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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
二章-そうだ王都、行こう。
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12話:作戦決行

だいぶ空いてしまいました。

安心してください、失踪はしない予定です。

 パーティーは終盤に差し掛かり、会場は変わらず優雅な雰囲気に溢れている。


 たくさんの人々が優雅に踊り、料理を食べ、他の人たちと会話したりと、やることや行く場所はグループごとに皆それぞれだ。


 もちろんパーティーに参加しているワタルのクラスメイトたちも例外ではなく、親交を深めようとする貴族たちにダンスに誘われたり、グループごとに料理を頬張って口の中を幸福で満たしたりと、各々満喫しているようだ。



「そこの貴女、私と一曲踊っていただけないだろうか?」

「ええ、喜んで」



 なかなかにダンディーな貴族紳士からダンスの誘いを受けたのは優香だ。スタイルの良さに加え、凛とした何かを感じられるというところに惹かれたのかもしれない。ただ単に勇者の仲間との関係を持っておきたいという理由かもしれないが。


 少し離れた場所ではあかりが同じように誘いを受けている。


 地球の高校でもファンクラブが設立されるほど人気な二人は、やはり異世界に行っても人気のようだ。


 悟や逸郎を筆頭にしたイケメンたちもたくさんの女性に声をかけられて、なかなか大変そうだ。


「まあ、僕には縁のない話だな」と素直にあきらめ、楽しんでいるクラスメイト達を優しい顔で見ることができるのは、ワタルの心の広さ故の考え方だろう。


 もちろん、ワタルのように「すごいなぁ」という称賛を送るような"できた人"もいれば、「イケメンは違うぜ、ケッ」といった風に顔をしかめる"できあがっちゃった人"もここにはいる。



(ほんとはワタルと踊りたいんだけど、別に断る理由もないわよね)



 一方、今日もワタルLOVEな優香は表面上では何ともないかのように、だが心の内では渋々といった様子で踊る。


 長女である優香は普段から何かと我慢をすることも多かった。


 それもあって、本心である裏と表面上の表情との使い分けが上手なのだろう。


 他の踊っているペアの中には、ちらほらとクラスメイトが混じっていた。


「このダンスが終わったら速攻でワタルの所に行きましょ」と息巻いて、優香の踊りに力が入る。


 優香のやる気に満ちた踊りにより、「なんてダンスに熱心な娘なのだろうか、もしかすると好印象を持たれているのでは」と、ダンディー貴族に少し謎の誤解が入る。


 早速ワタルを探そうとした時、ふと優香の視線の先にワタルが映った。


 どこか緊張を孕んだその表情を見て、優香はサツキの言葉とワタルの目的を思い出す。


 それは、なぜサツキは謎の技術をクラスメイトの一部に教えているのか、と質問した時のこと。



『パーティーにいる貴族にナメられないための布石さ。悪口か何か言われた時は、実力を見せれば黙ってくれるかもでしょ?』



 そんな返しが返ってきたのだった。



『でも、私たちが圧で大人しくさせても、いい評価にはならないんじゃないかしら?』

『ああ、そこは大丈夫。今回は力で押さえつけるんじゃなくて、好感を持ってもらえるような行動をする予定だから』



「帝国兵たちが襲撃してきた時みたいなことにはならないから安心してね」とだけ最後に言って、サツキは優香のもとから去っていってしまった。



「まあ、流石にコーヒーは攻撃には使えないわよね」



 苦笑しながら遼真を思い浮かべる。


 遼真がサツキにコーヒーの淹れ方を教えてもらっているとき。


 あの時味わったコーヒーは、あまりコーヒーを好まない優香をして確かに美味だと言わせるほど絶品だった。



「貴族さんたちの偏見がなくなるといいわね」



 小声で独り言ちる。


 ワタルに宛てたその言葉は優香以外の誰にも聞こえることはなく、周囲の雑踏に呑まれて消えたが、優香にとってはそれでよかった。







 次第に夜も更け、パーティーは刻一刻と終わりへと近づいていく。


 初めは豪華に盛り付けてあったたくさんの料理は数回に渡って継ぎ足されたりしたものの、異世界から来た食べ盛りの青年たちも多くいるこの会場では信じがたい速度で減っていった。


