表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
二章-そうだ王都、行こう。
19/29

3話:最後の訓練

「まあ負けはしたが、今のは序の口。次の組からは手加減なしで相手するから、次の組かかってこい」



若干言い訳のようなことを口にしながら、ブザルは陽月と星也との試合を終えた直後にも関わらず、直ぐにシールドの中に入った。余程悔しかったらしい。


双子の試合で勇気づけられたのか、その後はスムーズに挑戦者が決まっていき、次々とブザルと戦っていく。


だが、先のブザルは本当に本気でなかったようで、陽月と星也のように簡単にはいかず、全体の勝利成績は二割ほど。


流石に勇者と賢者、弓術士のバランスとステータスの高いチームが相手だと、団長とは言えど苦戦を強いられた。


そんなこんなでクラスメイト達最後の組が終わり、最初と同じようにサツキとエリアスが集合をかけた。



「いやー、流石は団長。かなり強かったね!」

「だが、その一団長にも引けを取らない年少者達も、中々な強さだったと思うぞ」



サツキが褒めると、ブザルからクラスメイト達へ賞賛の言葉が贈られた。


自分よりも腕が上の者からの賞賛は、素直に嬉しいもの。クラスメイト達は喜び合い、互いに笑顔を向けあっている。


そんなクラスメイト達を見てブザルは、意外にも優しげな笑みを浮かべていた。



「今回の模擬戦で気がついたことがある」



だが、表情をスっといつもの顔に戻すと、ブザルはおもむろに話し始める。


クラスメイト達も、ブザルの話を聞くために、会話を直ぐに一時中断してブザルの方を向いた。



「コンビネーションと勝率の相互関係についてだ。今回戦った組の中には、コンビネーションがとても上手い組とそこそこな組、あまり出来ていない組の、大きく分けて三つあった」



クラスメイト達は真剣に聞いている。


それを確認すると、ブザルは再び話を紡いだ。



「天職の相性が関係するところもあっただろうが、コンビネーションがきちんと取れている組は、私からすると隙がなかった」

「確かに、最初の戦いでは全然攻撃できてなかったもんね」



サツキの補足に、頷くことで同意を示す。



「そう。コンビネーションを徹底することで、一人では防ぎようのない攻撃も防げたり、少しの隙も自分達のチャンスに変えられる。一人で戦うよりも、圧倒的に隙が少ない」



全員をゆっくりと見回して続ける。



「だから、実力が同じくらいの相手と戦う場合は、コンビネーションが取れている方が勝つ。これは、覚えておいて損は絶対にないと思う。今後模擬戦などの練習を積む場合は、実力も大事だが、コンビネーションも意識してみてくれ」



「わかりました」と、クラスメイト達の返事が返ってくる。


それを確認し、ブザル再び優しい笑みを向けた。



「ブザルくん、ありがとうございましたー!みんな、今言ってたことをしっかりと行動に移して行きましょー!」



サツキが締めると、何やらエリアスがサツキに耳打ちしだした。


顔を離すと、二人同時に悪い顔へと変わり──



「さて……ブザル団長の教訓も終わったし……」

「次はアタシとご主人だよね?」



実に悪い笑みを浮かべながら、模擬戦の申し込みをブザルに突きつけた。


流石にこれにはブザルも応じたくないので、拒否する。



「え、いやいやいや……死ぬだろ」

「保護魔法かけるから……死にはしないよ……」

「いや、だが……ほら、もう若い連中の番はもう終わっただろう?お前達二人ももう終わりだ」

「さっき『小さい方』って呼ばれたんだけど。なら、アタシも範囲に入ってるよね?」

「それは謝る。謝るから──おい、やめろ、引っ張るな!そっちはシールドの方だぞ!?」

「これでいいの……いいから、早く戦う……」

「絶対恨みしか篭ってないだろ!」

「いやー、ソンナコトハナイヨ」

「私に拒否権は無いのか!?」

「「ない」」



拒否しようとしても出来ないような理不尽がそこにあった。二人はブザルに、何かの恨みを持ってらっしゃるようだ。



「っ、いいよもう!やるなら最後までやってやる!来い!」



ブザルは、半ばやけくそ気味に剣を構えた。涙目である。


サツキがブザルに対峙し、エリアスはサツキの後ろでクラスメイト達に何か語りかけている。講義の続きだろうか。



「えー、皆さん……先程団長さんは、コンビネーションが大事だと言いましたが……時には、それだけでは解決できない場合があることを知っておきましょう……丁度、今のように」



クラスメイト達が、少し困惑する。そういえば、まだサツキの戦闘スタイルを知らない。


兵士たちが襲撃してきた時も、戦っていたのはワタルと暴龍天凱、それとエリアスだった。


なので、サツキがどんなことをして戦うのかをまだ知らないのだ。


エリアスの講義はもう少し続く。



「ちなみに、サツキの戦闘スタイルは魔法です……()()()()()()、参考にしてみるといいでしょう……あ、あと、自分より相手が強い場合は……無理をせずに逃げるなどの方法も取りましょうね……」



──あれ、逃げるって言っても、展開的に無理じゃない?


