01.目覚め
初投稿です。
4話までは今日中に投稿、そこから先はなるべく週3くらいのペースで投稿していきたいです。
よろしくお願いいたします。
スズメのような、澄んだ鳥の鳴き声を聴いて、目が覚めた。
ぱちり、と目を開けると、そこは鬱蒼と茂る森の中だった。どうやら俺は木の根を枕にして寝ていたらしい。
クソ、頭と腰が痛い。ここは一体どこなんだ? キャンプをしてた覚えはないぞ。
俺は結城 治、大学二年生。昨日はバイト先の人たちと深夜まで酒を飲んでいて、泥酔しながらも一人暮らしをしているアパートまでたどり着いた、というところまでは覚えている――よし、どうやら記憶喪失ではないな。
しかし、見知らぬ森の中で寝ていたとは、どういうことだろう? 家の近くにこんな場所はなかった気がするし、酒の勢いでタクシーにでも乗って遠くに行ってしまったのだろうか。
見知らぬ場所とはいえ、俺はまだ落ち着いていた。酒でやらかすのは初めてではない。流石に森の中で寝ていたのは初めてだが……。
考えていても仕方がないと思い、俺は身を起こした。周りは木が生い茂っていて、見える範囲に人や建造物は見当たらない。
俺が根っこを枕にしていた木を見上げてみると、針葉樹だ。なんという種類かはわからない。
その木だけではなく、周りも同じような木だ。どうやら、この森は主に針葉樹が生えているらしかった。確か針葉樹は寒い地域に生えると聞いたことがある。
ということは、自分は東北や北海道あたりまで来てしまったのだろうか。
今度は足元に目を向けると、どうやら自分は細い林道のそばで倒れていたようだ。ということは、この道を辿っていけば、やがて人里にたどり着くだろう。
林道というのは、地元の人たちが何回も行き来して踏み固めた道であるので、必ず村につながっているし、ある程度の安全も担保されているはずだ……たぶん。
ここに来た経緯はあとで考えるとして、まずは人を探さなければいけない。先ほど目に入った太陽の位置からすると、今は昼過ぎくらいだろうか。
幸い今は寒さを感じないが、夜の山は冷え込むという。日が暮れる前にこの森を抜けださないと、暗闇の中で凍死してしまいそうだ。
今の服装は、飲み会に参加していた時と同じ、黒いパーカーにジーンズ、有名ブランドのスニーカーだ。山を歩けなくはない、と思う。
しかし、どうやら財布とスマホは落としてしまったらしい。いま職務質問を受けたら不審者扱いされること間違いなしだ。
もっとも、人に会えるのであればこちらも望むところではあるが。
帰ったら色々と買い直しだ。しばらくはバイトのシフトを増やしてもらわないといけないだろう……。
そんな悩み事は頭の片隅に置き、俺は、二方向に延びる林道のどちらに進むかを考え始めた。
まずは生きて帰ることが先決だ。酔って見知らぬ森に入った挙句、遭難して凍死なんてバカバカしい死に方はしたくないからね。
◆
俺は、適当に方向を決めて、林道を三十分ほど歩いた。どうせ考えていても、どちらが人里に繋がっているかはわからないので、適当だ。
林道は、地形に合わせて曲がりくねってはいるものの、太陽を背にすることが多く、全体としては南側に向かっているようだ。
歩きながら生えている植物や木を眺めていたが、自分が日本のどの辺りにいるかという情報は得られなかった。
見たことのある植物はなかったし、そもそも植物の専門家ではないので、見てもわからないだろう――ということに思い至ったのはしばらく後だったが。
森を歩いていると、たまに皮が剥がれている木があった。野生のイノシシやクマは木の皮を食べると、昔やっていた動物番組で見たことがある。
確か、彼らは実は臆病で、人間を襲うのは不意に現れた人間に驚いたから、とか言っていた気がするな。
その対処法として、鈴を鳴らしながら山を歩くことで、彼らに居場所を知らせ、避けさせるという方法があったはずだ。しかし、自分は鈴どころかスマホも財布も持っていない。
残る方法はただ一つ。歌だ。
歌うことは好きだが、自慢できるような上手さではないし、ここはカラオケではない。でも、ここはどことも知れない森の中だ。誰に聞かれることもないだろう。
むしろ人に見つけてほしいし――そう思って、最近お気に入りのバラードを歌い始めようとしたが、少し躊躇われた。
鳥や虫の鳴き声、風によって木の葉が擦れる音などが聞こえてくるものの、しん、とした大自然の静寂を自分が壊してしまうのは、少し気まずいと同時に、恐ろしくも感じた。
結局、俺は上手くもない歌でこの森の神秘的な静寂を壊すことはやめ、鳥や虫の奏でる音楽を楽しみながら歩くことにした。