祭壇への道
最終章、開始します
ヒノワ村を離れたカルミナは、神島へ続く橋を急ぎ渡っていた。お供にはカルミナの叔母にあたるハルカと、その配下数十人がいた。本来は、この橋を渡りきったところで結界という見えない壁に阻まれる仕組みになっているのだが、偵察隊の言うとおり、その壁は消え去っていた。カルミナたちは簡単に神島の中に入っていく。
「気をつけろ、いつ神軍どもが襲ってくるかわからない。周囲を警戒!」
「はっ」
配下たちはハルカの指示に従い、あちらこちらに四散する。息の乱れぬ素早い動きに、カルミナは思わず感嘆の息を漏らした。
「すごい……」
「カルミナ、私たちはこのまま祭壇へ向かうぞ」
「祭壇?」
「聖域へとつながるゲートがある場所だ。この道を真っ直ぐ行けばその祭壇に着く。そんなに距離があるわけじゃ無いから、急げば間に合うだろう」
「わかりました、そうとわかったら急ぎましょう!」
「ああ!」
二人は石造りの道を駆け抜ける。周囲の至る所で誰かが戦っているのか、人の怒号や金属のぶつかる音が聞こえてきた。やはり、かなりの神軍が島内に入り込んでいるようだ。
「くそ! 神軍どもめ……! 神聖な地を踏み荒らしおって……許せん!」
壊された石像や門を見つめながら、ハルカは憎々しげに顔を歪める。木々も倒れ、所々血痕まである。だが、不思議なことに人の死体などは見えない。カルミナはそのことを疑問に思いながら、祭壇へ急ぐ。
やがて森の洞窟を抜けると、目の前に石造りの二階建てくらいの神殿が見えてきた。所々に植物が生えていることから、かなり年季の入った建物であることがわかる。そして、その神殿の入口には――――
「むっ! 貴様らは――――!」
白い神官服を纏い、ロングソードを構えていた神軍の兵士二人がいた。おそらく、門番の役目を負っていたのだろう。兵士たちはカルミナとハルカを捉えた瞬間、確認することも無く襲いかかろうとしたが――――
「遅い――――」
それよりも先に、ハルカが目にも止まらぬ速さで兵士二人に居合い斬りをお見舞いする。二人の兵士は何も出来ずにその場にドサリと倒れ込む。
カルミナは呆気にとられながら、その光景をまじまじと見ていた。ハルカはバッと剣に付着した血を払うと、静かに鞘に戻した。
「行くぞ、カルミナ」
「は、はい!」
ハルカと澄んだ呼び声で、カルミナは現実に引き戻される。
――――一切無駄のない動きだった。少しだけ身体をかがめ、腰の剣に手をかけたと思った瞬間、全てが終わっていた。並大抵の修行ではなし得ない技だ。
(これが……ハルカさんの力……)
ほんの少ししか見ていないが、ハルカは間違いなく剣術の極みを修得していると確信したカルミナであった。
~~~~~~
「ハルカさん、さっきのって――――」
神殿内の薄暗い廊下を駆け抜けながら、カルミナはハルカに声をかけた。
「ん? さっきのとは、居合い斬りのことか?」
「そうそう! あれって舞道を応用していましたよね?」
「ほう、気付いたか。その通りだ」
「やっぱり! 呼吸法とか、動きの無駄のなさとか、なんか舞道に似てるなあって思ったから」
「舞道は何も素手での格闘術だけじゃない。あくまでも効率よく、かつ最大限の動きをするための一種のスタイルだからな。私の場合は、ただそれを剣術と組み合わせているだけに過ぎん。これで、普通に剣を振るうよりも体力消費を抑えられる」
「なるほどぉ……さしずめ剣舞ってわけだね」
「フッ……そうだな……カルミナも覚えておくといい。舞道は終わりじゃない、あくまでもその後の戦闘スタイルを確立するための始まりに過ぎないことを」
「終わりじゃなく、始まり……」
「生きて帰ったら、いろいろ教えてやろう。舞道は、我がカミモリ一族のお家芸だからな」
「ほんと!? 約束だからね!!」
ハルカからの提案に、カルミナは年相応の笑みを浮かべた。それを見たハルカは苦笑する。
「普通、年頃の少女ならば、別のことでそういう笑いをするんだがな……修行で乙女の表情をするのはお前くらいのものだぞ」
