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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
二章-そうだ王都、行こう。
20/29

4話:ある意味、事件?

大変お待たせして申し訳ございません!!

私用や初期の話の推敲などなど、色々な用事が重なってしまい、長らく空いてしまいました……


こんな作者ですが、引き続き読んで下さると幸いです!

大きな壁に囲われた大都市、トルフュス。


壁の東西南北には、それぞれ四箇所に大門が設置されている。


ここはその四つの門のうちのひとつ、南門。


トルフュスを観光で訪れようとする者や行商人など、いろんな人々が集まる。


その門を警備する警備員二人がつい、ぽろっと愚痴をこぼした。



「はぁ、今日も暑いな……」

「しょうがないさ、こんな甲冑を着て、炎天下の中、ずっと立ってるんだから。休憩時間があるとは言え……」

「だよな、だいぶ辛いよなぁ……ああ、帰って子供たちと遊びたい」

「家族思いな奴っていいよな、俺に嫁は居ないけど」



片方の警備員が残念な感じで呟くと、もう片方がため息混じりに返す。



「早くパートナーくらい探したらどうだ?だいぶ生活が楽しくなるぞ」

「いつも探してるさ……なのに何故か見つからないんだ。なんでだろうな──お、あのコ、なかなか可愛いんじゃないか?」

「……そういうとこだと思うぞ」



どちらも三十代前半辺りだろうか。双方共に逞しい体つきをしており、家庭持ちの方は黒髪、もう一人はチャラそうな印象を受け、金髪をしている。


これはいつもの会話のようで、どちらからも日常会話のような気だるさを感じ取れる。



「あー、なんか無いかな。ずっと立ってるだけじゃなくて、たまには変わったことに遭遇してみたい」

「わかるよ、暇だしな──ん?」



ここに突っ立って監視しているだけでは暇なだけなので、何か変わったことを望む警備員。


もう一人がそれに共感したと同時に、門の前方に異変があることに気がつく。


何やら、発光物体がたくさん浮遊して、徐々に集束している様子。



「どうした?」

「いや、なんか、光が集まってるっぽいから……」

「ああ、ライトバグじゃないか、多分」

「こんな時間にか?それに、ライトバグならあんな風には集まらない筈だろ?」



ライトバグとは、地球でいうホタルのようなものだ。確かに地球でも、真昼にホタルが発光することなんて有り得ないはずである。


周囲にいた人々も、謎の発光物体を中心に円を作るように離れていく。


二人は念の為警戒しておくことにして、今も尚集束し続けている謎の光を注視する。


光はだんだんと何かを形作っていき、少し経つと、完全にその形状を完成させた。警備員の身長と同じくらいの、綺麗な楕円形をしている。


すると、楕円の中に光が満ちていく。


液体が溜まる様子を断面図で見ているような光景だ。



「な、なんだこれは……?」

「何が来てもいいように、一応構えておこう」



光が楕円を満たす。


警備員二人の、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。


瞬間、カッと強い光が楕円より放たれる。


直ぐに消えた光の先には、見知らぬ森を映す、素晴らしい絵画のような、光を纏う楕円があった。



「おいおい、なんだよこれ……」

「取り敢えず、報告すべきか?」

「ああ、頼む。俺はここを──」



俺はここを見張っておく、と言おうとして、とある声に遮られた。


その声は、サツキのゲートから出てきたサツキのものだ。



「ふぃー、ついた!これ作るのにも、意外と魔力使うんだよねー」



警備員と他の人々が硬直する。


客観的に見ると、絵画の中からいきなり子供が出てきたという、何とも不可思議な光景だ。


当事者達は、硬直待ったなしである。


それに追い打ちをかけるかのように、非常事態は更に加速していく。



「おお、街だ!でっかい!」

「まだ門しか見えないよ、陽月ちゃん」



