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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第三章

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力の差

「はい、一旦ここまで。大体わかった」


 組み手を始めてから、わずか五分弱でリンベルはストップをかけた。カルミナたちはというと――――


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「うっ、くぅ……」


 悶え苦しみながら、地面に倒れ伏していた。息を切らし、投げ飛ばされた時に受けた痛みに顔を歪める。対するリンベルは、息ひとつあがっていなかった。腕を組みながら、ウンウンといつものように爽やかな笑みを浮かべていた。


「うん! わかってはいたけど、()()()! 君たち!」


 明るい声で辛辣な言葉をぶつけるリンベルに、オルトスはやれやれ、と首を横に振った。


「だから、あんたが強すぎるだけだっつーの」


「そんな甘えが許されると思っているのかい? オルトス」


 リンベルは爽やかな笑みから一転、射殺してしまいそうなくらい鋭い視線をオルトスに向けた。それを受けたオルトスは慌てて背筋を伸ばし――――


「はい! すみませんでした!」


 と、軍人みたくハキハキした口調で謝罪する。こうなったときのリンベルは、普段とは別人かと思わせるくらい容赦がない。それを知っているからこそ、オルトスも気を引き締めたのだ。

 リンベルはなおも厳しい表情を崩さずに、うずくまっているカルミナたちを見下ろした。


「いつまでそうしてるつもりかな? これが実戦だったら、もう五回は死んでるよ? よくそんなんで今日まで生きてこれたね~」


 口調は平時同様、お調子者のように軽い。だが、鈍い光を帯びたその目は……全く笑っていない。それが余計にリンベルの恐ろしさを際立たせた。


「す、すみません……」


 カルミナがゼーゼーと息を乱しながら、リンベルに謝罪する。それを聞いたリンベルはニコリと笑うと――――


「謝る暇があったら立てよ馬鹿者。そんなことに体力を使うな、もったいない」


 ドスの利いた声で厳しい言葉をカルミナに浴びせた。その言葉を受けたカルミナは膝をガクガク震わせながらなんとか立ち上がり――――


「もう一本……お願いいたします……!」


 再び構えを作って、リンベルに特訓の再開を求めた。乱れた息はいまだ整わず、身体もあちこち悲鳴をあげている。とっくに限界を迎えていた。だからといって、このまま終わるわけにはいかない。この程度で根を上げていたら、()()には一生勝てない。アリシアを、守ることができない――――


