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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
二章-そうだ王都、行こう。
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8話:王城散策 1

物語を書く習慣をつけるために、最近午前五時に起きるようにしました。早起き習慣も身について、一石二鳥!?皆さんもやってみることをおすすめしますよ!

笑笑

煌びやかな装飾の施された廊下を歩く五つの影。


メイドの案内に従って進むワタルたちの影だ。


何とか同行許可を勝ち取ったワタルたちは、先導するメイドの後に続いて進んでいく。



「そういえば、どこに行くつもりだったの?」

「料理長に顔を出しに行くところでした。そろそろ下ごしらえくらいは終えている頃でしょう」



行先は料理室。パーティーで出される料理も特別に見ることができるようだ。


まだこの世界の料理を味わっていないワタルと暴龍天凱は、一体どんな料理なのかと胸を踊らせる。


「ボクは肉系がいいな〜」と暴龍天凱。


暴龍天凱の好物は肉系だ。野菜の好き嫌いが多いようで、たまにワタルに野菜をあげたりしている。


なので、野菜系の料理はやめて欲しいところだ。


もし出てきてしまったら、きっと直ぐにワタルの胃の中に収まることになるだろう。


できる限り残さず食べるように、一応釘をさしておく。


暴龍天凱は目を逸らした。



「まったく、ちゃんと野菜食べないとダメじゃん。大きくなれないよ?」



何気なく発した言葉。


それは暴龍天凱の気にしていることであり、心を大きく抉る言霊である。



「え、なんだって?ちょっとよく聞き取れなかったな」

「サツキ、それはリュウちゃんにとっては禁句だよ」

「あっ、ごめんね」



サツキが暴龍天凱の禁忌に触れ、場が気まずい雰囲気になる。


誰も、何も言葉を発さない。全員が空気を読んで、完全な沈黙の空間と化してしまった。


エリアスはオロオロしながら、暴龍天凱とサツキを交互に見ている。いつもの可愛い仕草に、場がほんと少しだけ和んだ。


しかし、いつまでも空間を凍てつかせている訳にもいかないので、メイドが話題を振る。


と同時に、ワタルもメイドと同じ意図で話題を振ろうとした。



「そういえば、料理長の元に──」

「あ、みんな、パーティーの──」

「「あっ」」



必然、同時に話題を振れば、譲り合いが生じる。


日本ではよく見る光景であり、それはこの世界でも同じのようだ。もっともこの世界では、上下関係を意識しているということもあるのであろうが。



「お先にどうぞ」

「いやいや、メイドさんが先に」

「「……」」



気まずい雰囲気が五割増になった。


いたたまれない。実に、いたたまれない。


それから先、料理室までの長い道の途中、全員が言葉を交わすことなく、ただ前だけを見て並んで歩いていたのだという……






トントントン......と、ハイペースな包丁の音が厨房に響く。


王宮の料理長の隣で包丁を動かしているのは、クラスの料理男子たる新崎逸郎だ。現在彼は、料理長から出された、弟子入りするための試験をしているのだそう。


一体どうしてなのか。


それは彼の趣味と天職と深く関わっている。


この世界に来る前まで、逸郎の趣味は料理だった。自分の弁当の他にも、家族やクラスメイトへ配るお菓子など、作った料理を度々学校へ持参していた。なのでクラスメイトには、逸郎の料理の腕を知らない者はいない。


だが、クラスでこの世界に転送されてしまったことで、趣味にありつけなくなってしまう。


逸郎的に、かなりのダメージである。


それからトラブルはあったものの、この世界には"天職"なるものがあると聞いた。


ワタルと暴龍天凱と一緒に調査から帰ってきた謎のキツネと少女に従い、クラス全員でステータス確認......をして、一瞬自分の目を疑った。自分の天職の欄を見れば、"調理師"と書いてあったのだ。


