表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
一章-異世界への転送
15/29

13話:尋問

現在、整理班の仕事によってある程度片付けられた広場の中心には、ワタル、暴龍天凱、サツキ、エリアス、悟、優香、佑介の、探索から帰ってきた七人と、拘束された兵士四人が対面していた。

ワタル達の後ろでは、クラスメイト達が心配そうに成り行きを見守っている。


何故こんな状況なのか。


理由は簡単だ。どうしてここに兵士がいるのかを尋問するため。そして、ここがどこなのかを詳しく知るためである。


ワタル達を含め、転送されてきた二十二人は、ここがどこかも知らないままだ。

エリアスは長年封印されていた為、そして、封印される時の記憶が曖昧な為、同じくここがどこか分からない。

サツキも、ずっとこの森から出ていないので、外界の情報などは知る由もない。

よって、森の外には何があるのか、最寄りの町、または村など、そういった情報は今手に入れておかないと、次に知るチャンスはいつ回ってくるか分からない。故に、今問わなければならないのだ。


尚、尋問には堂々としている人が適任とのことなので、クラスのリーダーである悟が代表して尋問をすることになった。



「早速質問させてもらうが、お前達は誰だ?どこから来た?」

「……」



最初の質問には、答える気配はない。

兵士達がワタル達を睨むが、まだ怒りが収まっていないエリアスが放った威圧で大人しくさせられた。


後ろに控えるクラスメイト達が剣呑な雰囲気を察知し、心配そうな表情を更に深くした。



「質問に答えないと、拘束したままだぞ。もう一度訊くが、どこから来た?何のために?」

「…………国……き…………」

「聞き取れないから、もうちょっと声を大きくして話してくれないかな?」



兵士がボソボソと話し始める。

あまりに声が小さく聞こえないので、暴龍天凱が注文すると、兵士は「……チッ」と舌打ちした後、諦めたかのように通常の声量で話し始めた。



「俺達は、ラデア帝国から来た。先日、大規模な地震があった。震央付近の調査に、俺達が派遣された。これで文句あるか?」



どうやらこの兵士達は、ラデア帝国の使者だったようだ。大規模な地震が起きたので、それの調査をしに来たらしい。


大規模な地震と聞いて、ひとつ気になったことがあった悟が質問する。



「なるほど、地震が……だとしたら、街への被害もかなりあったんじゃないのか?」

「いや、主要動が来る前に魔法で何らかの対策をすればいいだけだ。民間への被害は少ない」

「そうか、ありがとう」



魔法で地震の影響を防ぐ。この世界ならではの地震の影響を減らす方法を知って、ワタル達は「なるほど」と感心している。


一方、クラスメイト達の方は、先程から出てくる魔法というものが実在すると改めて理解し、驚いているようだ。


先程のワタルと兵士の戦闘でもそうである。

兵士が連撃を放ってくるのに対し、ワタルと暴龍天凱は魔法で連撃を防いだ。

強化魔法の影響もあり、その後のワタルの動きは常人が真似できるものではなかった。


驚いたのも束の間、森の中から二人の美少女が出てくる。一人は通常通りだったが、もう一人が尋常ではなかった。

ワタルの身のこなしを軽く超える速度。

何も見えやしなかった。


そして、あっという間に戦闘が終わりを告げ、陽が完全に沈んで周囲が闇に包まれた頃、今こうして尋問の場で魔法の存在を実感した。


悟の尋問は続く。



「帝国という国ひとつだけで世界が成り立っているわけではないだろうし……帝国とは別の国が存在するんだな?」

「ああ、当たり前だ。帝国だけで世界を支配するとか……お前、なかなか面白いこと言うじゃねぇか」

「……説明を願う」



悟が次に訊いたのは、この世界の国についてだった。

兵士が地面に大まかな地図を描き、その問いについて答える。


この世界には五つの大陸が存在し、大陸ごとに住む種族が分かれている。ここはそのうちのひとつ、人間族領である。


この大陸には四つの国があり、そのひとつが【帝国】だ。


この大陸にある国は、次の通りである。


・王国【トルフュス】

・帝国【ラデア】

・商業国【ヴェンネ】

・宗教国家【ミルニス】


この四つの国の中で最も活気があるのが商業国であり、貿易で他大陸との関係を築いている。なので、今この大陸で最も財力がある国は商業国【ヴェンネ】だ。


尚、今ワタル達がいる場所は、大陸の南端の島で、本大陸から二百キロメートルほど離れた場所に位置することがわかった。

ちなみにこの島には、遠い昔に小さな国が存在していたが、何らかの理由で滅び、今では村ひとつ無いらしい。


今は、この島から最も近い【王国】がこの島の所有権を持っている。



「──ということは、最寄りの人里は、本大陸に行かないと無いということか……」



ここから遠く離れた場所に時間をかけて移動しなければならないと知り、悟は渋い表情になった。

その横で、ワタルは何かを思いついたような表情になった。



「ひとつ質問いい?」



兵士がワタルの方を向いた。どうやら、質問してもよいらしい。



「ここに町作っていい?」

「……は?」



質問された兵士が思わずといった様子で間の抜けた声を発する。ここに街を作るだなんて、意味がわからない。



「いやいやいや、俺たちじゃ判断できるわけねぇよ。この島の所有権は【王国】にあるから、せめて【王国】の王に訊かないとダメだろ」

「じゃあ、訊いてきて貰えないかな……」

「俺たちが他の国に派遣されるには、【帝国】のトップの了承が必要なんだが」



暴龍天凱の鬼畜なお願いが兵士を襲う。

国際的なことをそんな簡単に言われても困る。なので、「俺達には出来ない」というニュアンスを込めて返してみる。



「じゃあ、了承取ってきてくれないかな?」



が、通用しなかったようだ。自国の王に直接謁見するという無茶を軽々と押し付けてきた。

でも、そんな重大なことを万が一伝え損ねたなんてことになったら……



「……でも、どうやって行くんだ?往復に少なくとも二日はかかる。それまでここで動かずに生きていけるのか?」



少し考え、苦し紛れに放った疑問。国の名前は愚か、魔法も知らなさそうな連中が、こんな場所で二日も生きていられるわけがない。これでどうだと自信ありげに発せられたその疑問は、即座に砕かれる。ワタルはサツキを呼んだ。


