06.冒険者初日(上)
翌日、俺はカーラに連れられて冒険者ギルドを訪れた。
冒険者登録は思ったより簡単に済んだ。ギルドの係員―――メガネをかけた細身の男性だ―――に渡された用紙に名前、出身地、冒険者歴、身元保証人を記入すると、最後に手首に巻いている護符を小さい水晶にかざして、それで手続きは完了した。
ちなみに出身地はユルトベルグ西の王国ということにした。少しは疑われるかと思ったが、カーラが保証してくれたので係員はすぐに納得したようだった。
「ハルさんは、冒険者は未経験とのことですが、大丈夫ですか?」
冒険者登録を終わらせると、そう係員に確認された。自分でも自信がないので答えに詰まってしまったが、カーラは
「私が教育するので問題ありません」
と助け船を出してくれた。
「カーラさんがついているなら問題ないでしょうね。ハルさん、カーラさんはとても優秀な狩人として評判なんですよ。ついていってよく勉強してくださいね」
係員はひとつうなずくと、安心させるような笑顔で俺を元気づけてくれる。
「ええ、がんばります。ありがとうございます」
それから、カーラと係員は少し世間話をした後、
「ユルト様のお導きがあらんことを」
お互いに胸に手を当てて、別れの挨拶をした。
◆
冒険者として生きていくにあたっては、当然、武器が必要になる。ユルトベルグにあるいくつかの武器屋をまわり、最終的にカーラの行きつけの店で武器をそろえることにした。
俺が使うことになったのは、片手で扱うショートソードと革張りの盾だ。
盾があるので負傷することが少なく、扱いやすい。盾で殴ったり、剣で切りつけたりもできるということで、初心者にはおすすめの装備らしい。
当然、武器を買うお金もカーラが出してくれた。男として情けなく、申し訳なく思った俺は、何度もカーラにお礼を言ったが、
「ハルさん、お金がないのだから仕方がないですよ。少しずつ返してくれれば大丈夫ですから」
と、暖かい言葉をかけてもらった。
「本当にありがとう。できるだけ早く返せるようにするから」
「はいっ! でも、無茶は禁物ですよ。無理をしてハルさんが死んでしまったら、私がハルさんに投資した分、丸損ですからね!」
冗談めかしてカーラが言った。
「さっきも言いましたけど、しばらくは私と一緒に狩りをしましょう。モンスターの対処法とか、追跡のノウハウとか、いろいろと知ってほいた方がいいことがありますので」
「ありがたいけど、君の仕事の方は大丈夫なの? さっき、ノルマがあるって言っていたよね」
そう、先ほど冒険者ギルドを訪れた際の帰り際のこと。彼女はギルドの職員に釘を刺されていたのだ。
―――カーラさん、貴方のことだから大丈夫だとは思いますが……ノルマ未達成とならないよう、気を付けてくださいね。
外から来た冒険者にはノルマがないが、ユルトベルグの住民は、一週間分の仕事に対してノルマがあるのだという。
なので、俺はカーラの迷惑になっていないか、確認したのだ。
「うーん……まあ、ハルさんは気にしなくても大丈夫ですよ。昨日私が倒した大イノシシ、いたじゃないですか? あれのおかげて、結構ポイントを稼げたのです」
「そうか、なら、お世話になろうかな」
ちなみに、俺の気持ちがどうであれ、お世話にならないという選択肢はない。言ってしまうと恥ずかしいが、カーラなしではその日の生活費すら稼げないからだ。
「ところで……ノルマ未達成になったらどうなるんだ?」
「さあ? 今までちゃんとノルマを達成していますし、ノルマに届かなかった人はがいたというのは、聞いたことがないですね」
そんなに厳しいノルマではないらしく、俺は少し安心した。
◆
俺とカーラは、ユルトベルクの北門から街の外に出て、ユルトベルグ大森林と呼ばれる森へと向かうことにした。昨日、俺が目を覚ました森だ。
「まずは、一匹でうろついてるゴブリンを探しましょう」
道中、カーラが真面目な顔でそんなことを言い出した。
「狩りに慣れてもらわないことには、どうしようもありませんから。危なくなったら助けますから、まずはハルさんだけで、ゴブリンを一匹倒せるようになってください。」
「ゴブリンというのは弱いのか? 俺でも倒せるくらいに?」
正直、あまり低いハードルでは意味がないと思った。
が、カーラはそんな心情を見透かしているようだ。
「一対一であれば、初心者でも簡単に倒せるくらいです。初心者が問題になるのは、倒せる倒せないの話ではなく」
カーラは一度息を吸うと、
「戦えるかどうかです。ハルさん、自分を本気で殺そうとしてくる生物と、戦ったことありますか?」
…………。
「自慢じゃないけどさ、一回あるよ。ゴブリンよりよほど恐ろしいのと」
「そうなんですか? 冒険者経験、ないんですよね?」
意外そうな顔をするカーラに対して、俺はニヤリと笑って言った。
「……昨日の大イノシシはノーカン?」
「それは昨日謝ったじゃないですか! ハルさん、まだ怒ってるんですか……?」
不服そうな顔をしたり、落ち込んだり、表情がコロコロと変わって面白いな、この子。
「もちろん怒ってないよ、助けてもらったのは本当だしさ。俺が言いたいのは、アレと一回相対したから、大抵のことには冷静に対処できる度胸がついたってこと」
カーラはクスクスと笑って言った。
「じゃあ、ハルさんのお手並み拝見といきましょうかね」