 貴族たちもお腹一杯に宮廷料理を堪能し、他の人々と雑談にふけっている。


 そのとき、ワタルや遼真を含む一部のクラスメイト――異世界☆NAKAYOSHI大作戦・精鋭部隊――がサツキによって呼び出された。


 要は、サツキ直伝の特殊な技で貴族たちにOMOTENASHIを施す精鋭の集まりである。


 遼真や逸郎などの四人がサツキのもとへ素早く集合した。


 流石はサツキのスパルタ魔法講座の受講者たちである。無駄な動きがほとんどない。



「コーヒー班・焔遼真、準備完了です!!」

「食後デザート班・新崎逸雄、同じく準備完了」

「メイド援護班・篠原(しのはら)、同じく準備完了よ」

「ジャグリングパフォーマンス班・斎藤、準備完了ですっ」

「逸雄くん、ワタル君は今何してるかわかる?」

「はい。桜井は先程から"鉱物工作班"として貴族たちへアクセサリを作ってプレゼントしております」

「なるほど、警戒心を薄れさせてくれてるんだね。じゃあ、ワタル君に続いて、各班は行動を開始。うまく出し物みたいな雰囲気になるように連携をとって行動すること!」

「「「「了解!!」」」」



 軍人とまではいかないが、高校生とは思えないような素早さで準備を進め、とうとう作戦開始の時。


 個人で訓練してきたそれぞれのパフォーマンスを発揮する時が来た。


 ワタルたち五人の間に緊張が走る。



「まずは俺たちが先行しよう。デザートを出すから、続いてコーヒーを出してくれ」

「わかった!失敗するなよ?練習通りで頼むぜ!!」

「わかっているさ」



 最初に動いたのは逸雄と遼真だ。


 先程に国王より預かっていた出席者名簿を見ながら、何人分のデザートとコーヒーを出せばよいかをあらかじめ二人で検討していたので、配分は完璧。


 万が一おかわりを頼まれた時を想定して、しっかり予備の材料も用意してある。


 ここで逸雄が、直前に作っておいたたくさんのショコラケーキをワゴンで運んでくる。


 突然追加の料理がホールに運ばれてくるのをみて、何も知らない貴族たちはワゴンに目線を集中させている。


 注目が集まる中、逸雄が料理にかぶせてあった大きな蓋を開けると、そこには少し小さめのショコラケーキが並んでいた。


 貴族たちから「おおっ」と感嘆の声が上がった。


 今回逸雄が作ったケーキには、余計な装飾があまり施されていないが、それでも適度な高級感を醸し出していた。


 サイズが小さいのは、お手軽に食べられるようにという逸雄の気遣い故だ。


 逸雄が「どうぞ」と合図をするとほぼ同時に、早速ケーキに手を伸ばす貴族たち。


 今度はその美味さを表すかのように、貴族たちから「ほう」という溜息が漏れた。


 さっきまでクラスメイトに対して密かに妬みの言葉を向けていた貴族集団でさえも思わず唸るほどの絶品。


 もともと持っていた才能もあるが、やはり現役王宮料理長であるルーツの教えもあってか、こちらの世界に来てからは料理の腕がみるみるうちに上達しているように思える。


 そんな逸雄に負けていられないと二番手で飛び出したのは、クラスのコーヒー屋こと遼真だ。


 ちなみに、みんなからクラスのコーヒー屋という二つ名がつけられたのは、結構最近だったりする。


 すっかり逸雄のケーキに夢中になっている貴族たちの注意を自分に集めるべく、遼真十八番(おはこ)の大きな声で呼びかける。



「皆様、お楽しみのところ失礼します!!」



 遼真の大きな声に反応して、貴族たちの視線が遼真の方に向いた。


 それを確認して、遼真は言葉を続ける。



「食後のケーキと言ったらもちろん、食後のコーヒーも付き物。只今から私の超絶技巧を以て、皆様にたいへん美味なコーヒーをお作りしますよ!!味の細かなリクエストがあればそれに合わせることも可能ですので、さあ!!」



