちょっと引いている。

いくらここが異世界だとしても、キツネたんが何かの化身だとしても、喋るはずがないだろう。何を話しかけているんだ、と。



『ちょっと待ってね、今準備してるから!』



キツネたんが答える。



「わかった。リュウちゃん、キツネたんが何かしてくれるみたいだ。」

「うん、キツネたんもそう言ってるし、待ってみ──」



ワタルは振り返った。キツネたんが言っていることを信じて、ここで少し待ってみようと、暴龍天凱に伝えるために。



「「……ん?」」



ワタルと暴龍天凱が、同時に疑問の声を出す。ふと違和感を抱いた二人は、油の差し忘れた機械のような動きで、ギギギッと同時に振り返る。

そして、キツネたんと目が合い……



『どうしたの?何かへんなことあったの?』

「「喋ったあぁぁぁぁああ!!!」」



スポンジ○ブのハッ○ーセットが喋った時の子供たちのような声で叫ぶ。

そんな二人の反応を見て、今度こそ驚いてくれたと尻尾をパタパタさせる。嬉しそうだ。



「で、準備って何の?」

『こんなに切り替え早い人、初めて見たよ』



ワタルの切り替えの速さに、尻尾のパタパタが止まってしまうキツネたん。人間だったのなら、きっと微妙に頬を引き攣らせているだろう。



『あ、ちょっと待ってて。このままだとあれを解除できないから……』



切り替えの速いワタルたちを見て、自分も切り替えたようだ。

キツネたんが何やら気になることを言っている。ワタルが質問しようとするが……


キツネたんが行動を起こす方が早かった。


キツネたんが瞑目し集中し始めると、キツネたんのまわりに光の粒子が漂い始める。

毛並みの神秘性と相まって、もはや神々しいの域に達している。


ワタルたちが、そんなキツネたんに息をするのも忘れて見蕩れている間も、光の粒子は集束していき、大きさと輝きを増していく。


そして、光球が暴龍天凱の身長程になった瞬間、それは起こった。


光が爆ぜる。


辺りに光が撒き散らされ、森を照らす。


あまりの光量に耐えられずに、ワタル達は目を開けたままでいることを諦めた。




十秒ほど経つと、光が晴れてきた。

ワタルたちが再び視界を取り戻し、目を凝らす。

するとそこには──



「ふぅ、こんなカンジでいいかな?」

「「……」」



いた。

キツネたんではなく、十四歳くらいの背丈をしている少女が。

否、正確にはキツネたんなのだろう。動物の姿の時の毛並みと同じ色の、ボブカットにした黄金色の髪から、ふたつの狐の耳が覗いている。

加えて、まさに絶世の美少女というのに相応しい、整った容姿。

くりっとした目で見てくる美少女に、ワタルたちの精神が大ダメージを負った。


暴龍天凱が膝から崩れ落ちた。



「……とりあえずさ、このままその姿でいるなら……」

「……?」



ワタルからの突然の話題提起に、こてんと首を傾げるキツネたん。


そして、ワタルと暴龍天凱は大雑把に、それはもう大雑把に目を逸らしながら、キツネたんに懇願する。



「「とりあえず、服着てください」」



そう、キツネたんは服を着ていなかったのだ。

その事実は、健全な男子たるワタルと暴龍天凱に、少なくないダメージを与える!


暴龍天凱が崩れ落ちた。

ワタルは、崩れ落ちそうになるのを懸命に堪える。



「でも、アタシ服持ってないよ?」



目を合わせてくれないワタルたちに対して、思ったのだろう。


目を合わせてはくれないか、と。


なのでキツネたんは、行動に移す。

キツネたんは暴龍天凱とワタルの頬をそれぞれ片手で押して、正面を向かせた。


服を着ていない少女が自分の顔を引き寄せるという暴挙に晒された、バリバリ思春期の暴龍天凱くんのキャパシティは、一瞬でオーバーした。


ワタルも、己の平常心と絶賛格闘中である。


もうやめて!暴龍天凱のライフはゼロよ!


暴龍天凱は崩れ落ちた。



「あれ〜?二人ともどうしたの?」



自分が原因だという自覚はないようだ。

暴龍天凱は顔を真っ赤に染めて、蒸気を噴出し倒れてしまった。初心である。


ワタルは無事だ。




そして少しの時間を置いて、ようやく平常心を取り戻した二人は、キツネたんにワタルの制服の上着を着せた後、事の詳細を聞くのだった。

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