「そう……かなぁ……?」
「まあ、かくいう私もお前くらいの年の時に心躍ったのは、新しい技を修得するときだったがな」
「でしょー!? だって楽しいじゃん! 自分が強くなっていくのを感じるの!」
「違いない……さて、そんな雑談をしていたら、到着だ」
「――――!」
カルミナとハルカは足を止める。目の前には、巨大な石の門。門には、四足歩行に翼の生えた、見たことも無い生物が描かれていた。リンベルからの話と照らし合わせれば、これこそが竜で間違いないだろう。
「準備はいいな?」
「はい、いつでも」
ハルカはカルミナに最後の確認を済ませ、そして門を蹴破った――――
~~~~~~
「そこまでだ!!! 神軍ども!!!」
ハルカが大声で叫びながら、剣を構える。それに続いて、カルミナも後に続いた。
祭壇内はかなり広い空間になっており、壁には竜の絵が至る所に描かれていた。カルミナの目の前には祭壇の中央へと導く通路があり、その両側には竜の石像が等間隔で何体か並んでいた。
そして、その祭壇の中央にいたのは――――
「アリシア!!!」
中央の石のベッドに寝かされているアリシアと、その側で何やら唱えているアズバ。さらに、そのアズバを守るように五人の神子たちがカルミナとハルカを睨み付けていた。
「……ガデス!!」
カルミナは仇敵を捉え、緊張からか歯をギリリと鳴らす。反対にガデスは余裕ありげに鼻で笑った。
「ふん、雑魚が。性懲りもなく来やがったか」
「アリシアを……返せ!!」
カルミナは精一杯の力でガデスたちを睨み付けて吠える。だが――――
「残念だが、少し遅かったようだね」
後ろでブツブツ唱えていたはずのアズバがゆっくりと立ち上がり、神子たちの前に立った。カルミナは不快な胸騒ぎを覚えながら――――
「どういう……こと?」
おそるおそるアズバに尋ねた。直後、アズバは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「神の降臨は、成された」
アズバがそう宣言した瞬間、アリシアの周囲が光り出し、まばゆい柱と化した。アリシアの身体は、その光で姿を隠してしまう。
「アリシア!!!」
カルミナがアリシアの元に駆け寄ろうとした瞬間、見えない何かによって地面に押さえつけられる。
「ぐあっ……」
「神に対し、無礼である。ひざまずきたまえ」
ハルカもまた、アズバの力によって地面に押さえつけられていた。二人はなんとか立ち上がろうとするが、身体がピクリとも動かない。やがて――――
「どうやら、終わったようだな。神子たちよ、ひざまずきなさい」
「親父……?」
神子たちも困惑した表情を浮かべる。次の瞬間、五人も神子もカルミナたち同様、地面に押さえつけられた。
「がはっ! と、父さん……何を――――!」
「礼を失するなと教えたはずだぞ。我らが神が降臨されるというのに、その態度は何だね?」
「何を……言ってるのお父様……? 神様はお父様しかいないじゃない……!」
「フィーリス、それは違う。私は、神なのではない。今からおいでになるお方こそが、この世界を創りし我らが父にして母なのだ」
「我が主よ……それは、どういう――――」
どうやら神子たちも何も知らされていないようだ。そして、アズバの言葉を聞いてカルミナはある推測が立つ。
(まさか、アズバの本当の目的は――――!!)
次の瞬間、光の柱の中から人影が姿を現した。それは、先ほど光に飲み込まれたアリシアだった。無事であったことがわかり、カルミナは一安心する。
――――だが、その安心はアリシアの次の言葉で簡単に崩れ去る。
アズバはうやうやしくアリシアに対し、頭を下げた。その姿を見た神子たちは信じられないといった表情で見つめる。アズバはそんな子供たちの視線を無視し――――
「お久しぶりでございます、我が主」
その言葉を受けて、アリシアはゆっくりと口を開いた。虚ろな表情を、浮かべながら――――
「久しいですね、アズバ」