申し訳程度に布を被っただけの姿なので、クラスメイトの男子はサツキから視線を逸らした。



「【帝国】まで繋げられる?」

「できるよ」

「じゃあ、お願いできる?」

「りょーかい」



二人は何をする気なのか。繋げるとは何のことだ?兵士が二人に問いかけようとする。

しかしその疑問は、すぐに証明された。


サツキの周囲に光の粒子が漂い始め、徐々に一点に集束し始める。


クラスメイト達がその光景に見蕩れ、兵士達は警戒した。



「おい、何をす──」

「Gates」



集束した光の粒子が一瞬だけキラリと光る。

それはある魔法の発動準備が整った合図だった。


やけに綺麗な発音が響く。


直後、光の粒子は、縦二メートル、横幅一メートル程の楕円状に変形した。

光の膜が神々しい光を薄く放っている。



「──Open」



再び引かれた魔法のトリガー。

サツキから発せられた命令は、光の膜の本来の機能を引き出す魔法の言葉。


短い言の葉が紡がれると同時に、光の膜は変貌を遂げた。


光の膜がカッと強い光を放つ。


サツキが変身した時と違い、光は三秒もかからずに収まった。


その光の先には──



「これは……帝国か?」



光の膜には、帝国が映し出されていた。

光でできたフレームのような物で囲われているので、一枚のよくできた絵画のようだ。微弱な光を放っているので、ただの絵画ではないことは明らかだが。



「だが、これで何ができるってんだ?絵で何かができるって訳じゃねぇだろ?」

「さあ、どうだろうね?」



暴龍天凱が意味ありげに返す。

困惑している兵士に、もう一度質問をする。



「改めて……帝国のトップの了承、取ってきてくれないかな?」



これはひとつの命令だ。先程実力で叩き伏せられたということは、ワタル達の方が上だということ。

特にエリアスについては、断ったら何をしてくるか分からない。


なので、従わざるを得ない。

兵士達は渋々従うことにした。



「……なら、二日は我慢して生き延びるんだな。間に合えば許可取ってきてやる。」

「あ、それがあるから、二日もいらないよ」

「何、どういうことだ?」



サツキの訂正が入る。先程の光の膜を使えば、帝国への往復に二日もかからないそうだ。

しかし、どうやって使うのか。

意味がわからず、兵士達はサツキに説明を求める。



「いや、ここは本大陸からかなり離れた島だぞ?全速力でも、二日で足りるか怪しいところだが……」

「いや、だからさ、海通らなければいいじゃん」

「はぁ?」



海を通らなければいいというぶっ飛んだことをいきなり言い始めたサツキに、兵士達はおろかクラスメイト達も怪訝な表情になっている。



「んー、説明めんどくさいし、実際に体験してもらった方が早いし……とりあえず、行ってらっしゃい!」



そう言ってサツキは、兵士の一人を持ち上げ、光の膜に向かって兵士を放り投げた。



「うぉい、ちょ待っ……う、うわあああぁぁぁぁぁ……」

「ジョセーーーーフ!?」



ジョセフさん(?)の同僚と思われる兵士が悲鳴をあげた。

同僚が絵の中に消えるのを目の当たりにすれば、叫ぶのは当然の反応だろう。



「次は誰かな?」



右手の親指で光の膜を指さし、飛び込むように促すサツキ。

だが、当然、得体の知れないものへ自主的に飛び込んで行きたくはない。

そんな調子で、全然動こうとしない兵士達に痺れを切らしたサツキは、遂に手を出した。



「……判断が遅ぉい!『身体強化・小』!じゃ、早く帰ってきてね〜」

「あ、おい!持ち上げんな!」