「ウンウン、勢いだけは一人前だ。よし、どんどんおいで!」


「はあああああ!!!!」


 カルミナは再び、リンベルに向かって走り出すのだった――――


~~~~~~


「はぁ~おなかすいた! ごっ飯、ごっ飯♪」


 初日訓練終了後――――リンベルは子供のようにはしゃぎながら、食堂に向かおうと真っ先に訓練場を出て行った。ちなみにカルミナたちはというと――――


「……ぐふっ……」


「だ、大丈夫……? カルミナ……」


「さ、さすがに……ちょっとだめっぽい……イタタ……」


カルミナは地面と同化しながら、振り絞ったようなかすれた声をあげる。あの後、リンベルによってポンポンポンポン投げ飛ばされ続け、このような有様となった。


「さ、先に……行ってて……もう少し、身体休める……」


 カルミナはアリシアに顔を見せずにそう言った。アリシアはボロボロになっているカルミナを放っておくことが出来ず――――


「心配だから私もいるよ。一緒に行こう?」


 と、身をかがめて言った。ちなみに、アリシアも少し前までカルミナと同じ状態だったが、持ち前の回復力で今は身体を動かすことができている。しかし、少し動かすだけでゴキッと関節の鳴る音が響き、その度に不快な痛みに襲われる。ただ、我慢できないほどではない。


「いいから……アリシアも私に構わず行けばいいよ? 私は大丈夫……ほんのちょっと休むだけだから……ねっ?」


 カルミナはやはり顔を見せることなく、アリシアにさっきより強めに言った。アリシアは言いようのない不安を感じたが――――


「わかった……じゃあ、先に行ってる。本当に、大丈夫なんだね?」


「うん、大丈夫。ごめんね、アリシア」


「どうして謝るのよ……それじゃあ、後でね?」


「うん、また後で」


 そして、アリシアはオルトスと共に食堂に向かうのだった。訓練場には、カルミナ一人が残された。やがて、アリシアたちの足音が聞こえなくなったことを確認し――――


「うっ……くっ……ぐすっ」


 カルミナは仰向けに転がって、嗚咽の声を漏らした。目から大粒の涙が流れ、頬を紅く染め上げる。

 本当はもっと声を上げて泣き、体内の奥底から湧き上がってくる忌々しい熱を放出したい。だが、それをすると誰かが何事かとやってきてしまう。こんな恥ずかしい姿は、誰にも見られたくなかった。特に、アリシアには――――

 この前は何と情けないことをしてしまったのだろう。自分を信じているアリシアの前で、あんな泣き言を言うなんて――――


「こんなんじゃ……こんなんじゃダメだ……! もっと、もっと頑張らないと……」


 リンベルの強さは圧倒的だった。厳しい言葉を浴びせながら、容赦なくカルミナを投げ飛ばした。しかしあの時、リンベルから仕掛けてくることは一度もなく――――もし、彼が投げ飛ばした後にカルミナに追い打ちをかけていたら――――

 

「リンベルさんの言うとおり、私は弱い。今日の特訓が実戦だったら、少なくとも十回は死んでる……」


 ――――焦燥、不安、屈辱――――

 カルミナの心に、ありとあらゆる負の感情が一緒くたに、渦となって現れる。誰も見ていないこともあって、それは急速に大きくなっていった。今のカルミナに、その渦を抑えつける力はなかった。ただ流れに身を任せて、振り回されるしかなかった――――


~~~~~~


 ――――どれくらい、時間が経ったのだろう?

 カルミナは、気付けば訓練場の隅で一人うずくまっていた。周囲はすっかり暗くなり、全く見えない。涙は止まったが、いまだ荒れ狂う心は収まらない。


「アリシア……怒ってるよね……」


 ――――初めて、アリシアとの約束を破った。いや、すでに何回か破っているか。守る守ると言っておきながら、いつもアリシアより先に倒れてしまっているのだから――――


「私、どうしちゃったんだろう……? 考えるたびに、マイナスなことばかり出てきちゃう……」


 前はこんなことにはならなかった。いつも明るく、元気な笑顔を見せていたはずだ。心の底から力がみなぎってきて、自信に満ちあふれていた。


「私は、くじけるわけにはいかない。アリシアを守るためにも――――」


 ――――そうだ、自分はこんなところでうずくまっている暇はない。今日の特訓を思い出せ! 良かった所は? 改善点は? 探せ! 探し出して、次に生かすんだ!――――

 しかし、不思議なことに力が入らない。痛みはとうに消えたはずだ。だというのに、身体が思うように動かない。自分の身体じゃないみたいだ。

 瞬間、カルミナの脳裏にガデスとの戦いが呼び起こされる。本気で挑んだのに、それを鼻で笑うかのように叩きのめされた記憶が――――


「……ひっ!?」


 カルミナの心が恐怖で一気に染め上げられる。ゾワゾワッと全身の産毛が逆立ち、身震いが止まらない。寒い、寒い、寒い――――


「私……怯えてるの?」


 自分が死ぬことに、ではない。自分が負けることで、アリシアの命が奪われることに――――

 アリシアを守るためには、自分は誰にも負けるわけにはいかない。決戦まで時間も残りわずかだ。その事実が、余計にカルミナの心を締め付ける。


「どうしたらいいのよ……どうしたら、アリシアを守れるの……?」


 弱々しくつぶやきながら、カルミナが再び顔をうずくまらせようとすると――――


「こんなところで何をしてるんだい? 皆心配してたよ?」


 泣いている子供を慰めるような、優しく暖かい声がカルミナの耳に入り込んできた。カルミナが思わず顔を上げるとそこには――――


「やっ、カルミナちゃん」


「リンベルさん……?」


 いつもの爽やかな笑みを見せるリンベルが、スープの入った皿を手に乗せながら、カルミナに声をかけた。

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