7話:憧れ
いつもより少ない……
「何か御用でしょうか?」
整った顔に無表情を貼り付けたようなメイド。
先程までは前を歩いていたはずなのに、どうやってかワタルたちの背後に回り込んでいた。
変なことなど何一つなかったかのように、当たり前のように立っている。
ワタルたちの間に、緊張が走った。
「あれ、さっきまで前にいませんでした?」
「はい。ですが、背後から近づいてくる気配を感じましたので」
どうやら、最初の角を曲がったところから気づかれていたらしい。
王城の中でもワタルたち転移者の存在は有名だ。
メイドたちもワタルたちが転移者であることは知っているし、王都のこれからに重要な者たちだということも聞いている。だから、一応背後に回り込むだけに留めておいた。
これが転移者以外の者だったら……脅迫紛いのことくらいはされていたであろう。
今回出番のなかったメイドの腰にしまってあるナイフが、物足りなさそうにギラリと輝いた。
「それはそうと、貴方様方はどうしてこちらに?」
メイドが、ワタルたちが自分にこっそりついてきた理由を訊く。
ここで嘘をつく必要もないので、ワタルは正直に答える。きっと、嘘をついても直ぐに見破られているだろうから。
要らない事はしないほうがいいのだ。
「あー、ついて行った理由なんですがね──」
自分たちが何をしているかを、言葉を必死に選びながら説明するのに、結局要らない労力を使ってしまったワタルであった。
「──なるほど。確かに、自分の知らない場所となれば、探検したくなるのはよく分かりますよ。良ければこちらにおいでなさいますか?」
主にワタルと暴龍天凱の奮闘により、結果はこの通り。
何とかメイドの後について行く許可を得ることができた。
「ありがとうございます!では、ご一緒させていただきます」
もちろんついて行く。そのために事情説明をしたのだから。
ワタルが即答すると、メイドはクスリと笑って再び進み出した。
「もっとフランクに話してもいいですのに」と言われるが、目上の人に対する礼儀だと答える。
すると、メイドよりも転移者の方が上だと返された。
「どんな口調でもいいので、あなた様方の話しやすいように話して下さいね」
「あはは……ありがとうございます」
返す言葉が出てこず、うんうんと唸っていると、声がかかる。
優しい表情でそう告げたメイドを、エリアスはじっと見ていた。
サツキが気が付いた。どうしてそんなに見ているのかをエリアスに小声で聞いている。
「どしたの、ご主人」
「……かっこいいなぁ、と思って」
エリアスは長く封印されていて、他人との交流がずっと絶たれていた故、コミニュケーションが苦手だ。
本当に信用できる人のみしか信用しないので、長い時間をかけて警戒を解いていくという段階を置かなければ、ほぼ話せないほどだ。
ただし、ワタルの友人にあたる人たちは、ある程度大丈夫らしい。オドオドとだが、しっかり話せているのがその証拠。
そんな具合で、以前はどうだったか分からないが、エリアスはかなりのコミュ障になってしまった。
なのでエリアスからすると、凛とし、強く、それでいて優しさも兼ね備えた完璧とも言えるメイドの姿は、憧れの感情を抱くくらいには輝いて見えた。
「ご主人も、いつかはああなれるよ」
「ほんと?……ありがとう」
サツキはエリアスの考えを察すると、優しく微笑んで言葉をかける。
メイドにあってエリアスには無いものが沢山あるなら、それはエリアスがまだまだ成長できる証拠でもある。
エリアスにはこれからも、色んなことを発見し、色んなことを学んでいって欲しい。サツキが伝えたのは、そんな思いの篭った言葉だった。
エリアスは嬉しそうに頷き、はにかみながら皆と歩を進めていく。
まるで、"みんなとずっと一緒にいる"という密かな望みを成就させた、これから先のエリアスを現しているかのように。