お母さん(あかり)とその娘(陽月)を境に、二十人程の青年達がゲートからわらわらと出てきた。


「おお、すっげぇ!」等と青年たちが口々に言う一方、警備員たちは未だ硬直が解けない。


なので、エリアスが警備員二人をちょんちょんとつついて起こそうと試みる。


試み通り、二人を起こすことに成功はしたが、双方ともエリアスを見た途端、何故か再び硬直してしまった。



「「あ、あの──」」

「さァて、そこのお二人さん!アタシたち、王城にお呼ばれしたんだけど、今大丈夫かな!?」



硬直が解けた途端、二人してエリアスに詰め寄ろうとするが、その意図を察したサツキの妨害によって妨げられる。


「なんだよ、邪魔しないでくれよ」とでも言うような視線をサツキに向けるが、サツキを見た途端、先のようにまた硬直した。



「何回固まるのさ。それで、今空いてるかな?」

「は、はい、分かりました」



サツキはジト目で警備員を見ている。


たじろいだ結果、思わず敬語になってしまった。


だが、王城に呼ばれたとのことだが、簡単に許可することは出来ない。本当に呼ばれたかどうかも怪しいのだ。


なので、一人が確認を取りに行き、一人は門の下で待っていることにした。


コホンとひとつ咳払いをして、その意を青年達に伝える。念の為敬語を保ったままにして。



「ですが、先の話が真かどうかを確認する手段がありませんので、一度上の者に訊きに行ってもよろしいでしょうか?」

「いいけど、ここにも偉い人は一応いるよ?」



ブザルが前に出てくる。


同じような体格の佑介と一緒にいて、更に最後に出てきたこともあり、ブザルの存在に気が付かなかったようだ。



「偉い人……?お手数ですが、お名前を伺っても?」



帝国の甲冑を着ていないので、まだ誰だか分からない様子。


なので、自己紹介も兼ねて、トルフュスに来た要件を伝えることにした。



「ラデア帝国第一兵団団長、ブザル・シュライザーだ」

「て、帝国の団長!?失礼致しました!」

「そう堅くなるな。今だけはこの青年達の護衛なのだからな」

「は、はあ……それで、王城へはどのようなご要件で?」

「勇者を含む、異世界からの転移者達を王城に通すように、と王から勅命があったのでね」

「「勇者!?」」



警備員の二人は、念の為敬語を使っておいて良かったと安心すると同時に、かつて自分の任されたことのある仕事の中でも飛び抜けて責任重大な仕事への緊張を味わっていた。


ほぼ失敗することのない任務でも、重要さを考慮すると、ただの案内と言えどもただならぬ緊張感が伴ってくる。



「分かりました。至急ご案内致しますので、私達の後に続いて来てください」



警備員は、一度深く深呼吸をすると、雑談をしていた時の男とは思えないような真面目な顔つきに変わり、案内を始めたのだった。





門を抜けると、トルフュスの中心にある王城へと続くメインストリートがあり、市場には様々な露店などの店が立ち並んでいた。


住宅街ももちろんあり、建物がひしめき合うようにして存在している。


ワタル達は、皆と雑談をしながらメインストリートを歩き進んで行く。



「ところで、私と対戦した青年たちの中には、随分と個性的な天職もあったようだが、やはりそれも"転移者"であるということが関係しているのだろうか?」

「うーん、出身の世界と天職の関係はわかんないけど、少しは関係あるのかもねー」



ブザルが何気なく問えば、サツキが答える。


因みに個性的な天職とは、"奏楽士"や"数術士"、果ては"神絵師"という、ものによっては、その天職持ちの者がつい「悪意あるだろ、誰だよこんな名前にしたの」とぼやきたくなるような天職のことである。


尚、"奏楽士"は(はら) 杏莉(あんり)、"数術士"は加藤(かとう)仁志(ひとし)、"神絵師"は岡原(おかはら)夏希(なつき)だ。


戦闘中に美しい音楽を奏で、味方に付加効果(バフ)をかける"奏楽士"、魔法陣の代わりに数式を書いて魔法を繰り出す"数術士"、床や壁、果ては空中にすら絵や魔法陣を描いて、それを実体化させて攻撃をする"神絵師"……


