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封印少女、持ち帰ります。  作者: ぱふぇ
一章-異世界への転送
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9話:第一次姉妹対戦

場面は戻って、現在のワタル達へ。

大きな木の下。ワタル達は、悟達と無事に合流を果たした。

南北で別行動していたので、今は結果報告をしているところだ。まずは、北側を探索していた悟達の報告からである。



「北側はどうだった?」

「こっち側は、特に何も変わりはなかった。果物が少し落ちてるくらいで、あとは森だけだ」

「悟くん、ほら、あれがあったでしょう、何かの建造物みたいな物が。ねえ、佑介くん」

「おう、なんか、すごい古そうだったよな」

「へえ、そっちには建造物があったんだ。どのくらいの大きさだった?」

「五メートル四方くらいだったな。建物の中心には台座が置いてあったよ。何に使うかはわからないけど、何かをはめる窪みがあったな」

「えっと……さ、悟さん……その窪みって、七角形ではなかったですか……?」

「ああ、確か七角形だった」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

「その台座が何なのかは気になるけれど、こっちの報告はこれで以上よ」



北班の報告が終了した。次は、ワタルたち、南班の報告だ。



「南側はどうだった、桜井?」



悟が問う。

ワタルは正直、どう説明すればいいのか分からなかった。

なので、とても、それはとても簡潔に説明する。

たとえそれが伝わらなかったとしても、きっとみんななら納得してくれるだろうと信じて。そう、きっとわかってくれる!何せ、みんな仲のいいクラスメイトなのだから!



「んー、特に何もなかったかな」

「「「嘘つけぇ!」」」



わかってくれなかった。



「ワタル、何があったのか、ちゃんと説明しなさい」

「はい、すみませんしたー」



優香さんの声が怖い。まるで、悪戯をした息子を問い詰めるお母さんのようだ。

それを本人に言うと怒られてしまうので、絶対に言えないが。

ちなみに、優香が怒っているのは、自分に隠れてモフモフしていたこと、説明がとてもおざなりで全く伝わってこないこと、そして、あの人見知りのワタルが少し親しげな少女──エリアスを連れてきたことに起因する。


それを理解していないワタルは、答えた。またもや、とても、とっても簡潔に。



「じゃあ……聞いても驚かないでよ?」

「ええ。だから、早く説明しなさい」

「キツネたんであるサツキたんについて行ったら、南側にも建造物があって、中にエリーがいたので助けました、以上!ほら、これのどこに怒る要素が!?」

「全部よ!」



故意かは分からないが、ワタルが優香を煽り、優香が怒る。見慣れた幼馴染のやり取りである。

そんなノリを知らない一人と一匹がオロオロする。

クラスメイトは結構見慣れているが、先程初対面のサツキとエリアスは、そのやり取りに少し戸惑っているようだ。



「すまんな、これがこいつらのいつものやり取りなんだ。ちょっと待ってやってくれ」

「は、はい……」



一人と一匹は、心配そうに見守っている。


やがて二人の"コミュニケーション"が終わると、やっとワタル達は帰路についた。

歩いている間に、サツキとエリアスのことも含めて事の詳細を伝えると、悟達は酷く驚いていた。

無理もない。怪しいほど毛並みが綺麗な狐について行ったら、ダンジョンなるものがあり、その中に封印少女である。終いには、魔法まで存在するというのだ。



「……桜井、さっきお前に驚くなと言われたがな……これは驚かないでいるのは無理だろうが」



佑介が引き攣った顔で言うと、ワタルが苦笑いを浮かべる。



「あはは、ごめんね、みんな。僕も初めて聞いた時はすごく驚いたよ……」

「うん、普通に考えて、三百年も建物に封印されてるとか想像つかないよね。ほんと、封印した人の気が知れないね……」

「い、いや……もうそんなに気にすることないよ……」



暴龍天凱の批判する言葉に、エリアスが意外な反応を見せた。

もう気にしていないことを伝えるエリアスに、ワタルはつい、言葉をこぼす。



「エリーは、心が広いんだなぁ」

「えっと、ほら……別に私は、心が広い訳でもないし……ただ、助けてくれたワタル達がいる、から…………」



とても嬉しかったのだろう。ほんの少し頬を染めながら、ワタルをチラチラモジモジ見ている。

そんなエリアスの様子を見たサツキは、ギョッとしたような反応を見せた。浮かれすぎないように何らかの注意喚起してやりたいが、今はキツネたんの姿のままなのでできない、といったような動きである。


そして、優香も反応した。恋敵の予感がしたからだ。彼女のワタルレーダーは、恋敵の出現さえも感知する。

ワタルレーダーによって出された『恋敵の排除』という命令を正確に遂行しようと、優香は動き出した!



