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05.これからの生活

 ユルトベルグに入国するため、列に並んでから十数分ほど経っただろうか。俺たちの番が近づくにつれ、門の前で何をしているかが、はっきり見えるようになってきた。


 この列に並んでいる人は、二種類に分けられるようだ。

 まずは、ユルトベルグの住民と思しき人たち。一様に麻でできた風通しの良さそうな服を着る人は、どうやらユルトベルグの農民のようで、土汚れが体のどこかについている。

 少数ではあるが、カーラと同じような革製の鎧を身につけ、武器を持っている人もいる。カーラの同業者のようだ。


 彼らは、門の前で、台に乗っている人間の頭ほどの水晶に手をかざし、数秒経ってから中に入る。

 そばには槍を持ち、鉄の鎧を身につけた兵士が直立不動で立っている。不審な動きをする人がいないか見張っているようだ。


 もう片方は、馬車に乗る商人らしき人や、商人の護衛だろうか、剣や槍を持つ人たちなどだ。

 彼らは門の横の受付らしい場所に行くと、座っている兵士と何かしらの問答をしてから城壁の中に入っていく。

 今まさに受付をしている、商人らしい金髪の男を眺めていると、紙のようなものでできているバンドを手首に巻かれているのがわかった。プールに遊びに行ったとき、紙バンドを手首に巻かされたのを思い出す。


「あの人たちは、ユルトベルグの外から来たように見えるけど、何をしているの?」


 カーラに尋ねる。


「ああ、行商人の方々ですね……。外から来た人は、身分と入国する目的、滞在期間を受付で申告します。手首に巻いているのは、入国許可証の代わりになる護符ですね。ユルト様が魔法をかけて、ユルトベルグの中では身分証として使えるようになっているんですよ」


「へえ、魔法と言うのは便利なものだな。ところで、俺の身分証明はどうすればいいのかな……」


 まさか、異世界から来たとか言うわけにはいかないだろう。頭のおかしい人扱いされて、逮捕される未来しか見えないね。


「そうですね……私たちの言う狩人と同じ、ええと―――そう、冒険者。冒険者としてユルトベルグを拠点に活動する人もいますし、そう言えば大丈夫なはずです。何か文句を言われれば、私が身分を保障しますから大丈夫ですよ」


 冒険者! この世界にはそういう職業があるのか。久しく忘れていた少年の心が目を覚まし、ワクワクした気分になる。


 ちょうど前に並んでいる人がいなくなったので、カーラは住民用の水晶の方に向かう。

 水晶に手をかざし終わると、中に入るのではなく何事かを兵士と話し―――ときおりこちらを向くので、どうやら俺の話をしているようだ―――兵士が頷いて、カーラはこちらに戻ってきた。


「お待たせしました。入国の手続き、付き添いますね」


「ああ、ありがとう―――あの水晶はなに?」


「あの水晶に魔力を流して、帰ってきたことを記録するんです。残念なことに、毎年何人かはモンスターに襲われて亡くなる人がいるので……ユルトベルグを出るときに記録して、帰った時の記録がない人は行方不明ということなるんですよ」


 行方不明者を探すことも狩人の仕事の一つです、とカーラは続けた。


「へえ、この辺りは結構危ないんだな……」


「そのモンスターを駆除するのに私たちがいるんです。私に任せておけばハルさんは安心ですよ!」


 胸を張るカーラ。

 女の子に守られるのは複雑な気分だが、確かに専門家に任せた方がいい場面もあるだろう。

 