なるほど、確かに個性的な天職ばかりである。


話に出てきた三人が反応する。「私達の話?」と言うように。


興味深い話に聞き耳を立てていた警備員二人は、聞いたことの無い天職の存在を聞き、少し驚いている様子。



「でもアタシは、出身の世界だけが関係してるとは思わないなぁ」

「ふむ?どうしてそう思う?」



だがサツキは、出身地だけが関係しているとは言えないらしい。


ブザルが興味深い様子でそれに反応した。


ブザルの問に答えるために、「だって──」と、サツキは続ける。


その後に続く言葉を聞いて、クラスメイト達はこの上なく嬉しい気持ちになった。



「──だって、ずっと思ってたけど、みんないい子ばっかりだもん。頭もいいし。個性的な天職がたくさんあるのは、みんなそれぞれの個性が輝いてるからだと思うな」



厳しすぎると言っても過言ではないような訓練をこなしてきた中で、半ば強制的なサツキには、嫌気がさす事ももちろんあった。


だが、その訓練のおかげで、団体で戦えば強敵ともいい勝負をできるほどに成長できたのは事実。


そんな辛くもありがたい訓練を与えてくれた本人からの賞賛は、長く耐えてきたことへの褒美としてクラスメイト達に届く。



「なるほど。お前たちの才能も、自らの天職の良さに影響しているのだな」



ブザルがクラスメイトたちに優しく声をかける。


クラスメイトたちはそれぞれ、笑顔を浮かべたり、はにかんだり、ドヤったりしながら、割と鬼な講師からの褒め言葉を喜んだ。






異世界の街並みをゆっくりと見ながら歩く。


公園には噴水、住宅街には雰囲気たっぷりの裏路地があるなど、日本ではまず見られないものがたくさん。


地球から来たクラスメイトたちは、みんな目をキラキラと輝かせて、一部は小さな子どものようにはしゃいでいる。


クラスメイトたちから「色々見たいから、ゆっくり歩いて」という要望があったので、道のりはまだ半分程度だ。


今いるのはちょうど商業エリア。親子、カップル、お年寄り、様々な店の店員などなど、いろんな人の話し声で賑わっている。


その喧騒に混じって、前方から少女の泣き声が聞こえた。


クラスメイトたちは歩きは止めないものの、泣き声のする方に自然と顔を向ける。


そこでは、明るめな金髪の美しい親子がある意味の戦いを繰り広げていた。



「うわぁーーーん、ノエルのふうせん飛んでっちゃった!ママとってーー!」

「取ってって言っても……ママにはあんなに高いものは取れないわ。また今度もらってきてあげるから、諦めなさい?」

「やだーーーー!ふうせんーーー!!」



小学生くらいの少女が、頭上高くに上がった風船を見て泣いている。


少女が風船を手から離してしまい、空高くに飛んでいってしまったようだ。


母親が少女を必死に宥めようとするも、どうしても先の風船がよかったのか、少女は泣くのをやめない。


それを見て可哀想に思ったクラスメイトたちから、どうにかできないか相談する声が聞こえる。


一方ワタルたちも、飛んでいってしまった風船について話している。



「へえ、異世界にも風船ってあるんだ」

「ワタルくん。気にするとこそこじゃないよ」

「風船の中に風属性魔法の魔法石が入ってるから、上に飛んでいくのさ」

「なるほど、ヘリウムの代わりに風で浮かせるのか」

「サツキ……そこ……?」



話の内容はあくまで風船についてであり、少女についてではなかったようだ。


暴龍天凱がワタルの発言にツッコミを入れる。


サツキが異世界の風船の原理について説明すると、エリアスもサツキにツッコミを入れた。


ワタルは笑いながら軽く謝ると、今度は少女について真剣に考え始める。



「あの……私、取ってあげようかな……?」



そこで立候補したのはエリアス。


どうやって取るのかを聞くと、持ち前の身体能力の良さと身体強化を使って、風船をジャンプで取るのだそう。


サツキが風魔法で取った方が手っ取り早い気がするが、最初に立候補してくれたので、エリアスに任せることにした。


因みに、地面から風船まで、現時点でおよそ五十メートルは離れていて、現在進行形で上へと上っていく。


クラスメイトたちにもそれを説明し、エリアスは風船を飛ばしてしまった親子の元へと歩み寄る。



「えっと……風船、取りましょうか……?」



エリアスが親子に話しかける。


母親はエリアスの発言に目を瞬かせ、少女は目に涙をいっぱいに溜めてエリアスに食いついた。



「お姉ちゃん、取ってくれるの!?」

「すみません……だいぶ高く飛んでしまいましたけど、お願いできますか?」

「うん……お姉ちゃんに任せて。すぐ取ってくるから、ちょっとここで待っててね……」



母親の方は、「取ってくる」という発言に違和感を覚え、首を傾げる。


てっきり魔法を使って取ってくれるものだとばかり思っていたが、言動からして違うようだ。


一方少女の方は、風船を取ってくれればなんでもいいようで、「うん、わかったー!」と元気に返事を返した。


エリアスはそんな少女にニコリと微笑む。


花が開くかのような可憐な微笑み。


親子は少しの間見蕩れてしまい、二人して目を大きく開いた。



「では……"身体強化術式・極小"」



だが次の瞬間、母親は別の意味で大きく目を開くことになった。


エリアスが最小限の身体強化をその身にかける。


くっと足に少し力を加え、軽やかに飛び上がる。


タァン、という地面を蹴る音を響かせ、残像を残して、およそ八十メートルは離れているであろう風船の隣に姿を現した。


地上に少女のはしゃぐ姿が見える。


エリアスは、母親の他にも周囲にいた一般の人々の視線が自分に刺さるのを感じた。


エリアスは少々恥ずかしくなり、地面へ自由落下を始める。


ストンと地面に着地してみると、先程まで賑わっていた商業エリアが静かになっていた。


唯一言葉を発していたのは、少女だけだった。



「お姉ちゃんすごーーい!ありがとう!!」

「どういたしまして……今度からはちゃんと持っておくんだよ……」

「うん!」



エリアスは少女に目線の高さを合わせると、優しく忠告する。


エリアスは元気な返事を聞くと、最後に母親へペコリと一礼し、少し顔を赤くしてワタルたちの元へと戻ってきた。



「ご主人おかえり〜!」

「さすがエリー、跳躍力すごいね!」

「エリィ、優しい!かっこいい!」

「ただいま……いや、ちょっと落ち着いて……」



手厚いお迎えに照れていらっしゃる様子。


ワタルたちは揃って、「可愛い」と口にする。


エリアスは更に赤くなった。


クラスメイトたちも「すげえ」など、口々にエリアスを賞賛する言葉を呟いている。



「もう……早く進もうよ……」



羞恥心を誤魔化すために、先に進むのを促すエリアス。


そこから王城までの道のりで、エリアスが心を平常にしようとする一方、クラスメイトたちやワタルたちから賞賛を送られるので、ずっと赤くなっているエリアスを見ることが出来たのだとか。


男子の大多数がノックアウトされたのは、言うまでもないだろう。


そして、"エリアス神跳躍事件"の後、「困っている親子を神身体能力で助ける天使」の都市伝説が王都中を駆け巡ったのだそう……

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