そんな感想が聞こえてくるが、エリアス先生は華麗にスルーした。


そして、適切な策を取らないとどうなるかを、皆に教える。



「この場合は、逃げないと……こうなります」

「ご主人、もういいー?」

「いいよ、やっちゃって……!」

「はいよー」



エリアスの許可が降りた直後、サツキは指をパチンと鳴らした。


すると、ブザルの周囲に約五十個もの"炎弾"が出現する。


続けざまにもう一度指をパチンと鳴らすと、次に出てくるのはそれぞれ五十個程の"雷弾"と"水槍"。


後から出現したそのふたつは、バチッという音を鳴らしながら合わさると、高圧の電気を帯びた水槍へと変化した。


更に指を一振りすると、魔力でできた弾が、これまた五十個程、ブザルの周囲に浮かぶ。


攻撃の準備全てが完了するまで、三秒。それも詠唱無しで。


それは、真昼に輝く壮大なイルミネーションの如く。


なるほど、エリアスの言う通りである。()()()()()()()()参考にする。ただし、必ずしもできるとは言っていない。否、もはや出来ない領域だ。


つまりは、「真似できるなら真似してみて。出来ないけど」ということだろう。


クラスメイト達はその美しくも非情な光景を唖然と見つめ、ブザルは苦笑いを浮かべている。



「じゃ、頑張って防いでみてね!」



短い言葉を合図に、空中に浮かぶ数々の魔弾がゆっくりと回転・収縮を始める。


と思えば、ブザルに触れるか否かというギリギリの位置まで近づいた途端、一瞬だけシールドに接するように大きく拡がると、一斉にブザル目掛けて飛来する。


今度こそブザルに猛攻が直撃するというその直前。サツキはブザルに何かを話しかける。



「次に『小さい方』なんて呼んだら──次は保護無しで戦ってあげるね」

「やっぱり私怨じゃ──」



……普通に私怨だった。


言葉を最後まで発する前に、ブザルは魔弾をしこたま喰らって爆発した。どうやら"炎弾"には、着弾すると爆発する仕組みが搭載されていたらしい。


シールドが揺れ、それを見ていたクラスメイト達の瞳も揺れる。サツキちゃんって、こんな子だったの……と。


凄まじい土埃が晴れ、シールドの中からサツキが姿を現す。



「みんな、おつかれー!今回の講習は、これで終わりだよ!学んだことをしっかり活用して強くなっていこうね!」



実に清々しい笑顔を浮かべてらっしゃる。


返り血はついてないが、返り土が服についているので、どこか恐ろしく見えてしまう。否、返り土が無くても恐ろしく見えてしまう。


今のサツキは普通に怖かった。


この事件の後、クラスメイト達の間では、「サツキとエリアスだけは怒らせてはいけない」という暗黙の了解ができたという……











ブザルが目を覚まし、サツキへの認識が少しだけ変わり、やっと全員の準備ができた頃。


全員が転送ゲートの前に集合した。


前回と同様のエフェクトと共に、サツキが新しく王都へのゲートを作成する。



「さて、みんな、準備はいい?出発するよー!」



出発の時間がやってきたのだ。


クラスメイト達も、それぞれで談笑している。異世界の街を訪れるのは初なので、楽しみな様子。


その中でも、ずっと王都訪問を楽しみにしていた者が二人ほど。ワタルと暴龍天凱である。


二人は目をキラッキラさせてゲートを見ている。



「ギルドとかあるのかな?」

「リュウちゃん。ギルドは必須だよ。無いなんて考えられない……」



早くギルドなどの異世界の産物を目にしてみたいようだ。もっとも、それはクラス男子達も例外ではないようで、互いに妄想を語り合っている者たちもしばしばいる。



「じゃあ、王都に転移するから、ついてきてね!」



サツキの指示が飛ぶ。


サツキとエリアスが一番手でゲートを潜り、次々にクラスメイト達が続けざまにゲートに入っていく。


自分たちの番が来るまで、ワタルと暴龍天凱はずっと話していた。



「──いよいよ王都だ……なんか緊張するよ」

「わかる、心臓が止まらない!」

「リュウちゃん。止まったらダメだからね?」



そんな言葉を交わしながら、クラスメイト最後の二人はゲートを潜った。


ブザルが最終確認のために周囲を見渡し、ひとつ頷くとゲートを潜る。


直後、帝国行きのものと王国行きのゲートが消えた。サツキが消したようだ。


後には、最初にクラスメイト達が転送されてきて、少し片付いた広場があるだけ。簡易キッチンは片付けられ、簡易ベッドは解体されて一箇所に固められている。


誰もいなくなって元通りとなった島は、何故か一気に寂しくなってしまったように思えた。

ワタルたち、王都へ。

この話を書いている間、何故か異様に筆が進みました。


……だって王都楽しみなんだもん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