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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
一章-異世界への転送
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12話:封印少女の無双劇

怒りを持ったエリアスは、とても怖かった。それも、大の大人、しかも一国の防衛を司る兵士達ですら震え上がるほどの威圧感。


蹂躙劇が始まってからエリアスは、その膨大な威圧感を広場いっぱいに撒き散らしながら、兵士たちをボコボコにしていった(殺してはいない)。


エリアスは属性のある魔法を使うのが苦手のようだ。よって、その戦闘スタイルは、無属性魔法で身体強化しての『近接格闘』である。


遠距離でも攻撃できる『魔法』と、近寄らないと攻撃できない『近接格闘』。一見、エリアスの方が不利かのように思えた。


しかし、エリアスの身体強化の熟練度がズバ抜けていたので、兵士の攻撃方法なんてものは関係ないようだ。


最初に兵士に接近した時も、サツキを除いたワタル達はエリアスの姿を捉えることができなかった。


それは兵士達も同じだった。

気がつけば、そこにいた。

瞬きもしていないのに、一瞬だって目を逸らしていないのに、移動中の動きを捉えられなかった。


エリアスが兵士を殴った時だって、兵士はガードの構えを取っていた。ワタル達は、しっかりと目撃していたのだ。


にも関わらず、殴られた兵士は、地面と水平にぶっ飛ばされ、広場の向かい側の木と衝突して動かなくなった(殺してはいない)。

剣が半ばから折れ、鉄の鎧は大きくひじゃける程の衝撃。


身の危険を感じ、残りの三人の兵士は距離をとった。


でも、たとえどれだけ距離を離そうと、一瞬でその距離を埋めてくる。

魔法での遠距離攻撃をする時間も殆ど与えて貰えず、一人、また一人とぶっ飛ばされていく兵士。


全員が吹っ飛ばされるまで、ものの三分と持たなかった。

















子供が遊びに誘う時のような、文面のみを見れば無邪気な言葉。

だが、その言葉に含まれる感情は、決して穏やかなものではなかった。


兵士たちは皆揃って悪寒を感じ、けたたましく鳴る本能のアラートに従って、それぞれ四方向に散らばるようにしてエリアスから距離をとる。



「……安心してください……そんなに酷いことはしませんよ……でも、あなた達がワタルのクラスメイトさん達に何か危害を加えようとしていたようですので……」



エリアスが兵士に向かって話しかけている間も、エリアスからじりじりと離れる。先程から、アラートは鳴り止まない。ただ「危険だ」と伝えてくるだけだ。


エリアスから、言葉の続きが紡がれる。



「……少しの話し合いは……必要ですよね?」



強化魔法を使用すると同時に、魔力の奔流がエリアスを中心に荒れ狂う。


普通ならば、ただの強化をしたところで、そのように魔力が渦巻くことは無い。

タネは、『威圧』の技能だ。魔力を直接放射することで、対象に圧をかけることの出来る技能である。


ぐっとエリアスが溜めを作ったところで、兵士四人が無意識のうちに防御の構えをとった。

本能の成せる技だろうか。そのガードがなければ、内蔵へのダメージは無視できないほどになっていたかもしれない。


エリアスが踏み込む。


足元に極小規模なクレーターができ、パァンと音が鳴った。


果たしてその音は、音速を突破して空気の膜を破る音だったのか、兵士を吹き飛ばす音だったのか。


気付けば、兵士の一人がいた位置に、拳を振り抜いた姿のエリアスがいた。


エリアスの正面の方向を見ると、衝撃で折られた木と、その根元に横たわる兵士の姿。


──残り三人。



「どうせ、大人しく話を聞く気はないのでしょうし……ワタルのクラスメイトさん達に与えた恐怖を……そっくりそのまま返してあげますね」



美しい白髪を靡かせて、再び構えを取る。

その言葉で我に返った残りの兵士三人は、同時に詠唱を始めた。


近距離での戦闘が不可能なら、近づけさせなければいいだけ。そう考えたのだろう。


確かに、考え方は間違っていなかった。


ただ、相手の強さが間違っていた。


ひと足早く詠唱を早く終えた兵士が、エリアスに炎弾を放つ。


その炎弾はエリアスに向かって直進する。エリアスは、いつまで経っても避ける素振りは見せない。


直撃すればあるいは、と淡い希望を抱いて放った炎弾は、狙い違わずエリアスに命中した──ように見えた。



「やったか!」



兵士が放った言葉に、ワタルと暴龍天凱が「あ、フラグ」「ご愁傷さまだね……」と反応した。


炎弾はエリアスに吸い寄せられるように飛んでいく。


飛んで来る炎弾に、エリアスは右手を突き出すという行為だけで応えた。


そして、スラリとした腕が炎に包み込まれると、炎弾の中心を握り潰すようにグッと拳を握る。


それだけで、炎の塊は霧散してしまった。


エリアスには、傷一つついていない。


兵士達の、先程までの期待するような眼差しが、まるで化け物に遭遇したかのような絶望の色に一瞬で変わった。


他の兵士が二弾目、三弾目と続けて放つが、結果は同じ。いとも容易く、握り潰されるようにして消えてゆく。


どうやら兵士のターンはこれで終わりらしい。


エリアスは、三弾目の炎弾を霧散させると同時に、一瞬で兵士に接近する。


目の前に現れると同時に、流れるような回し蹴りで兵士をまた一人吹き飛ばした。


地面を削るように滑り、しばらく先の地面を転がりながら少し進んだところで、ようやく動きを止めた。地面を滑り始めたところ辺りからは、もう既に意識は無かっただろうが。


──残り二人。


今度は、挟み込んで攻撃を加える作戦らしい。エリアスの左右から、兵士が武器を振り下ろす。


だが、避けることはしない。


避けるまでもない。


直後、エリアスは動いていなかったように見えたが、兵士二人は何故か別方向に吹き飛ばされて失神した。


何が起こったのか。


簡単である。視認できない程に速い速度で兵士の懐に潜り込み、殴り飛ばす。これを二回繰り返すだけである。



「……終わりですか……もう少し耐えてくれても良かったんですけどね……。あっ、ワタル……最初に飛ばした人、もうすぐ起きると思うから……尋問は頼むね……」

「あ、うん」

「……はぁ、もう少しくらい戦略とかあったはずのに……期待はずれだな……」



──残り……0人。


五人の兵士達が全員吹き飛ばされる光景は、まるでエリアスという一柱の神が与える天罰のよう。エリアスという天上の住人の逆鱗に触れてしまった愚か者へ下された、裁きの鉄拳。


戦闘後の広場には、どこか残念そうなエリアスの声が響いた。

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