「へぇ〜、ワタルがいるから、ねぇ〜」

「……い、いや、ワタルだけじゃなくて、みんなもいてくれるから……」

「あら、ワタルだけ居ればそれでいいんじゃないのかしら?」

「そ、そんなことは……」



初撃、そして追撃。優香がエリアスに攻撃する。優香の性格を知るワタル、悟、佑介、暴龍天凱の四人は、普段は滅多に他人に皮肉を言ったりしない優香がそのような事を言っているのに対してとても驚いた。次いで、娘の成長を喜ぶような視線を優香に向ける。とても暖かい目だ。


しかし当の本人は、そんな視線を送られていることに気が付かない。気がついてさえいれば、我を取り戻すくらいはできたのだろうが……

なので、つい言い過ぎてしまい……


エリアスの導火線に、火をつけてしまった。



「まあ、そのワタルは既に私が射止めてるのだけれど」



はんっと、嘲笑付きで、エリアスを煽る煽る。

クラスメイト三人の視線が、一気にババッとワタルに集まる。ワタルは、ぶんぶんと激しく首を振った。心当たりがない!と言うかのように。


直後、ビシッ!と、何かがひび割れるような音が、この場にいる全員の耳に耳に届いた。擬似姉妹喧嘩開始の合図である。そして皆、その謎の音の発信源を探そうとして──



「そうなんですか」

「ええ。だから、あなたのそれは残念ながら実ることは──」

「それで?」



誰かの声が優香の言葉を遮り、黒いオーラとともに発せられる。全員が一斉に歩みを止めた。

それはエリアスが発したものだったのだが、先程のオドオドした感じが完全に拭われていたので、一瞬、誰が発した声なのか分からなかった。

更に、ニコニコと笑みの仮面を貼り付けて、深い青筋を浮かべている。普通に怖い。


優香以外の、何かがひび割れるような音の発信源を見つけた男子四人が、総じて「ひぃっ」と短い悲鳴をあげた。サツキですらもビクゥッ!となる程の怖さである。


その黒いオーラを保ったまま、エリアスは続ける。



「……優香さん、といいましたか」

「ええ、何かしら?」

「……質問ですが、ワタルは自分のものであると言いたいのですか?」

「ええ、そうね。私はワタルの事を想っているし、ワタルも私の事を想っているから」



悟と佑介の見開かれた目が、ワタルに向く。マジで?と。

ワタルは一瞬考えた後、また首を横に振った。

確かに、優香のことを"思う"ことはあるが、ただの幼なじみである。故に、"想う"ことはない。幼馴染なので恋愛感情を抱かないという、よくあるパターンである。


今度は、その反応を見たエリアスが、カウンターのように優香を鼻で笑い返す。



「……ワタルは否定していますけど?」

「……ぅ」



言葉に詰まる。

だがエリアスは、その一瞬の隙を見逃さない。



「……ワタルは、あなただけのものではありませんでしたね。さっきまでの勢いはどこへ行ったのでしょう?」

「う、うるさいわね!でも──」

「……もしも仮に、ワタルはあなただけの人だったとしましょうか。ワタルはあなたにしか好意を寄せない。そんな状況だったら、私はどうするのでしょうか?」



優香の言葉を遮り、続ける。



「……私があなただったら、奪い取るくらいの意思でアプローチするわね」

「そうでしょう。まあ別に、状況なんて気にしませんよ。そんなものは、ただの飾りですから。なので、」


──たとえワタルが他人のものだったとしても、私は必ずワタルを奪って見せます



宣言されたその言葉は、この場の全員に届いた。


悟と佑介の目が、じっとワタルを見る。

ワタルは、「人前でそんなに高らかに宣言しないでくれ」と、公開処刑の如き擬似姉妹喧嘩に、顔を手で覆ってしまった。羞恥に悶えている。


ワタルがそんな状態にある事を知ってか知らずか、優香とエリアスは、更に擬似姉妹喧嘩を続ける。



「……そう。なら、そうするといいわ。私から奪い取れるものならね」

「ではお言葉に甘えて、私も全力でアプローチしに行きます。ワタルを取られても、泣かないでくださいね?」

「上等よ。受けて立つわ」



恋敵、ここに爆誕。かくして始まった、女の戦争。恋の女神が微笑むのは、果たしてどちらなのか。


一方、悟と佑介は一時的に木の陰へと退出し、所有権について受けて立たれるワタルは、「僕のいない所でやってくれないかな……」と、やけに透き通った表情で佇み、サツキはエリアスの将来を心配している。


燃え尽きた少年と、オカンなキツネを生み出す姉妹喧嘩。その被害者は、思ったより深刻な状態のようだ。


姉妹喧嘩がやっと終わり、多大な被害を出しながらも、ワタルたちは再びクラスメイトの元へと進み出した。

『第一次』ということは、これから先もまだ繰り広げられるかも……?

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