 声の圧がすごい。


 遼真の声に若干圧された感じで、というのも否めないが、とにかく一部の貴族は無事に遼真のもとへコーヒーを頼みに来た。


 一人ずつ注文を聞き、そのたびに特訓された流麗な動きをもってコーヒーを淹れ始める遼真。


 人によってバラバラなリクエストでも、遼真は的確に、そして迅速にリクエスト通りの味に仕上げていく。


 サツキから教わったコーヒーパフォーマンス(?)を、踊るように、されど流水が如く速くこなす遼真の姿に、貴族たちからはまたしても感嘆の声が聞こえた。


 ある一人の貴族が、期待と緊張が半分ずつ合わさったような表情でコーヒーを口にした。



「お、おぉ……これは!!」



 すると、その表情が一変した。


 コーヒーの前に食べた逸雄のショコラケーキの後味とすごくマッチし、かつリクエスト通りのマイルドな味わい。


 おまけにラテアートのような形でお洒落なハート形のクリームがコーヒーに浮いていた。


 これに舞を含めたうえで短時間で作りあげるというのは、まさに神業。客の味覚の特徴を瞬時に察し、それに合った味を変幻自在に生み出す姿はまさに、コーヒーの魔術師!


 注文した貴族がこれを最後まで味わいきるまでに、十秒とかからなかった。


 遼真の作るコーヒーは、それほどまでに美味だったのだ。


 最初の貴族を筆頭に、大勢のパーティー参加者が遼真のもとへと流れ込むように殺到した。


 それを遼真は、超絶技巧のコーヒーパフォーマンス(?)をもって応じる。


 貴族全員が各自のリクエストにあったコーヒーを手にするまでに、さほど時間はかからなかった。


 その後に続いたのは斉藤まゆみのジャグリング。


 普段から小動物のようにオドオドしているまゆみなので、今回も例に漏れず震えていた。



「が、頑張れお嬢ちゃん!!」

「練習してきたなら大丈夫だから!!」

「ゆっくりでいいから!ゆっくりでいいから頑張ってみよう!!」

「みんな失敗しても責めないから大丈夫だよ!!」



 なので、本番になっていざ知らない大勢の前で技を披露するとなった今、緊張と恥ずかしさ故にぷるぷるしながらしゃがみこんでしまったのだった。


 そんなまゆみに優しさ全開で励ましを飛ばしまくる貴族の皆様。


 なんて優しい。転移者のことを悪く言ってた貴族も励ましてくれている。


 きっと根は優しい人なのだろう。



「うぅ……でも、ここでやらなきゃ。二人が受け渡してくれたものを無駄にしないようにしないと!」



 まゆみは心を決めた。


 こうなれば、まゆみは強い。


 貴族の皆さんからは、今度は「いいぞ、その調子だ!!」「そうだ、頑張れるぞお嬢ちゃん!!」「もう一息!!」などの激励が飛び交う。



「私……頑張ります!だから皆さん、どうかそこで見守っていてくださいぃ!!」



 叫ぶようにそう言いながらまゆみが取り出したのは、計六つの球体。


 最初の一球を天高く投げ、続いて二球目、三球目と数を増やしていく。


 六つ目を投げ上げると同時に、六つの球体がそれぞれ違う色に発光。


 城のホールの中心は綺麗な六色に彩られた。


 まゆみがジャグリングをしている間にもちょっとずつ発光は強くなっていき、光が一層強くなったところでまゆみが六つの球体を高く放り上げた。


 すると投げあげられた球たちは、PON☆というPOPな音を鳴らして爆ぜる。



「や、やった!!」



 どうやら成功したらしい。


 六つの球を同時にジャグリングするのはとても難しく、更に緊張の中でやり遂げたのだ。


 当然、貴族たちからの賞賛も厚いものとなる。



「凄いなお嬢さん!!」

「よくやったな!!」

「えへへ、ありがとうです!」



 まゆみははにかみながら貴族たちに礼を言う。


 ジャグリングが成功し、まゆみのパフォーマンスはこれにて終了かと思われたが、どうやらまだあるらしい。



「皆さんのおかげで自信がついてきました。なので、もうちょっとやってみたいと思います!」



 そう言うとまゆみは、どこからともなくもう六つの球を取り出し、合計十二個でジャグリングを始めた。


 これにはジャグリングを鑑賞していた貴族たちも唖然。


 まゆみは先程のように、発光した球体を順に高く放り投げ、またしてもPOPな音を鳴らして爆ぜさせた。