確かに逸郎自身、薄々予想してはいた。自分の特技が天職と関係するならば、自分はきっと料理にまつわる天職であろう、と。


だが、戦闘系の天職を期待していなかったといえば嘘になる。


逸郎だって一人の男子だ。男子ならば誰だって、剣や魔法に憧れを抱きながら過ごした時間もある。もちろん、"重剣士"などの夢の詰まった天職を期待していた。


だが調理師。


確かに「料理が得意です」みたいな雰囲気はあれど、調理師という天職を望んだ訳では無い。


だが調理師。


そこで他のクラスメイトのステータスを見れば、"竜騎士"や"弓術士"などの戦闘系天職の豪華面子がずらり。


一方、調理師はどう戦えと言うのか。逸郎の頭には、フライパンで凸してタコ殴りくらいしか戦闘方法が浮かんでこない。


その時、逸郎は思った。「調理師、別に俺じゃなくても良かっただろ」と。


だが、決まったものにいちいち愚痴をつけていては何も始まらない。


そうだ俺、逆に捉えるんだ。これで心置き無く趣味に没頭できる。料理店でも開いてみようか。料理の腕は上がってるかもしれない。


そんな調子で諦め、ないしポジティブに考えることにした。


こうした経緯を経て、逸郎は異世界で料理の道に進むことに決めたのだった。


そこで早速、逸郎は王宮の料理長に弟子入りするため、自分の部屋を案内された直後に部屋を飛び出し、料理室へ飛んだ。


そして現在に至る。


なぜ自分が調理師なのか、という逸郎の怒り(?)を表すかのように、包丁を動かすスピードは次第に速くなっていった。



(この子は、本当に趣味だけで料理をしていたのか?)



技能の効果も大きいようだが、異世界にやってきてから、逸郎の料理の腕はかなり上がった。


一秒に六回というとんでもないスピードで包丁を動かしているという点でも、火加減や味付けを完璧に調節できるようになったという点でも、かなり人間離れしている。


料理長もその位はギリギリできるが、趣味でやっている少年と本業の自分がいい勝負になるのは、やはり逸郎が転移者と言えど、少し信じ難かった。



(これからもっと成長すると考えれば、末恐ろしいな)



逸郎の将来を案じ、思わず笑みが零れてしまう。


こんな逸材が、弟子入りしたくて自分のところに出向いてくれるなど、嬉しい限りだ。


自分の出来ることを全て教えよう。


王宮シェフの力を今、この少年のために費やそう。


いつか世界に名を轟かす程の人材になれるよう、自分ができる全てをやろう。


料理長は心の中でそう決意をし、逸郎の方を見れば、逸郎はもう料理を作り終えている。


完璧な出来の出汁巻き卵だった。それがテーブルにひと皿。


五つあるうちのひとつを口に入れる。


美味かった。これまで食べたどの出汁巻き卵よりも。



「どうですか?」



逸郎はそんなことを訊く。だが、料理長の答えは決まっていた。



「合格だ。これ以上の出汁巻き卵を、俺は味わったことがない」

「……っ、ありがとうございます」



安堵と感動の綯い交ぜになったような表情を浮かべ、逸郎は頭を下げる。



「早速だが、君にやってもらいたいことがあるのだが、頼んでもいいかな?」

「もちろんです。何をすればいいでしょうか?」



逸郎に頼み事のようだ。


逸郎は快く返事をし、料理長の指示を待つ。


願わくば、夜のパーティーに向けての準備を手伝うことが出来れば嬉しいのだが。



「この後のパーティーで出すご馳走を作るのを手伝って欲しいんだ。一人でもできるが、折角来てくれたのに放置じゃ暇するだろう?それに、二人の方が早く終わるしな」

「御一緒させて頂けるのですか!」



果たしてその頼み事は、逸郎のやりたかった事だった。


なので、逸郎の返事はひとつ。



「喜んでお手伝い致します!」



クールな逸郎らしくない、やる気に満ちた声だった。

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