「は、離せ!」

「自分で飛び込むから!やめてくれ!」

「い、嫌だ、まだ死にたくないぃ!」

「あ、あの子達が異世界から来たってことも伝えといてね〜」

「「「「ああああぁぁぁぁぁ……」」」」



三者三様ならぬ四者四様の悲鳴をあげながら、兵士達は光の膜に向かって投げ捨てられ、まとめてその中へと消えていった。



「あれ、サツキたん、それは閉めないの?」

「帰ってくる時に必要かもしれないから、ゲートは開けておくよ」



膜の中に消えていった兵士達を見て呆然としていたクラスメイト達も、ワタルとサツキの話し声で正気を取り戻したようで、「あ、あれ、あいつらは……」「いなくなったんじゃないか?」「頭が追いつかない……」などと口々に騒ぎ始める。


だが、クラスメイト達に話さなければならないこともあるので、ワタルは悟にクラスメイト達の統率を任せることにした。



「悟君、まだみんなに話したいことがあるんだけど、みんなをまとめてもらっていい?」

「あ、ああ、任せてくれ。」



唐突な展開に辛うじてついてきている悟が、困惑気味に統率を取り始めた。


やがて森が再び静寂を取り戻し、今度はワタル達の声が響く。



「えーと、みんな、さっきは災難だったね。兵士さん達がいきなり来た後だけど、とりあえずはみんな無事かな?」

「うん大丈夫、全員無事だよ」



あかりが全員の無事を確認し、ワタル達に知らせる。



「わかった。じゃあ、僕達からひとつ、これからの話をするよ。これからの行動に関わることだから、よく聞いてね」



全員がワタルの方を向く。

クラスメイト達は皆、真剣な表情をしている。だが、ワタルはそんな雰囲気をあまり得意としないので、多少緩んでもいいと全員に伝えた。


幾分か雰囲気を緩めた遼真が、話す内容をワタルに問う。



「桜井!その話というのは、何についてだい!?」

「えーとね、なんて言えばいいのかな……」



複数の話題があるので、優先順位の早いものから説明すればいいのでは、と暴龍天凱かから助言が入った。


この世界で生きる上で、自分たちが優先して身につけるべき能力は何か。

地球には存在しないが、こちらの世界では日常的に使われている能力──そう、魔法だ。

これが使えなければ、後々冒険をする上で詰んでしまうこともあるだろう。


なので、一番優先して説明すべき魔法を、クラスメイト達に教えることにした。

とは言え、日が沈み、真っ暗な森の中で授業をする訳にも行かないので、説明するのは翌日の朝だが。


サツキが風魔法で草を切り、ひとつにまとめるということを数回繰り返し、大きな大人数用ベッドを即席で作り出す。



「ああ、そうだ。明日みんなには、まずは魔法を覚えてもらうよ」



ベッドに向かって後ろに倒れ込みながら、ワタルはクラスメイト達に告げた。


告げられた本人であるクラスメイト達は、一瞬「は?」というような顔になる。

そして、徐々に魔法に対する期待の声がクラスメイト達から聞こえた。


サツキが「明日は早いから、早く寝るんだよ」と睡眠を促せば、所々で簡易ベッドに飛び込む音がする。

そして、十五分と経たないうちに、話し声に代わって寝息が聞こえ始めた。度重なる異常事態に精神が疲れていたのだろう。



「じゃ、アタシ達も寝ますかね〜」

「うん……サツキ、おやすみ……」

「はい、おやすみ。また明日ね、ご主人」



全員が寝静まった頃。殺伐としていた雰囲気をかき消すかのように、優しい異世界の月明かりが全員の顔を照らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