 しかも今度は、爆発した球体から出た煙で、この世界の書式で「ありがとうございました」の文字が空に浮かんでいる。


 見ていた貴族たちは、今度は「おお……」といった唸るような声を出すことしかできない。



「では……見ていてくれた皆さん、ありがとうございました!!」



 ホールからは一拍遅れて大きな拍手がまゆみに送られる。


 まゆみは照れながらサツキの元へと戻って行った。


 だが、遼真のコーヒー、逸郎のデザート、まゆみの大道芸を披露している間も、メイドの仕事は続いている。



「あぁ、凄かったなぁ、あの三人。もっと近くで見たかったなぁ」



 ふと呟いたのは、一人の新任のメイド。


 片付けなどの仕事があったので、遼真たちを遠目からチラッと見ることしか出来なかったようだ。



「仕事が無ければ見に行けたのに。無くならなくても、せめて少しでも減ってくれればなぁ」



 当然、愚痴の一つや二つ、あってもおかしくはないだろう。


 王宮に就いて少ししか経っていないが故に、王宮の仕事の量について行くことがなかなかできないらしい。


 先輩メイドたちはじきに慣れるというが、このメイドは未だなれる気配がなかった。


 また、今回のパーティーは、今までの仕事の中でも多い方に分類される。メイドたちは王宮を動き回ることとなった。


 このメイドはちょくちょく休みながら働いていたものの、やはりそれでは仕事が遅くなってしまう。


 今、貴族たちが最後の料理を食べ終わったタイミングを見計らって、食器を回収してきたところだ。


 これから厨房へ運んで洗うのだが、厨房までは距離がある。


 疲れもあって、少し遅い足取りで廊下を歩き、厨房へ向かうメイド。


 その時、後ろから声がかけられた。



「お疲れ様です。良ければ手伝いましょうか」



 メイド援護班の篠原結芽(ゆめ)だ。


 メイドの手伝いをして好感を持たせることを目的とした係。


 ちょうどあからさまに疲れていそうなメイドを発見した結芽は、これはラッキー(?)と声をかけたのだった。



「へ?いやいや、大丈夫ですよ。この仕事は私たちメイドのお仕事ですし、なによりお客様でもある転移者様に手伝ってもらうようなことがあってはいけませんから」



 だがしかし、愚痴を零しつつもちゃんと自分の仕事であるという自覚はあるようで、結芽の提案を断るメイド。


 少し意外だと思いつつも、結芽は好印象を与えるために自分の仕事を全うしようとする。



「それなら、一緒に行きますので、何かは手伝わせてください。運搬、片付け、意外となんでもできるんですよ?」

「いや、でも……」

「いいからいいから。休息だと思って、ね?」



 結芽はもう一押しをかける。



「うーん……じゃあ、お願いします」



 メイドが仕方なく、といった様子で結芽の同行を承諾した。


 どこか申し訳なさそうにしながら歩き始めるメイド。


 その隣で結芽は、メイドへいろいろな話を振っていく。


 そして、結芽がメイドに同行し始めてから数分後……



「いやぁ、でもさ、王宮の内側でも恋愛とかあるんでしょ?貴女も気になってる人とかいるんじゃないの~?」

「いやいや、そんなことないよ~!確かに顔がいい人はいっぱいいるけど、ただの仕事仲間としてしか見れないんだよねぇ~」



 仲良く一緒にワゴンを押しながら恋バナで盛り上がる二人が廊下にいた。


 メイドの先程までの遠慮はどこへやら。



(さて、こっちは順調だし、厨房でちょっと手伝ったら一旦戻ろっかな)



 仲良さげに厨房に入っていく二人。


 中からは皿を洗う音と、早くも結芽と王宮従事者たちの話し声が聞こえてくる。


 順応力やコミュ力が高いからこそできる速攻コミュニケーション。


 前の三人に続き、結芽が王宮内での信頼を築いてくれたところで、サツキ立案の今回の計画は成功と言ってよいだろう。


 最後に四人が集合し、サツキに結果を報告していく。


 どれもよい報告で、計画が円滑に進んだことがわかる。


 サツキは感謝と労いの言葉をかけ、四人は解散した。


 その後もパーティーは夜遅くまで続き、四人の働きもあってか良い雰囲気を保っておひらきとなったのだった。

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