表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

08.不良冒険者

08.不良冒険者


 初めての狩りを終え、俺とカーラはユルトベルグに帰ってきた。


「ハルさん、初めてにしては結構よかったですよ」


 ギルドへ向かう途中、カーラが言った。


「最後の方は、ゴブリンを殺すのにも慣れてきたようで、よかったです。最初はモンスターを殺せない人も多いんですよ」


「……慣れたわけではないよ」


 俺は、剣を持っていた右手を見つめながら言った。ゴブリンにとどめを刺した時の、生々しい感触がまだ残っているようだ。


「ただ、生きていくためには仕方ないって、割り切っただけだ」


「そうですか。まあ、躊躇わないならなんでもいいです。躊躇ってる間に、他のモンスターに襲われることだってありますからね」


 毎年、新人のうち一人はそのパターンで大怪我、ないし亡くなっているとのことだ。


「カーラは最初のころ、どうだったの?」


「私はそれほどでもなかったかな? 同級生の女の子に剣を教えてもらっていたので、戦闘はそれほど苦労しませんでした。最初にとどめを刺すときは、少し緊張しましたけどね」


「へえ、同級生に剣を……。もしかして、戦闘になるとキャラが変わるの、その子の影響だったりする?」


「忘れてくださいよ! 今まで誰かと一緒に狩りをしたことがなかったので、内緒にしていたのに……」


 カーラは照れ隠しに怒ってしまった。


「ごめんごめん。ところで、誰とも一緒に狩りをしたことがないって言ったけど、その女の子とは?」


「あの子は私よりよほど優秀だったので、高等教育学校に進学して、今は治安維持隊の小隊長をやっているんです。だから狩りを一緒にしたことはないんですよ」


 確か、ユルトベルグの子供は十二歳になると、職業訓練学校か高等教育学校のどちらかに進学するはずだ。


「へえ、カーラと同級生というと、今は一九歳だよね。その年で隊長ってすごいんだな」


「私の自慢の友達ですからね!」


 カーラは自分のことのように嬉しそうに話してくれた。

 カーラの学生時代の話を聞きたいところではあったが、他にも気になっていることがあったので訊いておく。


「ところで、ゴブリン四匹で、大体どれくらいの金になるんだ? 今日の宿代、足りるかな」


 ちなみに、宿代は一泊二〇ゴールドだ。この街では平均的な値段だそうだ。


「大体十二ゴールドくらいですね。ハルさんが持っているお金と合わせれば、足りると思いますよ」


 俺は財布を取り出すと、所持金を数えながら言った。


「ええと……これが一ゴールドだよな? うん、足りるはずだよ」


 その時、一ゴールド硬貨を誤って落としてしまった。

 硬貨は、俺たちの真横にある暗く細い路地へと転がっていってしまう。

 ギリギリの生活をしているので、たった一ゴールドでも俺にとっては貴重な金だ。


「あっ! しまったな……。ごめん、ちょっと取ってくるよ。ここで待ってて」


 カーラが頷いたのを確認すると、俺は落とした硬貨を探すため、路地へと足を踏み入れた。




   ◆




 それから数分後、俺は二人のガタイのいい冒険者に囲まれていた。

 手首に護符を巻いていることから、この二人も外から来た冒険者だろう。


 何があったかって? 俺にもわからない。路地でたむろしていた彼らの前を通ったところ、因縁をつけられてこうなったんだ。


「兄ちゃん、冒険者なりたてだろォ? 先輩の言うことは聞かなきゃいけないよな」


 俺の前を塞いでいる男が、手の平を上に向けて差し出している。つまり、金を出せ(カツアゲ)ということだ。 

 続いて、俺の後ろ側に立つ細面の男が口を開く。


「逃げようなんて思うなよ」


 こちらは前の男よりは話が通じそうだ。


「出すもの出せば無事に帰れるんだ。金はまた稼げばいい。命より大事なものなんてねえだろうが」


 一般的にはその通りだ。しかし、今の俺にとっては、金を失うことは命を失うことと同義だ。なにしろ、手持ちの金を渡したら今日の宿代すらなくなるからだ。


「ちょっと待ってくれよ。今持ってる金が全財産なんだ。これを渡したら野宿するしかないんだよ」


「あ? 関係ねえよ。てめえはさっさと有り金出しゃいいんだ。それか―――」


 前に立つ男は、話している途中でこちらの後ろ側、俺が来た方向に視線を向けた。


「てめえの連れてる女をここに連れて来いよ。そうしたらてめえは行ってもいいぜ。あとはこっちで楽しむからよ」


 強面をいやらしく歪めながら、男は言った。

 恩人カーラを害するという発言に、頭に血が上った俺は語気を強める。


「お前、カーラに手を出したら許さねえぞ」


 弱者と思っていた俺が言い返したことで、頭に来たのだろう。男は頭突きをするかのように顔を突き出して、こちらを睨みつける。


「クソガキ、てめえのショボい剣でどう許さねえか、言ってみろよ」


「サム、手を出すなよ。治安維持隊が来るかもしれねえ」


「ユリアン、黙ってろ」


  後ろに立っている男が口を挟む。強面の男の名前はサム、後ろに立っている男はユリアンと言うらしい。


「へえ、あんたら初心者いびって楽しんでるわりに、衛兵ごときにビビってんのか? よくそれで先輩面できるもんだな?」


 よせばいいのに、さっきの発言でキレてる俺は、男たちを挑発してしまう。

 サムは顔を真っ赤に染め、剣に手をかける。今にも抜きそうだ。


「てめえ、もう泣いて謝っても許さねえぞ。腕の一本は覚悟しとけよ」


「サム、抜くな!」


「ユリアン、てめえは黙ってろ! ここまで虚仮にされて、引き下がれるわけねえだろうが!!」


 いよいよ男が剣を抜くというその時―――鈍い音が路地に響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