 俺はもう一つ、気になっていたことを訊く。


「ところで、ユルトベルグの人たちは、身分証みたいなものを持っているのか? 外から来た人は、身分証代わりの護符を腕に巻くんだろう」


「私たちは、生まれた時に一人ひとり魔力結晶を授かります。魔力結晶が身分証になるんです」


 カーラは、大切なものを抱くように胸に手を当てる。首から下げて、服の下にでも入れているんだろうか。

 その暖かい表情に、俺は一瞬ドキリとしてしまった。




   ◆




 入国審査自体は、大した問題もなく完了した。

 カーラから聞いた通り、冒険者としてユルトベルグで働くことを伝える。出身地を訊かれたが、森の中でカーラに助けられたことと、記憶喪失で思い出せないが、おそらく王国の出身であることを伝えると、カーラがそれを認めてくれたこともあり、驚くほど簡単に入国を認められた。


 左手首に巻かされた護符は、赤色に黒い模様が入っている。魔法陣のようなものだろうか。

 ユルトベルグでの用事が終わるまでは、常に護符を身につけていなければいけないそうだ。防水加工が施されており、ちょっとやそっとのことでは外れないらしいので、事故で外れてしまう心配はないそうだ。


「ハルさん、お金は……持ってませんよね? 少しだけなら貸せますよ」


 門をくぐってすぐのところで、カーラが申し出てくれた。

 女の子にお金を借りるのは男として情けないが、背に腹は代えられない。


「本当にありがとう、助かるよ……」


「大丈夫ですよ。私は家に帰りますが、ハルさんは宿に泊まりますよね? おすすめの宿屋さん、紹介しますよ」


 カーラのおすすめの宿屋さんに向かいながら、これからのことについて話し合う。


「ハルさん、冒険者として働くことにするなら、冒険者ギルドに登録が必要ですよ。もしよかったら、明日一緒に行きましょうか?」


 ちなみに、外国人向けの仕事は、ユルトベルグでは冒険者以外はないらしい。

 外から来た商人の下働きや、護衛の仕事もあるにはある。しかし、身分が不明な俺は、信用の問題で採用されないだろう、とのことだった。


「うーん、ありがたいけど、そこまでしてもらって本当にいいの?」


「もちろんです! どちらにせよ、狩人も冒険者ギルドで仕事の指示を受けるんです。そのついでにハルさんの登録を済ませちゃいましょう」


「じゃあ、お言葉に甘えようかな。何から何まで世話になって、申し訳ないけど」


 カーラはにこりと笑って、


「これもユルト様のお導きです。ハルさんが故郷に帰るまで、わたしが面倒を見ますよ」


と言ってくれた。ユルト様を便利な言い訳に使ってないだろうか?


 その後、カーラは宿屋と明日の集合場所となる広場を案内してくれた。最後に、明日の八の鐘―――朝に鐘が八回鳴った時のことだ―――に広場に集合することを申し合わせると、その日は解散することになった。




   ◆




 宿屋は一階が食堂になっていて、宿泊客はそこで食事を済ませるそうだ。

 カーラに借りたお金で前金を払い、宿屋で受付を済ませた。泊まることにした宿では、夕飯がサービスで出てくるとのことで、早速いただくことにする。

 今日のメニューはオークの角煮らしい。改めて自分が異世界に来てしまったことを実感した。俺は席に座って食事が出てくるのを待ちながら、周りの様子を観察する。


 食堂には他にも宿泊客がおり、見る限りでは全員が、手首に入国許可証代わりの護符を巻いていた。

 近くの席には、先ほど入国受付の時に見た、金髪の商人らしき男がいた。護衛と思われる男女の二人組と食事をとっている。和やかな雰囲気で、時折笑い声も聞こえてきた。


 俺は少し寂しい気持ちになりながら、出てきた食事に手を付けた。オークと言うことでどんなゲテモノが出てくるかと思ったが……見た目は豚の角煮のような感じで、少しホッとした。


 量も味も期待以上で、満足した俺は、指定された部屋に戻った。部屋は四畳くらいの大きさで、机と椅子、金庫代わりの箱、木のベッドくらいしか家具がないが、文句は言えないだろう。

 俺はさっさとベッドに横になると、明日からの生活を不安に思いながら、眠りについた。

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